みんな大好きハンバーグ特集
町の桃源郷
アーリーアメリカン様式の建物に一歩足を踏み入れると、天井に張り巡らされたレールをミニSLが駆け抜けていく。肉の焼ける良い匂い。使い慣れぬナイフとフォークの緊張と興奮。花火が刺さったケーキに歓声を上げる家族。おお、あさくま。幼い頃、私にとって幸福とはすなわち、あさくまのことであった。
それなのに。20歳で生まれ育った町を離れてから、一度もあの桃源郷に足を踏み入れぬまま44歳になってしまった。その間に南砂町の店舗もなくなってしまったと聞く。
林編集長から今回のハンバーグ特集の報せが届いた時、私は真っ先にあさくまを思い浮かべた。「学生ステーキ」。ハンバーグなのに何故かステーキと謳っているメニューだったが、あんなに美味いものはなかった。
青春18きっぷも葉山女子旅きっぷも、おっさんだって使える。おっさんになった今こそ、もう一度学生ステーキを食べたい。
いざ、あさくまへ
現在私が住んでいる町から一番近い店舗は、松戸にあった。それを調べる過程で初めて知ったのだが、あさくまは東海地方を中心としたチェーン店で、東京は現在八王子店のみ。何故足が遠のいていたのか、理由が分かった。単純に近くになかったのだ。今更ながらあさくまのある町で育った幸運を思う。
水戸街道をしばらく歩いていると、私の嗅覚が反応した。「あさくまの匂いだ、近いぞ!」。「そんなの分かるの?」と妻が笑う。
お、お前は誰だ?
店員さんに案内され、ゆったりとしたボックス席に妻と座る。
ミニSLこそ走っていないが、確かにここはあさくまだ。ただいま、と心の中でつぶやく。一応メニューを開くが、注文は学生ステーキ一択。
子供の頃に何回食べたか分からない彼は、「学生ハンバーグ」に改名していた。やはり25年は長過ぎた。あさくまは変わってしまったのか?
あの頃のスター選手がこんな扱いに…?
若干の不安を抱きながら、ハンバーグが焼けるまでの間、まずはサラダバーの様子をうかがう。
思えばサラダバーってあさくまで初めて経験したんだ。「おい、嘘だろ?ここにあるもの全部食べ放題?泥棒とか言われない?」。今では当たり前過ぎるけど、1980年生まれの私には、サラダバーとのファーストコンタクトってそれくらい衝撃的だった。
しかしサラダバーの一角、スープコーナーであいつと再会してしまった。
このコーンポタージュ、肉と同じくらい大好きだった!それにコーンポタージュもあさくまで初めて飲んだんだ。ただあの頃はお前、単品メニューのスター選手だったよな?まさか飲み放題になってるなんて…。