謎解きと自分
大学生の時から謎解きにハマっていて、よく研究室のみんなと謎を解いていた。とりわけ零狐春という団体の作る謎が大好きで、いまでもリモートで集まって解いている。そしていつしか、謎を解くだけでは飽き足らず、自分でオリジナルの謎を作るようになった。
そして、この度、長いステイホーム期間の間に、ついに大掛かりな問題が完成した。
そして私がゲームマスターになって、リモートで集まった人々にこの謎を解いてもらうというのを何グループかでやったら、どの回も最高だった(私の気分が。)これは新しい嗜みである。ゲームマスター。それはゲームを作ったものだけがたどり着けるポジションであり、非常に酒がうまい。せっかくなのでデイリーポータルZのメンバーにも解いてもらうことにした。すべては、私がおいしいお酒を飲むために。
企画名が「謎解きゲームを解かされる会」となっている。「解かされる会」ってなんだ。なんだかいやいや解かされているような言い方ではないか。なにはともあれ、私にとってはゲームマスターとなるチャンスである。ああ楽しみだ…。
個性派ぞろいの参加者たち
謎を解かされる不幸な役の人たちは、当サイトのライター/編集部からこの4人である。途中からさらにライターの北向さんも参加する。
『横溝正史や江戸川乱歩、中井英夫が好きですが「おもしろいなあすごいなあ」と思って読んでるくらい虚無です。』
MENSA会員、有毒生物に詳しい人、エンジニア、担当編集がそろった。きっと、それぞれの個性がうまく組み合わさってうまくいくやつだ。
伊藤「謎解き経験まったくありません。途中で心が折れたら眺める側に回ろうかと思います。オンラインなので下向いていればバレない。」
解かされている感がすごい。
そして謎解きゲームをつくったのが私、ほりである。
そして今回のルールはこちら。
ルール
- プレーヤーはYouTubeのコメントを見てはいけない
- 謎解きのための検索はしてもよい
- 23時までに解けたらプレーヤーの勝ち
解けなかったらゲームマスターの勝ち
いよいよ始まる、至福の時...!!
こうして特にゴングが鳴るわけでもなく、ぬるっと始まった、ここから2時間の戦い。せいぜい楽しませてくれたまえ...。
せっかくなので始めにゲームマスター目線の様子を共有しておく。
ゲームマスターというものが何かはよくわからないが、私の考えるゲームマスターは、たくさんのモニターで監視しているイメージである。
お酒とおつまみとして、ワインとパイの実とポテチを用意している。どんどん飲むぞ。
そして手前には据え置き型のUSBマイク。ふつうのヘッドセットよりもゲームマスターっぽさが出た。
飛ばしまくる井上さんとあせるゲームマスター
ここからは謎を解く様子をお伝えする。解き方のネタバレも含まれているので、自力で解きたい人はここから解けるので解き終わってから読んでいただきたい。
それぞれの模様を押すと、問題っぽいのが出てくるようになっている。
井上「上がAlexa(アレクサ)のアイコンで、文字がAxelaと逆になっていますね。下はSiriのアイコンなので、これも逆から読めば答えはiris。」
石川「これもう解けたんじゃないですか?ほりさんうつむいてませんか?」
思ったより井上さんがするどいが、まずはQ1なので問題も簡単。これからが本番である。
井上「英語になると考えると、白い線がhairじゃないですか?」
石川「②がaで③がiで④がrってこと?」
井上「青の線が何とかarisの首都なので、パリだ。①にpを入れるとParisになる。」
爲房「そうするとビールはipaですね。」
石川「じゃあ①②③④の答えはpairですね。ほぼ井上さんが解いている。井上さんを連れてきた時点で勝ちですね。」
この問題、3つの矢印のうち、正攻法は白(hair)→青(paris)→黄(ipa)なのだが、一発でその順番で解いてしまった。なんというか、答えへの嗅覚がするどい、井上さん。
爲房「ここはどこでしょう?ですね。」
井上「ビックカメラがある。あとHAPPY。窓に映る緑色がサミットじゃないかな。」
伊藤「HAPPYてそんなにある店じゃないですね。」
井上「カラオケヒットパレードベスト10とも書いてある。」
ここから検索祭りが始まる。
井上「ベスト10とビックカメラが一緒にある場所を探せばいいのかな。」
爲房「ベスト10がほぼ東京・神奈川なのでしぼりこめそうですね。」
井上「ん〜。あ、藤沢かな?藤沢に両方ありますね。」
井上「(ストリートビューをみながら)じゃあハテナの答えは…あ、あった。stepか。」
井上さん、検索能力も高いのか。だんだんおそろしくなってきた。
石川「これ、引き算じゃないですか。c、n、p、e?違うか、そんな単語ないな。」
井上「あー(分かったような声)はい!真ん中の点線で折るんですよ。すると c、u、b、eですね。答えはcube。」
石川「大丈夫かなこれ。順調すぎて見てる人に楽しんでいただいているのか。」
順調すぎる。まだ謎解きを初めて10分しか経っていないのに、すでに8問の小問のうち4問解かれてしまった。ゲームマスターもさすがにちょっと不安になってきた。
まだまだ止まらない井上さんと、絶妙なパスを出す爲房さん
井上「下がCDEFGABCで、上がドレミファソラシドの頭文字ですね。①②③④はreadですね。」
10秒で解かれてしまった。ドレミファソラシドはCDEFGABCとも表すので、そこに気づけば瞬殺だ。
井上「なんだこれ。」
石川「yは小文字でGは大文字ですね。」
井上「0.379G...。あ、これで検索すると、火星の重力っぽいですよ。」
爲房「1.881yで検索すると火星の公転周期のようです。」
井上「火星だ。こたえはmars!」
はやい…。いよいよ不安になってきた。友人に解いてもらったときはけっこう苦戦していたのに、井上さんがすべての障壁を簡単に乗り越えてしまう。
井上「何州?」
石川「調べると、ネブラスカとアーカンソーですね。」
石川「あ、州名を2文字で表す表記法がありますね。ネブラスカがNEで、アーカンソーがARで、nearか。」
爲房「遠くから薄目で見るんですかね。」
井上「3がEとか?そしたら5はSか。」
石川「3行目はZEUSですね。」
井上「ANS. IS ZEUSか。答えはzeus。」
なぬ〜。この問題けっこう難しい自信あったのに。人によっては何十分も悩む問題なのに。
こうして、8問の小問をすべて答えられてしまった。謎解き開始からまだ16分しか経っていない。しかし、ここからが難しい。小問を解いたところで、どうすればいいのか、それは示されていない。
面積を求める?
さて、ここからどうするか。とりあえず答えを並べてみるとこうなる。
ちなみに真ん中のマスをクリックすると…
井上「円環の理?いままで出した答えが繋がるんですか?」
爲房「『円環の理が答えを導く』の文字に色がついているのも気になりますね。」
石川「模様の色が関係あるんだ。」
井上「赤から始まって紫で終わるっていうことですか?」
いいぞいいぞ。これが今回の問題の一番の仕掛けなのだが、めちゃくちゃ難しいように作ってある。これで2時間持ってくれ。頼む〜。
伊藤「円環の理(ことわり)って検索すると、魔法少女まどか☆マギカが出ますね。」
石川「でも、ほりさんってあんまりアニメ観ないって言ってましたよ。パーソナリティから攻めるのもあれですけど。」
井上「円周率ってことは、面積出すのかな〜。」
爲房「左下の模様の面積がめちゃくちゃ面倒くさいですね。」
井上「やりたくないな〜。」
井上「正方形の画像が64ってことは、一辺の長さが8ってことじゃないですか?」
石川「そんないやな問題出します〜?」
井上「いますごいお酒すすんでるんだろうな〜。」
はい。おかげさまで大変お酒がすすんでいます。早く面積を求めればいいのに。しかし、おじさまたちは、なかなか面積を求めたがらない。
石川「でも計算して答えが出たところで、それがどうなるんですかね?」
伊藤「やっぱりまどか☆マギカなんじゃないの?」
石川「まどか☆マギカのキャラの色と関係あるんですかね?」
お、話が変な方向にすすんでいる。まどか☆マギカはアニメも映画も観たけど、実際のところ謎の答えには関係がない。
結局、いやいやながらもどうにか面積を求めていた。方向性は合っている。最近の謎解きはどうもひらめき一発勝負な気がして、もう少し泥臭い問題も解いてもらいたかったのだ。ははは。
そうこうしているうちに、面積が出た。
さて、どうする
さて、ここからは助っ人として北向ハナウタさんも加わる。
キリンに詳しい。ハッカーになったこともある。
北向「よろしくお願いします。」
石川「んー。irisは何なんですかね?」
伊藤「オーヤマですかね。」
井上「一応、ギリシャ神話でイリスというのがありますね。」
石川「辞書引くと植物のアヤメというのが出ます。薄紫色ともありますよ。」
悩んでいる。こういう悩んでいる姿を見るのが楽しい。ゲームマスターは気がつけばどんどん性格が悪くなる。
石川「円環だからしりとりのようにつながるんですかね。」
井上「答えが全部4文字なのと、面積も4桁なので何かあるんだろうなぁ。」
伊藤「調べるとまどか☆マギカにアイリスというキャラがいるみたいですよ。」(※いません)
まどか☆マギカの線をあきらめない伊藤さん。
伊藤「キュゥべえというキャラもいるぞ。」
石川「4問目の答えのcube?そういうこと?」
ここで石川さんが気づく。
石川「赤から始まって紫で終わるということは、赤、オレンジ、黄色、きみどり…と順番にたどればよい?」
井上「そうなんですけど、それでどうすればいいんでしょうね?」
お、するどい。色相環。これも合っている。あとはこれらを組み合わせれば解けるのだが…。
ここでちょうど残り1時間。8問の小問を一瞬で解かれてしまった時はどうなることかと思ったが、その後はいい感じに悩んでもらえている。
ほり「ちょうどあと1時間ですね。」
井上「お、ゲームマスターがしゃべったぞ。」
ほり「あと1時間ですよ。」
北向「2回言った。」
井上「聞こえてる。聞こえてるからちゃんと。ホストにミュートにしてもらおうかなあ。」
あれ、なんか立場が逆転してませんか。悩みを共有することで団結力が生まれていませんか?ゲームマスターの立場があやうい。
飽きてきた
石川「これもうなんか適当に入れてみます?horiとかnazotokiとかhori-saikouとか。」
井上「もうそろそろ、ヒントもらいますか。」
ほり「お、ヒント出しましょうか?笑」
石川「そういう聞き方もイラッとするなぁ。」
ほり「じゃあひとつだけ特大のヒントを。まどマギは関係ありません!」
井上「特大だー。」
ここで、何の脈絡もなく、とつぜん北向さんがひらめく。
北向「あ、待ってくださいね。eightというタイトルなので、8に意味があるのかと思って…。並んでいる順に8に対応する文字だけ拾ったら、stressedとなります。」
石川「入れてみましょう。」
井上「すばらしい。」
北向「うわ、これ気持ちいい。」
井上「うらやましい」
井上「こんだけ悩ませておいて答えがstressedというのもゲームマスターが憎たらしいですね」
北向「で、niiyと出るのは何でしょうね」
大掛かりな謎を解いたが、まだ本当の最後の答えではない。でもあと少し。
最後の謎を解く
北向「niiyって何でしょうね。」
石川「ページのソースコードみたらヒントがあるかな。」
井上「ソースコード読んじゃいます?」
ほり「読んでもいいですよ。」
石川「そういえばこのniiyってやつ、ニフティのロゴに似てるんですよね。」
石川「niiyを全選択すると隠し文字が出てくるとか?」
井上「古(いにしえ)のインターネットの隠しリンク的な。」
石川「Zipの解凍パスワードが出てくるやつだ。」
伊藤「でも、niiyの間に文字が入るのは本当にありそうですね。」
石川「これ高さがずれているのは関係あるんですかね。」
井上「絶対ありますよ。これで関係なかったら怒りますよ。おしゃれとかの理由でやっていたら。」
やばい。高さをずらしているのは引っ掛けです。これは怒られるやつだ…。
ほり「あと30分ですね。あと30分ですね。あらあら。あっという間で。(うれしそう)」
井上「ミュートになってないなぁ。」
石川「ちょっとゲームマスターに余裕が出てきた。」
ほり「ワイン1瓶空いちゃいましたよ。」
ほり「あと20分ですね。もうひとつヒントを出します。」
ほり「円環の理が答えを導きます。」
石川「それ1時間前に聞きましたよ。」
井上「もう一回使うってことですよね。」
気づけばあと10分。しかしここで北向さんが突然ひらめく。
北向「ちょっと待ってくださいね。」
石川「来るか?」
北向「niiyの間にアルファベットを入れるのを考えていたんですよ。infinityだと、ぴったり入るんですよね。」
石川「入力してみましょう。」
ほり「解かれた!」
全員「わはは!(歓声)」
井上「すばらしい」
石川「理由がいまいちわからない!」
石川「でも我々は、ゲームマスターを倒しましたよ。」
ちゃんとした解き方の解説
ちょっとモヤっとする感じになった。実は、最後は1ステップを飛ばして解かれてしまった。ここで本来の解き方を解説しておく。
実は、「円環の理が答えを導く」とあるが、円環なので、赤から紫に読むだけでなく、紫から赤に読んでも良い。
そして、紫から赤に読むと出る「dessserts」を入力すると…
ifntと出る。ifntとniiyを交互に組み合わせると本当の最後の答えinfinityとなるわけだ。みなさん、クリアおめでとうございます。
結局、ヒントらしいヒントは特に言わずに解かれてしまった。プレーヤーが強かった。でもおもしろかった〜。
どうやって作ったか
最後に、どうやってこの問題を作ったのかを簡単に共有しておく。問題が作れるようになれば誰でもゲームマスターになれる。
まずは、コンセプトを決めるところから。今回は
- 小学生レベルの算数の計算をさせたい
- 小問をたくさん用意して協力プレイできるようにしたい
- Webページへの実装はできるだけ簡単にしたい
という思いがあった。これをもとにお風呂で「うーん」と考えること数十分。アイディアが浮かぶ。
- 円の面積を求めさせる
- 3 × 3のマスに円の面積を表示し、各マスを押すと小問が出るようにする
- 円の面積と小問の答えをある法則にしたがって読むと最後の答えがでるようにする
- 小問を8個にして、タイトルも「eight」にするとおしゃれ。8の部分を読ませる
- 円の面積のところに色をつけて、色相環で並べ替えるようにする
- 最後の答えは回文にして、色相環の向きでどっちからでも読めるようにする
- 本当の最後の答えを用意する
この時点ですごい頭を使っている。脳内メモリ使用率は100%だ。パフォーマンスが著しく低下する。
ただ、ここまで決めてしまえばあとは落ち着いて問題を形にしていけば良い。解くストーリーを整理して、制約の大きいものから解決していく。
あとはてきとうに小問と図形を考えて、問題を画像化して、Webページに載せれば完成。そして何も知らない妻にテスターとして解いてもらって、論理的な矛盾や飛躍がないかをチェック。意外と道のりが長い。他にも、万が一Webサイトのサーバーがダウンしたときのために、別のレンタルサーバーにミラーサイトも作った。ゲームマスターは一見偉そうだが、実は、ゲームが始まる前にけっこうな量の準備をしていたのだ。
多くの人がなんとなく思い描くような「これからみなさんには殺し合いをしてもらいます。」的なことを言う悪のゲームマスターも、前日はあわただしく準備しているかもしれないし、本番直前には入念なリハーサルをしているのかもしれない。
またやります
自分の作った謎を解いてもらい、ゲームマスターとしてただ眺めるのは、それはもう最高のひとときだった。味をしめたのでまたやらせてほしい。なんならもう次回の謎を作り始めている。今度は井上さん対策でもっと難しい問題にするので挑戦求む。
ちなみに、次回の謎解きのテーマはイカの予定です。お楽しみに。