Web拍手という文化
相手の顔が見えずドライな関係になりがちなインターネットの世界において、Web拍手は人間の温もりを感じられる画期的なサービスだと思う。
ご存じない方のために簡単に説明すると、読者がWebページ上でボタンを押すと、その拍手が筆者(サイト運営者)に届くというサービスだ。
しかし、本当に人間の温もりを感じられるのだろうか。Web拍手ボタンを押したところでその内容は統計データとしてサイト主に提示されるに過ぎない。それを拍手と言っていいのだろうか。
物理Web拍手
というわけで、作った。物理Web拍手マシーンだ。インターネット上のWeb拍手ボタンと連動しており、インターネット上でWeb拍手ボタンが押されると物理的な拍手が発生する。
正直、動画の内容が今回の記事のすべてなのだが、せっかくなので画像でも紹介する。
応援コメントを入力して、押すと…
古き良きありがとうページに飛ぶ。
そして、拍手が起きつつ、
送られた応援コメントがLEDで流れる。うれしい!!!
他人に拍手されたい
このようなシステムを作り、自分の作ったゲームを公開しているWebサイトに設置したのだが、誰からも拍手されなくてつらい。このまま自作自演で終わるのはあまりにも寂しすぎるのでTwitterで呼びかけた。
呼びかけた後しばらく待っていると
来た!!!自分以外の誰かからの拍手が!!うれしい!!!!!ウニ!!!
その後も続々と拍手をもらった。うれしい。
人と人のつながりは0や1じゃない。拍手には音があり、振動がある。温もりを伝えるのは物理だ!物理Web拍手最高!!
というわけで、この記事の読者の皆様からもWeb拍手をお待ちしております。
物理Web拍手を設置した筆者のサイトはこちら。
※ リンク先のページですが、レンタルサーバーの格安プランで契約しているので、いちどに大勢の人がアクセスされると多分落ちます。そのときはごめんなさい。
※ リンク先ページからWeb拍手していただくと、ほりの自宅の物理Web拍手マシーンが本当に起動します。
〜物理Web拍手マシーンができるまで〜
ここからは物理Web拍手マシーン作成編である。僕自身、電子工作は全くの初心者であったが、恐ろしく簡単にできてしまったので、その辺りの話を共有したい。
まずは設計
まずは設計図を作った。設計図というか、絵だ。
実は最初、この設計図だけの状態で今回の企画内容を編集部の石川さんに説明したのである。絶対伝わらないだろうと思ったが、石川さんにはちゃんと伝わった。コミュニケーションは受け取り側の努力が大切だ。
そういえばここまで触れてこなかったが、拍手の根幹を担う謎の存在は、「パチパチクラッピー」と呼ばれるおもちゃだ。
偶然にもこの間、ウェブマスターの林さんがこのおもちゃの作者にインタビューをしていた。
電子部品を買う
設計が終わったので次は部品の調達だ。電子工作はからっきしわからないが、インターネットで調べると、秋月電子に行けばだいたいの部品が手に入るらしい。どのサイトを見ても秋月電子という言葉が出てくる。何なんだ秋月電子。すごいにちがいない。
と言うわけで来た。秋月電子は秋葉原にある。電子部品を買いに秋葉原に来たのは初めてだ。何だかギークって感じがする。
秋月電子の敷地は思ったより狭かった。ただ、店内にはところ狭しと電子部品が陳列していた。秋月電子の店内は、「ガチ勢」という感じの人がたくさんいた。
僕の考えすぎかもしれないが、空気感が違う。多くの人がスマホの画面と商品棚との間で視線を行ったり来たりさせていた。おそらく、目当ての商品を事前にスマホで調べて来ており、それを目の前の棚から探しているのだと思う。
すごい。これが電子工作の世界だ…。その場にはりつめる真剣な空気感に圧倒されながら、僕は「ラズパイ・サーボモーター・LEDマトリクス」とだけ書かれたメモを握りしめ、店内をうろつく。要求仕様が雑だ。
当たり前だが、サーボモーターにもいくつかある。というか、鬼のようにある。僕のメモの情報は「サーボモーター」だけだ。とりあえず、「安くて強そうなやつ」という基準でひとつを選び出した。
次はこれをどう動かすかだ。今回はRasberry Pi (ラズパイ)とよばれる格安の小さいコンピュータとサーボモーターをケーブルで繋いで動かす予定だ。ただしこの時点では、ラズパイでサーボモーターをどうやったら動かせるのかは知らない。さすがにやばいのでバカを承知で勇気を出して店員さんに訪ねた。
「サーボモーターをラズパイで動かすにはどうすればいいですか?」。そしたら店員さんはおもむろに雑誌を探し出し、「このページに載ってますよ」とだけ教えてくれた。
多くを語らない店員さん。かっこいい。あと雑誌には「サーボモーターはラズパイと3つのジャンパー線で繋げれば簡単に動く」的なことが書いてありました。おそろしく簡単なことを聞いてしまいごめんなさい店員さん。
次はLEDマトリクスを買った。文字が流れて表示されるやつだ。自分が選んだ商品ははんだ付けがすでに完了しているものだった。これも4つの線を繋げるだけで動くらしい。
そう、この時知ったのだが、電子工作は課金をすることで楽をすることができる!
これは朗報である。電子工作の全くの素人がいきなりはんだ付けをするのは正直つらい。まずは課金だ。これが大人の電子工作だ。はんだ付けは、もうちょっと後だ。
課金に味をしめた僕はこのあとLEDバーや外部電源モジュールにも課金をし、はんだ付け不要のものを購入する。全部、ジャンパー線で繋げるだけで動く。恐ろしく簡単だ。(その代わり値段が高い)
いよいよ、電子工作
部品が揃った。いよいよ電子工作だ。ラズパイにジャンパー線でサーボモーターやLEDマトリクスなどをつなぐ。そして、それらを動かすためのプログラムをインターネットからダウンロードする。試しにそれを実行すると、
あああ動いた!!!!!インターネットからダウンロードしただけで動いた。ここでも言いたい。電子工作は恐ろしく簡単だ。正確に言えば、電子工作の敷居は想像以上に低い。
そのあと、プログラムを少し改変しただけで、僕のやりたかったことの8割近くができた。「サーボモーターを90度動かす」「LEDをビカビカ光らせる」「LEDマトリクスに文字を流す」「スピーカーから音を出す」。これらはインターネット上に公開されているプログラムで、簡単に実現できた。
ただし、「LEDマトリクスで流す文字を日本語に対応させる」「Web拍手ボタンを押したときのメッセージをラズパイから読み込む」の部分は自分でごにょごにょとプログラミングをした。(電子工作は全く初めてだが、プログラムはちょっとだけわかる。)
クラッピーを固定する
あとは、固定だ。サーボモーターとクラッピーをどうにかして固定する必要がある。固定をしないと、こうなる。
ここからはもはや電子工作ではなく、ただの工作だ。そして、それが一番難しかったりする。美術の成績は2だ。
サーボモーターとクラッピーをいかにして固定するか。僕にはそれがあまりにも難しく思えたので、「中のバネを短くする作戦」を実行した。クラッピーに仕込まれているバネの力を弱めることで、ボタンを押すのに必要な力が減り、固定がしやすくなるという見立てだ。
というわけで、クラッピーの中のバネをちょん切った。
その結果、クラッピーの手が閉じたまま、戻らなくなった。ああ、やってしまった。クラッピーはいちど手を叩いて終わり。もう戻らない。後悔しても遅い。バネを切ってしまったから。物理の世界では、Ctrl + Zが効かない。
というわけで、同じ商品を再び購入した。
行き詰まったので、工作慣れしている編集部の石川さんにサーボモーターとクラッピーの固定方法について尋ねたところ、「板にくっつけるといいですよ」とのこと。板ってなんだ…。
板、ホームセンターに売っていました。しかも切れ端なので50円。安い。あとは板をL字に組み立てたあと、アロンアルファでサーボモーターとクラッピーを無理やり固定する。若干強引だが、強い。アロンアルファ。
あとは両方のクラッピーを固定して、完成!
こうしてできたのが、冒頭にご覧いただいた動画である。
両方のクラッピーを固定したあと思ったのだが、左のサーボモーターと右のサーボモーターは左右対称になるように配置するべきだった。そしたら交互にパチパチ鳴るのに。一方僕の作ったマシーンはサーボモーターが同じ向きに設置されているので同時にパチパチしてしまう。ああ戻りたい。物理の世界ではCtrl+Zが効かない。アロンアルファは強力だ。
おまけ
せっかくなので家にあるGoogle Home(スマートスピーカー)と連携させた。いつでも慰めてくれる悲しき拍手マシーンの完成だ。
電子工作の敷居は低いが、奥はめちゃくちゃ深い
初めての電子工作だった。何度も言うが、課金すればはんだ付け不要の部品が買える場合があるし、インターネット上に公開されているプログラムをダウンロードすれば簡単に動く。電子工作の敷居は想像以上に低い。
だが、入ったら最後、電子工作の世界は奥がめちゃくちゃ深い。次ははんだ付けをできるようになりたいし、電子回路についてももっと詳しくなりたい。今回よくわからないままやり過ごしたPWM制御(というのがあるのだ)もちゃんと勉強したい。ああ押し寄せる知識欲。これはきっとすごく深い沼だ。