特集 2024年5月27日

奄美の秘境、請島へ!〜ハブのいる島めぐり

奄美のハブめぐりは最後の秘境へ!写真は公民館のパンダたち

2015年より沖縄・奄美のハブのいる島をめぐっているが、新型コロナウィルスの影響で長らく渡れず、未踏となっていた島があった。

奄美大島の南方に位置する請島(うけじま)・与路島(よろじま)という、知る人ぞ知る離島である。今年のゴールデンウイーク、ついに念願かなって訪れることができたのだ。今回は請島編をお送りします。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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今回のハブ旅は奄美の南

奄美大島の南方に船で渡るには空港から車で2時間ほどかけて瀬戸内町の古仁屋という港町までいかねばならない。

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ごちゃごちゃしてる写真だが古仁屋港に着きまして。

目的地は請島・与路島という、奄美大島の南西に熊手のように広がる加計呂麻島の、さらにその先に仲良く並ぶ小さな島たちである。
 

今回のアイランドホッピング経路。奄美大島から加計呂麻島を越えて請島へ。請島から与路島に渡り奄美へ戻る。

 請島・与路島へは定期船「せとなみ」が1日1〜2回、古仁屋との間を行き来しているのでこれを活用するのが常道、だったのだが点検でドックに入っており、代船の運行でダイヤが大幅に変わっていた。

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ピンチ!たばZを見て落ち着け。

午後に渡る予定だったが、ダイヤ変更で定期船は午前中に出てしまいこの日はもうないらしい。やむなくチャーター船となる海上タクシーを申し込んだ。贅沢にも一人で乗り込み、請島を目指す。

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プライベートクルージングじゃ。外海を回るのでけっこう揺れる。

船主は趣味で散歩ついでに見かけた動植物を撮影していて、スマホに保存したコレクションを見せてくれた。バーバートカゲ、アマミイシカワガエルなどの美麗な写真がたくさん収められていたが、例のアレの写真がない。

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アマミイシカワガエル。いるところにはいるがいないところにはいない。※これは筆者撮影

「ハブは......どうですかね?」としれっと尋ねると「ハブはもう10年以上見てないよ。それよりこれは何トカゲ?え?オオシマトカゲ?googleレンズはニホントカゲって言ってたよ」とのことだった。

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40分ほどで請島に2つある港のうちの東側、請阿室(うけあむろ)港へ着く。

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うおお、浜のすぐ後ろが山。
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コロナ禍を乗り越え、ついに上陸!

 海から島を見るとほぼ山しか目に入らない。海岸線近くまでせまった山を背負うようにして、島の西側(池地:いけじ)と東側(請阿室:うけあむろ)に集落がある。2つの集落の間はやはり山で阻まれていて、膝が死にそうな角度で上り下りし蛇行する林道が通るのみ。

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西側の池地港、東側の請阿室港、2つの港を起点にそれぞれ集落が形成されている。

歩いて行き来するのはだいぶしんどいが学校は池地集落にしかないので、昔は請阿室集落の子供は毎日山道を歩いて通っていたそうだ。島内にレンタカーなどはないので私も歩くしかない。

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2つの集落を結ぶ山道にある「きゅらじま神社」から請阿室集落をのぞむ。
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一心不乱に土を掘り起こしていたリュウキュウイノシシと目が合った。

人口は90人ほど、人通りも車通りもきわめて少なく、聞こえてくるのはヒヨドリ、ツバメ、アカショウビンの鳴き声と、道端でトカゲが逃げる時に立てるガザガサという葉音。

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集落や周辺の平地にめちゃめちゃいるオオシマトカゲ。こちらが気づく前に素早く薮に逃げてしまうので近くで観察するのは難しいが、時々ばかなやつがこちらに向かって走ってきたりするのでそういうのを鑑賞する。
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山に行くとバーバートカゲという青い尻尾が美しいトカゲがいる。

タイワンツチイナゴがすごい勢いでジャンプしてひらひらと舞う数匹のシジミチョウにタックルをかまし、ほうぼうに散らしていた。これがぶつかりおじさんか。

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10cm近くになるでかいイナゴ。原っぱぞいの道を歩くとバンバン飛び上がる。

ハブと戦う棒「用心棒」

集落ではせまい路地が格子状に巡り、民家はサンゴの石垣やブロック塀で囲まれている。

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かなりブロック塀が多い。

ハブのいる島では石垣の隙間にハブが入り込むのでブロック塀に取って替わられているところが多く、ここも例外でないが、島の人に聞いた話ではそれに加え、「石を積む職人もいなくなっちゃったんだよ」とのことだった。

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見れば見るほど絶妙な積み。
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藩政時代に奄美でも有数の財を誇っていたという嵩(たかし)家の、島の案内図に載るぐらい立派な石垣。

山に海、路地と塀とトタン屋根、請島の風景にもうひとつ欠かせない要素がある。
民家の塀にもたれかかった木の棒で「用心棒」と呼ばれている。何に用心しているのかというと、これまたハブである。

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持ち手に白いテープを巻きグリップ性を向上。
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ペン立てのように置かれているのもあった。

1.5m~2mほど、たいがいは木だが鉄の棒などを使うケースもまれにあるようだ。奄美大島や加計呂麻島でも置かれている棒で、ハブが出現したらこの棒でぶっ叩き息の根を止める。

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スチール製の用心棒。痛そう......。

売店で聞いた話では年に1度作り直され、それが住民たちの年間行事のひとつにもなっているそうだ。「木の枝をずっと外に置いておくもんだから、もろくなっていざという時にポキっと折れたらいけないわけよ」昔に比べ集落でハブを見ることは少なくなったというが、ハブ対策は念入りに行われているのだ。

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ハブが隠れやすい石垣やうっそうとしたところでは短い間隔で配備されている。

「棒が長かったり短かったりするでしょ。私はUターンで島に戻って来たんだけど、ハブが怖くてしかたないから長めに1.8mぐらいで作るの。短いのはあまり怖くない人が作ったやつね」

用心棒の長さは作り手の心とハブの距離を表しているのだ。そういったことを踏まえて棒を見るとまた趣がある。

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脇差しクラスの短さ。相当な手練れにちがいない。

⏩ ソテツに映えるヘビ

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