特集 2021年1月19日

「性」でないグラビアを撮る

少年誌青年誌にあるグラビアは"性"に偏りすぎではないか?

水着の女性がバランスボールに乗っている。なんでこんなことになってるんだろう。マンガ誌を少年期から読んでいると、世代が上がるにつれ巻頭にグラビアがつくようになる。

ある日気づいた。これ"性"を表したものばっかりじゃないか?と。

もっと他になんかあるんじゃないか。グラビアは性を表現しなくてもいいのでは。グラビアの可能性を探り、少年たちを性から解放させてあげよう。

2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

前の記事:のぼりは世の中の変化に強い~街の印刷を専門家と見て歩く~

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

男性モデルを使う

少年誌や青年誌のグラビアは"性"を表現しすぎだと思うんですよ(※この記事で使ってる「性」は一般的な意味でなく、異性愛の男性の性衝動が目的とするもの、くらいの意味です)。

と、担当編集の安藤さんに相談したところ「よくわかんないですけど、いいですよ」とモデルを引き受けてくれた。表現したいのが性じゃなくなったとき、グラビアアイドルは中年の男性でもよくなった。

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40代男性安藤昌教さんをモデルにしたグラビアで性以外を表現する
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性でないグラビアを撮ろう

さあ撮るぞ、となったところで悩む。グラビアってそもそもなんなんだろう。

グラビアのそもそもは印刷方法の1つだそうだ。雑誌の写真ページをこのグラビア印刷で行っていたので写真ページ自体のことをグラビアと呼ぶようになったとか(現在はグラビア印刷でもないらしい)。なるほど。

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ちなみにITSCOMのかんたんなショールームみたいなスペースで撮ったのでぬいぐるみなどの備品はそこにあったものを使っている

だけどそれだと範囲が広いのでこの記事では少年マンガ誌や青年誌において女性が出てくる写真ページのことに限定しておこう。

少年誌や青年誌のグラビアではどんなことをやっているのだろうか。カメラをかまえて気づいたが、まず被写体にポーズをとってもらわないといけない。

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ちょっと腰掛けるよりも…

 

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何か持ってもらったほうがそれらしかった。
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ポーズをとること自体がグラビアっぽいのかもしれない。これは男性的なポーズとも言えるだろう
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「ふだんしないようなポーズをしてください」とおねがいすると、よりグラビアらしかった。グラビアといえば変なポーズなのだろう
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変なポーズとりながらカメラ目線、これがグラビアっぽかった。だがよく考えるとこれはこの人が今「同居していないとしないような状態」だからではないだろうか。早くも性的なものに寄ったかもしれない。
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隠喩っぽいものがグラビアだ

いくつか撮ってみて気づいたのは何かを表現しているものがグラビアっぽいということである。

たとえばさっきの「泊まりに来た彼女が寝転がってニコニコ何かを訴えかけているような」写真はかなりグラビアっぽい。

少年誌のグラビアで何かを意味するのは「彼女」であることが多い。それが青年誌になり表現が露骨になると現れてくるが、大きな意味では「性」を表現していると言えるだろう。

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正解を表したポーズ。グラビアっぽくない。やはり性に近いもののほうがグラビアっぽいのだろう。
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小道具は表現の手助けになる

他にも小道具が出てくるとそれは何かを表していることが多い。

犬のぬいぐるみと見つめ合っていれば「彼女がワンちゃんに無邪気に話しかけていてかわいいなあ~」であったりするだろう。

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そこにあったぬいぐるみと。グラビアでは写真の状況にありそうな小道具でちょっとしたポーズをとることがある。これはグラビアっぽさがある。
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グラビアっぽさがない例。「…臭い?」と、小道具を嗅いだりはしない。小道具は何か別のものを表したりすることが多い。

小道具が彼女とか性と全く関係のないものを表現しているとどうなるのだろうか。

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小さなスピーカーでDJ機器を表現するというもの。これはふざけているようにも見える。「彼女のおちゃめさ」とするには被写体の表情が真剣すぎるし。
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照明スタンドをパーマに見立てる例。別のもので表現するのはグラビアっぽくもあるのだが、もっと抽象的なものを表現する必要があるのではないか

 

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こういうピッキングみたいな犯罪行為もグラビアでは表現しないし、やはり小道具を使って表現するのは性だ。
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とある良いものをグラビアで表現してみる

グラビアで性以外を表現するにおいては、なんの感情もないものを表現してもピンと来ないことがわかってきた。

それでは「良いこと」を表現してはどうだろうか? こちらは持ち込んだ小道具を使って撮ったものだ。何を表現しているかはいったん伏せておこう。

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小道具としてあることを表現してみた。グラビアとしてどうだろう?
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こちらも同様のものを表現したグラビアである

 

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何を表現しているのかがおわかりだろうか? 直接伝わらなくても隠喩として感じ取っているかもしれない
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読者の欲望といえばお正月だ

訴えかけるものがあったろうか。やはり"性"は男性の読者が求めているものである。同様に求めているものは何か?と考えて、今回表現したものは「お正月」である。

あれだけ待ち遠しく、また終わることを望まなかったお正月だ。グラビアで表現するにふさわしいものではないだろうか?

「ぼくたち男の子はお正月が大好き」そんなコピーが見えてきた。

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伸びるお餅を表現した新しいタイプのグラビアである
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こちらは露骨にお餅な過激グラビアとも言える

正月グラビアの威力

どうだろうか。これが性から解放されたグラビアたちである。

被写体の安藤さんも今やグラビアモデルと言っていいだろう。ああ、お餅がうまそうだよ、安藤昌教くん、いや、安藤昌教クンだ!(グラビアでの表記イメージ)

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小学生が求めているものといえばお年玉である。ポチ袋だと過激すぎるため社用の封筒でお年玉を表現したグラビア。理屈でいえば読者に突き刺さっているはずだが…!?
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こちらはプラケースをパカパカさせて獅子舞を表現したグラビアだった。くぅ~、たまらん!となってくれているはず

プラケースをパカパカさせている人を撮っているときに気を抜くと(…これはなんだっけな?)とならなくもない。しかしそこは突き刺さっているはずと信じるしかない。グラビアで大事なのは作り手と読者の信頼関係だ。

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テレビをプラケースが噛むところは(…ああ、もう縁起がいい!)と読者に辛抱たまらなくさせるところである。何度もこのページを開いて雑誌にくせがつくところだろう。

欲望から離れたグラビア

なんておめでたいんだろう。よく伸びるお餅。パカパカする獅子舞。青少年が求めているものがここにある。

グラビアでお正月を表現させるのはよいとして、他にはどんな方向性があるのだろうか。たとえばであるが世間ではマスクや検温などアルコール対策が流行っているがあれを表現したグラビアはどうだろう?

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ほこりとりモップで非接触型体温計を表現
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主観的な視点でより検温されている気持ちになるグラビアである
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こちらはラー油を使ってアルコール消毒を表現したグラビア。正直に言おう。なにがなんだかわからなくなった

お正月以外の「良いもの」はどうか

やはりグラビアは「求められているもの」を表現しなければならないことがよくわかった。

検温や消毒など、しなければいけない作業はグラビア向きではない。いいものである必要がある。たとえばこんなグラビアである。 

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校長先生からの卒業証書授与を表現したグラビア。単位の足りてない学生には辛抱たまらんものがあるだろう
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見よ、このモデルの目を。これはホームスピーカーを本気で卒業させにかかっている目だ。

卒業証書授与は感染対策よりかはグラビアらしく見えないだろうか。

他にも行事ではなくてちょっとした日常風景のうれしいことはどうだろうか。何においてみんながもれなくうれしいかと考えたが「あいつ、お前のこと褒めてたぜ」ではないだろうか。

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「あいつがよ、お前のこと褒めてたぜ」を表現したグラビアである
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「お前のことをよ」この辺りでモデルの人生が心配になってきた。だがそういうものだ。グラビアアイドルはときに「こんな格好させられてかわいそうだな」という気持ちになったりするものだ。

過激なグラビアに挑む

わかってきた。グラビアは人の欲望を表現しているのだ。とすると、ああ、そうだ、仕方ないものだ。人の欲望は肥大化して過激化するのだ。

私達は読者のみなさまのより過激なグラビアを求める声を感じ取った。グラビアは作りて側もヒートアップするものなのだろう。

私も安藤さんも子供がいる。食わせていかなければならない。求められるならやるしかない。それが商売というものだ。過激なグラビアをやろう。これだ!

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本物を用意したのである。さあ、過激なグラビアが始まる…!!
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これはもう青年誌だ! 出てる! もう出てるよ、お獅子が出ちゃってる!

 

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獅子舞とたわむれるなんて、ヌード写真みたいなものじゃないか
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これは…まさか始まってしまうのだろうか!?
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あわわわわ、これはもう袋とじだ!
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早くスマホやブラウザを閉じて! 小僧さんは早く境内の掃除に戻って!
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もう、まんま正月! ドブ川にこの記事を捨てにいかないと!
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こんなメールを送ったら迷惑メールに振り分けられてしまう
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過激グラビアモデルだ! サービスしすぎだ!
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ブルーレイ買わせてください!
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安藤昌教クンはここまでやる。グラビアアイドル界に黒船来たる
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ヌードでくつろぐオフショット的な一枚も

欲望を写真で表現している

グラビアはよくへんなことになっている。水でびしゃびしゃになっていたり、不自然な器具で筋トレをしていたり。これがマンガとどう関係あるのだと文句を言いながらも毎回見ている。きっちり見ている。そりゃマンガは関係ないだろう。あれは私達の欲望をのぞき見ていたのだ。

撮る側になってその気持ちが少しわかった。読者が喜んでくれるにちがいない。だからもっと! もっと躍動して! とカメラマンとしてがんばった。モデルも獅子舞を必死に待った。あれはかつての自分に届けるためにやっていたのかもしれない。

これで世の中の男性たちが性から解放されお正月に向かえば私達の試みは成功だ。グラビアアイドルが獅子舞を持ち始めるかどうかはみなさまの反応にかかっている。

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