ふつう特集 2021年3月30日

大手コーヒーチェーンの主人公は、やっぱり「ふつうのコーヒー」だった

甘いドリンクが飲みきれなくなってから、コーヒーチェーンとは縁遠い生活を送っていた。

学生時代はちょっとしたイベントのようにシーズナル(季節限定)のドリンクを楽しんでいたが、いい大人になった今、カフェの利用をハレの日の行事でなく日常にしたい。

大手コーヒーチェーンを巡り、「ふつうのコーヒー」を堪能している最中、空腹に負けて買ったレジ前のお菓子に大きな発見があった。
 

日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートの花屋。花を売った金で酒を買っている。

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 さようなら2020年度! 春休みとくべつ企画「ふつう特集」 

時代や進み、いまやなにをとってもバリエーションのゆたかな世の中になりました。しかしそのベースとなるものを軽んじて良いのでしょうか。否! デイリーポータルZは春休みを記念し、「ふつう」を再発見します。
さあ、この店でいちばんふつうのものをくれたまえ!
 

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カフェのシーズナルドリンク、最高〜!と思う。

三口目までは。

いつからだろう、甘いドリンクが飲みきれなくなったのは。半分を超えたあたりで身体が常温の水を欲しはじめ、脳裏に「胃もたれ」の文字が浮かぶ。大学生の頃はちょっと物足りないなあくらいに思っていたのに。

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おいしい、おいしいけれど、満腹より先に満足がきてしまう

このまま刻一刻と”大人”になる身体でもって、コーヒーチェーンと縁がないまま生きていくのだろうか。否!カフェとは本来、コーヒーそのものの良さを嗜むところであるはずだ!

いまこそ、「ふつうのコーヒー」を楽しむときだ。

スターバックスの「ドリップコーヒー」

よく考えたら、カフェに行けば「人に淹れてもらったコーヒー」をいくらでも飲めるわけである。身近にそんなにありがたいシステムがあるのに、何故今まで利用しなかったのだろう。人に淹れてもらったコーヒーは疲れた身体に早く効く。

うきうきした気持ちで、まずはスターバックスに行ってみた。今までフラペチーノ屋さんだと思っていたことを非常に申し訳なく思う。
店の前に着き、記事用に看板の写真を撮るか…と見渡した瞬間、テラス席の光景に目を奪われた。
真っ白な髪を綺麗に束ねた外国人のおじいさんが、コーヒーを片手に英字新聞を読んでいるのだ。
突然の視界のオシャレさに立ちすくむ。オフィス街にいたはずなのに、ここだけニューヨークになってしまったの?

緊張しながらもレジに進み、万が一にもスペシャルっぽいコーヒーを頼まないようにと、恥をしのんでこう言った。
「店内で飲みます、ふつうのコーヒーください。」

「ドリップコーヒーですね、サイズはいかがいたしますか。」
「ふつうのコーヒー」でオーダーが通ったことにほっとしつつ、田舎者が来たなあと思われてはいないだろうかと余計な自意識にさいなまれる。
コーヒーはすぐに出てきた。あのスリーブがついたペーパーカップで。

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辺りを見渡したら、店内で過ごしている人たちはみなこのペーパーカップで飲み物を飲んでいた。
店内ではマグカップで提供される印象があるが、世柄なのか、忙しい人が多い土地柄なのかは分からない。
スターバックスのブレンドコーヒーについて調べたところ、コーヒー豆は日によって変わり、筆者が購入した日はケニアの日であった。

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蓋を開けた瞬間、ふんわりとベリーや柑橘のような香りがした。焼きたてのロールパンのような香ばしさもあるが、全体の印象がほんのり甘酸っぱい。昔お土産でいただいた、ばらの花のジャムのことを思い出す。

口に入れた瞬間に苦味がきて、後味はさっぱりめ。かなりフルーティで爽やかだ。

このコーヒーはたしかに、ペーパーカップで提供されるのが正解なのかもしれない。外は晴れていて桜も咲いているし、散歩でもしながら気軽に飲むのに向いている。
まじまじとコーヒーの香りをかぎ、ゆっくりと味わったら、なんだかとてもハッピーな気分になった。
半分くらいは、窓の外に見えるオシャレなおじいさん効果かもしれないが。

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★の数は筆者の主観と気分に基づくため、ふんわりと参考にしていただけると幸いである。

タリーズコーヒーの「本日のコーヒー」

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春の陽気を楽しみながらタリーズへ。
店内はスターバックスよりも落ち着いていて、軽快なジャズが流れている。

さっきオーダーが通ったことに味をしめ、「ふつうのコーヒーください」と言ったら「本日のコーヒーですね」と確認された。タリーズでの「ふつうのコーヒー」は本日のコーヒーなのか。各社「ふつう」の解釈が異なっていて面白い。
こちらも豆が日替わりなようで、この日はブラジルだった。

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店内で過ごすことを伝えたら、マグカップでコーヒーが出てきた。なんとなくリッチな気持ちになる。
そしてトレーの右半分に堂々と敷かれたクッキー。「ソフトクッキー チョコレートチャンク」といい、この大きさにも関わらず税込187円で買える。お会計の際、レジの前にきちんと詰まれていたこれと目が合い、空腹に負けて買ってしまった。

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Taste the Difference!

紙カップとマグカップでの味の違いが筆者にわかるかと言われると、そんなことはない。

手に持った瞬間から、スターバックスのケニアとはまったく印象がちがう。まろやかで、炒ったピーナッツのような香ばしい香りがする。ほのかにリンゴのようなフルーツ感も。
飲んでみたところ、喉にじんわり残る苦味が面白かった。カカオ70%のチョコレートを食べたときの感覚によく似ている。

ほうほうこれも気軽に飲めていいですね、などと思ったところで、クッキーを一口食べて驚いた。
ソフトクッキーとコーヒー、めちゃくちゃ合う!

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やわらかいクッキーのとろける甘さに、それを洗い流すコーヒーの後を引く苦味。そこでまた甘いものがほしい口になり、以下無限ループである。なんだこれは。こんなにおいしいのか。
コーヒーとクッキー、交互に伸ばす手が止まらない。甘いドリンクを飲むよりもはるかに満足感がある。
偶然ブラジルの豆がこのクッキーと異常に相性がいいのかもしれないが、「本日のコーヒー」と「ソフトクッキー チョコレートチャンク」、それぞれ最安値のドリンクとスイーツで合計522円である。シーズナルドリンク一杯より安い。

もしかしたら、これこそがコーヒーチェーンの提案するカフェ時間の最適解なのだろうか。今まで筆者が気がつかなかっただけで……。

後日、タリーズに勤める知人に訊いてみたところ、毎週金曜日と土曜日は「ハッピービーンズデー」といって、本日のコーヒーがいまイチオシの豆になっているらしい。筆者が来店した日も偶然にも金曜日で、ブラジルはハッピービーンズデーのイベント豆だったようだ。「ふつうのコーヒー」を楽しみにタリーズに行く際は、金曜日か土曜日を狙ってみると楽しいかもしれない。

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ドトールコーヒーの「ブレンドコーヒー」

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なぜだろう、他のコーヒーチェーンに比べて、ドトールはスーツを着たビジネスマンが多い気がする。ビジネスマンを集めるフェロモンでも出ているのだろうか。

「店内で飲みます、ふつうのコーヒーください。」そろそろこのオーダーにも慣れてきた。

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そして提供されたのがこちら。
レジ前に並んでいたお菓子の最安値はバームクーヘンとチョコチップクッキーだったが、「ただ筆者がチョコ好き」という理由のみでチョコチップクッキーを選んでしまった。結論から言うと美味しかったから許していただきたい。

コーヒーからは、マカデミアナッツのようなまろやかな香ばしさのすきまに、瑞々しくあっさりしたフルーツの香りが漂う。
飲んでみたとろ、今でのふつうのコーヒーの中で、最も酸味を感じる味だった。苦味が口に残らずゆっくり溶けていくため、酸味の主張があっても全く嫌な感じなく飲める。

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こちらがドトールのチョコチップクッキー。
柔らかくはあるが、タリーズのクッキーよりもあっさりしていて、酸味の強いコーヒーにも合う。ざっくり言うとこれ、「食べごたえのあるカントリーマアム」のようだ。
クッキーがあることで、今まで感じられなかったコーヒーのベリー感が姿を現し、フルーツ感が際立つ。やはりふつうのコーヒー×シンプルなお菓子の組み合わせは素晴らしい。

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カフェ・ベローチェの「ブレンドコーヒー」

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ベローチェはマダムたちで賑わっていた。コーヒーチェーンの中でも、ベローチェにはホテルの1階のカフェのような、不思議な重厚感を感じる。

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ベローチェの「ふつうのコーヒー」はこちら。
レジ前のお菓子の最安値はマドレーヌとレーズンサンド、そしてこのバウムクーヘンだった。

コーヒーの香りは甘やかだ。マイルドなチョコレートのよう。ほんのり甘酸っぱいベリーと、白ぶどうのようなフルーツティさも感じる。
口に入れた瞬間の苦味はやや強めだが後には残らず、代わりに酸味の余韻がある。

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ランドルト環、どっちがあいてるでしょうか?答えは筆者が食べた方でーす。

バウムクーヘンはふわふわで軽め。コーヒーとの相性もいい。
最初はお上品に交互に食べていたが、同時に口に入れてみたときのリッチさがすごかった。口の中で「ティラミスの下のびちゃっとしたところ」になる。これは組み合わさっての完成品ではなかろうか。

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サンマルクカフェのブレンドコーヒー

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サンマルクカフェのロゴをまじまじ見たらクロワッサンだった。そこまで推されているならと思い、代表選手のチョコクロと、レジ前最安値だった「ビスピー かぼちゃ」を購入。

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「甘いドリンクが飲めない」はなしから始まったはずなのに、気づけば両手にお菓子を持って喜んでいる。ふつうのコーヒーのポテンシャルがおそろしい。

コーヒーの泡立ちがすごい。出てきた瞬間、思わずラテ系の何かしらと間違えられたのではないかと思ったほどだ。
香りは今までのコーヒーチェーンの中でもっともビターで、例えるなら焼き芋のちょっと焦げた皮のところ。それと同時にミルクやバターのようなまったりとした香りもあり、お菓子との相性に期待がもてる。味はかなり濃い目で、口の中に酸味が広がり、苦味の余韻も長く続く。

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かぼちゃの種が入ったクッキー、そぼくな味がして美味しい。甘さ控えめな大人味で、ほんのりと感じる塩気が食べるのに飽きさせない。常に家に12枚くらいストックしておきたいお菓子だ。味が強めのコーヒーの合間に挟むのにちょうどいい。

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そして肝心のチョコクロ。一口食べた瞬間、思わず「!?」の顔になってしまった。表面がサクサクで中はもっちりとしたクロワッサン生地から、トロトロのチョコレートが溢れ出す。こんなに美味しいものをどうして今まで誰も教えてくれなかったんですか。

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筆者の食べかけで申し訳ないが、どうにかこのチョコレートのトロッと感だけでも伝えたい。

サンマルクカフェのふつうのコーヒーがこんなに味が強いことに納得がいった。すべてはこのチョコクロのためにある。口に広がるなめらかなチョコレート、そこにコーヒーを流し込むことで爽やかな酸味が全てのバランスをとり、後にはただ幸福感が残るばかりだ。生地にほんのり塩味と、小麦粉由来の苦味が感じられるところも素晴らしい。絶妙な「手作り感」を演出してくれている。
ブランドロゴにクロワッサンを載せるだけのことはある。シンプルなお菓子と言い切るにはあまりにも手が込んでいる気がするが、これがサンマルクが提案するカフェタイムの最適解なのだろう。

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まとめ

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後日、またスターバックスに行って、ドリップコーヒーとクッキーを頼んでみた。スターバックスはお菓子まで小洒落た味がして、香り豊かなコーヒーと一緒にいただくとものすごくリッチな気持ちになる。

カフェのふつうのコーヒーと、シンプルでスタンダードなお菓子の組み合わせは、最低のコストで最大の満足感を得られる最適解のようだ。たまにお祭り気分で飲むシーズナルドリンクもいいが、毎日のちょっとしたご褒美にはレジ前のお菓子を手に、こう注文してみてほしい。「ふつうのコーヒーください!」

 さようなら2020年度! 春休みとくべつ企画「ふつう特集」 

時代や進み、いまやなにをとってもバリエーションのゆたかな世の中になりました。しかしそのベースとなるものを軽んじて良いのでしょうか。否! デイリーポータルZは春休みを記念し、「ふつう」を再発見します。
さあ、この店でいちばんふつうのものをくれたまえ!
 
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