青がとても似合うまち
晴れの国と言われているのに、後半は青空が見えなくて残念だった。特に瀬戸内海のあたり。
だけど、その代わりに夜に輝くイルミネーションのブルー、デニムのインディゴブルー、倉敷ガラスの透き通るブルーなど、岡山ならではの青をたくさん堪能することができた。
次回はまた、晴れた日に訪れたいと思う。穴のあいていないジーンズを履いて。
ガイドブックに頼らずに、地元の人にお薦めの場所を聞いて周る旅はたのしい。
どんなところにたどりつくか分からないドキドキと、地元の人しか知らないような情報が得られて嬉しいからだ。
今回やってきたのは、桃太郎伝説や倉敷の美観地区で有名な岡山県。いったいどんな旅になるのだろうか。
※これまでいろいろな場所で取材をした記事を読めば誰もが知ったかぶりできるはず。「知ったかぶり47」は、デイリーポータルZと地元のしごとに詳しいイーアイデムとのコラボ企画です。
愛知編:名鉄のナナちゃん人形の股を覗いてはいけない
鳥取編:まさか鳥取でうどんを食べるとは
滋賀編:彦根の心霊スポットが本気で怖い
宮城編:冷やし中華の元祖店では具を自分で乗せる
神奈川編:小田原にはトリックアートみたいな不思議な景色がある
佐賀編:佐賀には深夜23時から開く甘味処がある
静岡編:浜松で一番人気なのは小さな絵本屋さんだった
福岡編:福岡では70歳のおじいちゃんが作るハンバーガーを食べるべし
石川編:金沢ではニンニクたっぷりのステーキに気をつけろ!
愛媛編:松山には道路にみかんが転がっている島がある
栃木編:宇都宮では餃子があちこちで待ち受けている
兵庫編:神戸には空気が異常にキレイなカフェバーがある
富山編:富山市には市民が100%薦めてくる公園がある
岩手編:老舗わんこそば屋さんが薦めてきたのはカツ丼でした
京都編:京都の伏見稲荷大社は夜にこそ行くべし
長崎編:長崎では海辺でペンギンを見るべし
岡山駅にやってきた。駅前は商店街や大型デパートがありとても賑やか。真冬で寒かったけれど人通りが多くてワクワクしてくる。
駅前で自転車をレンタルし最初に向かったのはいきなり岡山市の一大観光スポットだった。
このあといろんな人に聞いた結果、岡山市内で最も薦められたのがこの後楽園である。四季折々の日本庭園の景観が楽しめるため地元の人は何度でも訪れるそうだ。
しかもこのときちょうど丹頂鶴の散策イベントがあった。
カメラを持った人々が待ち構えていたのは、岡山後楽園で江戸時代から飼い続けているというタンチョウである。
知らなかったが岡山県は全国一のタンチョウ飼育県なのだそうだ。しばし待っていると、係の人と2羽のタンチョウが出てきて散策し芝生の虫をついばめはじめた。
そして気分が乗ってきたのか、同時に飛び立った!
このイベントを毎年見に来ているという方の話によると、日によってはぜんぜん飛んでくれないこともあるそう。すぐ見れてラッキーである。
園内は花や建物など見応えあるものが多いが、この時ばかりは皆タンチョウに夢中だった。
何人かに声をかけたところ、温泉郷や山の上にあるお城など、車でないと時間がかかりそうな候補が多かった。市内となると逆になかなか浮かばないようだ。
そこで駅前方面に戻りつつ、より地元に詳しそうな人を探してみることに。公園で楽しそうに縄跳びをしている親子に声をかけてみた。
こういう形状の滑り台があるのは知っていたけど、見たのは初めて。せっかくなので滑ってみる。
これが思っていたよりも急角度で滑りがよく、中年的には怪我しないかも含めドキドキ興奮してしまった。滑るルートがたくさんあるから、こりゃ子供は夢中になるよな。
そういえば食事どころの候補にたこ焼き屋があがっていたなと思い出し、最初に声をかけたお兄さんが昔からよく食べているというお店へ。
割と立派な駄菓子屋さんが残っているような風情のある「奉還町商店街」の中にあった。
最近よく見かける大玉のたこ焼きと違って、少し小ぶりなたこ焼きがお皿にひしめきあうスタイル。表面は程よく弾力があり中はフワ。一口でいけちゃうからもう次々に口に運んでいっちゃう。うまい!
お店のお二人はどこが良いかしらとおすすめを色々考えてくれた。
常連の男性に話を聞いていると、ここで後の行程に関わるハプニングが発生。たこ焼きを一気に食べた為なのかジーンズが裂けてしまったのだ。
お恥ずかしい。大変お恥ずかしいが、この旅くらいはなんとか持つだろうとこのまま続行することにした。
次にやってきたのは、すぐ近くの喫茶店。岡山県内に5店舗展開している人気の喫茶店の本店だった。
ガラス張りなため自然な光が入って気持ちいい。2階には窓に向けて長椅子が置かれ、商店街を眺めながら一服してる姿も。素敵な空間だ。
ジーンズの裂け目が上に向かっているのが多少気になりつつ、お次はみんなの憩いの広場へと向かった。
かなり広い敷地のある運動場だった。陸上競技場や球場、体育館、プール、テニスコートなどが備わり運動し放題だ。
このときスタジアムではファジアーノ岡山という地元のプロサッカーチームが戦っていて時折歓声が聞こえた。
広場では学生やファミリーたちがダンスしたりボール遊びしたりと思い思いに運動して楽しんでいる。なんて健全な場所なんだ。
で、こちらの男性が教えてくれたのは、昔ながらの人気洋食屋さん。ライブハウスやギャラリー、飲食店が並ぶ「オランダ通り」というところにあった。
頼んだのは岡山名物のデミカツ丼と中華そば。メニューの多くが大・中・小と選べるようになっているので色々食べられて嬉しい。
まずラーメンを語らせてほしい。実は前日の夜、前乗りをしてホテル近くのラーメン屋に入ったら、これがものすごく美味しかった。いつもはスープを残すのだけど、優しくあっさりとした味わいで、ついグイグイ飲んでしまった。
そしてこちらの豚骨醤油スープもまた同じく、いくらでも飲めるほど美味しい。声をかけた人の中でもラーメン推しは多かったし、岡山に来たら全員ラーメンを食べるべきだ。
そんな美味しいラーメンを味噌汁がわりにはさみつつのデミカツ丼。甘くちょっと酸味のあるソースが隅々まで柔らかいお肉を覆い、ちょうどいい固さのお米とマッチしていた。
たこ焼き屋のお姉さんが薦めてくれた図書館にやってきた。なんと都道府県立図書館の中では「入館者数」と「個人貸出冊数」が13年連続日本一位なのだそうだ。
児童書から専門書まで130万の蔵書があり、年間来館者100万超え。岡山県の人口が200万弱なのを考えるとその人気度が伺える。
岡山の人が全員賢く見えてきた。
そして窓からお城が望めるのも特徴である。特に2階の窓際の席は人気でほぼ埋まっていた。城に向かって並ぶ椅子もあり、勉強の合間に目を休めるのにもってこいの景色だった。
図書館の裏側にはお堀があって、そこには白鳥が飼育されていると聞いてやってきた。
最初は遠すぎて豆粒だったのだけど、私が眺めているのに気づいたのか徐々に寄ってきたくれた。
近くのパーキングの管理をしているおじさんも参加して、一緒に白鳥を眺めた。おじさんによると前はもう1羽いたそうだけど亡くなってしまったそうだ。もしかしたら寂しくて近寄ってくるのかもしれない。
驚くほどすんなりと会話がはじまったおじさんは「ここ行くといいよ!」とまちを指したあと履いているジーンズを見せてくれた。
そうだ、岡山といえばデニムで有名だ。
一方、股が裂けた自分のジーンズを見せると、いま最も行くべきところだねと意見が一致した。
とはいえこの日はすでに日が落ちてきたのでもう少し市内を楽しむことに。
岡山を中心に展開している人気カフェ。岡山はイチゴ、白桃、ぶどう、梨などフルーツ王国として有名で、ここではこだわりのフルーツジュースが飲めるという。
公園で会った女の子が一番好きだと言っていたイチゴをオーダーした。
贅沢に半分ほど一気にズズズッと流し込む。自然なイチゴの甘酸っぱさが、一日回って疲れた体に染み渡った。
あの親子も公園でたくさん遊んだあとにここで一杯飲んだかもしれない。美味しそうに飲むのを想像したら思わずニヤけてしまった。
期間限定ではあるけれど、毎年冬になるとこの川や周辺がイルミネーションで彩られるらしい。ディズニーのパレードが始まるのかと思うくらいロマンティックであった。
さてさて、翌日はデニムのまちへ!
岡山は晴れの日が多く、温暖な気候であり災害が少ないと言われている。だのにこの日に限って雪が降ってしまった。珍しいらしい。
嘆いていても仕方がない。岡山駅から香川県に向けて走る瀬戸大橋線に乗ってデニムのまち児島へと移動した。
ここから岡山市ではなく倉敷市になる。
児島につくと、とてもわかりやすくデニムの町になった。
児島は国産ジーンズ誕生の地で、染め、織り、縫製、加工まで職人の技が生きているまちである。ちなみに学生服の生産も全国で約7割のシェアだそうだ。
児島にいったらこのストリートは外せない。昔からありそうな雰囲気だが、2010年とできたのは割と最近。
シャッター街となってしまった商店街を再生すべく、ジーンズショップを多く誘致したという通りである。
ジーンズのお店は30店舗あまり。ほかにお土産屋さんやギャラリー、お洒落なカフェなんかが並んでいる。
エリアとしてはそんなに広くは無いけれど、インディゴブルーに統一されている様子は大人好みというか渋さがある。
色々なテイストのお店があるから、デニム好きとなれば一日過ごせそうだ。
児島ジーンズの代表格「桃太郎ジーンズ」と同じ会社のブランドで、海外向けに日本のクオリティを広めるためにスタートしたのだとか。
昔ながらの無骨でかっこいいイメージの桃太郎ジーンズと比べ現代的でファッション性が高く女性にも人気だそう。
店員さんはレディース向けの履き心地がよくコスパも良いものを選んでくれた。
穴があいているジーンズから履き替えたからなのか、安心感が半端ない。生地がしっかりしているのだ。その割には軽く柔らかめで一発で気に入ってしまった。
お姉さんが薦めてくれたのは、ジーンズストリートの一角にある喫茶店。
一口食べて驚いた。なにこの心地よいプリプリとした食感…刻んだエビがたくさん入ってる!
スープ状のトマトソースがリゾットのようによくチキンライスに絡んでいき、トマトの美味しさがすごく引き立っている。これ、食べてるそばからまた来たくなるやつだ。
食べ終えるのがもったいなくて途中いったん休憩。しみじみ、地元の人のおすすめは間違いないなと深く頷いた。
しかもこれが570円というから本当に信じられない。さらに、お店の方たちがとても優しかったのだ。
困ったことに行きたい場所に向かうバスと時間が全く合わない。乗ったとしても、帰りのバスをまた1時間待たないといけなかったりする。
頭を悩ませていると、陽気なお母さんが外から勢いよく登場。息子さんがいつの間にか電話で呼んでくれてて、車に乗せてくれることになった。ありがたすぎる!
車ならすぐだし、せっかく児島に来てくれたから、と言ってくれた。
運動場で出会った女の子や白鳥の所にいたおじさん、そしてちくりんのご家族イチオシの眺めだ。天気がこれ以上無いくらいドン曇りだけど、ダメ元でも訪れてみたかったのだ。
ここまで霞がかっていると逆に幻想的だねとお母さんと一緒に笑った。
ちなみにお母さんは年に一回ほど橋を渡って香川のこんぴらさんに訪れるそうだ。
お母さんは引き続き、窓から見えるものを案内しながら駅まで送ってくれた。斜面にお墓を見つけるとなぜか毎回教えてくれたのが可笑しかった。
こういうおもてなしを受けると、自分もそうありたいと思うし、またここに来たいと強く思わされる。
児島からバスに乗り、岡山にきたら絶対はずせないでしょといろんな人に言われてた美観地区にやってきた。
美観と言ってるだけあってとても美しいエリアだ。
もう15年くらい前に一度歩いたことがあるのだけど、こんなに広かったっけ?増えた?と思うくらい多くの屋敷や蔵が残って散策しがいがある。
町並保存地区とはいえ、これだけの広さで残っているのはすごい!
地元のお兄さんが案内してくれたのは、たまにコーヒーを飲みにいくという場所だった。しかしさすが美観地区、普通のカフェではなく立派なお屋敷の中にあった。
倉敷川に面した一等地にある高級旅館の中であった。その外観や玄関を見るからに、一般の観光客には敷居が高い。
が、お兄さんは奥に入ってけばコーヒー飲めるから!大丈夫だから!と背中をおしてくれた。おそるおそる奥へと進むとレストランがあり店員さんが笑顔で迎えてくれた。
緊張しながらコーヒーをすすっていたのだけど、店員さんが気さくな対応をしてくれたので徐々におちついてきた。
良ければこっちも見てください、とさらに奥も見せてくれた。旅館の外観は昔のままだけど、部屋やレストランはモダンさを取り入れているという。
倉敷ガラスは小谷真三さんと長男の栄次さんという親子二人の手でのみ作られる口吹きガラス製品の総称。なかなか手に入らないのだ。
美観地区のなかでも誰もがまず薦めるのが大原美術館。西洋どころか世界各地の絵画や彫刻や工芸品のコレクションを見ることができる。
ピカソやゴーギャン、ルノワール、ミレー、モネ、ロダンなど私でも知っている作家の作品が並んでいてお得感が半端ない。
お姉さんがたまに覗くというのはめちゃくちゃオシャレなセレクトショップだった。
もともと薬屋さんだったのを改装し、倉敷の作家さんのものを中心とした生活雑貨を販売したり、記念館やカフェも入る複合ショップになっている。
また、倉敷はマスキングテープの発祥の地のため可愛いマステがたくさん売られていた。
さて日も暮れてきて、旅の終わりが近づいてきた。駆け足で最終目的に向かいつつ、外観が特徴的なアイビースクエアを通った。
大原美術館をたてた大原孫三郎さんが明治時代につくった紡績所で、今はホテルを含む複合観光施設になっている。
お土産屋さんや陶芸教室もあり、いろいろ見どころがあるようだが、ただ通り抜けるだけでもワクワクした。
さて、次はいよいよラスト。
美観地区を見守るかのように高いところにある阿智神社。実はこの阿智神社があったことから門前町として倉敷のまちが栄えたそうなのだ。
そしてさらに元をたどるとこの辺一体は「吉備の穴海」と呼ばれる海で、この山は島だったそう。
という感じで、最後は締めにふさわしく、倉敷のまちの原点に触れるができた。
今回も本当にたくさんの人にお世話になった。岡山の皆様、ありがとうございました!
晴れの国と言われているのに、後半は青空が見えなくて残念だった。特に瀬戸内海のあたり。
だけど、その代わりに夜に輝くイルミネーションのブルー、デニムのインディゴブルー、倉敷ガラスの透き通るブルーなど、岡山ならではの青をたくさん堪能することができた。
次回はまた、晴れた日に訪れたいと思う。穴のあいていないジーンズを履いて。
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