特集 2022年9月15日

小さい熱帯低気圧が大きな台風を振り回した ~気象予報士・増田さんの詳しすぎる天気解説 2022.9

気象予報士、増田雅昭さんに天気について聞く月1回連載。
今月の予報だけではなく、その理由、先月の感想戦など、テレビの天気コーナーには収まらない詳しい話を聞いています。
(構成:デイリーポータルZ編集部・林雄司)
 

1977年滋賀生まれ。お天気キャスター。的中率、夢の9割をめざす気象予報士です。 好きな言葉は「予報当たりましたね」。株式会社ウェザーマップ所属。
ツイッターでも気象情報やってます。(動画インタビュー)

前の記事:暑さのピークはお盆、でもストーンとは下がりません ~気象予報士・増田さんの詳しすぎる天気解説~

> 個人サイト ウェザーマップ・増田雅昭 ツイッター @MasudaMasaaki

今回もこのメンバーでお送りしております
内容
・「肌寒い」は秋にしか言ってはいけない
・8月は12日の雨で気温が上がらなかった
・9月はすっきり晴れない
・梅雨明けの大幅修正
・どうして台風11号は急に進路を変えたのか
・8月のクイズの正解者発表・9月のクイズ

「肌寒い」は秋にしか言ってはいけない

林:
8月はお盆が過ぎれば温度下がるって話だったんですけど、けっこうわかりやすく下がりましたね。

8月29日の最低気温が18.6℃(気象庁ホームページより)

増田:
寒い日がありましたよね。朝の中継してて「いや〜。8月でまさかこんなに寒い寒いって言うとは思いませんでした」って喋ってましたけどね。

増田さんはTBS系列 朝のTHE TIME,でお天気コーナーを担当しています 

西村:
すごい下がってますね。
林:
そうなんですよね。
増田:
またこれ表現が難しくて「寒い」は大げさなので「肌寒い」って言ったり。ただ難しいのは5月6月は「肌寒い」は使えないわけですよ。濁らずに「はださむい」なんですが、季語が秋なんですよね。
林:
へ〜!
西村:
歳時記に載ってる肌寒いは秋なんですか。
増田:
暑いときから急に冷えてくるから肌が寒いって感じるわけですよね。なので、肌寒いは秋に感じるいうことで、秋の言葉なんですよね。
西村:
知らなかった〜。
増田:
それを知ってるがためにいろいろ言葉の縛りが自分の中で出てきて、たとえば6月は関東で梅雨寒とかありますけど、寒いは言いすぎだから「はださむ……ハッ!」って止めて「ひんやりですね」って。
林:
6月はひんやり。
西村:
ひんやりなんだ。
増田:
季語を意識すると、そう言うしかないかなぁと。
林:
季語警察がつっこんでくるから。
増田:
喋ろうとした瞬間にファッて思い浮かぶわけですよ。
増田:
8月下旬、今回に関しては立秋を過ぎてます。暦の上では秋だから堂々と言わせてもらいます。声を大にして「肌寒い」と。
西村:
証拠は揃ってんだっていう。
小林:
逆転裁判みたいな。

8月は12日の雨で気温が上がらなかった

林:
8月の後半、ずっと雨が降ってましたね。

東京の8月後半は雨が続いた(気象庁ホームページより)

増田:
あーっ!と思ったのは12、13日、そのへんの雨ですよね。
これとともに気温がガクッと下がっていますけれども、雨がなければじわじわ気温が上がっていって、お盆もしくはお盆過ぎにバーンと高温が出るというシナリオだったんですけど…。ここの雨にやられましたね。

再び東京の8月の気温、雨が降ると分かりやすく気温が下がる(気象庁ホームページより)

林:
雨による凹みがなければもうちょっと行ってた。
増田:
ちょっとシナリオ通りにいかなかった。
林:
8月の最高気温は8月3日 佐野 39.7℃ですね。
増田:
そうですね。結局40℃は超えなかったですね。
林:
6月の暑さでこれは大変だって思ったら、8月はそんなにいかなかったんですよね。
西村:
拍子抜けした感じですよね。
増田:
なんだかんだバランスを取りますよね。またバランスかって話なんですけど。
西村:
6月に行き過ぎた感じだったんですか。
増田:
だと思うんですよね。あのとき、「これは行き過ぎ」が頭の4分の1ぐらいあったんですよ。でも、もう1回また記録を出すとすごいことになる。こうなったらまた次もあるんじゃないかに流されて。
林:
ギャンブラーの発想ですね。
 

9月はすっきり晴れない

林:
9月の第1週に雨が多かったのは台風の影響ですか。
増田:
そうですね。台風+秋雨前線。本州付近に秋雨前線があって、そこに向かって南から台風11号がやってきたので南からどんどん湿気を補給してくる。台風はポンプみたいな役割をするので。
それで秋雨前線がなかなか消えずに。ずっとグズグズしていたというわけですね。

増田:
秋の台風は最終的には秋雨前線と一体化することが多いんです。
増田:
秋雨前線のすぐ北側に偏西風というのが流れているんですよ。
秋雨前線と偏西風はセットになっているんですね。最終的に秋の台風は、この上空の偏西風に流されて、ダーッと駆け上がって行くわけですね。

偏西風に乗って台風は北上する

増田:
9月3日の衛星写真だったら北京ぐらいから滑り台のように南東(右下)に降りて行って、朝鮮半島の南端ぐらいから滑り台が上がって行くような。
ハーフパイプみたいな感じです。
小林:
ハーフパイプ!
増田:
日本海から北海道に向けて雲が伸びてるじゃないですか。シャーって筆で書いたような感じ。そこは上空の強い西風が吹いているんだなということが分かる。 

強い西風が吹いていることが写真でわかる

西村:
雲の形を見たら、風がどう吹いてるか、強いかというのがなんとなくわかるということですね。へぇ!すげー!
増田:
衛星写真の雲がスーッと流れていたら速い風。上空の風に流されてる。上空の高い雲だなって見ることができるんですね。
林:
9月はずっとすっきりしない天気ですか?
増田:
そうなんですよ。9月は今後も台風が発生すると思うんですけど、台風ができて北上してくると秋雨前線が一回薄くなってまた濃くなるのを繰り返す感じで、なかなか晴れが長続きしない。
林:
9月の予報も来週もずっと曇りですね。
増田:
秋雨前線がうろちょろしているうちは晴れが長く続くことは考えにくいですね。
すごく強力な台風が来て日本の東にそれたりすると、大陸から乾いた空気を引きずり込んでしばらく晴れが続くことはあると思うんですけど、強力なリセットがない限りはモヤモヤ〜っとした感じで晴れが続かない。 

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梅雨明けの大幅修正

林:
統計史上最も早かった6月の梅雨明けが修正されました。
(注:シーズン中に発表される梅雨明け発表はあくまで速報値で、あとから確定値が発表される。確定値の時点で修正されることがあり、今年はそれが1ヶ月近く変更になった)

関東甲信は6月27日→7月23日

増田:
梅雨明けですね。今年何回も話題になってましたけど、どっちも正解だと思うんですよね。
西村:
1ヶ月ぐらい伸びたのか。
林:
そうなんですよね。6月の下旬で今年の梅雨明けが早い!って騒いだのはなんだったんだろう。確かに7月の下旬にずっと雨が続いていて、この連載でも絶対に梅雨の戻りはありますからと書いてましたし。
増田:
それがわかった上での発表でしたからね。腹をくくって最後までいっちゃってもいいような気もするんですけどね。
林:
暑いときは梅雨明けを発表して、あとで直すのはみんなが納得するやり方かもしれないですね。
増田:
そうですね、これで明けてないの?明けてないの?って声に応えて。
林:
梅雨の戻りがあったとわかった時に、遅らせる。
増田:
良いとは思うんですけど。どっちも正解だと思うんだけどな。
西村:
どっちも正解。
増田:
深読みした見方をすると。あくまでも深読みの見方ですよ?
これだけ早い梅雨明けを確定してしまうと、前例を作ることになるわけですよね。今後、6月20日ぐらいにそういうことがあったときに、6月27日にあったんだから6月20日でも梅雨明けがありえるでしょって検討しなければならない。どんどん検討が前倒しになって行く。
林:
収拾つかなくなる
増田:
なるべく平年に近づけるようにグインと戻したんじゃないかなって思うんですよ。裏の裏の裏の裏の見方です。
林:
でも、梅雨明け6月のときほど話題になってない。
増田:
怒りという感じではなかったのかな。感情的に。
林:
東北は「特定できない」っていうことになったんですね。
増田:
過去にちょいちょいあるでしょ。

東北南部の梅雨入りと梅雨明け。確定できないのーがちょいちょい現れている(気象庁ホームページより

林:
ちょいちょいありますね。
増田:
最初は1993年ですね。東北だけじゃなくて全国的にそうだったんですよ。大冷夏。米騒動の年。
林:
タイ米が入ってきたときだ!
西村:
覚えてる!
増田:
あれはほんとにずっと夏でもひんやりなぐらいでしたから。
林:
1993年はけっこう画期的な発表だった。特定できないっていうのは。
増田:
ですね。
林:
それも前例作ったからその後たまに。5年に1回ぐらい。
増田:
前例を作るとそうなってくるでしょ。
西村:
特定できないが出現する間隔がほぼ一定じゃないですか。
林:
5年に1回とか。
西村:
今年ちょうどそろそろ「確定できない」が来てもいい感じのタイミングでしたね。
増田:
これ続いたら興味深い。
林:
特定できないって言うのは雨がずっと続いていたということですか?
増田:
そうですね。曇・雨の日が多い。あとは大雨があって「あのタイミングを梅雨明けとするのはちょっと違うだろう」という判断があったんじゃないですかね。
林:
気象予報士の業界では修正されるという予想はあったんですか。
増田:
東北の予報士とかは、今梅雨明けが発表されているけれど、最終的には結局また梅雨空っぽいものが戻ってくるからねって、「確定せず」になる可能性もあるって言ってた予報士もいましたからね。東北も完全に読み切ってた。
林:
ほぼ心理戦ですね。天気じゃなくて、社会的な問題。
増田:
そうなんです。学校の教科で言うと社会と理科のせめぎ合い。
林:
いかに人が納得するように決めるかってことですよね。
増田:
小学校の低学年で社会と理科を合わせたのを生活科って言いますよね。梅雨明け発表を題材に勉強してもいいかもしれないですね。
小林:
すごいテーマ。

どうして台風11号は急に進路を変えたのか

台風11号の進路が珍しいルートだった(気象庁ホームページより)

西村:
これなんなんだ
林:
ここになにかあったんですか?
増田:
あったんですよ。熱低があったじゃないですか。熱帯低気圧と台風が近づくと複雑な動きをするんですよね。いろんな形があって、分かれたりする場合もありますが、今回は手をつないでダンスをしてるような感じかな。最終的に熱帯低気圧が崩れていきながら台風11号の雲の一部になっていったんです。

台風11号の南にいる「熱低」が台風の進路をおかしくした原因(気象庁ホームページより)

林:
消えちゃいましたね。熱帯低気圧。
増田:
弱々しかったので台風11号の雲に巻き取られた感じになっちゃいましたけど、その熱帯低気圧がまだちっちゃい渦がある段階で手をつないじゃって、振り回されて台風11号は南西(左下)に行った。というイメージですね。
西村:
これ、つまり急に進路を変えて北に行く前の段階でグイッと南に行ってるっていうのは、この熱帯低気圧のせいだと。

増田:
おそらくそうだと思いますね。台風11号の反時計回りの渦に熱帯低気圧が取り込まれる。流される中で、熱帯低気圧は台風11号の北東に行こうとする。その手を繋いでいる台風11号は小さいながらも熱帯低気圧に振り回されるような感じで南西(左下)に振り回される。そこが南西に行ったコースの部分ですね。
そのあたりで熱帯低気圧は取り込まれて消えたので、台風11号は振り回されなくて済んで好きなように北に行った。
林:
振り回すものがいなくなって自由に進み始めた。
増田:
巻き込んでおきながら振り回されるっていう恋愛の駆け引きみたいですね。
林:
台風のフー子じゃないですけど、大きな台風を消しはしないんだけど、進路を変えたりするんですね。
増田:
面白い事例になりましたね。
西村:
台風のフー子みたいですね。確かに。
増田:
確かにね。
西村:
頑張れフー子って言ってるかもしれない。

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8月のクイズの正解者発表

8月のクイズ:
8月の最高気温(小数点以下1桁)と観測地点を予想してください
結果:
8月3日 佐野 39.7℃

正解者はこのおふたり!

第一楽章さん
8月3日に記録されたこの気温が最後まで粘ると予想しました。
HASさん
8/3に佐野で出た39.7℃は超えない。(で欲しい。)
記事にお盆がピークと書いてありましたが、週間天気を見るとお盆前後はぱらぱらと全国で雨が降りそうなので更新はないだろうと予想します。

林:
記事公開日以前に出ていた温度が最高気温でした。
西村:
この人たちはこれ以上上がらない、ということを読み切ったわけですね
増田:
増田の8月の記事に左右されずに…お見事!
西村:
40℃こえると思ったんだけどなあ

9月のクイズは最低気温です 

9月の東京の最低気温(小数点以下1桁)をあててください。

林:
関東でストンと気温が下がるのはどういう条件のときですか?
増田:
秋雨前線が南に下って北風が入ってくる、台風が通り過ぎて大陸から涼しい空気を引きずり込んで下がることがあります。

ヒント:直近3年の9月の東京の最低気温
2021/9/7    16.8℃
2020/9/30    14.7℃
2019/9/19    17.1℃

増田:
踏み込んで15℃を下回る予想をするかどうか
西村:
これだけ前半が曇っていれば後半で晴れるかも
増田:
晴れたほうが放射冷却で気温が下がりますから
西村:
僕の予想は14℃。一昨年よりも寒くなるかな
増田:
勝負行きましたね
林:
では私は17.2℃。ダラダラとメリハリもなくこれぐらいの温度が続く。
増田:
最近のおお!というのがない天気だとありえるかもしれないですね。

回答はこちら
(締め切り:2022年9月17日23:59)
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