みんな大好きハンバーグ特集
名前が長い
子どもの頃、デニーズが近所にあってたまに家族で行っていた。「デニーズ」が、家族内で外食の隠語のようになっていたのでデニーズと聞くとワクワクする。
そんなデニーズ、去年開業50周年を迎えた。すごい、めでたい。そしてそれを記念して、人気シェフが監修するメニューを販売している。
第一弾は、
Regalo 小倉智巳シェフ監修のイタリアン、スパゲッティ 海老のマリナーラ、ローストポークスライスとルッコラのインサラータ、卵と玉ねぎのズッパつき
である。この歌うような言葉の並びから、ファミレスらしからぬ高級感が伝わってくる。第二弾は『播磨灘産牡蠣とトロトロ冬野菜のスパゲティ』だった。とにかくすごいことが始まっていたのだ。
たまにデニーズに行くと、店員さんが絶対に『シェフ監修メニュー』を勧めてくれる。熱心な人はワンセンテンスじゃなく、息継ぎを3回ほど挟んでシェフの話をする。
「そんなすごいもの食べるつもりじゃなかったな」と思って遠慮していたが、一回食べてみたい。
「ご賞味ください」
「シェフ監修メニューを食べるぞ」と意気込んでデニーズへ来た。
店内は混み合っていて、入り口で少し待った。そしてカウンターの席に案内してもらう。
すれ違う店員さんに「デニーズへようこそ」と言われ、会釈をした。
『シェフ監修企画』が始まって長いからか、声かけも洗練されている。「ご賞味ください」なんて言ってもらえるの、なんだか嬉しいな。
そしてこの時やっていたメニューがこちら。
フランス料理の巨匠、三國清三シェフ監修メニュー、北海道産山わさびソースとマッケンチーズのハンバーグステーキ、野菜で野菜を食べるブロッコリーのラビゴットソース、マンハッタンクラムチャウダー
不思議だ。分からないことが多いのに、おいしいのは分かる。
シェフのおすすめワイン
タブレットで上の3品と『三國シェフのおすすめワイン』を注文した。立派なメニューがあるけれども、結局タブレットでお手軽に注文できてしまうのがどこまでもファミレスで良い。
冷やしトマトみたいな軽やかさでワインが来た。店員さんは「シェフワインでーす」と言っていた。楽しい。
ワイン、「キリッ!」「ギュッ!」とした味でおいしい。ワインの味なんて詳しく分からないので『シェフのおすすめ』と言ってもらえるととても助かる。おいしさを疑わずに飲んで分かるおいしさってある。
クラムチャウダーとブロッコリー
カウンターでワインをチビチビ飲んでいた。店内は家族連れや大人のグループで賑わっていて、店員さんが忙しそうに行ったり来たりしていて不思議な感覚だった。自分だけが優雅すぎるように思えておもしろい。
スープとサラダとハンバーグ。ファミレスのカウンターいっぱいにお料理が並んだ。
じゃがいもと人参がゴロゴロしていてスープって感じがしない。すごくボリュームがあってお得だ。
あさりの味もしっかりしていておいしい。これで白米を食べられる。
目玉焼きの下にたまねぎとパプリカを使ったソースがあって、それでブロッコリーを食べるらしい。
食べると「これでいい!」と確信できた。コクがあっておいしい。野菜の味と共にバターの存在がしっかり分かって満足感がある。これで白米を食べられる。
やっとハンバーグ
そう、ハンバーグだ。これはハンバーグを食べるっていう話なのだ。
パッと見て、何種類かのチーズと何種類かのソースがかかっているなと思った。
ファミレスのハンバーグで、デミグラスソースか和風ソースか選べるものがあるが、これは複数のソースが一緒にかかっている。「考えたこともなかった」というタイプの贅沢。
濃い。肉の味もチーズの味もすごくしっかりしている。ギュッギュッとした噛みごたえの肉とゴールキーパーみたいな存在感のチーズ。強者同士が拮抗してバランスを保っているのだ。龍と虎だ。
料理名にある「マッケンチーズ」らしきゾーンにはマカロニが入っていた。あとで調べたら、マカロニにクリームチーズやチェダーチーズ入りのソースを絡めたアメリカの家庭料理らしい。担当編集の橋田さんが「ハイカロリー飯ですね〜」とおののいていた。
そして食べ進めるとわさびの存在も分かってきた。外側の、白いソースにいる。始めは内側のソースでガツンと食べ、そのうち外側のソースの割合が多くなって後味が爽やかになる、という計算があるのかもしれない。おいしいし楽しい。
ケールと紫キャベツ。味が濃いのに酸味のあるソースがかかっていてさっぱりしている。ケールって青汁以外でも輝けるんだな。
そして何よりハンバーグの肉がギュッとしていておいしい。色々食べた後で肉を口に入れると、それまでの伏線を全部回収していい思い出にしちゃうような力強さがあった。もう前を向くしかない。元気が出た。
二次会
食べたいものは食べたが、このまま帰るのがもったいなくてパフェを頼んだ。
ふと向かいを見るとカウンターで勉強をしている人がいた。そうだ、ここはファミレスなのだ。
ハンバーグを食べ始めたら違和感はなくなってしまったが、周りから僕を見たらすごく良いことがあった人か、逆に自暴自棄になってしまった人みたいに見えたかもしれない。
日常と非日常が入れ子の構造になっていたなとあらためて気が付いた。