私のデイリーポータルZベスト盤 2020年2月1日

私が選んだデイリーポータルZベスト盤:長嶋有さん

毎日3本、これまでに2万本近くの記事を作ってきたデイリーポータルZ。自分たちでも忘れてしまいそうになるその足跡を、改めて振り返ってみたいと思う。

しかし、自分たちで選ぶのは恥ずかしいし、そもそも実際に読んでいる人の好みとは違うかもしれない。みんなどんな記事が好きなんだろう。というわけで、読者を訪ね「デイリーポータルZの好きな記事」を教えてもらう連載をはじめます。

ここの文とインタビューまとめ:榎並紀行(やじろべえ)
写真:安藤昌教(デイリーポータルZ編集部)

インターネットにラブとコメディを振りまく、たのしいよみものサイトです。

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蒙を啓かれた「ガッツポーズワークショップ」

今回の読者は長嶋有さん。小説家である。

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長嶋有さん。これまでに芥川賞(猛スピードで母は)、大江健三郎賞(夕子ちゃんの近道)、谷崎潤一郎賞(三の隣は五号室)などを受賞。俳人でもある

芥川賞作家はデイリーポータルZをどう読んでいるのか? 恐る恐る聞いてみた。

長嶋:僕が一番面白いと思ったのは「ガッツポーズワークショップ」ですね。

長嶋:ガッツポーズって「ヒゲの剃り方」とかと同じで、各々が独学でやっているものじゃないですか。そこに巧拙があるって、そもそも思ってもみないことだった。蒙を啓かれるような記事でしたね。

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そもそもはハイタッチやガッツポーズが下手な編集長・林の思い付きが発端の企画。林以外にも、ライター陣の下手っぷりがいかんなく発揮された

長嶋:これ、後半でガッツポーズからハイタッチのワークショップになるじゃないですか。ガッツポーズとハイタッチは繋がっている、そこに道があったんだと気づかされました。武道の世界のように、ひとつの動作を究めると連動して会得できるものなんでしょうね。

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武道…なのか

長嶋:あと、古い記事で今も思い出すのは、「裸眼会(らがんかい)」。これ、裸眼で不自由になることによって、逆に見えてくる世界があるんですよね。たとえば、メニューの文字やデザインが別の模様に見えてしまうとか

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金色と赤でデザインされた「期間限定フェア」の文字を「なます」の料理写真と見間違えて注文してしまう林。裸眼の視力は0.06(当時)
(「裸眼会(らがんかい)」より)

長嶋:食欲を減退させないようにデザインされていることが、裸眼で見た時に面白さへとつながる。ひょうたんからコマのように、別の世界の面白さにちゃんとなっているのが凄いと思います。

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長嶋:「エスカレーター(いいエスカレーターの見つけ方)」の記事も好きです。これはデイリーポータルの基本線ですよね。エスカレーターのマニアが写真付きでいろいろ解説してくれるのが、オーソドックスに面白い。記事を読んでから、蛍光灯入りの光るエスカレーターを見つけると微量な喜びを感じるようになりました。

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いいエスカレーターとは何か分かる記事
(「いいエスカレーターの見つけ方」より)

路上観察みたいなものって他にもたくさんあるけど、デイリーの記事はなぜか忘れがたい。観察の仕方が丁寧なのか、さっきの蛍光灯みたいな視点に驚かされます。

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普通は見過ごすようなことが、じつは面白い

長嶋:最近の記事では、「ローソンのたまごサンドの記事(ローソンのたまごが畳み掛けてくるあのサンドイッチはガチ)」もよかったです。

長嶋:これ、僕もちょっと思ってたんです。たまごサンドは好きだけど、「過剰なものが出てきたな」って。でも、ぼくはそこ止まりだった。この記事ではちゃんとローソンに取材までして、面白さの解像度を上げているのがすごいなと思います。

これ、ローソン側の反応もいいですよね。こちらのテンションの高さに反比例して「はあ…」みたいな反応。

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当のローソンが、これを全く変だと思っていないのも見どころの一つ。おもしろいやつ見つけた!と意気込んで取材するも、先方と温度差があるのはデイリーの取材あるあるである

長嶋:ローソンのたまごサンドと似た系統だと、「群馬のスパゲッティの量が多い記事(高崎のスパゲッティは量が多い)」も好きですね。

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766円でこのボリューム! スパゲッティはMサイズで200g
(「高崎のスパゲッティは量が多い」より)

長嶋:高崎のスパゲッティの量が多い。言われてみれば確かに面白いんだけど、そんなの普通は見過ごすじゃないですか。見過ごしたって全く困らないんだけど、デイリーは見過ごさない。

こういうのって自ら面白いと思わないと、そんなに面白いことじゃない。それを突然、記事にしてくれるんですよね。

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絶賛である
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元ネタを知らなくても楽しい「カフカ」や「ギャルのコール」

長嶋:あとはやっぱり「カフカ(カフカ「変身」をネット通販風に描く)」ですね。いろいろな文学の名作があるなかで、『変身』って圧倒的にヘンなわけですよね。残酷だったり、不条理だったり、そういうものに的確にツッコミを入れてくれた名作ですよね。こういうことだよね!と。ずば抜けて面白い記事でした。

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文学の名作を、ネット通販風の大げさ演出で説明
(「カフカ「変身」をネット通販風に描く」より)

長嶋:林さんがパロディの元にした通販のページについては、ちゃんと見たことがないんですよ。でも、楽天を知らなくても「きっとこうなんだろうな」と想像できる。買わせようとするあまりに繰り返しになったり、しつこかったり、過剰に明るいフォントだったり。元ネタを知らなくてもうっすらと分からせる、優れたパロディですよね。

元ネタを知らないけど面白かったのは「ギャルのコールでいいこと言う」もそうですね。僕はおっさんだからギャルのコールなんて知らない。でも、これを読んで分かった気になりました。

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著者の林がバニラのトラックから着想を得たという記事。バニラ風にコールするのは福沢諭吉や松尾芭蕉である
(「ギャルのコールでいいこと言う」より)

長嶋:たまにこうやって知らないものが混ざると、デイリー自体の新陳代謝がちゃんとできてるんだなと。ずっとガンダムネタで笑ってる40代50代みたいに、古い鉄板ネタだけに頼らない。新しい文化を面白がれる人は、年をとっていかないのかなと思いましたね。

他にも、思い出そうとすればいくらでもあるけど、とりあえずこんなところですかね。

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ものすごく熱心に読んでくれている
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デイリー的な視点で物事を見るように

そんな長嶋さん、じつは自身もデイリーポータルZの記事に度々登場している。初登場は2007年だから、なんと10年以上の付き合いだ。最後に、思い出を振り返っていただいた。

長嶋:僕自身とデイリーとの関わりでいうと、小説家生活15周年の時、のぼりを作ってもらいました(小説をのぼりでアピールする)。あれ、普通に社会勉強になって面白かったです。

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比内地鶏、特売!みたいな勢いで小説をアピール
(「小説をのぼりでアピールする」より)

長嶋:それに、すごく宣伝になりましたよ。手っ取り早く目立てるから、その後1~2年は新刊を出す時に使ってました。

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20周年の時も、自腹で何かやりたいですねと長嶋さん。「花火のスポンサーなんていいかも。寄付した人の名前を読み上げてくれるじゃないですか。『小説は長嶋~』とかね」

長嶋:わりと黎明期の記事で、ゾートロープ型のポップを作った(まわるポップを展示中)のも覚えていますね。それから、深夜の書店に残ってオススメ本を選ぶ企画(おまかせ書店)も懐かしいですね。USTREAMで生中継して、番組っぽかった。

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当時は、書店を巻き込んだ企画も多かった。数々の無茶に応えてくれたのは「オリオン書房ノルテ店」さんです
(「まわるポップを展示中)より)

長嶋:あと、「途中でやめたノート鑑賞会」は僕が提案したんですけど、募集したノートの中には記事には載せられないような重い内容のものもあって、これ林さん原稿書くの大変だったろうなと思いました。思い付きを記事に仕上げるまでには、きっとすごく厳しいチェックがあるんだなと、申し訳ない気持ちになりましたね。

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こちらは長嶋さんが1ページ目でやめた大学時代の家計簿。わずか6行で挫折している
(「途中でやめたノート鑑賞会」より)

長嶋:今もたまに「これ、デイリーの企画になるかな」と思うんだけど、簡単に言っちゃあかんなって。だから自分のインスタとかでやってます。この前「コンビニ弁当を作る」って企画をやってみたんですよ。すごくいいコンビニ弁当の容器を見つけてね。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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長嶋:これ、容器に葉っぱがプリントされてるんですよ。この緑が、レタス的な役割を担っている。緑のものは任せろ!俺がやっとくから!と容器が語っているようで、一目ぼれしたんですよね。だから、食べ終わった後も洗ってとっておいたんです。それで、ある時、この容器を使ってオリジナルのコンビニ弁当を作ってみました。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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長嶋:いざ作ってみると、コンビニ弁当って手間がかかるんですよ。コロッケのためにジャガイモを茹で、鶏の照り焼きを作り、付け合わせのパスタや卵焼きも用意しないといけない。コンビニはパスタ部門、コロッケ部門と分業することで大量生産を可能にしているから、家庭でやるのは非常に大変。あとは、ぎゅっとフタをするからごはんをたくさん入れないと貧相になるとか、具がごはんとおかずをまたいでいるとコンビニ弁当っぽいとか、色んな発見がありましたよ。

苦労したわりには大してバズらなかったから、いつかリベンジしたいですね。

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いやいや、それおもしろいじゃないですか! デイリーでコンビニ弁当大会やりましょう!と、その場で記事化が決まった

長嶋:僕はデイリーを読むようになってから「これ、何かネタにできないかな」と常に思って生きるようになりましたね。つい最近も、コープでシャウエッセンが930グラム入ったパックを見つけてインスタに載せたんですよ。シャウエッセンって謎の二個くっつき袋で売られていますけど、あれじゃ足りないんですよね。最初からこのくらいの量で売ってくれよ!って思いました。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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長嶋:ただ、1kgのシャウエッセンが売ってたからって、以前なら見過ごしていたかもしれない。デイリーポータル的な視点を持つことで、鍛えられているのかなと思いますね。

 

インタビューを終えて

デイリーポータルZの関係者にもファンが多い長嶋さんを読者として話を聞くという贅沢なインタビューになった(普通、長嶋さんは著者だろう!)

普通は見過ごすようなことがじつは面白いという指摘はまさに慧眼で、自分たちがぼんやり感じていた面白さとはそういうことだったのかと気付かされた。

先日、記事の面白さはどうやって評価しているのか聞かれて、「なんとなく…」と曖昧な返事をしたのだが、今度からこのインタビューを見せることにしよう。

この読者インタビューは月1で来月も続きます。

(林雄司)

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