れんさい企画「ベルリンのふつうのくらし」
登場人物
テレビに出たら70代の方から続々とメールが来た
古賀:
ほりべさんにベルリンでの暮らしを聞く連載、3回目は「ごらく編」です!
どんなものを観て楽しんでる? みたいなことが聞けたらなあと思っております。
ほりべ:
はい! 私は現地のカルチャーよりも、アメリカのドラマとか、イギリスのコメディとか、海外のものを観てしまいがちなのですが、よろしくおねがいします!
古賀:
そもそもどんなコンテンツ好き? なんて「人それぞれ」というのが最たるところですもんね……。なので気にせず所感をぜひぜひ教えてください~!
で、前回、ベルリンの30代、40代の家にはテレビがあまり無いという話が前回(おうち編)の最後に出まして。
ほりべ:
そうなんです。5年前までは夫がずっと昔に買った、すごく重くて分厚いブラウン管のテレビを観ていたんですが、あまり観なくなったし、引っ越すときに処分してしまいました。友人の家に行ってもない家が多いかも。
古賀:
日本でも脈々とテレビ持たない派はいるにはいるんですよね。きっと今また増えてるんだろうな。
あ、そういえばほりべさん、テレビに出たんですよね!
ほりべ:
そうなんです。ブランデンブルク州で自転車旅行をした時の話を本にしたんですが、嬉しいことに小さな規模ではあるんですが、伸びていて。
RBBというベルリンとブランデンブルク州の公共放送局があるんですが、そこで働いている友人が、ちょうどベルリンとブランデンブルク州をまたぐ話題を探していたレポーターの方に紹介してくれて。取材を受けて、ニュース番組にちょっと出していただきました。
古賀:
うおっ! 登場している! 外国で本を出して売れてテレビに出るの熱い展開だな~!
ほりべ:
そのときに局の方と話したんですが、ドイツでも若い人のテレビ離れが進んでるそうです。
実際、テレビを観て本を買ってくれた方々から出版社や私にメールをいただいたんですが、70代の方が多くて。
古賀:
あら! でも良いご縁。
ほりべ:
そうなんですよ。うちの地域にも自転車で遊びに来ませんか? みたいな内容で。すごく嬉しかったです。
古賀:
泣いてしまう!
日曜20時は刑事ドラマ「事件現場」の時間
古賀:
ああでも、なるほど本当にテレビは70代くらいの方々が熱心に観てるんだなーと思わされますね。
ほりべ:
ですよね。でも最近は「テレビは面白くないからあまり観ない」と言うドイツ人も多いです。
古賀:
わは! え、どういうことですかね、面白くないというのは、funnyじゃない? interestingでもない?
ほりべ:
両方ですかね……。最近は番組制作の予算が減ったおかげで内容の薄いリアリティ番組の数が急増したのもあると思いますが、もともとドイツは、ヨーロッパ圏内でもジョークが面白くないとか、ユーモアのセンスが無い国としてからかわれています……。
古賀:
芸風は社会風刺が多いって聞いたことあります、ドイツのお笑い。
ほりべ:
そうそう、例えばイギリスってコメディ大国じゃないですか、モンティ・パイソンとか。あとは同じドイツ語圏でも、オーストリアはブラックユーモアで有名なんですが、ドイツは堅いというか、真面目というか、そういう国柄がコメディやテレビ番組にも反映されている感じです……。
古賀:
なるほど……。
ほりべ:
でも今でもカルト的な人気があるのは、1970年からずっとやってる「Tatort」という刑事ドラマです。
毎週日曜日の夜8:15時に始まる90分もののシリーズで、今も年に35話ぐらいの新作を作ってるらしくて。
「Tatort」というのは「犯行現場」という意味です。
古賀:
うおっ!おもしろそう! 刑事ドラマのシリーズが脈々と生き続ける感じ、日本にも「科捜研の女」とかありますが、1970年からはすごい……。
ほりべ:
日曜日の夜8時は絶対これを観る、と言う儀式的なレベルですね。放送時間帯は電話しちゃいけない、みたいな暗黙のルールもあったりします。
古賀:
街から人が消えるやつですね!
ほりべ:
そうですね! 今でも私たちの世代の友人とかでも、テレビ持ってない人とか、テレビ持っててもほかの人と一緒に観たい人はバーに行ってみんなで観たり。
古賀:
刑事ドラマをパブリックビューイングするんだ!
ほりべ:
そう、そうなんです。毎週「Tatort」を観せるバーがあるんです。
古賀:
むっちゃ熱い。ラーメン屋さんのテレビが毎週ちゃんと「水戸黄門」流すみたいなかんじかなー。
ほりべ:
そうそう、そういうことだと思います。
古賀:
でも1970年スタートってすごいですね。もう50年以上歴史がある……。
ほりべ:
毎週毎週違う地域の地方のテレビ局が作ってるそうで、例えば今週はブレーメンの事件とかミュンヘンの事件、とか。事件には現代の社会問題が入ってきたり。人種差別の問題とか、政治の問題とか。
古賀:
ここでも風刺だ!
ほりべ:
ミュンヘンの支局が制作したやつを観たことがあるんですけど、バイエルン地方のなまりが強くて、全然わからなかったです。
古賀:
あ~~っ。各地のなまりが。演出的にちょっとたまんないですね。各地の言葉を喋る登場人物が出てきて。
ほりべ:
ですよね。そういうこともあって、今も人気の長寿番組です。
国外に出ていく映画は基本歴史もの
古賀:
テレビがないとやっぱりパソコンでNetflixとかAmazonプライムとか観る感じですか?
ほりべ:
そうですね。あとはテレビ局の番組で観たいものがあればネット配信しているものを選んでオンデマンドで観たり。
そうだ、日本で有名なリアリティ番組の「テラスハウス」ってありますよね。あれもドイツで人気みたいです。
古賀:
えっ! なんで!
ほりべ:
意外ですよね。ドイツに住んでいるアメリカ人の子は、日本の若者の日常生活が見れるから面白い、と言っていました。
古賀:
コンテンツってもうわりと国を超えて行き来してるんでしょうよね。日本でもみんな好き勝手にいろんな国のを観てるもんなー。
でもあれ? ドイツのコンテンツってあんまりイメージないかもですね……。映画監督のヴィム・ヴェンダースは神ですが……。
ほりべ:
ヴィム・ヴェンダースは有名ですね!やはりアカデミー賞を取ったり海外で話題になるようなメジャーなドイツ映画は、大体ナチス時代や冷戦ものが多いみたいですね。
古賀:
いまWikipediaで「アカデミー国際長編映画賞ドイツ代表作品の一覧」というのを見てみたんですが、たしかにタイトルから「ヒトラー」「東ドイツ」「壁」というのが目立っててすごい。
あ、でも「ラン・ローラ・ラン」が載ってる、そうか、ドイツ映画でしたね!わ~! 世代的にどストライクの映画です。
ほりべ:
私も好きです!「ラン・ローラ・ラン」はベルリンが舞台なんですよね。
ドイツにはブンデスリーガがあるぞ
古賀:
ほりべ家ではどんなもの観てすごしてますか?
ほりべ:
うーんそうですね、実はあんまりあれこれ観ていなくて、Netflixはもう解約しようかなんて話していたところなんですが、夫はサッカーをよく観てます。
古賀:
あっ! そうか、ヨーロッパの人たちにはサッカー観戦がある。 ドイツだとブンデスリーガってやつですかね。
ほりべ:
そうです!夫はブレーメン出身なので、ヴェルダー・ブレーメンの大ファンなんですが、この10年以上全然元気がなくて。毎回なんでこんなに苦しみながら観てるんだろうと思いながら様子をうかがってます。
古賀:
スポーツチームを応援する気持ちはもうしょうがないみたいですよね……やっぱりみんなバーで応援するんですか?
ほりべ:
ですね! チームごとにバーがあります。ブレーメン出身の人がやってるバーで、うちはブレーメンのゲームは全部見せます、とか。ブレーメンのビールを出したりとか。そこで仲間ができたり。
古賀:
盛り上がるんだろうなー。
猛烈に派手でちょっとおバカな歌合戦「ユーロビジョン」
ほりべ:
あとはヨーロッパで盛り上がるコンテンツというと、「ユーロビジョン」があるんですが、ご存知ですか?
古賀:
知らないです!「ユーロビジョン」?
ほりべ:
ヨーロッパと近隣諸国が国が参加する、毎年5月に行われる歌合戦で、これが結構おもしろいんです。毎年楽しみにしているファンも多くて、ヨーロッパ のお祭りみたいな一大イベントなんです。
?183 million viewers welcomed back the #Eurovision Song Contest
— Eurovision Song Contest (@Eurovision) May 31, 2021
? 50.6m viewers across 234 countries and territories watched on YouTube
? 14m engagements generated on social media with some of the largest figures recorded to date
More details ? https://t.co/s4ASDuIxRz pic.twitter.com/WDjKhcBjlx
古賀:
うわっ、なんかすごい規模なんだ。
ほりべ:
スウェーデンの有名グループABBAも、この歌番組出身です。
古賀:
へーーーっ! ABBAっていうと相当歴史もあるコンテストですよね。
ほりべ:
調べてみたら1956年に始まったそうです。去年はパンデミックで中止になったのですが、それ以外は毎年行われてきた長寿番組だそうです。今年は第65回目で、オランダのロッテルダムで開催されました。
ヨーロッパ各国からアーティストが参加して、決勝に進んだ25組ほどがパフォーマンスをし、各国の視聴者が電話投票して、最終的に1番ポイントが高かった人が優勝するという。
古賀:
そんな一大イベントが地球で行われていたとは。
ほりべ:
今年はイタリアのロックバンドが優勝して、フランスのシャンソンを歌った若い女性が2位でした。
歌やパフォーマンスに国柄が出たりして面白くて、音楽界のオリンピックとも言われているみたいです。
古賀:
今年ドイツはどうだったんですか。
ほりべ:
残念ながらドイツは今年は最下位から2番目で、全く人気がありませんでした……。
Italy is the winner of the Eurovision Song Contest 2021!
— Eurovision Song Contest (@Eurovision) May 22, 2021
Watch @thisismaneskin's reaction! #Eurovision #OpenUp pic.twitter.com/5Uoe4GgP7n
古賀:
わはは。
ほりべ:
でもショーの演出も本当に華やかで、バーン! 花火ー! みたいなお祭り騒ぎなんですよ。
古賀:
あ、Netflixにユーロビジョンを舞台にした映画? がありますね。「ユーロビジョン歌合戦」って。さてはこれはコメディだな。
ほりべ:
そうそう、その映画も観ました。実際もちょっとおバカで、ダンスとかも猛烈に派手でおもしろいです。
古賀:
わかってきたぞ。なんていうか泥臭いというか、ケレン味の効いた世界観というか。
ほりべ:
「ジンギスカン」って歌ご存知ないですか? ドイツの曲なんですが、あれもユーロビジョン出身なんだそうです。
古賀:
「ジンギスカン」、ドイツ人が作った曲だったのか! あ、バンド名も「ジンギスカン」なんだ。どういうことだ。
ほりべ:
1979年のユーロビジョンでは4位に終わったのですが、その後日本やソ連、オーストラリアなどでも大人気になったそうです!
スーパーではジャスティン・ビーバーの曲がまんまかかってます
古賀:
ところでスーパーでBGMってかかってますか? 歯医者の待合室とか。そういうところにもドイツのバンドの曲がかかるんですかね。
ほりべ:
うーん、日本と比べてBGMがかかっていることが少ない気がします。かかっている場合は、アメリカで人気の曲が多いのでは。ジャスティン・ビーバーとか、どメジャーな感じの。マイケル・ジャクソンとか、古いアメリカのヒットも流れてますね。
古賀:
ビルボードTOP40的なやつだ。日本ってなぜかヒットチャートがオルゴールとかフュージョンのアレンジで流れがちじゃないですか。
ほりべ:
あー! そうですね! 日本のお店でオルゴールバージョンがかかってると「日本帰ってきた~!」って思います!
古賀:
あれドイツには無いですか……?
ほりべ:
ないです、ないです。
古賀:
ジャスティン・ビーバーだったらジャスティン・ビーバー本人が歌ってるやつが流れてるんだ。
ほりべ:
そうです。あれ、どこから来たんでしょうね……。オルゴール曲の文化は。
古賀:
調べないといけないですね……。
ご当地ゆるキャラは……いません!
古賀:
テレビの話に戻っちゃうんですが、教育チャンネルみたいなものってありますか? 子どもが観るような。
ほりべ:
日本の教育チャンネルの充実ぶりにはかなわないと思うんですが、これもまた1971年からある「Die Sendung mit der Maus」という子供向けの長寿番組があります。日本語に訳すと「ねずみの番組」とか「ねずみといっしょ」みたいな名前なんですが……。
古賀:
ねずみの番組……。
ほりべ:
平面的なデザインの、ねずみのキャラクターなんですが。
Wo sind deine snoepjes versteckt? ??? pic.twitter.com/2EoO5901qS
— Sendung mit der Maus (@DieMaus) May 19, 2021
古賀:
あれっ! この子は知ってますね!ドイツの子なんだ!
ほりべ:
調べてみたら2005年から2006年に「だいすき!マウス」という名前で日本の教育テレビでも放送されてたみたいです。
古賀:
多分キャラクターグッズが日本で今でも売ってると思います!
そういえばキャラ物ってドイツの方はどうですか? 日本だとわりと老若男女かばんにつけたり、スマホにステッカー貼ったりしてますよね。
ほりべ:
キャラクターものとかに対する関心はほとんどないですね……。キャラクター自体を目にすることも少ないです。サッカーのチームとかもマスコットがあってもよさそうなのに、無いか、あってもそれほど存在感がなかったり。
古賀:
各都市にゆるキャラは……。
ほりべ:
いないですね……。ベルリンには東ドイツ時代の信号機の人をモチーフにした「アンペルマン」というキャラクターがいるんですが、観光客には人気があっても、地元の人がアンペルマンを身につけているところは見ないですね。
古賀:
ああっ! 見たことあります。かわいいけど「おしゃれでかっこいい」側のかわいい、だ。
そもそもあんまりそういうファンシーな概念がない感じですかね?
ほりべ:
日本とは違い、子ども向けのものと大人向けのものが、はっきり区別されているような気がします。ディズニーランドもドイツにはないですし……。
古賀:
ディズニーランドって日本のほかはフロリダ、カリフォルニア、パリ、香港、上海なんですね。なんかあちこちにあるイメージだった。
ほりべ:
テーマパークも数が少ないですね。多分ディズニーランドがあったとしても、日本のような人気は出ないような気がします……。
古賀:
するってーと、イラストのTシャツを着てる人も少ない? なんか食らいつくように質問してしまいすみません! 日本にあるものを「無いですか?」って聞くのは反則ですが、止まらない~~!
ほりべ:
そうですね、気になりますよね。そう言われると、イラストのTシャツはあまり見ないかも!イラストの仕事をしている友人や子供は着ていますが、全体的に無地とか縞とか、文字をデザインしたようなものが多いと思います。
古賀:
じゃあコンビニに一番くじのキャラクターグッズもない……? でかいぬいぐるみが当たったり、キャラクターの絵が描いてあるタオルが当たったり……。ない……?
ほりべ:
コンビニは必要な物しか売ってなくて、牛乳とかトイレットペーパーとかポテトチップスとか。日本のコンビニには買うものがこんなにあっていいんだろうかって思うぐらい誘惑にあふれていますよね。お金がいくらあっても足りない! っていつも思います。
古賀:
そう言われて気付きました。日本のコンビニは余計なものを売りすぎですね。めっちゃ余計!
ほりべ:
知り合いのフランス人が、ドイツは魅力的なお菓子が少なすぎる!って文句言っていましたが、チョコの種類は結構充実しています。
古賀:
あ! これドイツなんですね!なんで「スポーツ」なのか調べたことがあったんですよ。どんなスポーツジャケットのポケットにも入るサイズだからだそうで。井村屋の「スポーツ羊羹」と期せずして思想がかぶってるなと思ったことがありました。
古賀:
そうだ、ハリボーもラインナップどえらいですよね。かわいいし!
ほりべ:
ハリボーは頑張ってますね! あれは大人も食べてます。キャッチフレーズが「子どもも大人も大好き」ですしね。
古賀:
ハリボーはパッケージもかわいいですもんね。
ほりべ:
かわいさをハリボーにだけは許しているかもしれません。
古賀:
こ、これは……! 異文化にしびれる~~っ!
(次回「やすみの日編」に続く……!)
れんさい企画「ベルリンのふつうのくらし」
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