特集 2022年3月1日

サラリーマンが個展を開く方法を聞いてください

先日、代官山で個展を開催し、多くの人にお越しいただいた。この記事では、普段はサラリーマンの身である筆者がどうして個展を開こうと決意し、どのように開催に至ったのか、また、実際開催してみてどうだったのかを記録する。

1992年三重生まれ、会社員。ゆるくまじめに過ごしています。ものすごく暇なときにへんな曲とへんなゲームを作ります。

前の記事:追いクルトンのススメ

> 個人サイト ほりげー

個展を開くということ

個展を開こうと思いついたのは8か月ぐらい前。

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それは突然思いついたようなツイートであった。

普段はサラリーマンとして働きながらデイリーポータルZで記事を書いている。気づけば副業ライターも丸3年になる。ここは一度、これまでの活動をみなさんに体験してもらう形でお披露目したいと思ったのがきっかけである。ベストアルバム的な位置づけだ。結婚式のひとりバージョンみたいなものだ。そういうのがあってもいい。

決心するのに4か月かかった

あとは自分の決心の問題である。結婚式とは違って完全に自分ひとりの問題なので、自分が本当にやるかどうか。最初のツイートから4か月が経ち、いよいよついに決心した。前から気になっていた代官山のギャラリーがあり、そこに申し込むことにした。

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申し込みのメールを送っちゃった。

こういうのは最後は「えいやっ」と勢いよく自分で自分の背中を押すのが大事だ。人生何事も最後の決断は勢いである。決心するのに4か月かかったと言ったが、実はその間に家を買った。自分の希望条件に完璧に合う物件を見つけてもなお決心がつかなかったが、最後は「えいやっ」で決めたのであった。えいやで始まる35年ローン。
 

膨らむ妄想

やると決めたらあとは突き進むだけだ。まず、個展のコンセプトを決めた。

コンセプト
・今までの自分の活動を展示し、来場者に体験してもらう
・子供も大人も楽しめるワクワクする感じ
・にぎやかでハッピーな感じ (結婚式のようなイメージ)

実は結婚式の二次会をライブハウスで行ったことがあり、その時はライブをしたり謎解きをしたりラップバトルをしたりでとても楽しかった。個展もそういうハッピーな感じにしたいという思いがあった。 

結婚式の二次会で筆者作の謎解きをさせられる参加者たち (ドレスコードが自分が一番ダサいと思う服だったので全員服がダサい)

以上を踏まえ、導き出される個展の展示内容は次の通り

・自作ゲーム(ほりげー)を普段とは違う操作形態で遊んでもらう
自作曲のバンド演奏を行う
・自作曲のMVをプロジェクターで投影し曲を流す
・自分の年表を掲載する
・デイリーポータルZでの工作物を展示し遊んでもらう

妄想がどんどん膨らんでいく。盛りだくさんだ。すでに会場は決めてあるが、キャパ的に大丈夫なのか?と早くも不安になる。

個展4か月前。会社の有給休暇を取り会場の下見に行った。

部屋の形がいびつで壁が多い。壁面にたくさん展示できそうだ
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すべてのテーブルの寸法を計測しメモした。

テーブルの数が少ないのが気になったが、工夫すれば何とかなりそうだ。レイアウトも固まってきた。

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ひとまずのレイアウト。すべての壁を有効に使いたい。

壁面が多いのが助かる。いっぱい飾れる。演奏もアコースティックならOKと言われた。いいぞ。あとは展示品を準備するだけだ。

しかし、その展示品を準備するのがめちゃくちゃ大変なのである。平日は働いているので終業後か土日にちまちまと作業を進めることになる。サラリーマンの弱みだ。

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準備が鬼のようにあった

ここからは実際の展示品をお見せしながら、いかにその準備が面倒だったのかについて語らせてほしい。

これまでの人生を年表で振り返る

まず1つ目の展示品だが、今回の個展は自分のベストアルバム的な位置付けなので当然のように年表が出てくる。歴史上の偉人か。

ほり年表。
「生まれる」の次が大学入学。空白の19年間。

大学に入ってプログラミングというものに出会い、それからはiPhoneアプリを作りまくっていた。自分のアイディアをアプリという形で世の中にリリースできるのがとにかく面白かった。

やがてiPhoneアプリでゲームばかり作るようになり、そのゲームのBGMも自作するようになっていった。
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大学院を卒業し会社に入ってからは狂ったように記事ばかり書くようになった。

こうしてみるとアプリを作ったり曲を作ったり記事を書いたりと、常に何かをつくるのが好きなのかもしれない。年表を書くことで浮かび上がる自分。

で、その準備が大変だったというのは、この年表は横長で手軽に印刷できるものではなく手書きである点だ。書くのに丸一日かかった。貴重な一日を人生の振り返りに捧げたのであった。

物理Web拍手マシーンを作り直した

準備が大変だった展示の2つ目は物理Web拍手マシーンである。筆者がデイリーポータルZで正式に記事を書くようになって最初の記事で作った装置だ。

筆者の個人サイトにてWeb拍手を送るとそのメッセージが物理マシーン上で流れる。けたたましい拍手音とともに。

↑実際の拍手音はかなりうるさい。

で、これの何が大変だったかというと、過去にデイリーポータルZで作った作品は基本的に全部捨ててしまっているので、一から作り直したという点だ。これも作成に丸一日かかった。貴重な一日を、捨てた作品の復旧に捧げたのであった。

当日に配線が抜けても大丈夫なよう、配線をぜんぶメモしておいた。きれいな配線図を書く暇などなかった。

普段工作をしている人に伝えておきたい。作品は捨てずに残しておいたほうがよいです。 捨ててるの筆者だけかもしれませんが。

写真はキャプションを工夫するといい感じに

個展と言えば写真だろう。筆者はいろんなものを「○○あつめ」という形で写真に収めている。いよいよそれを展示するときが来た。

#ターャジスあつめ#連絡通路あつめ#野良ワイファイつめ#錯覚の床あつめ#酒屋看板あつめ…。どれもデイリーポータルZで記事になっている。
#マツコも絶賛あつめ のほか、まだ記事にしていない集めものもある。

写真のひとつは偶然にも個展会場のすぐ近くで撮影したものだ。

「#ターャジスあつめ」を開始してすぐに代官山で撮影した写真。(念のため説明しておくとターャジスとはスジャータのトラックの右側が逆さ表記になっているものです。)

そして個展前日、設営のため代官山駅から個展会場に向かっていると、そこにはあのトラックが。

これは運命か?幸先が良すぎるのではないか?

しかしよく見るとそれはターャジスではなくスジャータ。トラックの右側にもスジャータ。これは最近急激に増加している両面スジャータである。無念…。

ちなみに写真にはキャプションをつけているのだが、結構それっぽい感じになったので満足している。

キャプションが美術館っぽい。

実はキャプションには1枚100円する高級な紙を使っており、それをスチレンボードの上に貼って厚みを持たせている。これがけっこう好評だった。キャプションをちゃんとするだけで美術館っぽくなる

10枚で1000円もする。プリンタで印刷するときの緊張感が半端なかった。

写真の選定、キャプションの作成、印刷、額装などで丸2日かかっている。貴重な二日をよくわからん写真の準備に捧げたのであった。

自作ゲーム「ほりげー」はお金がかかっている

個展では自作ゲームの展示もした。ゲームは普段から個人サイトで遊べるのだが、個展ではいつもとは違う体験ができるようにした。

縦長のモニターでゲームを遊べるようにした。また、キーボードではなく、フットスイッチやスーファミ風のコントローラで操作するようにした。

モニター3台とノートPC3台をレンタル機材屋さんでレンタルしている。これに関してはお金がかかって大変だった。少しでも安くて済むよう業者選定や機器選定をした。

また、気を付けるべきはレンタル機材の返却である。宅配便で返却しようとすると精密機器なので高い。また、個展翌日に集荷を数時間待つことになる。そこで、個展会場から予約した大型タクシーに乗り、自分で機材をレンタル機材屋さんへ持っていくことにした。結果的に安く抑えられたし時間も短縮できた。

グッズをたくさん作った

赤字前提のイベントではあるが少しでもそれを補填するため、グッズをたくさん作った。

文字化けアクセサリー微妙な気持ちになるシール

いずれも過去にデイリーポータルZで記事にしたものだが、今回の個展に合わせて増産した。特に文字化けアクセサリーは明らかに作りすぎた。しかし万が一全部売れたとしても赤字である。 

リハーサルをしよう

グッズや展示品が会場の机に乗るのか不安だったので、自宅でリハーサルした。

こういうシミュレーションは大事だ。個展当日に機材が足りなかったりサイズが合わなかったりしても誰も助けてくれないので、個展の成功はすべて自分の綿密な事前準備にかかっている。リハーサルのおかげで個展当日は大きなトラブルもなくうまくいった。リハーサルは絶対にやるべきだ。

しかし今回は個展会場の近くに100均があったので安心感があった。いざとなれば100均で調達すればよいという状況はメンタルによい。もし今後個展を開く人には、個展会場の選定基準の1つに「100均が近い」を入れることをおすすめしたい

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いまさらの不安。人は来るのか

こんな感じで準備は頑張ったが、ここにひとつ大きな問題がある。人が来るのかという問題である。ただのサラリーマンが開く個展である。結婚式とは違うので、友人を誘っても「個展?なんだそれ」で終わってしまうのではないか。一体だれがこの個展を見に来るのだろうか。急に不安になってきた。

押し寄せる不安 (初出:工作に失敗した)

巨人の星の一人クリスマスの映像をテレビで見たことがある。あれになったらどうしよう。ここは告知をして少しでも多くの人にリーチするしかないと考え、パンフレットを作った。

左が筆者作のパンフレット。右が妻作のパンフレット。

筆者作のパンフレット(左)では、実際に写真を切り貼りしてコラージュを作った。一方、妻作のパンフレット(右)では、これまでの活動がスタイリッシュに配置されている。デザインセンスの違いを見せつけられた。

この2種類のパンフレットの画像を使ってTwitter、Facebook、Instagram、LINEで告知した。これで「知ってたら行ったのに…」という状況は無くなり、あとは純粋に存在を知ったうえでの来る/来ないの判断になる。しかしこうなるとかえって誰も来なかったときのショックがでかいことに後から気が付いた。
 

たくさんお越しいただきました

いよいよ個展当日。

このおしゃれなカフェの上が個展会場。
入口の看板。
わ~!

結局たくさんの方々に来てもらえました。よかった~。

ドア全開 & サーキュレーター & 扇風機で猛換気しております。
これはふるさと納税ダーツ。ふるさと納税制度では魅力のない自治体の税収が減り格差が増大するため、ダーツによって無作為に寄付先を選ぶことで魅力のない自治体への寄付確率を相対的に上げることを提案。​​​​
来場者の今年のふるさと納税先が次々と決まっていくのであった。
自作曲の演奏もした。筆者は右で、左と真ん中はtoliniumというバンドで活動する友人。

せっかくなので演奏曲の中からお気に入りの1曲を貼っておきます。

 

過去に大仏建立RTAゲームを作ったときのBGM曲である。

ゲームと言えば、個展会場に展示のゲームも白熱していた。

子供も大人も夢中になっていた。意図通りになってうれしい。
ゲームの最高記録はホワイトボードに書かれる。期間中何度も書き換えられるほど白熱していた。
マスクの下を勝手に補完するシステムの展示。多くの人に体験してもらえた。
会場には自作曲が常に流れており、奥の壁面にはそのMVの映像も映し出されている。曲と曲の合間にはQRコードシューティングも流れる。

型抜きやスピログラフの体験コーナーもある。型抜き自体は昔からあるものだが、私はその全種類クリアの解説記事を書いたことがある。スピログラフは3Dプリンタで自作したものだ。

型抜きは緊張感を持たせるために1回100円である。のべ30人が挑戦し、成功者は2人。
壁には型抜きの攻略方法が掲載されている。また、安藤さんの残像に応援してもらうこともできる。
たくさんの人が自分のコンテンツで真剣に遊んでくれてうれしすぎる。
妻が個展前日に急遽作ってくれたフォトスポット用のフレーム。これもウケが良かった。

結局2日間で50人以上にお越しいただいた。普段から仲のいい友人や、何年かぶりに合う友人や、いままでTwitterでしかつながっていなかった人や、ふだん筆者の記事を読んでくれている人など、とにかくいろんな人に会うことができてとてもうれしかった。ありがたい。ふだん記事を書くときは孤独なんですよ。でもリアルの世界にはそれを読んでくださっている方がいて、個展に来てもらえて、温かい言葉をいただけた。最高の思い出になりました。

収支報告

おかげさまでグッズは想像以上に売れましたがそれでもトータル10万円ぐらいの赤字です。会場代と機材レンタル代が大きい。ありがとうございました。


たぶんこれ走馬灯に出るやつだ

今回の個展は一介のサラリーマンが趣味で行ってきた活動のベストアルバム的位置づけである。多くの人に見てもらえ、また楽しんでもらえて本当に良かった。たぶんこれ走馬灯に出ますね。

しかしこれでいったん一区切りというわけでもなく、今後も引き続き自分のペースでぼちぼちと変な曲やゲームを作ったり記事を書いたりしたいと思っていて、また活動がたまったら2枚目、3枚目のベストアルバムが出るかもしれません。そのときはまたよろしくお願いします。

個展会場に搬入するときの夢の詰まったスーツケース。
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