2021年にまた来よう
外観は維持されど、改築により内部の様子は大きく変わることだろう。監獄の姿のまま保存されないのは少しだけ残念だけど、他の五大監獄のように解体されるよりかはずっとマシだ。何はともあれ、旧奈良監獄の“監獄としての最後の姿”を見ることができて本当に良かったと思う。
その後、リノベーションが本格的に始まり、今はまさに改装工事の真っただ中にあることだろう。新たな施設は2021年の春に開業予定とのことで、完成した暁にはぜひとも再び訪れてみたいものである。
奈良の大仏で有名な東大寺。その北側の高台に位置する旧奈良監獄は、明治時代に築かれたレンガ造の監獄建築が丸ごと残る刑務所施設だ。
近年まで奈良少年刑務所として現役で使用されてきたものの、2017年3月末をもって閉鎖され監獄としての役目を終えた。今後はリノベーションされ、ホテルや資料館などの複合施設として生まれ変わる予定だ。
2018年11月末に改築前の最後の一般開放である「奈良赤レンガFESTIVAL」が行われたので、旧奈良監獄の“監獄としての最後の姿”を見に行ってきた。
旧奈良監獄は刑務所施設の近代化を目指した日本政府によって明治41年(1908年)に築かれた監獄であり、同時期に築かれた千葉監獄・金沢監獄・長崎監獄・鹿児島監獄と共に「明治の五大監獄」と呼ばれている。
そのうち旧長崎監獄は2007年に表門以外のすべてが取り壊されており、その前後の様子を長崎県在住のライターT・斎藤さんが記事にされていた。
・衝撃の廃墟/旧長崎刑務所を訪れる
・旧長崎刑務所・その後
・旧長崎刑務所のその後のその後
他の五大監獄も当初の建物はほとんど失われており、旧奈良監獄は明治の監獄施設がほぼ完全に残る唯一の例として2017年に国の重要文化財に指定された。
とまぁ、そんな物凄く貴重な旧奈良監獄が改築前に公開されるとのことで、いてもたってもいられなくなった私は奈良へと向かったのである。
旧長崎監獄と同様、旧奈良監獄も閑静な住宅街の中に存在する。歴史ある雰囲気の家屋が並ぶ路地を進んでいくと、突如としてこの巨大な赤レンガの門が現れるのだから、まさに異様というしかない威容な光景だ。
私が現地に到着したのは午前9時。開場時間は10時なのでまだ1時間以上もあるのだが、それでも既にかなりの人が表門の前に集まっていた。リノベーション前の最後の公開ということもあって、みんな気合が入っている様子である。
しかし、何もせずただ待っているだけではつまらないので、時間になるまで周囲をうろついてみることにした。
この外壁沿いのスペースは駐車場として使われている他、地域の人々のウォーキングコースになっているようだ。ランニングしている人や、犬を連れて散歩をしている人もいた。旧奈良監獄の西側と北側には運動公園が広がっているので、それらと合わせてコースに組み込んでいるのだろう。
そんなこんな、刑務所ならではの雰囲気を堪能しながらのんびりと一周して表門まで戻ってみると、いつの間にかスタッフの誘導があったらしく行列ができていた。私もまた慌てて並ぶ。
元よりかなりの人数が待機していたのに加え、10時に近付くにつれて一気に来場者が増えてきた。開城間際には最後尾が見えなくなっていたほどだ。さらに続々とやってくる人々を横目に、早めに来て良かったとホッとする。いやはや、凄い人の数だ。完全にイベントの規模を見誤っていたぞ。
さてはて、そうこうしているうちに開場時間の10時を回った。列は少しずつ表門へと吸い込まれていく。さぁ、いよいよ旧奈良監獄に突入だ。
表門の前でチケットをチェックされ、そのままスタッフに誘導されるがまま、まずは正面に聳える事務所棟へと入っていく。人が多すぎるのでしょうがないのだが、ベルトコンベア式に進んでいくので少々慌ただしい。
この立体模型、奈良少年刑務所時代の建物の配置が一目で分かり、なかなかに興味深い。
現在、私がいるのが中央の事務所棟だ。その奥に接続する八角形の中央看守所から五棟の監房が放射状に配置されており、それらを覆うように実習場など各種建造物が並んでいる。
これらの監獄建築のうち、目玉となるのはやはり中央看守所&監房だろう。というワケで講堂での見学は切り上げて、その奥に位置する中央看守所へと進んだ。
中央看守所からは接続する五棟の監房がすべて見渡せるようになっており、さらには床が開いているので二階から一階部分も監視することができる。監獄建築としてこれ以上ないくらいに特徴的な部分であろう。
当然ながら撮影スポットとして大人気であり、すぐに大勢の人々が押し寄せてきて監視台の争奪戦が始まった。
実に素晴らしいたたずまいであるが、床が開いている分、空間の広さに比べて歩ける範囲が意外と狭い感じだ。人とすれ違うのもギリギリである。
監獄建築ならではのユニークな特徴ではあるのだが、さすがに安全性やら利便性やらの観点上、リノベーション後は塞がれて普通の床になるんでしょうな。たぶん。
先ほど見た二階の監房はすべて扉が閉まっていたが、一階の監房は開放されていたので独房に入ってみた。
なるほど、これは収監されている囚人が看守に意思を伝える為のギミックなのだろう。刑務所では用事があるごとに「願います!」と大きな声を出さなければならないイメージがあったが、こういう伝達手段もあったのか。
そんなことに感心しながら進んでいくと、廊下の脇にいたイベントスタッフに「ここから地下に行けますよ」と声を掛けられた。ほぉ、監獄の地下室とは、何やら秘密めいたヒビキがあって面白そうではないか。早速下りてみることにしよう。
雰囲気たっぷりな階段を下りて地下へとやってきた。これまで見てきた部分は近年まで現役の刑務所として使われていたこともあり小奇麗に整備されていたが、それに比べて地下はヒジョーにワイルドというか、廃墟然とした空気感が漂っていた。
この半地下の空間はほぼ四方が建物によって囲まれており、実に迫力満点だ。映画やゲームなどの舞台として出てきてもおかしくないだろう。鉄格子がなければとても監獄だとは思えないような、美しくも重厚さが漂う一角だ。
他にも地下には洗濯室や機械室などがあるのだが、その先の倉庫と思わしきエリアがあまりに雰囲気ありすぎて、立ち入るのに勇気がいるほどであった。
うーん、凄い。リノベーション後にこの地下室がどのような用途で使われるのか全く想像つかないが、少なくとも一般人が立ち入れるような場所ではなくなることだろう。この独特な雰囲気を味わえただけでも、奈良に来た甲斐があったというものだ。
いつの間にか凄いことになっているが、まぁ、列の末尾が見えないくらいの人々が入場してきたのだから、当然ながらこうなりますわな。私は人ごみがあまり得意な方ではないだけに、つくづく早めに来る選択をした自分をファインプレーだと褒めてあげたい。
とりあえず監獄見学の固定コースはこれで終了なので、ここからは自由散策で他の建物やお祭りを楽しむとしようじゃないか。
中央看守所から人をかき分けるようにして外に出た。事務所棟の前には九十九折りの列ができており、まるで遊園地の人気アトラクションのようである。
そのような人ごみを避けつつ、私は私なりのペースで敷地内の監獄建築を見て周る。
塔のように背が高いこの建物は、精神的に不安定になって叫んだり暴れたりする囚人を隔離する為の設備とのことだ。……こんな建物に閉じ込められたら、余計におかしくなってしまいそうだが。
ちなみに左奥に見える和風の建物は、奈良奉行所にあった江戸時代の牢屋の一部とのことである。移築時に独立した小屋のように改築されているが、解説によると元は長屋のような建物の内部に並んでいたという。へぇー、勉強になるなぁ。
さてはて、そんなこんなで旧奈良監獄に残る明治建築を一通り堪能することができた。……が、今回の一般公開はあくまでも「奈良赤レンガFESTIVAL」というイベントの一環である。建物を眺めるだけではなく、イベントにもしっかり参加していくとしよう。
このテストによる私の性格は、“あなたは、行動的で、思い切りのよいところがあるようです。あいまいなことがきらいで、感情をすぐ表に出すことがあるかもしれません。まわりの人の立場を考えたり、冷静さを見失わないようにしたりすると、あなたの良さがより一層ひきたつと思います。”とのこと。
当たってるような、そうでもないような。まぁ、あまり冷静さを失わないようにしたいものですな。
旧奈良監獄とビールの関係性はイマイチ分からないものの、この工場には全国の地ビールが集結しており、比較的リーズナブルに飲み比べができるようになっている。ちょうどお昼に差し掛かったことでもあるし、ちょっくら頂いていくとしようじゃないか。
休憩スペースでビールを頂きながら、窓から外の景色を眺める。先ほど事務所棟で見た立体模型では監房の周囲に数多くの建物が並んでいたが、現在の旧奈良監獄はその多くが無くなっておりスカスカだ。
近くに元看守のボランティアガイドさんがいたので聞いてみると、やはりもうリノベーション工事が始まっているとのことだ。明治当初から残る重要文化財の建物だけを残し、それ以外はすべて取り壊されるらしい。
その方が言うには、監房はホテルの客室としては狭すぎるので、壁をぶち抜いて大きな部屋にするのではないかとのこと。「重要文化財なのに現状変更しても良いんですか?」とたずねると「外観は変えられないけど、中はいじっても良いみたいですね」という返事。なんとなく察していた通り、建物内部の様子はかなり変わることになりそうだ。
ちなみに上記の写真にはプールが映っているが、名目上は防火用水槽とのことである。プールは娯楽に近く、運動の設備だとしても刑務所的にはマズいのだろうか。妙なところにこだわるものである。
うまいビールを頂き気分が良くなった私は、再び旧奈良監獄をふらふらと歩き回った。注意深く辺りを見てみると、なるほど、確かにあちらこちらに工事中である様相が見て取れた。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |