パイロンとは何か
赤いたたずまいで道路脇に立っている円錐形のやつ。それがパイロンだ。
パイロン
三角コーンとか、「カラーコーン」というよく知られた商品名で呼ぶ人もいる。
ふだん気にすることもないが、実はたいせつな役割を担って働いている。彼らのがんばりの一端を紹介したいと思う。いや、ぜひ紹介させてください。
パイロンの役割とは
彼らの主な仕事は、一時的に立ち入りを制限する、ということだ。
工事現場を守るパイロンたち
分かりやすいのは工事現場のわきにあるパイロンたちだ。
危険の存在を知らせ、自動車を運転する人と工事現場で働く人の両方を守っている。
パイロンの仕事その1
工事の存在を知らせ、運転者と現場作業者を守る。
ただ、パイロンの役割はこれだけじゃない。一見するとなんでそこにいるのか分からないような意外な仕事をしている場合もある。
何かを囲ってるけど、中に何もないパターン
いったい何を守っているか分かるだろうか。ちょっと考えてみほしい。
答えは、このビルの上のほうで窓ガラスの清掃をしているのだ。もしも道具などが落下しても大丈夫なように、歩行者を守っている。つまりこういうことだ。
パイロンの仕事その2
上空の危険から、歩行者を守る。
広場の真ん中で何かを守っているが、中にも上にもなにもない。
ちかくにビルもないし、窓ガラス清掃じゃない。じゃあ何なのか。
答えは、なかにあるマンホールの蓋だ。周りがオレンジで囲ってあるでしょう。
この蓋の下には消火栓がある。いざ火事となったとき、ここを開けて消火するのだ。ただ、いかんせん気づかれにくいので、上に車を停められちゃうことがある。それを防ぐために、パイロンはここにいるのだ。
パイロンの仕事その3
地下にあるものを、地上から守る。
考えても分からないこともある
こんなふうに、パイロンはたいていの場合、理由があってそこにいる。
ただ、どうしてそこにいるのか、頭を絞ってもよく分からないこともある。そういうときはもう、そういうものだと受け入れて、あるがままを味わうしかなかったりする。
怪しく光るパイロンたち
黄色く光るパイロンが木を取り囲んでいる。
ただ、歩行者を木から遠ざける理由がよく分からない。木に毛虫が発生しているのか、木が倒れそうなのか。
いったん考えるのをあきらめると、なにかの儀式のようにも思えてくる。夜に、みんなで手をつないで、輪になって灯りをつける。UFOか何かを呼んでるんじゃないのか。
コンクリートだ
なんでコンクリートなんだ。全然わからない。落ち着いて周りの状況を見てみる。
アパートの入口にある
ふつうにアパートの階段の脇にある。よく見ると奥にも赤いパイロンがある。
これはもしかして、狛犬的なやつか。アパートを守る、阿形と吽形なのか。
分からない。しかし、そうと思うしかない。
下半身が埋められているパターン
パイロンが埋まっている。しかも、頭になにかレースのようなものがかけられている。
本人からするとかなり不本意な状況だろう。パイロンの人権が蹂躙されている。
パイロンの利点は、役割を終えたらいつでも動かせるというところにある。埋めちゃうんだったら、パイロンじゃなくていいのだ。レースは、たぶん近くに落ちてたものだろう。このパイロンがレース好きならいいんだけど。
なぜそんな姿でそこにいるのか
なぜそんな姿になってまでそこで働いているのか、というパターンもある。
これはパイロンと呼んでいいのか
もはや足しかない。
これはパイロンなのか。本当にパイロンとしてここにいるんだろうか。
周りの状況を見てみる
手前に、同じく傷ついたパイロンが立っている。さっきのパイロンは奥だ。
間違いない。これを置いた人は、同じパイロンとしてこれらを並べている。しかしどうだ、この疲労は。もう休ませてあげてもいいんじゃないか。
最後の一人、というパターン
3つパイロンが並んでいる。しかし右の2つはもはや虫の息だ。
このパイロンはおそらく兄弟だ。兄二人はもう力尽きようとしている。そんな姿をみて、弟は涙を流しながらも頑張っているのではないだろうか。
よく見ると、左のパイロンは二枚重ねになっている。きっと亡き兄のどちらかと一緒に、二人で一つになってがんばっているのだ。
生首状態
パイロンの頭だけが、柱の上部に高々と掲げられている。
これはあれじゃないか。戦国時代に、討ち取った武将の首を槍の先にかかげるやつじゃないのか。
パイロンは地面の上で働くものだ。討ち取ってどうする。パイロンが何をしたっていうんだ。
あまりにも不憫だ。そんな感情が湧き上がる。
かわいいパイロンもある
不憫な例を見てきたが、思わず「かわいい!」と呟いてしまうようなパイロンもある。
標識を囲むパイロン
標識の支柱が倒れそうになっていて危険なため、周りにパイロンが置かれている。
ただ、小さなパイロンたちが「大丈夫?」と言いながら支柱を支えているようにも見えないだろうか。パイロンから伸びるガムテープが手のようだ。すくなくともぼくにはそう見える。
パイロンの仕事その10
傷ついた路上のなかまを励ます
直球でかわいい事例もある。知人のツイートから紹介したい。
なんと!服を着せられてまるでお人形のようじゃないか。さすが女子大の裏。
だれかが本当にパイロンのことを思って服を着せてあげたのかもしれない。あるいは、落ちていた服を、そのままだと忍びないということでパイロンに着せる形で置いたのかもしれない。
落し物をパイロンに被せる、というのは、さっきのレースや手袋くらいの大きさならよくある。
手袋をかぶせられた例
ただ、こんな白くてきれいな服が地面にそのまま落ちてるものだろうか。たぶん違うだろう。きっと愛されてるパイロンなんだ。そう思いたい。
よく見るとチューリップだ
足元の黒い重りには芝生が緑に茂り、その上ではチューリップが赤い花を咲かせている。
黒い重り(コーンウェイト)がこんなふうに飾られているのを見るのは初めてだ。たしかに女子力が高い。
まわりを見ると、奥が行き止まりの路地になっている。もしかすると私有地への車止めとして置いているのかもしれない。それでも、ただパイロンを置くのは味気ないと思ったのだろう。大切にされたパイロンを見ると、こちらもうれしくなる。
パイロンの仕事その12
路地を守りながら、大切にされる
路地にはよく、守り神としてお地蔵さんやお稲荷さんがいる。このパイロンもそんなふうかもしれない。
まだまだがんばっている
パイロンが健気にがんばっている姿に注目しているのはぼくだけじゃない。むしろぼくは後塵だ。上に紹介したツイートのように、「
#がんばれパイロン」というハッシュタグで日々みんなが報告しているので、ぜひ注目してください。
暗渠(あんきょ)というのは、蓋をされて道になった川のこと。表通りとは違う雰囲気で歩くと楽しいんです、というようなことを書いてます。ぼくは「文学と暗渠」など書きました。11月10日(金)にはお店に並びます。
上の「女子大裏パイロン」のさくらいさんが表紙を描き、「女子力高めパイロン」の吉村さんも著者なのでした。ちくま文庫から、821円です。どうぞよろしくー。