ケンタッキーのオリジナルチキンは、一羽の若鶏から9個の肉(キール1個、その他は左右2個ずつ)をとるらしい。
安い唐揚げが大人のむね肉ばかりなのを考えると、フライドチキンはすこし高くても当然かもしれない。
またお腹を空かせて来たい。
ケンタッキーのオリジナルチキンを一度も食べたことがなかった。
マックも、牛丼屋も、ファミレスも、宅配ピザも数えきれないほど食べてきたのに、なぜかケンタッキーだけ食べてこなかった。
特別理由があったわけではない。
子供の頃は骨つき肉に何となく抵抗があったこと、ファストフードにしては少し高そうなイメージがあったこと、クリスマスはケーキだけだったこと…ほんの些細なことが積み重なり、いつの間にか大人になってしまった。
このまま、ちょっと珍しい人で居続けてもいいけれど、ふつうのもので新鮮な体験ができるとしたら貴重な機会だ。30代にして、オリジナルチキンを初めて食べて驚いてみたい。
ケンタッキーが日本上陸したのは1970年の大阪万博。本場の味が食べられるということで大盛況だったそうだ。
そこから50年。本場の味はもう日本文化に馴染んだが、約30年前に生まれた自分の口にはまだ馴染んでいないはずだ。
鳥居みたいな存在のカーネルサンダースに目礼をして、さっそくレジへ。
単品でオリジナルチキン5ピース(1230円)とコーヒーを頼む。
唐揚げサイズを想像していたので、予想以上のボリュームとゴツゴツした見た目に驚く。
通常のセットが2ピースなのは知っていたけど…こんなに大きいとは!(後で説明するが迷わず5ピース頼んだのには訳がある。)
そして、この塊肉に対し、食器として紙ナプキンが数枚渡されるのみ。スマホをいじりたくてマックのポテトですら家では箸で食べる人間なので、この潔さは新鮮だ。
夜遅く、誰もいない2階席に1人座る。思う存分かぶりつける環境だ。
それで5ピース頼んだのだ。今日を前にして、就活みたいに公式サイトを熟読してきた。
ドラムやキールは鶏肉として馴染みあるが、それ以外は初めて見る形だ。部位が違えば味も違うらしい。順番に味わってみよう。
しっとりとして重量感あるドラムを手に持つ。
期待の一口目だ。
かぶりつくとじゅわっと美味しくて…拍子抜けするほど馴染みの味でびっくりした。
まさにスタンダードそのもので、これまで食べてきたフライドチキン的なものの親玉みたいな感じだ。本場の味は、日本にちゃんと根付いていたのだ。
和食でいえば寿司みたいにシンプルな味付けの料理なので、馴染みがあって当然かもしれないが、マックのハンバーガーならこうはいかないだろう。
もちろん、知っているフライドチキンよりジューシーで臭みはなく、よく発達した筋肉の旨味を感じる。想像通りの味だけど、想像以上においしい。
かぶりつくと予想していなかった場所から骨が出てくる。埋まっている骨を掘りおこすみたいで楽しい。
骨付きのイメージが、めんどくささから楽しさに変わっていく。
肉が骨になる瞬間が面白い。だんだん骨格が見えてくるのだ。
フライドチキンだけを食べ続けていると、舌が肉をおかずとご飯に分類しはじめることに気付く。白くて淡泊なキールは明らかにお米であり、サイやドラムはおかずだった。肉と骨の間のスジのような茶色い部分には、ビタミン豊富な根菜的な雰囲気もある。
人類は根っからの雑食なのだろう。ふと、最近読んだネアンデルタール人の本が頭に浮かんだ。ポップな洋楽が流れる清潔な店内で、味覚は狩猟採集時代に戻っていく気がする。
仕切りの向こうでは店員さんが2階にあがってきて、ゴミを片づける音が聞こえる。閉店は近い。もうお腹いっぱいだが早く食べなきゃ。
現代日本人は箸でポテトをつかめても、歯で肉をこそぎ落とすのは下手だ。ネアンデルタール人からみたら、マナーのなっていない下品な奴だと思われるかもしれない。次回はもう少し上品にかぶりつけるようになりたい。
ケンタッキーのオリジナルチキンは、一羽の若鶏から9個の肉(キール1個、その他は左右2個ずつ)をとるらしい。
安い唐揚げが大人のむね肉ばかりなのを考えると、フライドチキンはすこし高くても当然かもしれない。
またお腹を空かせて来たい。
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