田中 創一朗
メタバースサービス「Roblox」に詳しい有識者。GeekOut株式会社 代表取締役。デイリーポータルZとは長い付き合い。
GeekOut株式会社 PR担当。Robloxのアバターカスタマイズにハマり、けっこう課金している。
安藤 昌教
デイリーポータルZライター。ゲームはずっと初心者。暇さえあれば外を走っています
石川 大樹
デイリーポータルZ編集。インディーゲームが好き。ネットのジャンクコンテンツが好き。
子供にめちゃくちゃ人気のメタバース
メタバースとは、ネット上のバーチャルな三次元空間のこと。数あるメタバースの中から、このシリーズではRobloxというサービスを紹介していく。
Robloxは「ゲーム版YouTube」とも言われる。ユーザー数が3億人くらいいて、メインのユーザー層は13歳前後。たくさんのエクスペリエンス(ゲームやチャット空間)があり、それらのうち大半はユーザーが作ったものだ。
強制参加・無限陸上競技ゲーム
田中:今回紹介するのは、トラック&フィールド:インフィニティ。安藤さんといえば、走る。走るゲームです。
安藤:大丈夫かな。家で車のレースゲームやってるけど、俺めちゃめちゃ下手なんですよ。
田中:大丈夫です。今日は足で走ってもらいます。
競技場ではすでに短距離走のレースが始まっていて、次のレースから参加可能なようだ。出番待ちの間に操作方法の確認をする。
田中:このゲームはいつもと操作が違うんです。方向転換がマウスで、移動はQキーとEキーを交互に連打です。右足と左足を交互に出す感じで。
安藤:(Q、E、Q、E、と押して)こう?
田中:うまい、うまい。
そうこうしているうちに前の競技が終わり、安藤さんの参加レースが始まる。
安藤:あ~、指がつる…!
田中:がんばってください!
安藤:両手でやっちゃダメなの?
伊藤:マウスで方向転換だから、QとEに両手使っちゃうと曲がれないんです
安藤:そうか…!
という感じでシンプルな陸上ゲームなのだが、他にもハードルやリレーなど競技がたくさんあって、いろんなゲームを連続して次々遊ぶことができる。
ただこの「連続して次々遊ぶことができる」が曲者。競技の終了後はたった5秒のカウントダウンをはさんで、勝手に次の競技が始まるのだ。連打に疲れた指に与えられる休息は、あまりに短い。
長距離競技でリアルスタミナの限界を知る
みんなでワーワー言いながらいくつかの競技をこなしたあと、それは起こった。
安藤:なんか出てきましたよ。
田中:指も限界だし、ここは飛ばしましょうか
安藤:そうですね。(スキップを押す)
伊藤:……800m走始まりましたね。
田中:あー多数決なんだ。いまゲームにいる人で多数決をとった結果、800m走やることになったみたいです(笑)
安藤:そういうことか!
石川:安藤さん、トレイルランやってるから長距離走はお手の物じゃないですか。
限界の指を抱える3人を顧みず、非情にもゲームはスタート。
~そして3分後~
安藤:トラックの悪いところが出てるよ!景色変わらないしどこまで行けばいいのかわかんない!
田中:指に乳酸が…
安藤:あ~、あ~~~(ずっと呻いてる)
田中:気づいたんですけど、右手の方が連打速いから、クロススタイルで行くといいですよ
ちなみに戦略要素として、スタミナの概念がある。速く走るとスタミナを消費し、ゆっくり走ると少しずつ回復する。
とはいえ圧倒的に指のリアルスタミナの方がシビアであるが。
安藤:もう無理無理無理無理。
田中:あ、もうゴールですよ!
あんなにヒーヒー言いながら走ったものの、結果は最後から3位を独占。
いやしかし3人ともがんばった。順位よりもがんばって完走したことに価値があるのである。そうやって3人でお互いを慰めあった次の瞬間…
石川:ははははは。1600mですよ。
安藤:えっ!?倍になってるじゃん!!!
安藤:休憩短っ!!!おかしいでしょ!
このあと「コントローラーのユーザーは操作が簡単だからずるいんじゃないか」(やったことないのに)、スマホも操作方法が有利なんじゃないか(やったことないのに)、など憶測だけで他のユーザーを卑怯呼ばわりしながら、4分半かけてなんとか3人は1600mを走り切った。
「え、がんばったじゃん」「ちょっと良いんじゃない!?」と讃えあう3人だったが、9位に知らない人が一人混じっただけで、ほぼ最下位である。
安藤:これずっとできるんですね。
田中:やばくないですか。この永久に休ませてくれない感じ。
安藤:しかも勝手に始まるから。強制参加の感じが運動会っぽっくてよかった。
石川:インターバル5秒しかないから。
安藤:やってるうちにちょっとコツがつかめてくるのはおもしろかった。
余談だが、この単純ながら過酷な操作感のためか厳しいチートツール規制が敷かれているようで、プレイ中に何度もほかのプレーヤーがBAN(強制退場)させられていた。治安が悪い。
治安の悪い世界を二本の指だけで駆け抜け、上位にのし上がっていく。そう考えるとかなり世紀末的な、そそられる世界観であると言えなくもないゲームだと思った。そのかわり指の疲労も世紀末になるが。
カラオケのエッセンス
伊藤:つぎは、最近わたしが他のメンバーにすすめられたのを一緒にやってみたいと思います。Karaokeです。
安藤:カラオケ?
伊藤:っていう名前ですけど、これはカラオケと言っていいのかな……?とにかくやってみましょう。
安藤:人間になった。(※安藤のアバターはサメ)
田中:このワールドはアバターが変わるんですよ。
伊藤:部屋に入ると、カラオケボックス的な空間があります。お金(時間経過で増えるゲーム内通貨)で曲を買うとその中に音源が流せます。それだけ。
ゲーム性とかは全然ないんですけど、深夜のカラオケのあの腐った感じを味わえるっていう。
石川:腐った感じ(笑)
伊藤:飲み会後の深夜カラオケの、盛り上がり切った後の無意味な感じです。
石川:ははは。
石川:PCのマイクを使って歌えるんですか?
伊藤:実際にカラオケの機能はないんです。雰囲気だけ(笑)
安藤:えー、なにこれ?この人たちは勝手に入ってきたってこと?
田中:そう。入ってきちゃうんです。
安藤:自由!
伊藤:海外でもけっこうカラオケが流行ってるみたいですけど、地域によっては店がなかなかなかったりするから。こういうところにくるのかもしれない。
安藤:どうやって踊るの?
田中:右下のボタン押すと踊れますよ
安藤:できた。楽しい…!
ちょっとびっくりしたのが、踊るといってもただボタンを一回押すだけなんだけど、自分が作ってさっきまで操作していたアバターが急に妙にいい動きで踊り始めるのはちょっとした爽快感がある。
石川:キビキビ踊れるから気持ちいいですね。
田中:カラオケ本来の楽しみってこういうことなのかなって思いますね。
石川:そうかな!?!?
乱入してみよう
田中:じゃあ僕らもほかの部屋に乱入しますか。
安藤:いきますか!
安藤:うわ、みんな踊ってる!これどのダンス?
石川:「パロットパーティー」ですね。
田中:言葉を交わさずにシンクロしましたね
安藤:ははは、楽しい!これすごい、なんで楽しいんだろう(笑)
これが安藤さんが言うとおり、ものすごく楽しいのだ。なんで楽しいのかはよくわからない。でも自分のアバターがみんなと同じ動きでキビキビ踊っているのを見ると、何ともいえない楽しさが沸きあがってくるのだ。漢字2文字で言うと「愉快」っていう感じ。
石川:わはははは(笑いが止まらなくなっている)
めちゃくちゃおもしろい!なんで面白いんだろう。こういう種類の面白さあるんだ!?
安藤:なんだろうこれ。知らん人の部屋に勝手に入って踊ってるだけなのに。
石川:一体感すごいですもんね。
安藤:カラオケのゲーム作ろうとしてさ、ここの面白さを抜き出そうと思わないよね。
普通だったら歌うたわせるじゃん。すごいよ。
伊藤:照明のライティングが絶妙なんですよね。
安藤:ライティングもいいし、ダンスの動きもいいし……でもなんでこんなに没入感あるんだろうな。
オールして朝方騒いでる感じするもんな~。
新たな扉が開いた
安藤:この快感、知るとやばいですね…。
田中:扉開いちゃいました?
安藤:開いちゃいましたね。すごいいまカラオケ行って帰ってきた気分になってるもん(笑)
田中:バーで飲んで外走ってカラオケ行って…。
石川:順番がおかしいな(笑)
安藤:陸上がハードすぎるんですよ。
田中:飲んでバッティングセンター行ってカラオケ行って始発で帰る、みたいな感じかな。
安藤:近い。それがちゃんとぜんぶ体験として残ってる感じがします。ゲームやったっていう感じじゃなくて、ちゃんと酒飲んでカラオケ行った体験として。体が疲れてないだけ。
田中:こういうメタバースもありますということで(笑)
メタバースの端っこ探訪
メタバースサービス「Roblox」にある変わったワールドを訪ねるシリーズです。
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