京都から45分
JR奈良駅にやってきた。13年ぶりくらいか。当時はガイドブック頼みでまわっていたけど、今回は地元の人の個人的に好きな所をききながらまわる。
きっと全く違う旅になるぞ。
まずは、案内所の方が迷いなく「今のうちにいっとくといい」と教えてくれた所へ向かった。そこはまるで外国のお城のようだった。
お薦めスポット1:奈良少年刑務所の外観
しょっぱなインパクトのある場所である。明治に建てられた五大監獄の一つで、レンガ造りが重厚。刑務所としては2017年3月に閉鎖となり、売却されて今後はホテルとして使われるようだ。
これから雰囲気も変わるだろうから、今見といた方が良いということだった。
眺めていると、定期的に車がやってきて外観を撮っていく人がチラホラ。車好きの間では車とゲートを撮るのが人気なのだとか。
私もレンタルした原付きと一緒に撮ればよかった。
散策していたらここにたどり着いたという女性に出会った。刑務所の裏にお花見スポットがあるというので向かってみることに。
フェンスを入るとすぐ、一気に景色が開けた。陸上競技場を見下ろすように桜が楽しめるようになっているのだ。
お薦めスポット2:陸上競技場を見ながらお花見
芝生では家族やカップルがのんびりと日向ぼっこをしていた。おそらく地元の人しかこない穴場なのだろう、満開なのに広々とスペースを使えて羨ましい。
東京のようにカラスも飛んでないし、爽やかさ100%である。
お薦めスポット3:その距離5キロ!佐保川の桜
次に向かったのもお花見スポットである。季節柄もあってこの旅ずっと桜の見所を薦められた。春の奈良は到るところで桜が堪能できるのだ。
この撮影ポイントはまあまあ人がいたけれど、渋滞するほどではなく、のんびり穏やかに桜が楽しめた。そう、奈良にきてまだほんの数時間なのだけど「のんびり」とした感じが凄まじい。
お薦めスポット4:予約しとこう「優月」のよもぎ団子
元刑務所の前で会った女性がわざわざ電話してくれた和菓子屋さんである。こちらの団子がむちゃくちゃ好きらしいのだが、売り切れて何度も泣きをみたそうだ。
だが、電話すればお取り置きできるというのでキープしておいてもらった。
食べた瞬間、あまりの美味しさに手のひらでオデコを叩いた。恥ずかしながら衝撃をうけたときの典型的な行動がつい出てしまったのだ。
これまで私が食べてきた団子とは違う、作りたての「生」感がすごい。よもぎの薄い衣から小爆発したかのように現れた甘いつぶあんの衝撃、、今でも忘れられない。
キープしていたの以外は売り切れていたので予約しておいて本当に良かった。
なお夏の1ヶ月だけは暑さでよもぎの香りが変わってしまうため販売はお休みだそうだ。
お薦めスポット5:ならまち散策と、とんぼ玉「空歩」
近鉄奈良駅の南一帯を「ならまち」と呼ぶそうだ。昔ながらの町家が並び、こだわったものづくりのお店やオシャレな喫茶店なんかがあるエリアになる。
近くに女子大があるのもあって、女性好みのお店が多め。
手作りというのがとても伝わる自然な風合いの作品がたくさん。お土産にじっくり時間をかけて選びたくなるお店だった。
なおこの「ならまち」周辺はお薦めに何度もあがっている。たまに横の小道に逸れてみると面白いお店に巡りあえるのが良い。
さて次はお薦めの食事処へ!
お薦めスポット6:固いパン好きなら「のもけまな」
とんぼ玉の店員さんお薦めは、少し移動した所にあるパン屋さん。大人な店構えだ。
フランスパンやチャバタなど、噛みごたえのあるパンが多いのが特徴。お店のご夫婦はもの静かな印象で、どこまでも大人好みである。
マーマレードのちょっとした苦味となめらかなチーズクリームの相性の良さよ…。ジックリ時間をかけ、次第に変わっていく噛みごたえと連動した甘みを楽しんだ。
お薦めスポット7:1キロ四方にも及ぶ平城宮跡
お次は何度も候補にあがった平城宮跡。奈良時代に天皇が住み、政治や儀式が行われた場所である。
「ほとんど原っぱなのだけど、歴史を感じられる」とお薦めされていた。
江戸時代末から研究・保存がはじまり、少しずつ1300年前の姿に復元されていっている。
朱雀門から線路を渡り、さらに行くと即位式などが行われていた第一次大極殿という、平城宮最大の宮殿を見ることができる。
朱雀門から大極殿まで800メートルもある。入場時間ギリギリだったので本気できつかった。復元のスケールがでかすぎる。
ちなみに奈良では家を建てる時、地下に遺跡が無いか自腹で調べないといけないらしい。良くも悪くも歴史の保存に厳しいまちなのだ。
謎めいた木々を眺めていると、ちょうど女性が通りがかった。
荷物が多いのを見て声をかけようか迷ったのだが、私と目が合った瞬間、その女性は満面の笑顔になり、「OK分かったわ」といった風にうなずき、ガイドを始めてくれた。
目が合ってすぐ、ガイド
この植木たちは、「大膳職」と呼ばれる役所があった所の柱の跡を表しているそうなのだ。
大量の木簡が出土されているため、当時ここになにがあったのか詳しく知ることができるのだそう。
フクダさんは使命を負っているかのように、せっかくだから昔のこの辺の様子を見せたいといって車を出してくれた。
最初に狙っていた資料館は閉館していたが、2箇所目はギリギリ潜り込むことに成功!
お薦めスポット8:遺構展示館
フクダさんとスタッフの方は急ぎ足で、遺構やこれから復原予定の築地回廊のミニチュアなどを見せてくれた。
とても興味深いが、私にはエネルギッシュなフクダさん自身も興味深い。
フクダさんはイベントのボランティアをしていたり、家が平城宮跡の近所とあって、奈良の歴史について熱心に勉強していたのだった。
知識や好奇心もすごいけど、行動力ありますねと言うと「ダメかもしれないと思ってもとりあえず行くのよ。さっき資料館に入れたみたいな事おこるから!」と笑っていた。
ほんの少し話してただけだけどこういうパワフルな女性は憧れる。出会えてよかった。
そんなフクダさんのお薦めは奈良時代の宮廷料理がいただけるホテルのレストラン。
予約が必要かもと言われ電話で問い合わせ。すると材料の用意が必要なので急には難しいとの事だったのけど、ひとつだけ出せるものがあると言ってくれたので向かってみることに。
お薦めスポット9:奈良パークホテルの「そ」
本来であれば、コース料理に出される一品だ。じゃあ今回は特別に対応してくれたのか…と思いきや、お願いすれば200円で誰でもいただけるそうだ。(普通のメニューには載ってない)
新鮮なミルクを長い時間かけて煮詰めた結晶で、駄菓子の「ミルクケーキ」がやわらかくなり、味が薄くなった感じだった。
茶粥も古代から続く奈良名物のひとつ。ほうじ茶のお茶漬けですごくあっさりしているのだけど、一緒についてくるお漬物やあられの塩気と合わせるとなかなか美味しかった。
お薦めスポット10:ホテルの露天風呂付き温泉
ホテルの方達に聞き込みをしていると、別のお客さんにココの温泉いいよと薦められた。
いやー、まさか奈良で温泉に入ることになるとは。お次はお薦めの夜の楽しみ方。
お薦めスポット11:池にうつった大仏殿
フクダさんは奈良の夜の過ごし方を2つ教えてくれていた。1つ目は東大寺大仏殿のライトアップが池にうつっている所。だが残念ながら、この日ライトアップはしてなかった。
近くの守衛所で聞くと、夏か年末だけらしい。
関係者しかもらえない板ゲット
なんでも、東大寺の二月堂で毎年行われる「お水取り(修二会ともいう)」で使われたものらしい。
お水取りでは、大きい松明を振り回し火の粉を撒き散らす「お松明(おたいまつ)」と呼ばれる人気の儀式があるのだけど、これはその松明に入っていた板なのだそうだ。
松明の担ぎ手や東大寺の関係者以外は手に入らない、とても貴重なものらしい。しかも台所や玄関に置いておくと火災除けになるという。
ライトアップされてたら守衛さんにも声かけることは無かっただろうから逆にラッキーである。
お薦めスポット12:池にうつった興福寺の五重塔
続いてもうひとつ、興福寺の五重塔が池に映っている所。今度はライトアップされていて、池にバッチリ映っているのを見ることができた。
このとき気づいたけど、五重塔は映ると串団子に似ている。大事にとっておいたよもぎ団子を思い出して美味しくいただくことにした。
そして翌朝。先程ちょっとでた「お水取り」が毎年行われる二月堂へむかった。
お薦めスポット13:一番人気!二月堂からの景色
高いところにあるだけあって、眺めがよく、静かでとても気持ちがいい。一番人気というのも頷ける景色だ。
お寺の方に、きのう私がもらった板きれが「サシ」と呼ばれるものだということや、一般の人は葉っぱの燃えカスをもらっていく程度なので貴重だということなど改めて聞くことができた。
ちなみに、使われるサシのうち1割に「二月堂」の刻印がされていて、それは更にレアだそうだ。
お薦めスポット14:やっぱり奈良公園のシカ
奈良公園はすでにウロついているエリアだ。
大仏殿と二月堂のある東大寺や、興福寺、春日大社、正倉院といった歴史的文化遺産を含む広大な公園である。
平地にいるシカたちは野生ながらとても人慣れしていて、まるで飼い犬のように頭を撫でられているのもいる。
だが慣れすぎてるためか少し凶暴な部分もあって、鹿せんべいを取り出すやいなや激しく追ってくるので気をつけよう。
一方、公園の上の方にある「若草山」に出没する鹿はあまり人馴れしておらず、おとなしいそうだ。
若草山は1月になると山焼きされるため、一面が美しい芝となり見晴らしがめちゃくちゃいい。
ふつう山登りをすると景色が木々に隠れてしまうものだが、ここは山頂でなくとも奈良の美しいまちなみを見下ろせる。
お薦めスポット15:若草山で鹿と見る絶景
頂上はまだまだだが、たった15分ほど登るだけでも奈良市内が一望できる場所にたどり着く。ベンチがポツポツ置かれてて、そこに座ったらもう景色独り占めという贅沢な場所だ。
そんななか、美味しそうにお弁当を食べていたお父さんがベンチに誘ってくれた。
私も旅の間ずっと感じているけど、奈良はなんと言っても「のんびり」しているのが良いですよねとうなづきあった。
お父さんは他にも、京都とは違う白鳳・天平時代の様式が見られる所や、自然をしっかり残しているのが良いと教えてくれた。
確かに、たくさんいる野生の鹿もしかり、自然をあちこちに感じられるから心が穏やかになるのかもしれない。
さて、お腹が空いてきたので食事処へ!
お薦めスポット16:でかくて安い!「びっくりうどん三吉野」
地元の人は口をそろえて「奈良はコレといった名物がない」と言っていたが、そんな中でもうどんの候補が多かった。
今回は最初に声をかけた男性がたまに行くといううどん屋さんへ。
柔らかめのうどんが2玉分も入っている。空きっ腹のため勢いよく食べたが、噂に聞いていたとおり途中から無くならない不思議との戦いだった。
出汁は薄めながら、となりにある巨大ないなり寿司のジューシーなお揚げの味とマッチしていた。
お薦めスポット17:わらび餅を食べながらの池
ならまちを散策して少し腹ごなしをしたあと、向かったのはわらび餅屋さん。
奈良パークホテルでお世話になった女将さんがわざわざ地図を描いて激推ししてくれた場所である。
きのうの夜、暗がりで団子を食べていた猿沢池の真ん前に建つお店だった。
窓が一面ガラス張りのため、きらめく池や、まわりでのんびり散策している人たちの様子を眺めながら休憩できるのだ。
窓にかかるすだれが静かに揺らめくのを見ると、田舎の夏休みのお昼寝タイムのようでより一層心が落ち着いた。
お薦めスポット18:薬師寺の壁画殿
さて次に向かったのは薬師寺。「法話がおもろい」と地元でも人気のお寺だ。
時間が合わず残念ながら法話は聞けなかったけど、見どころはたくさん!
さらにここには法相宗の始祖であり西遊記でお馴染みの三蔵法師をまつっている場所がある。
あのパワフルなフクダさんが熱っぽく「ぜひ見てきて!」と言っていたのは、その一番奥にある壁画殿だった。
壁画には日本画家の平山郁夫さんの絵が並んでいた。三蔵法師が旅したシルクロードを実際に旅し、その風景を30年もかけて描いたものである。
数億円にもなると言われるラピスラズリの絵の具が天井までふんだんに使われ、とても壮大で美しかった。
フクダさんに言われてなければ気づかなかったことだけど、最後の絵をよーく見ると、本来描かれるはずではなかった先代の住職さんの人影がある。
なぜなのかは長くなるから割愛するけど、スタッフの方に聞くと事細かに話してくれるのでもし訪れた際にはぜひ聞いてほしい。
お薦めスポット19:きなこたっぷり「たまうさぎ」の団子
今日もまた団子である。奈良パークホテルの女の子が学生時代よく食べていたというお店だ。
柔らかいながらしっかりと噛みごたえのあるお団子で、一つ一つが小さいためきなこがたくさんからまって凄く美味しい。
さて、日も暮れてきて旅の終わりが近づいてきた。最後に訪れたのは、二月堂で出会ったお寺の方のお薦め。
実はこの日偶然に、お水取りと同じ儀式が見られる場所があったのだ。
お薦めスポット20:新薬師寺のお水取り儀式
昨夜、守衛さんからもらったあの板きれ。その使われ方を生で見るチャンスなのである。
肌寒い中、まつこと40分。すっかり暗くなった本堂に雅楽が流れ、厳かな雰囲気になった。
そしてゆっくりと、本堂の左端から燃え盛る炎があらわれた!
11人の練行衆と呼ばれる僧侶の道明かりとしてお松明は運ばれる。
お松明を持った男性のあとに僧侶が続き、本堂へと案内されるわけだが、みんなの注目はすべて燃え盛る炎に集中だ。
次々とゆっくり、合計11本のお松明が運ばれていく。
舞い上がる火の粉が大きいほどに「うおお」という声があちこちから漏れ出る。
火の粉を浴びると健康になったり、幸せになるといわれている。
という感じで、旅の最後は1300年近くも続く歴史ある行事を見て締めることができた。
あの板きれを貰わなければたどり着かなかっただろうし、その前にフクダさんに出会わなければたどり着かなかっただろうし、、と考えるとつくづくご縁の旅だなと思う。
今回も楽しい旅ができた。奈良の皆様ありがとうございました!
おだやかだけど前のめりなまち
奈良はとても穏やかなまちだった。それは、観光地の割に散策しやすい、というのもあるだろうけど個人的には鹿の存在が大きいのではと踏んでいる。鹿や、鹿のフンの野生の香りがなーんか落ち着く気がするのだ。
そして印象的だったのは、目が合った途端に案内を始めたフクダさんや、暗闇のなか板切れをくれた守衛さん、ベンチに誘ってくれた若草山のお父さん、奈良市の全部を薦めてくる奈良公園のお姉さん、自ら写りこんでこようとする薬師寺のガイドさん、といった前のめりな人たちが多かった事だ。
奈良にいるともしかしたら積極的になれるのかもしれない。