新卒で入社したばかりの頃、一緒に働いていた私より遥かにキャリアが上のデザイナーに言われたことがあった。
「伊藤君、俺はね、あののぼりが大嫌いなんだよ。あんなものはね、景観を汚すノイズだよ」
補聴器大集合。
社会の荒波にただおろおろするばかりだった当時の私はそのかっこいいもの言い(特にノイズ)に一も二もなくくんくんとうなずき、「あれ、景観汚してますよね。ノイズですよね」と同じ事を繰り返してなにか理念のようなものを持った気になって悦に入っていた。
かわいいけどなんでよ。
あの頃のくにゃんくにゃんの俺よ、よく聞け。15年後の未来、すっかりおっさんになったお前はのぼりの魅力に取り憑かれ、一眼レフカメラを向けて「ほほう」と微笑をたたえながら商店街を徘徊しているのだ。オロカモノメ!
すいません、こんな写真ばかりです…
まずは様々なベースを観察
一般的にはポールスタンドなどと呼ばれているこのベース達。色も形も様々だが大別するとポリエチレン等の樹脂、コンクリート、スチール等素材で分類ができる。
■ 樹脂製
中に水を入れ、重さをつけて安定させるタイプ。その軽さ(水を入れていない時の)と安価さから、昨今では一番シェアを伸ばしているのではないだろうか(散歩調べ)
形、色、設置シーン、全てにおいて多種多様である。
わりとよく見かけるタイプ。縦横フレキシブルに読める「家系」の記名もいい。
太陽を思わせるビジュアルがかっこいい。デザイナーズのぼりベース。
形状、カラーともになかなかレア。「上へ」というポジティブなメモがアクセント。
ビビッドなピンクも。どこかのパティスリーがマカロンみたいなお菓子にすればいいのに。
より安定感を増すために4隅から足が伸びるのもある。
これが…
キシャーン!
この足でがしゃがしゃ動き出してスターシップトゥルーパーズみたいに襲ってきたらこわい。「冷やし中華はじめました」とか「パチンコAKB」みたいなかわいい旗をはためかせながら大量に走ってくるのだ。やめてくれ、やめろ。
■ コンクリート製
家庭用の物干し台などはコンクリート製のものが多いので土台といえばこの素材のほうが親しみがある方も多いのではないか。
円筒形。カラーリングがおしゃれ
こちらもよく見かけるデザイン。
時おり家庭用の物干し台がのぼりベースに転用されているのを見かける。中央ののぼりを差し込む穴「のぼりホール(勝手に命名)」が長丸のタイプのものは物干し用である可能性が高い。
こういうの。
物干しの支柱は反対の方向に曲がっている2本の柱をくっつけている仕様が多い。(物干し台で画像検索するとわかりやすいです)したがって、差し込むための穴もポール2本分の長い丸穴になっている。心の底からどうでもいい話だ。
よりふっくらしたタイプ。平たくてコンパクトなカメラのレンズをパンケーキと呼んだりするがこれは頭に「蒸し」がつくほうだ。
沖縄で発見。サポートブロックがかっこいい。ロールス・ロイスと呼ぼう。
■ スチール製
なんせ鉄で重いので前出の2タイプより厚みを必要とせず、平べったい形状が多いが、醸し出す重厚感ははんぱない。
ローカルな商店では古いテーブルの脚などを転用した、やたら味わい深いベースに出くわすこともしばしば。
スチール製はたいがい錆びている。
この重厚感たるや。
ソフトクリームとの競演。筑波山の強風にもびくともしない。
繊細な細工。いい仕事してますよ、いい仕事してるベースですよ。
もっと見ていきましょう
中央に「α」マークがあるのは店舗販促の大手「アルファ」社のものだ。名作ゲーム「ゼビウス」のアンドアジェネシスを思わせる要塞感がかっこいい。
中央にブラスターを撃ち込みたくなる。
グレーなんて特にほら。
このウェザリング(よごし)がまた。
フジカラーやリポビタンなど、ブランドにカスタマイズされたベースも存在する。
取り扱い店舗に販促用の備品として配布もしくは販売されていたものと思われる。
フジカラーを象徴するグリーン。取っ手がおしゃれ。
リポビタンは同じ形でブルー。集合するとかわいい。
四角バージョンも存在する。こちらのほうが新しいのかな?
リポビタンはほとんど薬局だがフジカラーはクリーニング店や雑貨屋など様々な業態の店頭に分布している。DPE取り次ぎの間口が広かった事も影響しているのだろう。
それにしても甘栗屋で見つけた時は彼の経てきた旅路の長さを思わずにはいられなかった。
甘くない世の中を渡ってきたベースが掲げる甘栗。
ベースが織りなす景観
本体の次はベースがある景観を見てみよう。いつしかのぼりすらつけられなくなり、スタッキングされたりその辺に放置されたりしてかえって存在感を増してしまう。そんな「ベース景」を集めてみた。
■スタッキング系
無印良品のポリプロピレンのケースを重ねると気持ちいい。のぼりベースも種類によっては気持ちよく重なる、けれどしまわれない。この世界ではよくある事だ。
そしてそのスタッキングっぷりが見ごたえのあるオブジェクトとなって我々の目を楽しませてくれる。
のぼりをかかげているコンクリートベースの傍らでスタッキング
プラとコンクリートのコラボ!缶の上に乗ってかっぽかっぽ歩いたおもちゃを思い出す。
現在私が知る中でのベストスタッキング。高さといい、美しさといい、すばらしい。
取っ手?のところに棒を通して串刺し状態に、いい工夫!すごくよくないですか。
■置物系
のぼりではない何か別のものを置かれたりしている光景もよく見かける。
小石を置かれる。
モップをかぶる。サイボーグ004(アルベルト・ハインリヒ)みたいになった。自我とか芽生えないだろうか。
おもりを置かれる…
「重さでのぼりを安定させる」プロとしての矜持を持っている彼らがおもりを補強されている姿はひたすら哀しい。
私が自転車部に所属していたとして「君は坂道がきつそうだから電動アシスト自転車を使うといいよ」とコーチにアドバイスされたらどうだろうか。きっと湖畔に立ち、水面を3日見つめるだろう。
看板にホールドされる。
■ ブッシュ系
街のジャングル、植え込みに舞台を移し情報伝達のゲリラ戦を展開せんと待機するが、そのまま忘れ去られちゃいないだろうかというものも多い。
バリケードの陰にひそむ
めっちゃ野戦。
グリーンと調和している。
植え込みが道を開けた!モーゼ!
■ぴったり系
ぴったりおさまっている、ちゃっかりおさまっていてこういうのを見つけるとなんか気持ちいい。テトリスでガンって一気に消えるあれみたいな。
あーこれ消えるわ。ハイスコアだわ。
これも消えるわ。
もうちょっとで消えるわ。
なじみすぎ。一回通り過ぎて引き返した。
■放置系
集団で、のぼりをつける事もなく、半分廃棄されたようにたたずまう。
何回か見たがのぼりがはためく事はなかった。
無断駐車対策?として縁石の前でオレンジに輝くフロントマンの後ろでは…
グシャっ。
見るも無惨に損壊したもの達が追いやられて風化を待っている。のぼり残酷物語である。次のページではこの哀愁あふれる姿に目をつける。
どこか胸に迫る「デストロイ」
屋外の路面という環境はとてもハードだ。雨風にさらされ、劣化していくベースを待っているのはのはHWK(へこむ割れる欠ける)という運命である。
しかし、かなりぼこぼこになっても、のぼりを掲揚し続けたり、道端で空を見ているべースは多い。
それらは「デストロイ」と呼ばれ、私に尊敬されている。
新顔にのしかかられる。
バキバキ。ドラマチックな割れ。
コンクリートはもっぱらかける。
ギャー、素顔が!
「もう成仏させてあげて!」と叫びたくなるレベルのものも…
半分以上、野に帰っている。
完全に致命的なのにすさまじい蘇生を施されていた個体もあった。
お、なんか巻いてある。買ったばかりなのだろうか。
わーひびわれ矯正ベルト
最後に番外編として、「のぼりホール(のぼりを差す穴)にこめられた異物達」をお送りする。番外編とかアンコールくさい事言っているがここまで見てくれた方ほんとうにほうんとうにありがとうございます。
たばこの吸い殻をこめられる。
なんかぐしゃぐしゃとビニールをつめられる。
発砲スチロールをこめられる。
ウコンの力がジャストフィットすぎる。砂風呂か。
映画「スター・ウォーズ」のデス・スター攻略シーンでルークの載るX-ウイングにR2-D2がセットされた姿を想起させる。目を閉じるとオビワンの声が聞こえてくるようだ。「ルークよ、ウコンの力を信じるのだ」
スペースオペラも途端にただのオフ会だ。
がんばれのぼりベース
飲食店に入る事自体がハードルの高い私のような人見知りにとって、のぼりはふわっとしたライトなメッセージで心の障壁を下げてくれる大事なコミュニケーションツールだ。
ほとんどの人に気にされる事もなく悪環境に耐えながらそれをささえるのぼりベースの活躍を今後も注視していきたい。
調子にのって簡単にホームページが作成できるツールを使って「のぼりベースコレクション」というなにひとつひねりがないホームページを作ってしまった。
「NEW」とかついてるところも実はそんなに新しくありません(更新頻度低し)