今回のハブ旅は奄美の南
奄美大島の南方に船で渡るには空港から車で2時間ほどかけて瀬戸内町の古仁屋という港町までいかねばならない。
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目的地は請島・与路島という、奄美大島の南西に熊手のように広がる加計呂麻島の、さらにその先に仲良く並ぶ小さな島たちである。
今回のアイランドホッピング経路。奄美大島から加計呂麻島を越えて請島へ。請島から与路島に渡り奄美へ戻る。
請島・与路島へは定期船「せとなみ」が1日1〜2回、古仁屋との間を行き来しているのでこれを活用するのが常道、だったのだが点検でドックに入っており、代船の運行でダイヤが大幅に変わっていた。
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午後に渡る予定だったが、ダイヤ変更で定期船は午前中に出てしまいこの日はもうないらしい。やむなくチャーター船となる海上タクシーを申し込んだ。贅沢にも一人で乗り込み、請島を目指す。
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船主は趣味で散歩ついでに見かけた動植物を撮影していて、スマホに保存したコレクションを見せてくれた。バーバートカゲ、アマミイシカワガエルなどの美麗な写真がたくさん収められていたが、例のアレの写真がない。
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「ハブは......どうですかね?」としれっと尋ねると「ハブはもう10年以上見てないよ。それよりこれは何トカゲ?え?オオシマトカゲ?googleレンズはニホントカゲって言ってたよ」とのことだった。
40分ほどで請島に2つある港のうちの東側、請阿室(うけあむろ)港へ着く。
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海から島を見るとほぼ山しか目に入らない。海岸線近くまでせまった山を背負うようにして、島の西側(池地:いけじ)と東側(請阿室:うけあむろ)に集落がある。2つの集落の間はやはり山で阻まれていて、膝が死にそうな角度で上り下りし蛇行する林道が通るのみ。
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歩いて行き来するのはだいぶしんどいが学校は池地集落にしかないので、昔は請阿室集落の子供は毎日山道を歩いて通っていたそうだ。島内にレンタカーなどはないので私も歩くしかない。
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人口は90人ほど、人通りも車通りもきわめて少なく、聞こえてくるのはヒヨドリ、ツバメ、アカショウビンの鳴き声と、道端でトカゲが逃げる時に立てるガザガサという葉音。
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タイワンツチイナゴがすごい勢いでジャンプしてひらひらと舞う数匹のシジミチョウにタックルをかまし、ほうぼうに散らしていた。これがぶつかりおじさんか。
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ハブと戦う棒「用心棒」
集落ではせまい路地が格子状に巡り、民家はサンゴの石垣やブロック塀で囲まれている。
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ハブのいる島では石垣の隙間にハブが入り込むのでブロック塀に取って替わられているところが多く、ここも例外でないが、島の人に聞いた話ではそれに加え、「石を積む職人もいなくなっちゃったんだよ」とのことだった。
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山に海、路地と塀とトタン屋根、請島の風景にもうひとつ欠かせない要素がある。
民家の塀にもたれかかった木の棒で「用心棒」と呼ばれている。何に用心しているのかというと、これまたハブである。
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1.5m~2mほど、たいがいは木だが鉄の棒などを使うケースもまれにあるようだ。奄美大島や加計呂麻島でも置かれている棒で、ハブが出現したらこの棒でぶっ叩き息の根を止める。
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売店で聞いた話では年に1度作り直され、それが住民たちの年間行事のひとつにもなっているそうだ。「木の枝をずっと外に置いておくもんだから、もろくなっていざという時にポキっと折れたらいけないわけよ」昔に比べ集落でハブを見ることは少なくなったというが、ハブ対策は念入りに行われているのだ。
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「棒が長かったり短かったりするでしょ。私はUターンで島に戻って来たんだけど、ハブが怖くてしかたないから長めに1.8mぐらいで作るの。短いのはあまり怖くない人が作ったやつね」
用心棒の長さは作り手の心とハブの距離を表しているのだ。そういったことを踏まえて棒を見るとまた趣がある。
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