「肉っ!」って感じのハンバーグ
サラダバーだけで満足しそうになっていたところ、遂にお目当てのハンバーグがきた。
おお、ひき肉をステーキの形に成形したこの見た目。記憶の中にある学生ステーキそのものだ。
多分つなぎを殆ど使用していない、「肉!」って感じのハンバーグ。昔は学生ステーキという名前だったのも、恐らく「学生達にも肉の美味しさを味わってもらいたい」なんて思いが込められてたんだろう。その思い、学生からおっさんになった私にも、びんびん届きます。
このメニューによって私のハンバーグ観は形成されたので、今でも「ふんわり柔らか!」とか「デミグラスソースたっぷり!」なんていうハンバーグにはまったく興味がない。
あさくまハンバーグは学生ハンバーグより厚みがあって柔らか。申し分ない美味さだったが、私はやはりミッチミチに肉が詰まった学生ハンバーグ派だ。
出島としてのあさくま
それにしても肉々しいハンバーグは勿論のこと、サラダバー、コーンポタージュ、他にもたくさんのことをあさくまから教わった。私の町においてあさくまは、最先端の文化が最初に伝わる種子島や出島みたいな場所だった。
しかし、幼い頃の記憶が鮮明に蘇ってくるうちに、苦い記憶も掘り起こされてしまった。
悲しい誕生日会
小学校四年生くらいの時だった。母親に誕生日に何が食べたいか問われ、私は迷わず「あさくま!」と答えた。
母と兄と私の3人であさくまディナーを楽しんでいると、なんと単身赴任中で遠くの町にいるはずの父親がひょっこり現れたのだ。「なんで僕達がここにいるって分かったの!」と驚く私。「誕生日に家にいなかったからきっとあさくまだと思ったんだ」と笑う父親。あさくまは我が家にとってそれほど大きな存在だった。
私は嬉しくて大笑いしながら母親の顔をちらっと見た。すると彼女は苦虫を噛み潰したような厳しい表情をしていたのである。なんとなくその理由を聞いてはいけないと察し、私は黙ってうつむいた。
後に分かったのだが、そのころ既に両親の関係は壊れていて、単身赴任という嘘をついて別居中だったのである。
ありがとう、あさくま
でも今、私は自分の家庭を築き妻とあさくまを満喫している。
人生が一回りしたような感慨と共に、私は学生ハンバーグを完食した。
よし。今度は25年も間を開けず、子供を連れてまたすぐ来よう。そして将来、大人になったうちの子が「あの時幸せだったな」と振り返るような、そんな思い出にするのだ。
過去を思い返し、将来を見据える。この日の学生ハンバーグは、まるでタイムマシーンのようであった。
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