特集 2019年2月16日

旧奈良監獄の“監獄としての最後の姿”を見に行った

ホテル等にリノベーションされる旧奈良監獄を改築工事前に見学してきました

奈良の大仏で有名な東大寺。その北側の高台に位置する旧奈良監獄は、明治時代に築かれたレンガ造の監獄建築が丸ごと残る刑務所施設だ。

近年まで奈良少年刑務所として現役で使用されてきたものの、2017年3月末をもって閉鎖され監獄としての役目を終えた。今後はリノベーションされ、ホテルや資料館などの複合施設として生まれ変わる予定だ。

2018年11月末に改築前の最後の一般開放である「奈良赤レンガFESTIVAL」が行われたので、旧奈良監獄の“監獄としての最後の姿”を見に行ってきた。

1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

前の記事:明治の道だけを歩いて江ノ島を目指す

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赤レンガが映える旧奈良監獄

旧奈良監獄は刑務所施設の近代化を目指した日本政府によって明治41年(1908年)に築かれた監獄であり、同時期に築かれた千葉監獄・金沢監獄・長崎監獄・鹿児島監獄と共に「明治の五大監獄」と呼ばれている。

そのうち旧長崎監獄は2007年に表門以外のすべてが取り壊されており、その前後の様子を長崎県在住のライターT・斎藤さんが記事にされていた。

衝撃の廃墟/旧長崎刑務所を訪れる
旧長崎刑務所・その後
旧長崎刑務所のその後のその後

他の五大監獄も当初の建物はほとんど失われており、旧奈良監獄は明治の監獄施設がほぼ完全に残る唯一の例として2017年に国の重要文化財に指定された。

とまぁ、そんな物凄く貴重な旧奈良監獄が改築前に公開されるとのことで、いてもたってもいられなくなった私は奈良へと向かったのである。

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というワケで旧奈良監獄にやってきた。いきなりカッコ良い!

旧長崎監獄と同様、旧奈良監獄も閑静な住宅街の中に存在する。歴史ある雰囲気の家屋が並ぶ路地を進んでいくと、突如としてこの巨大な赤レンガの門が現れるのだから、まさに異様というしかない威容な光景だ。

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ロマネスク様式の表門は、まるで中世ヨーロッパ城郭のようなたたずまい。監獄なのに

旧奈良監獄の外壁をぐるっと一周

私が現地に到着したのは午前9時。開場時間は10時なのでまだ1時間以上もあるのだが、それでも既にかなりの人が表門の前に集まっていた。リノベーション前の最後の公開ということもあって、みんな気合が入っている様子である。

しかし、何もせずただ待っているだけではつまらないので、時間になるまで周囲をうろついてみることにした。

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旧奈良監獄の周囲には道が通されており、歩いて一周できるようだ
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レンガの傷み具合や色のバラツキに歴史を感じられる
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外壁の角は丸みを帯びており、しなやかな美しさがある。監獄なのに

この外壁沿いのスペースは駐車場として使われている他、地域の人々のウォーキングコースになっているようだ。ランニングしている人や、犬を連れて散歩をしている人もいた。旧奈良監獄の西側と北側には運動公園が広がっているので、それらと合わせてコースに組み込んでいるのだろう。

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封鎖された入口や、使われなくなった蛇口にわびさびを感じる
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この三角形の痕は何だろう。かつて背の低い建物が接続していたのだろうか
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明治当初より敷地が拡張されたようで、西側の外壁はコンクリートになっている
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北側に広がる運動場は喫煙所となっており、イベントスタッフが一服していた

そんなこんな、刑務所ならではの雰囲気を堪能しながらのんびりと一周して表門まで戻ってみると、いつの間にかスタッフの誘導があったらしく行列ができていた。私もまた慌てて並ぶ。

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既に100人以上は並んでいるだろうか、それでもまだマシな方だ
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だって、後ろがコレだもの。物凄い人の数!

元よりかなりの人数が待機していたのに加え、10時に近付くにつれて一気に来場者が増えてきた。開城間際には最後尾が見えなくなっていたほどだ。さらに続々とやってくる人々を横目に、早めに来て良かったとホッとする。いやはや、凄い人の数だ。完全にイベントの規模を見誤っていたぞ。

さてはて、そうこうしているうちに開場時間の10時を回った。列は少しずつ表門へと吸い込まれていく。さぁ、いよいよ旧奈良監獄に突入だ。

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敷地に足を踏み入れる瞬間、テンションはマックスである

100年以上使われ続けてきた監獄を見学

表門の前でチケットをチェックされ、そのままスタッフに誘導されるがまま、まずは正面に聳える事務所棟へと入っていく。人が多すぎるのでしょうがないのだが、ベルトコンベア式に進んでいくので少々慌ただしい。

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一瞬だけ足を止めて事務所棟を見上げる。この建物もカッコ良いぞ!
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内部は質実剛健という感じだが、白壁や石張りの床に気品が感じられる
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階段を上り、偉い人の部屋を横切りながら二階を進んでいく
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こういうフォント、ホントに好きです
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扉をくぐると広々とした講堂に出た。旧奈良監獄に関する資料が展示されている
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建物が精巧に再現されている立体模型があった

この立体模型、奈良少年刑務所時代の建物の配置が一目で分かり、なかなかに興味深い。

現在、私がいるのが中央の事務所棟だ。その奥に接続する八角形の中央看守所から五棟の監房が放射状に配置されており、それらを覆うように実習場など各種建造物が並んでいる。

これらの監獄建築のうち、目玉となるのはやはり中央看守所&監房だろう。というワケで講堂での見学は切り上げて、その奥に位置する中央看守所へと進んだ。

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そうして辿り着いた中央看守所。おぉー、絵になる光景じゃないか!

中央看守所からは接続する五棟の監房がすべて見渡せるようになっており、さらには床が開いているので二階から一階部分も監視することができる。監獄建築としてこれ以上ないくらいに特徴的な部分であろう。

当然ながら撮影スポットとして大人気であり、すぐに大勢の人々が押し寄せてきて監視台の争奪戦が始まった。

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なので、早々に中央看守所を後にして監房へと避難する
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上下に横石がはめられ、ゴツイ鉄錠が付いた監房の木扉。刑務所というより、まさに「監獄」という言葉がピッタリだ
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監房もまた床が開けられている。塗装が剥げかかった鉄格子や木枠がシブすぎる!

実に素晴らしいたたずまいであるが、床が開いている分、空間の広さに比べて歩ける範囲が意外と狭い感じだ。人とすれ違うのもギリギリである。

監獄建築ならではのユニークな特徴ではあるのだが、さすがに安全性やら利便性やらの観点上、リノベーション後は塞がれて普通の床になるんでしょうな。たぶん。

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階段で一階へと降りる。雰囲気満点だが、やはり少し幅が狭い
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一階から二階の床を見上げる。部分的に補強の鉄骨が入ってるが、基本的には木造だ

先ほど見た二階の監房はすべて扉が閉まっていたが、一階の監房は開放されていたので独房に入ってみた。

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THE・独房!二畳程度の狭さで、横になるだけでギリギリだ
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扉の横に壁に奇妙な突起物が出ていたので押してみると……
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黄色い鉄のカードが廊下側にカションと出た

なるほど、これは収監されている囚人が看守に意思を伝える為のギミックなのだろう。刑務所では用事があるごとに「願います!」と大きな声を出さなければならないイメージがあったが、こういう伝達手段もあったのか。

そんなことに感心しながら進んでいくと、廊下の脇にいたイベントスタッフに「ここから地下に行けますよ」と声を掛けられた。ほぉ、監獄の地下室とは、何やら秘密めいたヒビキがあって面白そうではないか。早速下りてみることにしよう。

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それにしてもこの扉と階段、これほど完璧な「地下室の入口」が他にあるだろうか

監獄アンダーグラウンド

雰囲気たっぷりな階段を下りて地下へとやってきた。これまで見てきた部分は近年まで現役の刑務所として使われていたこともあり小奇麗に整備されていたが、それに比べて地下はヒジョーにワイルドというか、廃墟然とした空気感が漂っていた。

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階段の直下は壁が塗りこめられておらずレンガ剥き出しだ
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その奥には使われなくなって長いのであろう古い風呂の遺構が。ちょっと怖い
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地下なのに外の光が見えたので不思議に思って出てみると――
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なるほど、完全な地下ではなく半地下だったようだ

この半地下の空間はほぼ四方が建物によって囲まれており、実に迫力満点だ。映画やゲームなどの舞台として出てきてもおかしくないだろう。鉄格子がなければとても監獄だとは思えないような、美しくも重厚さが漂う一角だ。

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赤茶色の煉瓦壁に錆びた鉄格子。これはこれで、たまらないものがある
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その先には農具などの洗い場があるのだが――
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床に猫の足跡があってほほえましかった

他にも地下には洗濯室や機械室などがあるのだが、その先の倉庫と思わしきエリアがあまりに雰囲気ありすぎて、立ち入るのに勇気がいるほどであった。

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封鎖された扉に豆電球がひとつ。正直、周りに人がいなければ入れなかった
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こことかも、ゾンビが扉を破って入ってきそう
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壁が崩れ落ちレンガが見えている部分もある

うーん、凄い。リノベーション後にこの地下室がどのような用途で使われるのか全く想像つかないが、少なくとも一般人が立ち入れるような場所ではなくなることだろう。この独特な雰囲気を味わえただけでも、奈良に来た甲斐があったというものだ。

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地下を満喫したところで、一段だけ高さが違う階段につまずきそうになりつつ地上へ
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中央看守所に戻ると、先ほどとは比べ物にならない数の人でごった返していた

いつの間にか凄いことになっているが、まぁ、列の末尾が見えないくらいの人々が入場してきたのだから、当然ながらこうなりますわな。私は人ごみがあまり得意な方ではないだけに、つくづく早めに来る選択をした自分をファインプレーだと褒めてあげたい。

とりあえず監獄見学の固定コースはこれで終了なので、ここからは自由散策で他の建物やお祭りを楽しむとしようじゃないか。

レンガ造の監獄建築あれこれ

中央看守所から人をかき分けるようにして外に出た。事務所棟の前には九十九折りの列ができており、まるで遊園地の人気アトラクションのようである。

そのような人ごみを避けつつ、私は私なりのペースで敷地内の監獄建築を見て周る。

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入場まで何分待ちなのだろうか、ホント、早く来て良かった
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三角形のペディメントと大きな鉄扉がカッコ良い倉庫
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病監(左)と医務所(右奥)の間はちょっとした庭園風に整備されている
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その裏手には精神病躁狂監という小屋があった

塔のように背が高いこの建物は、精神的に不安定になって叫んだり暴れたりする囚人を隔離する為の設備とのことだ。……こんな建物に閉じ込められたら、余計におかしくなってしまいそうだが。

ちなみに左奥に見える和風の建物は、奈良奉行所にあった江戸時代の牢屋の一部とのことである。移築時に独立した小屋のように改築されているが、解説によると元は長屋のような建物の内部に並んでいたという。へぇー、勉強になるなぁ。

さてはて、そんなこんなで旧奈良監獄に残る明治建築を一通り堪能することができた。……が、今回の一般公開はあくまでも「奈良赤レンガFESTIVAL」というイベントの一環である。建物を眺めるだけではなく、イベントにもしっかり参加していくとしよう。

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監房の一階では地元の様々なお店が出張してきており、多くの人出で賑わっていた
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事務所棟では「性格判断コーナー」なるものが。せっかくなのでやってみた
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計60問の質問をマークシートで答える、実際に使われているガチなものである
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結果は……うーん、そんな感じなのか

このテストによる私の性格は、“あなたは、行動的で、思い切りのよいところがあるようです。あいまいなことがきらいで、感情をすぐ表に出すことがあるかもしれません。まわりの人の立場を考えたり、冷静さを見失わないようにしたりすると、あなたの良さがより一層ひきたつと思います。”とのこと。

当たってるような、そうでもないような。まぁ、あまり冷静さを失わないようにしたいものですな。

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雑居監附属工場では「クラフトビールフェスティバル」が開催されていた

旧奈良監獄とビールの関係性はイマイチ分からないものの、この工場には全国の地ビールが集結しており、比較的リーズナブルに飲み比べができるようになっている。ちょうどお昼に差し掛かったことでもあるし、ちょっくら頂いていくとしようじゃないか。

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なんとなく目についたお店(茨城県の醸造所だった)の飲み比べセットを購入
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工場の二階が休憩スペースになっている。天井を支えるトラス梁がダイナミックだ

休憩スペースでビールを頂きながら、窓から外の景色を眺める。先ほど事務所棟で見た立体模型では監房の周囲に数多くの建物が並んでいたが、現在の旧奈良監獄はその多くが無くなっておりスカスカだ。

近くに元看守のボランティアガイドさんがいたので聞いてみると、やはりもうリノベーション工事が始まっているとのことだ。明治当初から残る重要文化財の建物だけを残し、それ以外はすべて取り壊されるらしい。

その方が言うには、監房はホテルの客室としては狭すぎるので、壁をぶち抜いて大きな部屋にするのではないかとのこと。「重要文化財なのに現状変更しても良いんですか?」とたずねると「外観は変えられないけど、中はいじっても良いみたいですね」という返事。なんとなく察していた通り、建物内部の様子はかなり変わることになりそうだ。

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重機も多数入っており、解体工事がかなり進んでいることが分かる

ちなみに上記の写真にはプールが映っているが、名目上は防火用水槽とのことである。プールは娯楽に近く、運動の設備だとしても刑務所的にはマズいのだろうか。妙なところにこだわるものである。

うまいビールを頂き気分が良くなった私は、再び旧奈良監獄をふらふらと歩き回った。注意深く辺りを見てみると、なるほど、確かにあちらこちらに工事中である様相が見て取れた。

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出店が並ぶ広場も舗装を剥ぎ取り中のようで、こんな状態の中で営業していた
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残すものと撤去するものを間違えないよう、それぞれの建物に張り紙がしてある
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取り壊された建物の残骸が一抹の寂寥感を醸していた
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フェンスの上にあるぐるぐる巻きの有刺鉄線。とても監獄らしい光景だけど、リノベーション後はこういうのも無くなるんだろうな

2021年にまた来よう

古い建物を残すことは簡単ではない。それも刑務所のような巨大建造物になると膨大な費用がかかるので保存には活用が求められる。その方法として、旧奈良監獄はホテルを中心とした複合施設へのリノベーションを選択したワケだ。

外観は維持されど、改築により内部の様子は大きく変わることだろう。監獄の姿のまま保存されないのは少しだけ残念だけど、他の五大監獄のように解体されるよりかはずっとマシだ。何はともあれ、旧奈良監獄の“監獄としての最後の姿”を見ることができて本当に良かったと思う。

その後、リノベーションが本格的に始まり、今はまさに改装工事の真っただ中にあることだろう。新たな施設は2021年の春に開業予定とのことで、完成した暁にはぜひとも再び訪れてみたいものである。
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奈良監獄のすぐ傍にある般若寺は秋にコスモスが咲き乱れるコスモス寺として有名です。鎌倉時代に建てられた楼門(国宝)もありオススメ

 

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