思いつきという美学
デイリーポータルZの記事はだいたい思いつきである。「『行けたら行くわ』で本当に行く」というのはかつてライターの西村さんが何かの記事に書いていた名言だが、「『やったらおもしろいね』で本当にやる」のが我々だ。このページではまずどまんなか、「思いついたから作ってみた」系の工作記事をご紹介したい。
「ベアリングマ」を作った

ざっくりまとめると
- 木彫りのクマの首にベアリングを仕込み、高速回転するようにした。
- 木彫りのクマの切断は難しいので、クマはスタイロフォームで自作。
- はからずもお正月っぽいグッズに。
回転するベアリングマ
「半身浴をしているときにヒグマのことを考えていて」思いついたネタ。前提のシチュエーションがまずおかしいが、景気のいい回転で今年一番の快作に。作品と対談する記事フォーマットもライター内で衝撃が走った。
キリンケンタウロスになりたい

ざっくりまとめると
- ギリシャ神話に出てくる半人半馬のケンタウロス、あれのキリン版を思いついた。
- キリンのサイズを出すべく竹馬を購入、後ろ脚も作り、キリン柄に塗って完成。
- 公園で披露したところ子どもたちに大人気だったが、大人からは「半裸ならもっとケンタウロスだった」というアドバイス
冒頭『次の記事は何にしようか、とぼんやり考えていたある日、突然「キリンケンタウロス」というフレーズが思い浮かんだ。』
突然のひらめきを「天から降ってくる」と表現することがあるが、こんな無理難題が降ってくることもあるのだ。
「猛反発まくら」を作る

ざっくりまとめると
- 低反発まくら、高反発まくらに続く第3の選択肢「猛反発まくら」を提案したい
- 下敷きを両側から力を入れてベコっと曲げるのと同じ原理で、プラスチック版をモーターで曲げる。
- マネキンの頭が派手に吹っ飛ぶ、文字通り猛反発する枕ができた
「夜も寝苦しくて、朝気が付いたら布団を蹴飛ばしていて残っているのはまくらだけ、という日が続いている。そういえば、まくらには低反発まくらと高反発まくらというのがある。」
「そういえば」、で強引にネタの話をし始めるのは当サイトの常套手段。
傾けると人の声がする“ざる”

ざっくりまとめると
- ざるに小豆を入れて波の音を出す小道具がある。波の音じゃなくて通販番組の「ええ~(安い)」みたいな声が出たらどうか。
- 女性ライター陣に音声の収録を頼み、ざるはヤフオク、装置はテクノ手芸部に依頼。ざるが完成。
- 音声は、男女の会話がざるを傾けるとどんどん不穏になっていくなどのバリエーションも
「理屈が飛んでいることは認める。」と開き直る手もある。周りが何と言おうとますは手を動かさないと手に入らないからだ。傾けると人の声がする“ざる”は。
お酒を永遠にこぼし続けられる装置を作ったらおめでたすぎた

ざっくりまとめると
- 酒を枡にあふれさせるのがめでたいので、循環させて永遠にあふれさせられる装置を作った
- 循環には灯油用の電動ポンプを使用、ハンズフリーで循環できる。
- 最大の弱点は循環させている間は飲み物を飲むことが出来ないこと。あくまで鑑賞用である。
日本酒がグラスから枡にあふれている、という一瞬の輝きから生まれたひらめき。あ、思いつきじゃなくて、ひらめきと言えばいいのか。ずいぶんよく聞こえる。
とにかく思いついたらすぐ作る。初期衝動もあるし締切もやってくるからだ。意欲と義務に駆られて、今年もたくさんの工作記事が生まれたのだ。
次ページも続くよ。全4ページ。
工作という人生
そうはいっても、刹那的な思いつきだけが工作記事ではない。中には人生を感じる工作もあるのだ。
親の家にピザ窯を作るというテロ行為

ざっくりまとめると
- ピザ窯を作ってみたいが、場所も人手も足りないので実家に作ろう
- ブロックや耐火レンガをホームセンターで買って積んで作る
- 遠赤外線効果でめちゃくちゃにおいしいピザができ、うますぎて髪が逆立った
最も安価な労働力、親。そんな序盤からスタートするのでどんな強制労働が待っているかとひやひやするが、読み進めると完全に親孝行だった。後半、親子3代並んだ写真のジャケ写感、ぜひ記事で見てほしい。
マンボNo.5のリズムに合わせてCDトレイを開けたり閉めたりする

ざっくりまとめると
- マンボNo.5に合わせて逆再生と順再生を行ったり来たりするお笑い番組の手法、あれをCDトレイでやるネタを10年温めてきた。
- ジャンクPCを購入してCDトレイを改造、自由に往復させられるようにした。
- ついに協力してくれるバンドが見つかり、CDトレイを持ってセッションしてきた
工作も、10年寝かす、ということがあるのだ。その間にスキルアップしたり人脈ができたりして、いままで作れなかったものが作れるようになる。その積み重ねの上にできたのが行ったり来たりするCDトレイなの、なんか「オチ」って感じである。人生のオチ。
うちとハトと階下との攻防

ざっくりまとめると
- 換気扇にハトが巣を作った。例年にならないようハトよけグッズを自作。
- 真面目に作っているのにできたものがゴミっぽいもの、トンチンカンなオブジェ、作るたびにだんだん頭が悪くなっている。
- 結局、管理会社が換気扇に鳥避けの蓋をつけておしまい。プロはすごい。
デイリーきっての工作ライター乙幡さんだが、日常生活ではこういう雑な工作を作っているのだ。
なにしろこれだ
作品ではない、営みとしての工作。それがこんなに雑なのがすげえ沁みました。ありがとう、乙幡さん…!(変なテンション)
ご祝儀袋が捨てにくいのでお城を作って感謝を伝える

ざっくりまとめると
- 結婚式でもらったご祝儀袋が捨てにくいのでペーパークラフトでお城を作った
- 市販のペーパークラフトと同じ形にご祝儀袋を切り抜き、組み立て
- ご祝儀をくれた本人たちに見せると概ね好評、しかし孫の夏休みの工作を見るような暖かすぎる眼差しであった。
いっぽうで人生の節目である結婚式、それがこんな形で工作に結実することもある。ある、というか普通はないのですが、今年はたまたまそういうことが起こってしまった。2018年、世界で最初にご祝儀袋がお城になった年です。
底辺ユーチューバーが海外で個展を開催したおはなし

ざっくりまとめると
- 「台湾で個展をやりましょう」と言われ二つ返事で了承したが、予算が全くないので、90坪のギャラリーを一人で設営することに
- クラウドファンディングで資金を調達、設営のプロも来てくれたが後には引けなくなった
- 結局、9日間で2万5000人の来場がある大好評の個展となった
そしてこのサクセスストーリーである。これだけいい話なのにモテない話をねじ込んでくる藤原さんにライターとしての心意気を感じた。と公開当時の記憶で思って、今あらためて読み返してみたらそんなエピソード入ってなかった。藤原さんごめん。
というわけで人生を感じる工作記事をご紹介した。これらはどれも各ライターにとってライフワークというわけではない(藤原さんのをのぞく)。逆にちょっとポコッと作ってみたものから人生がにじみ出てしまっているのが面白いなと思う。
あこがれを形に
いつかこうしてみたいとか、こうなりたいとか、あこがれを工作で実現するというのもデイリーの工作記事の定番である。今年のあこがれ系工作をいくつかご紹介しよう。
好きな食べ物を13時間食べ続けるマシン

ざっくりまとめると
- 好きな食べ物がずっと口の中にあったら最高ではないか。何をしているときもずっと味が続くのだから。
- チキンラーメンが好きなので、チキンラーメンを13時間かけて少しずつ口に流し込んくれるマシンを作った。
- 13時間味わい続けると、中盤までは気分の浮き沈みがあるものの最終的に無意識に。
「好きな食べ物が絶え間なく口の中にあったら」。気持ちはとてもわかるのにどこか狂気を感じるフレーズなのはなぜだろう、「絶え間なく」のところだろうか。素材が魚用の給餌機なのも何かを暗示しているようで良い。
人造人間になりたい

ざっくりまとめると
- 人造人間になりたいが、時間も手間もかかりすぎる
- 半分脳、半分機械の見える人造人間の頭を作り、帽子にした。
- かぶるだけで人造人間になれる。感情をなくした芝居をするとなお人造人間である
うかつになってしまうと人間に戻れなくなったりネジにされてしまったりする機械の体を、「かぶるだけ」というお手軽さで手に入れることに成功した。リアリティを工作の側でなく使用者の小芝居で挙げていくのがべつやく流である。
家に受付を作る

ざっくりまとめると
- フリーランス5年目の記念に家に会社風の受付を作った
- 会社っぽい受付のポイントは、会社ロゴ、カウンター、電話機、案内板、植物
- 寝室に設置したので実際に来客があると困る
完成度の高さもさることながら、受付が受付たるポイントを解明したのが快挙である。これでどこでも受付が設置できる。セットにして売りたい。
おれは板橋のバンクシー

ざっくりまとめると
・バンクシーがオークションで落札された作品をシュレッダーで裁断したとき、自宅にもシュレッダーがあった
・額装した紙を重力で落とし、自動で下に設置したシュレッダーに入るような仕組みを構築
・そのままではシュレッダーに入りにくいので、作品に誘導用のビラビラをつける。それが板橋のバンクシーだ。
上まで全部粉々になるのは板橋のバンクシーだけ(本物のバンクシーは下半分で止まった)
記事中にも出てくる地味ハロウィンの会場で伊藤さんとバンクシーの話をして、「記事にしよう」って言ってたの絶対その場のノリだけだと思ってたら後日きっちり原稿が送られてきた記事。
自分のグッズがでるガチャガチャが作りたい

ざっくりまとめると
- ガチャガチャには芸能人グッズもあり、人気者のステータスともいえる。自分もなりたい。
- 中身の自分缶バッジのほか、封入する説明書、ガチャマシンに貼るグッズ紹介なども制作。マシン自体はおもちゃのものを購入。
- 知人に引いてもらうと、おもしろがってはくれるがガチャガチャの中身はいらないようだった。
工作記事はたいてい自分で作って自分で試すパターンが多いのだけど、人にあげる(というか、もらわせようとする)珍しいパターン。「いらないようだった。」というまとめが心を打ちます。
あこがれ系は工作のクオリティで実現したりしなかったりするのが面白いところなのだが、中には人造人間のように工作のクオリティにかかわらず実現しようがないものもある。そういうのに果敢に挑んでいった勇者たちの戦いの軌跡であった。
完成度高い系
こういう分類にするとこれまでのが完成度低かったみたいで申し訳ないのだがそういう意図ではなくて(完全にこれを読んでいるライター向けの弁解)、なんていうか「できました!」って感じの記事を集めた(ニュアンス)。
JPEG圧縮しづらい風景を探せ!

ざっくりまとめると
- 目の前の風景の「JPEG圧縮しづらさ」を測定してくれるカメラを作った。
- 高周波成分が多い、つまり、より「ごちゃごちゃした風景」がJPEG圧縮しづらい
- 公園でもっとも圧縮しづらかった風景は、光が照りつける芝生。
たまにギーク好みのネタを繰り出してくる斎藤公輔さんの真骨頂。画像ファイルの気持ちになれるという、今まで考えたことのない方向性の感情移入だった。
錯視罫で書きにくいルーズリーフを作る

ざっくりまとめると
- ルーズリーフの罫線を錯視にしたら書きにくいルーズリーフができた
- 罫線が傾いて見えるルーズリーフ、計算に長短があるように見えるルーズリーフなど
- 結果的に、書きにくさはそれほどでもないけど読むときめちゃくちゃ読みにくいルーズリーフになった
文具ネタを手堅く繰り出してくるきだてさんのオリジナル嫌(いや)文具。角落として穴開けてという仕事の丁寧さでプロダクト感アップ。
実際書いてみるとこう。記事ではこのルーズリーフをプリントできるPDFつき。
ペットボトルすげぇ

ざっくりまとめると
- ペットボトルのキャップはガス抜き用にネジが寸断されていたり漏れ防止の突起があったりと考え抜かれている。
- 3Dプリンタで自作してみる。キャップをコピーすることはできたが、ボトルはどうやっても漏れてしまい難しい。
- ソースのビンのキャップや100均のプラボトルなど、全部漏れない。現代社会はすごい。
これは工作が完成度高いというより既製品の完成度が高い話。今年めきめき腕をあげて毎記事3Dプリンタが出てくるようになった松本さん、彼自身の完成度が高まってきてるともいえる。
光るLEDバッジを売ったら予想以上に反響があった

ざっくりまとめると
- デザフェスで売れる商品を作りたい。お客さんの自己表現を助けるLEDバッジを作ってはどうか。
- 試作品を作り、プリント基板を作り、射出成型でケースを作り、アプリも開発。組み立ても手で200個量産した。
- 会場ではブースに人だかりができるほどの人気商品になった。
最後に、量産して販売までしてしまったこの記事。結果的に外注したとはいえ、射出成型まで家で試みてるのは今年一番のマジ生産でした。
手を動かさずにはいられない
工作記事は言わずと知れた当サイトの定番テーマなのだが、こうやって並べてみると、工作といってもいろいろである。ものづくりがしたくてアイデアを練った人もいれば、ご祝儀袋の処分やハトの到来に困ってやむを得ず工作をする場合もある。しかしどちらにも共通しているのは、我々は手を動かさずにはいられないということだ。
そういうわけで来年も多くの工作記事が登場すると思うので、期待してほしい。
ところでここでは今年の代表的な工作記事をかいつまんだが、工作は当サイト定番テーマの一つなので探せばもっとある。
残りはバックナンバーのページから今日中に探して読んでみてほしい。なぜ今日中かというと、明日は次の総集編があるから!
明日は編集部 古賀による「食べる」編。お腹を空かせてお待ちください。