特集 2022年3月5日

「おおきなかぶ」から「複数人の協調動作による巨大な蕪の収穫方法の提案」に

先月掲載した「おおきなかぶを論文風に書く」が大好評だった、爲房新太朗さんにインタビューしました。

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論文風に書いたら何でも頭が良さそうな内容に見えるのではないだろうか。絵本の名作「おおきなかぶ」を論文風に書いてみました。

Twitterで論文の査読風コメント

橋田:先月の記事「おおきなかぶを論文風に書く」が話題になったので話を聞かせてください。Twitterの反応がとにかく良いのが印象的でした。


爲房:いろんな人が感想を書いてくれましたね。論文の査読風コメントが多かったです。査読ってわかりますか?

橋田:知らなかったです。

爲房:大抵は論文は学会に出すんですが、そこでツッコミどころがあったら査読担当の先生からツッコまれるんですね。

橋田:コメントみたいな感じですか。そして、査読の文体もかたいという…

爲房:独特の雰囲気がありますね。

橋田:査読でチェックされると、修正したりするんですか?

爲房:論文っていくつか種類があるんですが、「査読つき論文」の場合は査読者の指摘を全部解決してOKをもらわないと掲載してもらえないんですよ。
なので締め切りまでに頑張って修正しなくちゃいけないんですね。
場合によっては再実験して結果を追加するということも…。

爲房:編集部チェックみたいな感じですね

橋田:再実験して結果を追記とか大変ですね…。
デイリーポータル編集部の場合は、失敗してもその過程が面白ければ大丈夫ってパターンもありますけど。

爲房:「まぁ、それはそれで!」となるデイリー編集部は寛大です

短い論文はフォーマットがかっちり決まっている

爲房:記事を書くにあたって論文というものがどこまで馴染みあるか、というところが気になっていました。

橋田:詳しく知ってる人にも、知らない人も「論文」というイメージで広く受け入れられた感じ印象でしたね。

橋田:爲房さんは論文をたくさん書いたんですか?

爲房:僕が学生時代に書いたのは卒業論文・修士論文と、あとは学会での口頭発表用の原稿くらいですね。たぶん全部で5本くらいです。

橋田:5本も!では、書き方というかフォーマットは覚えていたんですか。

爲房:短い論文はフォーマットがかっちり決まっているので。

橋田:なるほど!ピッタリはまった感じでしたか。
思いついたとき、これはすごいことを思いついたぞ。と手ごたえみたいのありましたか?早く出したい、とか…

爲房:デイリーポータルで書く上でフォーマットネタって一度はしっかりやってみたかったんですよね。林さんの「ペリー来航をパワポでやる」とか「グレゴール・ザムザの変身を楽天みたいにする」とかを読んであこがれがあったので。論文なら自分にも馴染みがあって書けるぞ!と思ったので絶対にやらねばという感じでした。

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ペリーがパワポで提案書を持ってきたら
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カフカ「変身」をネット通販風に描く

 

橋田:最後に「締め切りギリギリまで書いてた」って書いてあったから、やっぱり大変でしたか。

爲房:大体みんなそうだと思うんですけど、ギリギリでまとめて先輩とか先生に見てもらって直して…という繰り返しでした。今と変わらないですね…。

爲房:論文の締切って延長されがちなので、世界的にみんなギリギリで書いてるんだと思います。

橋田:「論文の締切って延長されがち」、「世界的にみんなギリギリ」とか言って大丈夫でしょうか。

爲房:国際学会でもそんな感じなので大丈夫だと思います!たまに延長されなくて泣きを見ますが。

橋田:デイリーポータルZの入稿締め切りもみんなどんどん延びてきてますしね…

爲房:ひー

「ジャックら」「おばあさんら」

橋田:こまかい内容のことなんですが、小技が効いてましたね。
私は書いたことないんですが、よく使う言葉とかが的確で知ってる人にはまったんでしょうか。

爲房:感想で「ジャックら」「おばあさんら」がよくウケてた感じがありますね。

橋田:「近年」とか、積分記号などを使うとかでしょうか。

爲房:「近年」もそうですね。「近年」はみんな書きすぎて揶揄されがちになったんですよね。

橋田:あと、計算式を入れたりフローチャートを入れたりしてましたね。あの計算式は合ってるんですか?

爲房:計算式はめちゃくちゃ適当ですね。一応「それぞれの引っ張る力を合計するぞ」という意図だけは式として表してますが。

橋田:信じてしまってました…。

爲房:Σとか使うとそれっぽく見えますよね。

橋田:フローチャートが良い、というツイートも見ましたよ

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うんとこどっこいしょ→蕪が抜ける?

爲房:フローチャートに「うんとこしょ どっこいしょ」が入れられたので良かったです。

橋田:「図2に示す」みたいな書き方も論文の形式っぽいですね。

爲房:確かに特有な書き方ですね。

爲房:論文を1ページに収めたかったので、ホントはフローチャートの開始と終了の部分を書かなくちゃいけないのに削ったんですが、野生の査読者からたくさんツッコまれました。

橋田:めっちゃくちゃ真剣に見てくれてるじゃないですか。

爲房:見てますね~。

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当初の予定は「桃太郎」だったが論文の構成に合わなかった

橋田:それでですね、ネタ相談のときは最初桃太郎でしたよね…。ですが、下記文章を読んで納得しました。
>>始めは誰もが知っている桃太郎を選ぼうと思ったが、おおきなかぶのように「何回もトライして最後に成功する」といった内容の話でないと論文風にしづらいことがわかった。

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爲房:特に僕が工学部だったのもあると思うんですが、構成として「背景→仮説→実験→結果→考察」という流れになることがほとんどなんですね。

で、桃太郎だとこの流れに合わせられないなと気づきまして…。

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桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか」については検証済

橋田:書けないな、という気づきがあったんですね。

爲房:「何人もかぶを抜こうと試した」とか、「わらの家・木の家・レンガの家の順に吹き飛ばそうとした」とかだと書きやすいですね。

橋田:おおきなかぶはピッタリはまりましたね。
桃太郎は味方が増えて鬼退治に行くだけですから、実験→結果というところがないですね。

爲房:そうなんですよ。「きびだんごをもらったかどうかで強さが変わるのか」という流れにしようかとも思ったんですが、話が変わってしまうので…。

橋田:論文にしやすい童話とそうじゃない童話があるんですね。あかずきんはいけそうですかね。狼が何度も試すくだりが、はまりそう。

爲房:赤ずきんもいけそうですよね!ちょっと考えてました。「どうしてそんなに口が大きいの?」あたりを膨らませて。

橋田:いいですね。そうすると、さるかに合戦はいけますかね

爲房:さるかに合戦もいけそうですよね。さるをやっつける下りをフローチャートに…とか考えちゃいますね。

橋田:またやりたくなっちゃいますか。とはいえ、時間かかりそうですね。どのくらいかかりますか?という野暮な質問してもいいでしょうか。

爲房:構成考えるのですごいかかりました…。1週間くらい流れを考えてました。書くのは1日で出来たんですけどね。

爲房:書き始めたら意外とすんなりいけるな、と思うのも実際の論文っぽさがありました。

橋田:へー!すごい、1日で書けたんですね。でも構成に1週間かかる、下準備が大事なんですね。

中身のわりにかしこまって書く

橋田:考察とまとめの「うんとこしょ、どっこいしょ以外の声を出した場合の引っ張る力の変化についても調査したい」の部分が好きでした。バカバカしくて良かったです。

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うんとこしょ どっこいしょ以外の声を出した場合の引っ張る力の変化についても調査したい

橋田:全体的に言えることなんですけど、こういうどうでもいいことを真面目に書く機会って会社でありませんか

爲房:中身のわりにかしこまって書く、みたいなことですか。

橋田:ええ。私、前の会社でIDカードをなくしたんですよ。昼ごはんにパンを買ってきて、パンが入った袋にIDカードを入れたまま捨てたんです。

そのとき始末書みたいのかななくちゃいけなくて、経緯と今後の対策を書きました。今後はIDカードを必ず外さないようにする。みたいなことを堅苦しく書きました。

爲房:すごい

橋田:でも、おもしろがりながら書くとすっきりしますね。

爲房:デイリーで記事を書く仕事って副業として会社には申請しているんですけど、「この副業に会社の技術情報を渡したりする可能性はないか」みたいな質問にかしこまって「ないです」と書きましたね。

橋田:完全にないですね。

爲房:完全にないですよね。

橋田:安心してほしいです。

爲房:よかった

絵本の重版の数がすごい

橋田:あと、おおきなかぶについてなんですが、190版ってすごいですね

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190版

爲房:すごいですよね。裏表紙めくってびっくりしました。でも、絵本って結構そういう重版多いらしいそうです

橋田:一番多い本は何ですかね、調べたいです。

橋田:そして、童話や子供向けの本を大人になって読むと面白いですよね。今、こどもが学習漫画にはまってて面白いです。アイスクリームのひみつや回転すしのひみつ、とか借りてくるので読んでます。

爲房:学習まんが、面白いですね。

おおきなかぶも絵が面白かったですね。かぶが抜けないとおじいさんがめちゃくちゃしょんぼりしてて。

橋田:味わい深いイラストですよね。しみじみちゃいます。

爲房:いま「はらぺこあおむし」を見たら389刷って書いてありました。しかもお下がりで古いやつなのでもっといってそうです。

橋田:390版…。エリック・カールの親族うらやましいですね。

爲房:重版出来!

橋田:編集長日記は1回だけ増刷しましたけど…

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増刷出来!「編集長日記」「営業日報」2冊セット

爲房:すばらしい!

研修で使いたいっていう問い合わせがきた

橋田:最後になりますが、研修で使いたいっていう問い合わせがきましたね。いい課題になりそうですよね。SNSでそんなコメントも読みました。

爲房:教材にしたい、という感想が結構ありましたね!

橋田:面白がるために作ったのに、真面目な現場でも使っていただけるということはありがたいですね。

爲房:どういう授業や研修になるんだろう…?と気になります。

橋田:見てみたいですね、授業もできあがった論文も。
今後論文書く人の導入の授業とかに使われるんでしょうか。楽しみですね。

 

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