自身も影響を受けた、初期の実験記事
青山学院大学大学院社会情報学研究科で教鞭をとる阿部和広さん。専門領域はプログラミング学習で、登録ユーザー数約5700万人の教育用プログラミング言語「Scratch」の日本語版を担当している。
また、子どもにプログラミングを教える講習会やイベントも精力的に行い、NHK Eテレ「Why!?プログラミングフェス」や「フライデーモーニング・スクール」では“アベ先生”として出演する。
そんな阿部さんは、サイト開設当初からのデイリーポータルZ読者。自身のアカデミックな背景とは全く関係ない、「よくわからない記事」を好むという。今回はそのなかでも特にわからない記事や、2000年代の懐かしい記事を中心にチョイスしていただいた。
阿部和広さん:初めてデイリーを認識したのは2003年の大塚さんの「青くする実験」でした。普通、思いつかないですよね。色が変わるだけでこんなに気持ち悪くなるものかと、衝撃を受けた記事です。
他にも、初期の頃は実験系の記事をよく読んでいました。例えば「糸電話で市外通話」や「どきどき分度器」、それから「納豆を1万回混ぜる」。特に分度器は、眼から鱗というか。「あ、測っていいんだ」って思いました(笑)。
それまで“街中にあるものを測る”っていう発想がなかったですから。で、測ってみたら、それぞれの角度に意味があることが分かったと。発想も面白いし、発見もある。
この記事を読んで、分度器……ではないんですけど、私もいろんな測定器を買いましたよ。超音波で距離を測るやつとかね。天井の高さを測ったり、窓までの距離を測ったりしました。今も放射温度計で体温を測ったりしています。ただ、私の場合、インドア主義なので屋内で終わってしまう。デイリーのように、外に出ていくところまでは、なかなかいかない。
それから、なんといっても林さんの「ゴーゴー聴診器」です。マンホールに聴診器を当てて下水の音を聴いたり、エスカレーターや自動販売機に当てたり。街中の様々な音を聴く記事。これを読んで、やっぱり聴診器を買いました。すっかり忘れていましたが、この記事から着想を得て、身の回りのさまざまな信号を音に変換して聴ける「世界聴診器」という道具を作ったことを今思い出しました。
ちなみに、これを「未踏ソフトウェア創造事業」(現在は未踏事業)というプロジェクトに応募したところ、“パソコンの父”として知られるアラン・ケイ博士に採択され、スーパークリエータに選ばれました。当時、私はプログラマーでしたが、アランさんに出会い教育分野への転身を勧められたことが、現在の職へとつながる大きな分岐点となった。つまり私が大学教授になれたのは、デイリーのおかげですね。
実験系だと、2014年に石川さんとご一緒した「悪の電子工作を子供に教える」も思い出深いです。子供たちに悪い工作をさせようと思ったけど、いい子たちばかりで全然悪い感じにならなかった。ちなみに、この記事でひよこを上下させていた子は、「未踏ジュニア」に採択されていますよ。
あと、石川さんといえばヘボコン。石川さんは「ざんはわ」の時代から楽しく記事を拝見していたので、ヘボコンでこんなにビッグになるとは思いませんでした(笑)。
ヘボコンについては、最初は否定的だったんです。もっと、ちゃんとした工作をやるべきだと。確かに、高専ロボコンなどの技術が行きすぎてしまったのは分かるけど、それにしたってあまりにひどいと思っていて。
でも今は改心して、ヘボコン大好きです。杉並の和田小学校でもヘボコンの授業をしていただきましたもんね(「小学校でヘボコンの授業をする(僕なんかがプログラミング教育でいいんですか)」)。これもよく学校が許してくれたなと思います。
また、やりたいですね。今はコロナでリアルは難しいかもしれないから、「ヘボコン・オンライン」のほうでぜひ。
全然わからないけど面白い
プープーテレビは大北さん演出のものに惹かれます。「ひとんちでリア王」「かつての名パイロット」「石川大樹の“オフィスおもしろくねーな”」「猫チャンヲツカマエロ!」「アメリカが好きな橋田」が大好きです。好きな理由はよくわかりません。
特に「猫チャンヲツカマエロ!」。タレサンをかけた高瀬さんが木の陰から操縦していたというオチが、全然わからない。70年代の不条理劇のにおいを感じます。
それとは別枠ですが、「スナックべつやく」も好きでした。当時は、べつやくさんって本当にこんな人なのかなと思ってました。トラ柄のシャツ着てね。
これ、「最終回です」みたいな告知もなく、突然なくなっちゃったんですよね。なんとも言えない悲しみがありましたよ。
「“お父さんスイッチ”は外で押すと楽しい」も最高ですね。最高なので、日経xTECHの「簡単だけど奥深い!Scratchプログラミングの魅力」という連載で、オブジェクトのメッセージ送受信の仕組みを説明するために使わせてもらいました。編集者から“文字だけだと「おとうさんスイッチ」がどういうものか分からない”と言われたのですが、本家「ピタゴラスイッチ」(※)の代わりに、そのパロディのプープーテレビのほうを貼りました。
T・斎藤さんはプープーテレビ以外でも「長崎シリーズ」が大好きなので、いつか復活してほしいです。
(※)「おとうさんスイッチ」はNHK Eテレの「ピタゴラスイッチ」の番組内のコーナーです
「はまぐり刑事」みたいな記事を読みたい
林さんの記事は、いつもさすがの安定感ですよね。なかでも、伝説的なのは「ペリーがパワポで提案書を持ってきたら」と「カフカ「変身」をネット通販風に描く」のパロディシリーズ。
私の世代は、ペリーといえば「ペリー来航」のおもしろFLASHアニメなんですよね。あれが大流行した世代なので、もうペリーが出てきただけで笑ってしまうんですよ。それに加えて、パワポが下手くそな人をよくとらえた、この再現度。歪んだ矢印の使い方や、最後に握手で終わるところなんかが絶妙で強烈に面白かったです。
カフカ〜のほうも、絶妙な“ずらし”ですよね。今だったら、なんのパロディをするといいのかな。YouTubeの「今から誰にも言えない秘密を教えます」っていう胡散臭い広告とかでしょうか。
ただ、今も林さんの記事は抜群に面白いんですけど、昔の狂気じみた記事もたまに恋しくなります。なかでも復活を願うのは「はまぐり刑事」です。これはもう、本当にわけがわからない。数多いデイリーの記事のなかでも、一番ぶっとんでいる気がします。
ちなみに、はまぐり刑事は珍しく「最終回」のアナウンスがあったんですよ。ちゃんと「今回でおしまいです」って書いてある。でも直後に「ではまた!」とも書かれている。「また」って言われても困るけど、いつか帰ってくるんじゃないかと期待しています。
最近は、このノリのものが見られないのは少し寂しいですね。たまには、誰もついてこられないような尖った記事も読みたい。昔の『ガロ』とか、ペヨトル工房の『夜想』みたいなアングラ感や退廃感を、デイリーに期待しているところも少しだけあります。
だから、尖った記事だけ載せる、第二ファウンデーションみたいな姉妹サイトを作ってほしいですね。そして、そこで「はまぐり刑事」だったり、ギリギリのラインを攻めた記事をやってほしい。乙幡さんに中国から届いたタネでアクセサリーを作ったりしてほしいです。
でも、デイリーは、ボラは見に行っても「コロナパーティー」みたいな方向性には絶対に走らないでしょ。その線引きにはしっかりポリシーがあって、私たち読者もそこは信頼していますから。
<阿部和広さんのオススメ記事>
青くする実験
小学校でヘボコンの授業をする(僕なんかがプログラミング教育でいいんですか)