専門家と歩くと街の見方が変わります
なにかに詳しい人と街を歩くシリーズは今後もつづく。取材をしていても街の見方が変わった。のぼりは触って「シルク印刷」と判定するようになるし、デパートに行ったら床に化石がないか探すことになるし、渋谷で山ぶどうをとって食べようとするようになった。
今後この記事を読み続けていった人はどうなってしまうのか。私達も心配である。
だれかと一緒に街を歩くと見方が変わって風景も一変する。それがなにかの専門家であればよりダイナミックに変わる。
これまで東急沿線を日本史、植物、通学路など様々な専門家と一緒に歩いてきて膨大な知のシャワーをあびてきた。ここらで一度まとめよう。
マニアvs地元知識のシリーズがこの回あたりから専門知識をがっつり持った人を呼ぶようになった。世田谷の武将・吉良氏を研究している谷口さんと歩いた上町回はその知識量に首がもげるほど「へぇ~」をすることとなる。そのときの知識を以下にまとめていく。
とにかくアナーキーでクレイジーなイメージがあった戦国大名だが近年では新たに分かったこともたくさんあるそう。
たとえば当時の戦争には隣の村といざこざを起こし、なんとかしてくれと農民に請われて仕方なく戦国大名が攻めたというのもあるそうだ。
頼まれたら沽券に関わるので解決しないといけない。戦国大名はそんな地廻りのヤクザみたいなもの。谷口さんによると戦国大名=ヤクザという学説があるそうだが…
攻城戦における籠城(たてこもること)は「後詰作戦」ともいって、援軍と挟み撃ちすることが前提の作戦なんだそう。だから籠城は案外強いのだという。
そもそも研究ってどうやってするんですか? と聞いてみたところ、たとえば吉良氏なら全国に吉良氏関係の資料が眠っているので探して集めて復元してストーリー化するという地味な作業だそう。
新たな資料というのは今でもバンバン出るらしい。どんどん塗り替えていくのが歴史学なんだそうだ。
谷口さんによるととにかく身分というものが幅をきかせていた世界だったそうだ。
戦国時代といえば下剋上。しかし下剋上とはいっても殿様を倒したとしてもまた別の殿様を連れてくるらしい。身分制は維持したうえで実力を奪うのが目的。つまり下剋上は「バリバリ身分制」なんだという。
井伊家は彦根藩なので豪徳寺だけでなく彦根(滋賀県)にも墓がある。「日本史って思った以上に移動すごいですよ」と谷口さん。領主ともなると領地は各地にあるし都にも行くので出張しまくりだそうだ。
なかでも海運は大事。「港超重要です、品川湊、江戸湊(今の日比谷あたりまであったそうだ)、横浜」これらは現在の新幹線の駅と重なる!
大名が実は下の人からの要望で動かされていたというのが最近の研究のトレンドだそうだが、とはいえ野心を持ったあの残酷な武将の側面もなかったわけではなく「研究は振れるのでまた変わると思います」と谷口さんは言う。
事実は変わらなくても解釈が変わるし、説明が変わる、そうするとストーリーが変わるという。永遠に研究がつづきそうだ…
日本史研究者はさすがの「へぇ~」量だった。ここらでちょっと変わった分野はどうだろうか。通学路を研究している人がいたので地元のよしださんと中目黒を歩いた。
柏の葉で通学路について研究している小山田さん。ヨーロッパの通学路研究では寄り道することで学習効果を高める結果が出ているという。へぇ~。
たとえば通学路にマンホールがあって、そこに犬の絵が隠れていたとする。渋谷の道玄坂にはそういうマンホールがある。子供がそれを知っていれば自慢のマンホールになる。
子供はそれぞれ秘密の道を持っていてそれを自慢するのだという。それがシビックプライド(まちづくりの用語で地域を愛する気持ちの意味)みたいなものになるそうだ。
小山田さんによると子供独自の道は猫道でもあるという。猫が通りそうな狭くてちょっとした険しさを持ってる道を子供は好きなのだ。
小山田さんが街づくりにするにおいて子供が寄り道する場所までは決めないらしい。子供が自分で見つけ出すことが大切なので、街計画においてはハックされやすいような余裕のある街を作るそうだ。へぇ~。
ジグザグしたものとかざらざらしたものとか、さわって何か感じられるものを通学路にたくさん作りたいそうだ。そうしたものが記憶につながるという。
ニトリの前の「中目黒立体交差」という交差点が何もない場所にしてはにぎわいを見せる。ここにはかつて路面電車の電停があったのだ。
となりには茶色のでかいビルがある。窓がなく異様であるがこれがみずほ銀行中目黒センターだそうであのシステム統合問題時に中心となった場所だそうだ。奥には目黒信用金庫が見える。
路面電車の終点始発は栄えるらしい(※過去の地理人さんの回より)。地銀があるのがその証拠だ。
街を歩いていてあるものといえば道端の植物。図鑑編集者小林さんは小さなころから植物図鑑ファンだそうだ。
「あー、エノコログサですね。エノコロってワンコロって意味なんですよ。だから猫じゃらしって俗称には猫がついてるけど正式名称は犬」とスラスラ答える小林さん。
小林:でも厳密にはこれ毒なんですけどね
林:昔の人は毒をおしろいに使ってたんですか?
小林:でも今もそうじゃないすか? 化粧水をごくごく飲んだら毒だし。植物やきのこの毒も同じで。
よく「毒って書いてあったけど別の図鑑には食って書いてあるんですけど」って意見がくるんですが、難しいんですよね。例えば牡蠣って毎年すごい食中毒出ますよね。あれを「毒」って書くか「食」って書くかってことなんですよ。
小林:あっ! 私昔ここで露出魔を見たんですよ。雨上がりで、なんかまさにこういう感じで向こうから日があたって。そしたら後ろに見事な虹がかかっていたんですよ。
林:へぇ~(笑)こんな高級お屋敷街でも出るんですね
──虹を背負ってる変態が(笑)
小林:すごい覚えてます、逆光で、虹の。だから彼にとって見せたいところがよく見えないんですよね。神秘的な感じ。
小林さんの専門である植物図鑑、その作り方も変わってきてるらしい
小林:今までの子供向けの植物図鑑って「春の花」みたいに季節で分けたり「山の」とか「街の」とか場所で分けたりしてたんですよ。それが子供の頃に使いづらくて(これは分類順になっている)。
ほかにも従来の植物図鑑ってイラストだったんですけど写真にしたんです。(中略)そしたら他の出版社もみんな白バック写真にしてきて、今これが主流になっちゃって。あと、さっきの「分類順」っていうのも主流になっちゃって。
小林:あー、タマサンゴだ。ナス科の植物なんですけどホウズキの中身みたいな実がなってて。これ園芸種なんですよ。「逃げだし」といって、どっかの家から飛んできたやつが定着してきてる。久が原すごいタマサンゴの逃げ出しが多くて
林:逃げ出す?
小林:菜の花とかもそうなんですよね。多摩川沿いとか菜の花がいっぱい咲いているんですけどあれ逃げ出したんですよね。多摩川のは正確には菜の花ではなくてカラシナなんですけど
林:へえ~、もともと園芸種なんですね、菜の花って
小林:そう、で誰かがかわいいからって植えたらめっちゃ増えちゃったみたいな感じで。野菜として栽培してたのが逃げ出すケースもあります
小林:イチョウってこれもトクサ(※前回登場の古代からある植物)と同じで恐竜時代くらいからあるすっごい古い木なんですよ。
たとえばタンポポとかはすごく最近の種類なんですよ。タンポポって虫とかに媒花してもらわなくても自分で勝手に綿毛になって、それでしかも飛んでくし。なんにも手間かかんなくて子孫を増やすじゃないですか。あれってすごい進化形なんですね。
イチョウって雄の木と雌の木があって、それで花粉つけないといけないじゃないですか。普通、雄しべ(花粉)と雌しべで受粉して終わりなんですけど、イチョウは精子なんですよ。
──えーっ! 花粉じゃなくて精子!?
小林:顕微鏡で見ると銀杏の雌の木の方には本当に精子みたいなのが入っていて、泳いで卵にたどり着かないと銀杏ができないですよ。
変わった趣味というにはあまりにも人口が多い鉄道ファン。鉄道の視点で街を歩くことは可能なのだろうか? 鉄道ファンも唸らせる知識量を持った鉄道ジャーナリストの栗原さんと横浜駅の鉄道跡を歩いた。
栗原:(1067mmは)狭軌といって東横線やJR在来線ですとか、全国的にこの規格が多いです。新幹線や京浜急行は標準軌といって1435mmでもうちょっと広いんですよ。
最初にイギリスからの技術を導入して新橋~横浜間に鉄道ができたときに、狭い日本でまだお金もない国で手っ取り早く作れるようにちょっと狭い規格で導入されたんです。でも世界的には1435が標準規格で、私鉄でも志があるところは標準規格を採用したんですね。
京急はもうちょっと複雑で、何度も幅を切り替えてるんですけど。関西なんかは阪急も京阪も阪神もみんな1435mmで標準軌。
林:京王はどうですか?
栗原:京王はまた別で、1372mmでこれは昔の馬車の車輪の幅を元にしてるらしいんですよ。
大北:馬車!? なんで!?
大北:そもそも鉄道はどこの文化だったんですか?
栗原:イギリスです。地下鉄もイギリス。やはり産業革命の柱だったので蒸気機関はやっぱりイギリスから始まってると思っていいですね
大北:じゃあ今はどこが進んでますか?
栗原:日本だと思います。日本とドイツ。日本はとにかく狭い国土でとにかくお客さんを高い頻度で高速に運ぶという技術が発展したんですよね。アメリカだともうちょっとおおらかで大量の貨物をドカンと運ぶ。それも高い技術ではあるんですけど。
栗原:神奈川っていうのが昔からあった宿場で本来の横浜っていうのは神奈川宿の横の浜、今の山下町のあたりのことです。アメリカのペリーが来航して開国することになったとき、最初は神奈川宿に港を開くという話でした。
神奈川宿は江戸時代の大動脈である東海道の宿場でしたが、東海道沿いに港を開くと外国人が何か事件を起こすかもしれない。だから、なるべく宿場から離したかったんですよね。
そこで幕府は、今の山下町付近にあった横浜村なら、船着場を作れそうだと考えました。関内付近には入江があり、神奈川宿から近い割に、隔離できると考えたのです。位置的にも、外れのほうだけど神奈川宿の一部ですよって言い張れたんですよね、アメリカは主要なところの港を開けと言ってきたので言い訳が立った。そしたら横浜が大発展して、今度はこっちの方まで横浜の一部ということになっちゃったんです。
大北:うっへえー! 神奈川より横浜ブランドが勝っちゃったんだ
大北:鉄道はアップダウンのないところを通ってるんですか?
栗原:坂には弱いんでなるべく避けようとします。鉄のレールの上を鉄の車輪で走るので摩擦がすごく少ないんです。
摩擦が少ないのでものすごく重いものでもわりと簡単にひょいってやると動かせる。摩擦が少ないと、一度動き出したものはずっと動き続けようとするので、大きな力を加えなくても動かすことができます。小さい力でたくさんの物を運べるというのが鉄道の利点なんです。
その代わり摩擦が少ないので坂にはめっぽう弱い。一方、自動車はゴムタイヤや道路の摩擦がすごく強いので、トラックなどは坂には強いですが、ずっとエンジンを動かして力を加え続けなくてはいけません。
大北:ああ、そういうことですか! へえ~! そりゃトンネル掘りますよね!
栗原:リベット(鋲)、かっこいいですね。
大北:ああ、この丸くポチっとしたやつって装飾じゃないんですね
栗原:そうです。戦前の技術ですね。上野駅の高架線なんかいくとこういうのがたくさんあります。昔は溶接の技術が未熟だったので釘のようなリベットをたくさん打ち込んで接合したんです
林:へえ~、溶接の代わりか~!
栗原:大正時代に大激論があったんですよね。これまでに狭軌で作ってきた鉄道を「全部レール敷き直して世界標準の広いやつにするべきだ」と。
それに対して「そんなことよりもまだ鉄道のない地方にどんどん鉄道を作ったほうがいい」っていう意見が議論になって、地方に鉄道をっていう人達が勝ったんですよ。
地方優先か都市優先かという議論で地方優先しようというのが勝った。それを支持したのが初の平民宰相と言われた原敬なんです。でもそのときに、線路幅を広くしようという主張がかなわなかった人たちの教え子たちが新幹線を作ったんですよ
大北:うっへ~い! ストーリー!!
久が原につづき植物回なのだが、この山下智道さんはこの今風の見た目で超がつくほど植物オタク(友達がおじいさんばっかりになったりするらしい)でTVチャンピオン野草山菜王決定戦の回で優勝するほど。
その知識量もさることながら、植物の種類を見極める早さが尋常ではなかった。小指の先にも満たないほどの葉から一瞬で同定するのである。
山下さんと渋谷駅近くの山手線の壁を見ていた。
山下「ここにへばりついているのが、セイタカアワダチソウですね、あっちがオオアレチノギクでその隣がヒメムカシヨモギですけど鉄道に多い植物たちです。鉄道で種が運ばれて。鉄道とともに発展していったので文明草っていうんですけど。」
鉄道に多い植物なんてものがあるのか…!! もう知らないことばかりで私達の知恵袋がパンパンである。
山下「これは種が飛んできてこういうところに落ちたあと、道路がめくれてきて紫外線にあたって発芽してくる。土はこれぐらい見えていれば十分です。おそらくこういうところ(隙間の砂部分)に色んな種子があってシードバンクっていうんです」~
山下「後ろにいっぱい生えてるのは美味しいキイチゴのクサイチゴ(和名)ですよね。キイチゴのなかでも結構うまいグループ。ジャパニーズフランボワーズ。ラズベリーのことをフランス語でフランボワーズって言いますね。あれ全部そうです」
林「ラズベリーって聞くと急にいいもののように思えてきますね」
大北「すごい、渋谷にしてもディーンアンドデルーカとかじゃなくてこんな荒れたところにラズベリーがあるんだ(笑)」
山下「あれいいですね。ああ、渋谷にこれは嬉しいかも! これエビヅルですね。これ浜辺に多いんですよ。山ぶどうみたいな実がつくんです(※昔はぶどう類のことをエビと呼んでて、茹でたらぶどうみたいに赤くなることで海老の語源にもなったそう)。これうまいんですよ! 山ぶどうよりも濃い味なんです」
エビヅルは浜辺に多いというが、渋谷でいくつか見かけて実がついているものもあった。
山下「もう少し熟したら、あれがぶどうのように紫に黒くなって…あと1~2ヶ月ぐらいですかね。 乾燥させて干しぶどうみたいにするとより美味いですけどね。それでバターに入れる。すごいですね! 今日一番じゃないですか! 本当に実がついてますもんね。 」
山下「これもしかしたらですけど、キャッサバの葉っぱです、たぶん。タピオカの材料。都会はこういうのが多いんですよ、今ブームの植物が。隣接するマンションのベランダにあったりするんですかね? 栽培している可能性もありますね。そういうのが面白いんですよね都会は。最近売ってますからね。ありそう、どっかで。 」
タピオカブームだと聞くがまさか原材料の葉が見つかるとは! だれかが原料から自作しているのかもしれない…!!
山下「これ面白いじゃないですか。ソバですね、蕎麦の花。一株だけ何故かある。植えたのが逃げ出したんじゃないですかね。野生で絶対こんなとこにはないですよね。そばの実が転がって? その可能性はありますよね。こういうのはやっぱり都会ならではの光景じゃないですかね。おもしろいですよね。」
タワレコの隣にそばが生えている。都会なのか田舎なのか、一体もう何がなんだかわからない。
街にある石材を見て歩くTwitterでも話題の西本さんと二子玉川の蔦屋家電と玉川高島屋S・Cの石材を見に行った。
二子玉川の蔦屋家電の中で石を探し、ここにあると案内されたのはトイレの手洗いカウンター。
西本「おっ! これはゴージャスですよ、これ石ですよ、石。力入ってますよ、いや素晴らしい。これはね、アラベスカートと言うイタリア産の大理石です。素晴らしい! 拍手~。……ちょっと待って怪しくなってきた、怪しいな」
けっこうな勢いでテンションが上がった西本さんであったがすぐに顔がくもりはじめた。
西本「こういう所って石鹸とかで皮膜みたいなのができてプラスチック感を作ってしまうことがあって。いやでもそっくりだな…これ偽者だったらショックだな……塩酸かけたらわかるんですけどね。溶けるんで」
後にこれは本物の石だとわかったが今は精巧なプリントがあるので石かどうかを見分けるのも至難の業のようだ。
西本「あー! あったじゃないですかこれ! これサンゴですね!扇状に広がっている縦断面ですね。これはベルギー産ですね。ベルジァンフォッシルとかエコーシンヌとかいろんな名前がつけられています。これと同じ石材が東京の中央郵便局に使われています。」
石灰岩は生物の骨格や殻が集まった石なので化石の塊みたいなものなんだそう。
西本「これはジェットバーナー仕上げといって、石の表面をバーナーで焼くんですよ、そうすると温度差で結晶が割れて飛ぶんですね。それでこうやってザラザラにするのです。床なんかに使う時につるつるにすると危ないじゃないですか。
こっちの黒っぽい石材は山西黒といい、中国の山西省で採れる斑レイ岩です。これも本磨きにすると真っ黒でツルツル。これがそうじゃないですか、これが本磨き。雰囲気が全然変わりますね。同じ石材の表面仕上げを変えてモザイク状にしてデザインするっていうのはよくある手法です」
──屋外になって中国産の石材が多いのは安いからですか?
西本「そうでしょうね。石材工業の一大拠点が中国福建省にあるのです。だから福建省の石を使えば、運送費を抑えられそうですよね。ヨーロッパの石でも中国で加工することが多いみたいですよ。中国は市場も大きいのでそこに集約してるんでしょうね」
──砂岩って砂が固まったんですよね? ザラザラの砂がどうやって石になるんですか?
西本「砂粒の間を別の物質が埋めて固まるんです。だから、砂岩は天然のコンクリートだと思ってもらえればいいでしょう。砂は圧力をかけても潰れにくいので隙間が残りやすく、その隙間を方解石などが沈殿して埋めてしまうのです。接着剤が自然に注入されていくみたいなイメージです」
西本「これはおそらくエジプト産のサニーベージュという大理石です。よく見ると渦巻き模様のあるラグビーボール型の模様が、いっぱいあるんですが分かりますか? 貨幣石っていう有孔虫の化石です」
西本「これはおよそ5000万年前に栄えた生き物の殻なんです。(中略)貨幣石の化石があったら約5000万年前の石と思っていいです。恐竜絶滅後に暖かくなった時期(※温暖化が起こった)の生き物です。暖かい海が広がっていたので生態系が豊かで、原生動物なのにこんなでかくなってしまったのでしょう。単細胞ですよ、これで細胞が一個! 一度判別できるとたくさん見えてきますよね。そして見えすぎてだんだん飽きてくるんですよね(笑)」
貨幣石を見たら約5000万年前と思え。人を見たら泥棒と思え、くらい我が子に伝えていきたい言葉だ。
西本「これ巻貝ですよ巻貝の縦。ここがとんがってて巻いているんです。いや、いいのが撮れました。これは立派ですよ。こんな立派な巻貝なかなか見つからない。ここに印をつけておいてほしい(笑)」
西本「よく聞かれるんですよ、(石材に)アンモナイトがあると高いんですかって。そんなことないと思います。石材業者ではないので想像ですけど、下手したら逆に安いかもしれないですよ。デザイナーがこだわると模様合わせで困らないよう化石がない部分を選んで買う人もいると聞いたことがあります。案外化石って嫌われることもあるようです」
のぼりを作る会社の人である堀江さんは、前職が広告代理店で街にある印刷物はなんでも作っていたそうだ。あらゆる印刷物を対象に見て歩く、最も文字量の多い回となった。
堀江「これたぶんシルク印刷かな??(※布の印刷は大きく分けてプリントゴッコみたいな版型を作るシルクスクリーン印刷とプリンターで出力するインクジェット印刷がある)。最近の機械は綺麗になったからインクジェットとわかんないときがあるんですよ。……でもこれインクジェットだ。ほら、シルクだと生地が硬いんですよ」
結局見分けるのに一番いいのは硬さということになった。今後私達ものぼりをさわって硬さで判断しよう。硬いとシルク印刷。柔らかいと染料(プリンターでインクジェット印刷)。
室内に設置するのぼりには防炎加工が必要なことが多く、防炎協会から加工の印のシールをもらうそうだ。
林「このシールだけ売ってないんですかね…?」
堀江「このシールは絶対に商品に貼って送らないとけないんです。絶対です!昔シールだけ送ってすげー怒られた会社があります(笑)。ところで僕は印刷が綺麗だなと思ったらこの防炎番号を見るんですよ。そうすると防炎協会のところで何番がどのメーカーかわかります。『最近堀江さん自分たちの仕事を取りましたね…』みたいな話が競合の会社から言われることもあるとかないとか・・・」
みなさん! のぼりのメーカーは防炎加工からわかってしまうそうですよ! だから何っていうわけではないですが!
堀江「そば、とだけ書かれた大胆なのぼりもこういうのが売ってます。誰が作ってるのかずっと分からなかったんですけど、飲食店に器とかトレーを売っている人たちがのぼりも合わせて売ってるんですよ。僕らは広告宣伝業界にいたから分からなかった」
堀江「のぼりはおしゃれエリアに来るとないんですよね。おしゃれエリアになると急に印刷物が減るんですよ。僕も自分で作ってて邪魔だって思いますが、まだ結構ありますからね(笑) 」
おしゃれエリアは印刷物が減る。子孫に語り継ぎたい真理である。
林「けっこうのぼりって折りジワがありますね」
堀江「出したてのはこうなりますね。コロナになってからのぼりつけるところ多いから。イベントは減ってるけど。」
林「飲食店界隈で。」
堀江「売り上げを伸ばすために何かしら宣伝をやらないといけないとなると、のぼりって安いので『表にのぼり立てとくか!』みたいな流れになります。安くてあれだけ目立つものってあまりないですよね。」
林「世の中に動きがあるとのぼりが増えるんだ。」
堀江「これ昔『捨て看板』といって。不織布みたいなやつで木の枠にホッチキスでガチャガチャ貼ったものが街の電信柱についていたと思います。お葬式のものなどを除いて、基本的には法律違反になるので今は衰退して違う形になって残っています。」
林「こういう形になった。」
堀江「形が。昔は柱にくくりつけて取り付けるあまり良くないバイトがあったらしいですが。」
大北「この形の看板、あった気がします。あれ違法だったのかよ~。」
堀江「でも(おしゃれなデザインより)結局こういうほうがわかるんですよ。ゴシックだな、みたいな。情報量がないほうがいい。メガネとコンタクト以外ない。」
林「むしろデザインが面白いですね。」
堀江「目立つデザインってあるんですよね。揺れたらわからなくなるから。」
大北「へぇ~、揺れるっていうの独特なメディアですね!」
なにかに詳しい人と街を歩くシリーズは今後もつづく。取材をしていても街の見方が変わった。のぼりは触って「シルク印刷」と判定するようになるし、デパートに行ったら床に化石がないか探すことになるし、渋谷で山ぶどうをとって食べようとするようになった。
今後この記事を読み続けていった人はどうなってしまうのか。私達も心配である。
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