特集 2012年5月7日

炒飯でもチキンライスでもなく「ハムライス」巡礼

既視感がありそうでない料理
既視感がありそうでない料理
「○○ライス」と名の付く料理がある。最もメジャーなのはカレーライスだろうか。

他にもハヤシライスやチキンライスなど、いろいろなメニューがあるだろう。そんな中、立ち寄った店で見かけたのが「ハムライス」。

「ああ、ハムライスね」と流しそうなりながら、よく考えると今ひとつなじみがない。実体を探ってみた。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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一度流したあと「ん?」となる料理、ハムライス

ハムライスという料理に気がついたのは、先日このサイトで書いた「二度聞きしたくなるご飯ものを食べたい」という記事を読み返している最中だ。
食べに行ったのはこの「ピカタライス」
食べに行ったのはこの「ピカタライス」
あとから発見した下から2番目のメニュー
あとから発見した下から2番目のメニュー
ピカタライスなる創作料理を食べに行った店のメニューにあった「ハムライス」。来訪当日は何とも思わなかったが、後から発見して妙に気になったのだ。

知っていそうでありつつ、改めて考えてるとそういう名の料理は食べたことはない。探してみると、よくあるメニューではないようだが、出す店もたまにある、というくらいの存在のようだ。

どうせなら再び同じ店に行くのではなく、他に探してみよう。まずやったきたのは、千葉県の我孫子にある「コ・ビアン」という店だ。
しゃれた洋館という雰囲気の建物
しゃれた洋館という雰囲気の建物
内装も落ち着いたムード
内装も落ち着いたムード
調度品もなんだか厳か
調度品もなんだか厳か
鹿の頭の剥製まである
鹿の頭の剥製まである
建物の外観も、店内の様子も、ちょっと高級な洋食レストランといったムードだろうか。この店の特徴は、こうした雰囲気とギャップを感じるメニューにある。
40周年にしてもおかしくないか
40周年にしてもおかしくないか
ハムライスもしっかり発見
ハムライスもしっかり発見
開店40周年を記念して、チキンカツ定食290円を始めとした学食のような価格のメニューが並ぶ。鹿の剥製でびびらせておいて、この値段で安心させるという懐の広さがすごい。

ハムライスも400円とお手頃価格なのがうれしい。記念メニューに限らず、全体的に安いのだ。
人生初のハムライス
人生初のハムライス
やってきたハムライスは、全体がケチャップ色に染まったタイプのもの。その名に違わず、正方形のハムがそこかしこに散りばめられている。

食べてみると、ケチャップが前に出すぎていないのが意外。ちゃんと洋食屋さんのコクがある味なのだ。
プロの料理の味わい
プロの料理の味わい
290円でこの立派さ
290円でこの立派さ
全体の量こそそれほど多くはないが、味的な満足度はしっかりとある。ハムのサイズも絶妙で、食べたときに具材感をしっかりと感じられるのがうれしい。

気になりポイントだった290円のチキンカツ定食も合わせて注文してみた。やってきたのは小振りながらもカツが4個ついた、しっかり定食然としたもの。うちの近くにも支店出してくれないだろうか。

開店40周年メニューということでいつまでやってるか気になるところだが、ネットで調べてみると数年前からこのメニューを出している様子。確かに40周年はいつまで記念していても別にいい。気づかなかった考え方だ。

続いてやってきたのは、品川区・大井町駅近くにある、飲み屋が連なる細い路地。
ワクワクさせられるくらいの狭さ
ワクワクさせられるくらいの狭さ
「大井一うまい・やすい」の看板に惹かれる
「大井一うまい・やすい」の看板に惹かれる
ポタージュのサンプルが独特
ポタージュのサンプルが独特
隣の店も気になる
隣の店も気になる
路地というよりは、建物同士の隙間と言った方が正しいような雰囲気の中にあるのは「ブルドック」というお店。看板を確認したが「ブルドッグ」ではない。

気になりポイントはもうすでにこのロケーションがそうだが、さらには隣が「肉寿司」という名の店だったり、サンプルのポタージュがそそらなかったりと、いろんな角度から攻めてくる。
年季の入り具合が味わいある店内
年季の入り具合が味わいある店内
気になる別のライス系を振り払いハムライス
気になる別のライス系を振り払いハムライス
どうやらでかい揚げ物が名物料理であるらしく、周りの男性客は巨大なフライを食べている人が多い。

ピラフカテゴリのメニューにあるエビライスやカニライスも気になるが、今回の目的はハムライス。誘惑が多い中でも、ここは自分を見失いたくない。
これがハムライス……なのか?
これがハムライス……なのか?
やってきたのはこんもりと盛られたチャーハン系のビジュアルをした料理。ボリュームもこの店の特徴であるようで、我孫子の店とは盛り方の高さがかなり違う。

上に乗っている黄色いものは、そぼろ卵のように見えるかも知れないが実は違う。
黄色の正体はチーズ
黄色の正体はチーズ
中腹からハムチップが加速
中腹からハムチップが加速
その正体は、粗めに削られた粉チーズ。これがゆっくりと溶けていき、食べるときには軽く糸を引くくらいになる。炒飯のような見た目とは違う洋風の味わいを出しておいしい。

出された当初は名前の割にハム率が低いと思っていたが、食べながらほじっていくとザクザク出てきてうれしくなる。やっぱり君はハムライスだ。

お次は横浜市にある「やまて」という食堂。いかにも町の定食屋という構えで、看板をよく見ると「食事」に並んで「喫茶」ともあるのが懐かしさを醸し出す。
昭和のたたずまい
昭和のたたずまい
じんわり落ち着く店内
じんわり落ち着く店内
ウォーリーでなく「ハムライスをさがせ!」
ウォーリーでなく「ハムライスをさがせ!」
見つけてしまえばくっきりとハムライス
見つけてしまえばくっきりとハムライス
黒地に白でみっしりと書かれた壁書きメニューに圧倒される。ライス系の最後にはちゃんとハムライスの文字があった。
隠れてないで出ておいで
隠れてないで出ておいで
こちらのは再びケチャップで炒められているタイプ。赤い福神漬が添えられているのが、洋食屋ではなく定食屋のハムライスという雰囲気。

それにしても、ルックスからはあまりハムライスという感じがしない。全体的な赤色に溶け込んで、ハムが擬態しているからだ。
君こそこの料理のアイデンティティ
君こそこの料理のアイデンティティ
食器の縁がかっこいい
食器の縁がかっこいい
ほじって出てくるハムは奥ゆかしい存在感。味は土曜日の昼食に母が作ってくれたような雰囲気。しかしうちの母がケチャップを入れ過ぎてそれだけの味にしてしまいがちだったのに対して、こちらは甘すぎないギリギリのところで留まっている。

それゆえ、最後まで飽きずに食べられる。気になりポイントは皿の縁の金色の装飾。鳥の羽ばたく様子がクラシックだ。

4つ目のハムライスを求めてやってきたのは台東区。日本で2番目に古い商店街とされる佐竹商店街のそばにある「武井食堂」だ。
こざっぱりした店構え
こざっぱりした店構え
ただしメニューのサンプルはかなりの変色
ただしメニューのサンプルはかなりの変色
年季を感じさせながら清潔な店内
年季を感じさせながら清潔な店内
見やすいコントラストの壁メニュー
見やすいコントラストの壁メニュー
レモンイエローの軒は、割合最近に新調したように見える。ただ、この店の歴史を物語るのはガラスケースの中の食品サンプル。特にカレーライスはカメラの具合でこうして写ったのではなく、実際の見た目がこんな感じ。

結構な気になりポイントだが、それでも店内はキリッと引き締まった空気を感じるくらいの清潔感。軒と同じ色遣いの壁メニューにハムライスはあった。
炒飯タイプのハムライス
炒飯タイプのハムライス
福神漬が添えられているのは2つ目だ。その赤と比べて、本体部分の見た目はおとなしいタイプのハムライスと言えるだろう。

しかし口にすると、それだけで終わらないことがわかる。
油断して口に入れると危ない
油断して口に入れると危ない
ハム濃厚地帯を食べる楽しさ
ハム濃厚地帯を食べる楽しさ
ものすごく熱いのだ。よくよく観察すると、お米一粒一粒が薄く丁寧に油でコーティングされているように見える。地味そうに見えて、家ではなかなかこうは仕上がらない実力。

盛ってある状態ではそれほどハムが見えなかったが、ほじっていくと密集地帯を発見。鉱脈を掘り当てた気分でスプーンにすくい、口に運ぶのがうれしい。

ハムライス探訪、最後にやってきたのは銀座にある洋食屋「煉瓦亭」。昼時には行列ができる人気店だ。
「Rengatei」の表記がかっこいい
「Rengatei」の表記がかっこいい
完全に隙間なく入れられたソース
完全に隙間なく入れられたソース
クラシックな響きのメニューも
クラシックな響きのメニューも
ハムライスもしっかりとラインナップ
ハムライスもしっかりとラインナップ
メニューでシチューが「シチウ」となっているなど、店の端々から創業1895年という100年以上の歴史を感じられる。それとの関係は不明だが、卓上の瓶にみっちりと入れられたソースは気になりポイントの一つだろうか。
これは確かにまがうことなきハムライス
これは確かにまがうことなきハムライス
1300円という今回最高額のハムライス。その価格を裏切らない見た目のものが登場だ。

これまで小さく切られてご飯と一緒に炒められるだけだったハムが、こちらではデーンと主役級。ビジュアルからしてハムライスと呼ぶしかない決定力がうれしい。
しっかりとナイフが出される
しっかりとナイフが出される
自分ペースでハムの濃淡をつけられる
自分ペースでハムの濃淡をつけられる
テーブルに並べられたカトラリーにはちゃんとナイフがある。このハムライスには必要な食器だ。

味は洋食屋ならではのコクが十分に効いたもの。これまでとは一桁違う価格が納得できるおいしさがある。大きめにみじん切られた玉葱の食感もいい。

ご飯に混ざっているハムだけでも十分な量だが、満足感を加速させるべくナイフでハムを切って追加投入する。このタイミングを図るのも食べる楽しみだ。

最初の店のテーブルにあった店員呼び鈴
最初の店のテーブルにあった店員呼び鈴
知ってるようで知らない人も多そうなメニュー、ハムライス。それぞれの店ごとに個性があって、一般的に定番と言える形が定まっていないように思えるのも魅力だと思う。
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