特集 2025年7月2日

3時間かけて「マムシ注意」の看板を見に行く旅に同行したら最高だった

当サイトのライター仲間であり、私の大好きなライターでもある伊藤健史さん。彼の取材に同行させてもらえることになった。3時間かけて「マムシ注意」の看板を見に行く小旅行で、普段伊藤さんがどんな視点で世界を見ているのかが明らかとなった。

1992年三重生まれ、会社員。ゆるくまじめに過ごしています。ものすごく暇なときにへんな曲とへんなゲームを作ります。

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伊藤健史というライター

当サイトには何十人ものライターがいるが、中でも私がとびっきり好きなライターが伊藤健史さん。13年以上書き続けている先輩ライターで、北海道の痛いカニサミットや、奄美・沖縄諸島でのハブ探しなど、北に南に幅広いフィールドワークを基にした記事を多く手掛けている。

今回、伊藤健史さんのフィールドワークに同行させてもらえることになった。場所は埼玉県本庄市。ここに「マムシ注意」(マム注)の看板があり、それを見に行くのだ。

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伊藤さんはマム注看板コレクションしている。今日は本庄市にあるマム注を見に行く。

Google Mapで調べると自宅から「マム注」まで3時間かかる。

「遠いな」という感情と「最高だな」という感情が同時に沸き起こり、その後「最高だな」だけが残った。伊藤さんも私も普段は会社勤めのサラリーマン。貴重な休日を「マムシ注意」の看板を見るためだけに捧げるのだ。3時間かけて行って、看板を見て、3時間かけて戻ってくる。なんて贅沢な旅なんだろう。そんなの絶対に楽しいじゃん。

川崎駅から上野東京ラインに乗って2時間。埼玉県本庄駅に到着。

改札を出たところで伊藤さんに合流。

伊藤さん。ハットに長袖と、かなりアウトドアを意識した佇まいだ。
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マム注までの道のりがずっと楽しい

いまからマム注の看板を見るために駅から歩くが、その道中で他の路上観察もするという。

この記事の楽しみ方を先にお伝えすると、旅の途中で伊藤さんが様々な路上観察を披露してくれるので、それら一つ一つを味わってほしい。「変なことしてる人がいるなぁ」(←失礼)でもいいし、「面白そうだから自分もやってみよう」でもいい。そして最後はもちろんマム注。見れたのか、見れなかったのか。お楽しみに。

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駅を出て10秒ほどでもうシャッターを切る伊藤さん。はやい。
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路上観察によって歴史がわかる

最初に伊藤さんが撮影したのは、のぼりのベースだ。

店先に並ぶのぼり旗の土台のことです。

伊藤:これね、だんだん用途が変わってくるんですよ
ほり:なるほど。奥の石のベースにも昔はのぼりが立っていたんでしょうね。それが役目を終えて、いまは別のベースにひもでつながれているんですね!

街の様子は目まぐるしく変化するが、ベースだけはなぜか変化が遅く、その場にとどまり続けることもある。

説明の都合上 時系列順でない紹介となるが、「のぼりのベース」は今回の旅で最も多く収集された物の一つだ。

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おそらく過去にはのぼりのベースとして使われていたものが、いまは役目を終えて看板の重しとして第二の人生を歩んでいる。しかしこの看板さえも役目を終えている。隅に置かれた物たちが街の歴史を静かに語っているようだ。

よりコアな方向けにお伝えすると、グーグルストリートビューでこの場所の2020年の様子と2018年の様子を見比べると面白い。このベースはかつて駐車場だった奥の土地から移動してきたことが分かる。

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こっちはまだ出来て間もないのか、白くてきれいだ。しかも2段重ねで安定感がある。
おそらく普段は営業中ののぼりが掲げられるのだろう。この日は定休日。ベースの下にプレートが敷かれ、タイルを傷つけないようにしているところに、気配りが感じられる。

伊藤さんの路上観察ネタで、周辺の歴史を感じられるものは他にもある。 例えばこちら。

伊藤さん曰く、埼玉に多いらしい。

進入禁止マークを描いた後にガス管や水道管の工事があって、掘り起こしたのだろう。当然だが、新しい工事ほど路面を上書いていく。

歴史を感じる系で私がいちばん感慨深かったものが次だ。

ほり:伊藤さん、そんなものまで撮影していたらキリがないですよ

伊藤:石が詰まってるの「いいなぁ~」って思うんですよ

排水溝に石が詰まっている。左の砂利が移動してここにハマるのだろう。

伊藤:たまたま溝の幅とおなじ大きさの石がここに来て、上から押されてハマるわけじゃないですか。結構すごいことだと思うんですよ
ほり:奇跡みたいなことが、何回も起きている
伊藤:周囲の地形に左右されたりするわけですよ

当然だが、砂利の近くの排水溝には多くの石が詰まっており、そうでないところは詰まりが少ない。

伊藤:ここなんか……

ここの排水溝、奥の砂利が塀で隔てられているはずなのに、わりと石が詰まっている。​​​​

伊藤:この塀はあとから設置されたんじゃないかと予想できます
ほり:すごい。地層と同じですね。排水溝に詰まった石から当時の様子を推測できる

実際、ストリートビューで2022年2024年を比べると、この推理が正しいことがわかる。(進学塾の左の土地をご覧ください。) めちゃくちゃ面白い。

歴史を感じる系のもうひとつ、三角コーン。朽ち果てているとなお良し。この個体は土台が3段重ねになっているのが趣深い。左に見切れている「完全に外れたポール」も良い味わいだ。
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伊藤:これはいいですよ!もとはどこかに固定されていたんでしょうね

 三角コーンといえば当サイトライターの三土さんだが、別に縄張りがあるわけではないので集めるのは自由だ。  

ほり:朽ち果て度合いが強いと「どれだけ前からあったのだろう」と考えさせられますね  

 歴史を感じるタイプはさらにもう一つ。

うっすら見える文字を読むと、以前は「額のまつえだ」だったようだ。ほぼ同じ業種で店主が変わったということになる。その裏にあるストーリーを勝手に想像してしまう。

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