特集 2018年2月26日

196ヵ国の料理が作れるレシピ本を書いた人に話を聞いてきた

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世界には数多くの国があり、様々な人がそこで暮らしています。国ごとに文化や歴史、気候も異なり、国が変われば食生活も変わる。今まで見たことも、聞いたこともない、その国ならではの料理が数多く存在しています。

そんな世界の料理を、日本で入手できる材料で作れる料理本がありました。掲載国数は196ヵ国。世界中の国々が網羅されています。これ1冊で食の世界旅行ができてしまうという代物です。

では、どんな人が書いたのか。メジャーな国ならともかく、聞いたことも無いような国のレシピはどうやって知ったのか。著者に聞いてきました。そして、本に掲載された料理も作ってみました。簡単でおいしかったです。
1972年生まれ。元機械設計屋の工業製造業系ライター。普段は工業、製造業関係、テクノロジー全般の記事を多く書いています。元プロボクサーでウルトラマラソンを走ります。日本酒利き酒師の資格があり、ライター以外に日本酒と発酵食品をメインにした飲み屋も経営しているので、体力実践系、各種料理、日本酒関係の記事も多く書いています。(動画インタビュー

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> 個人サイト 酒と醸し料理 BY 工業製造業系ライター 馬場吉成 website

世界30ヶ国に行った旅するシェフ

こちらが本を書いた本山さん。
著者の本山さん。手に持っているレトルトパックについては後程。
著者の本山さん。手に持っているレトルトパックについては後程。
神戸生まれ。大学生の時にペンションの住込みアルバイトをやり、料理担当となり料理の世界にはまる。バイトが終わり大学に戻ってからも、料理が面白くなって大学の友人に振る舞っていました。そうしたら、友人から料理人に成ったらいいのではと言われ、大学を中退して料理の世界へ。

フランス料理店でのバイトから始まり、20代後半には小さなホテルの料理長にまでなります。

リゾートバイトからの、大学を飛び出し料理長へ着地。かなりの飛躍です。
本は地域、国別に分かれてレシピを掲載。セントクリストファー・ネーヴィスはどんな国だろうか?
本は地域、国別に分かれてレシピを掲載。セントクリストファー・ネーヴィスはどんな国だろうか?
とここで、順調な(?)料理人人生に転機が訪れます。ヨガをやっているお店の常連さんからインドに行こうと誘われます。最初は断っていましたが、ある日チケットも取ってあるし、店のオーナーにも話を通してあるからとインド行きが決まります。

行ったが最後。スパイスの配分一つで味がガラッと変わるインド料理に2日ではまってしまいました。
旅やレシピつくりの際のエピソードが入ったコラムもあります。
旅やレシピつくりの際のエピソードが入ったコラムもあります。
本山

「フランス料理は凄く好きでした。でも、インドの料理はスパイスで味がガラッと変わるじゃないですか。それがすごく新鮮だなと思ったんです。変化球みたいな感じで。

そして、こんな国があることを自分が知らなかったということも衝撃でした。そうなると、価値観ってもしかしたら、ちょっとのことで変わるかもしれない。他の国はどうなっているんだろう?そんな気持ちで他の国にも行きだしたんです。」
料理の作り方は、綺麗な写真と共にシンプルにまとまっています。
料理の作り方は、綺麗な写真と共にシンプルにまとまっています。
本山さんは帰国して直ぐにオーナーと相談。暫くしてフランス料理店を退職し、日本のインド料理屋で修業をはじめます。そして、インド料理店で働きながら世界各地の旅に出る。旅先でその国の料理を現地の人に教えてもらうようになりました。

フランス料理からインド料理へ。そして、世界を放浪しながらの料理修行。またもやかなりの飛躍。
インド修業時代。ワイルド。
インド修業時代。ワイルド。
本山
「インドが割と長くて全部で半年ぐらい。ウダイプルという場所では、レイクホテルと言う豪華ホテルがあるんです。もちろんバックパッカーが行って泊まるような料金じゃないのですが、そこの料理がすごく美味しいと言われていたんです。

でも、たまたま泊まっていたゲストハウスで食べたチキンバターマサラがメチャメチャおいしかった。聞くと、ホテルの給料だけでは不満だったのか、レイクホテルの料理人が今バイトに来てると。これはチャンスと思って料理を教えてもらうことができないかと交渉したら、いいよと返ってきた。凄い面白い経験だったなと思っています。」
インド修業時代。皿洗い?
インド修業時代。皿洗い?
馬場
「交渉する時の言葉は?」
本山
「インドは英語で大体大丈夫。スペインでは、言葉が全く分からず英語も全く伝わらなかった。夜遅くに着いた街で明かりのついたバルに入ったら、電気が消えてしまった。言葉は通じないし、お腹も空いているし。自分に運がないような気がして、そこでへたり込んでしまった。

すると、中からおばちゃんが見ていて凄い勢いで言葉を浴びせてくるんです。スペイン語って凄い巻き舌じゃないですか。怒られていると思ったんですが、どうも何をしているか聞かれている感じだった。」
馬場
「腹が減ると気持ち折れますよね。」
本山
「持っていた指さし会話帖と身振り手振りで、お腹が減っていてジャパンから来た料理人だということを伝えて。それで出してくれたのが、アホスープ(にんにくのスープ)。優しい味で、ほっとしたのか食べた時に涙が溢れてきたんです。

すると、そのおばちゃんがまた慌てて。なんで泣いてるんだと。嬉しかったことと、これからスペイン料理を学んでいきたいがどうしたらいいんだみたいなことを伝えたら、アホスープの作り方を教えてくれたんです。それでスペインでもやっていけるかもしれないと思ったことがありました。」

作り方は街を歩いている外国人に聞く

こうして、世界30ヵ国を旅した本山さんは、帰国後に神戸でレストランを開き、世界で教わって来た料理を提供。更に2010年から2012年にかけて、世界196ヵ国の料理を提供するイベント「世界のごちそうアースマラソン」を開催します。
今はお店を閉めて、世界の料理を家庭でも気軽に食べられるレトルトシリーズの販売や講演をされています。
今はお店を閉めて、世界の料理を家庭でも気軽に食べられるレトルトシリーズの販売や講演をされています。
本山
「最初は行った国の料理を出していたんですけど、知り合った外国人に聞いて新しいメニューを出していました。

そのうち、教えてもらった人の国がどんなところかを知ってもらいたいという欲求が出てきたんです。向こうで見てきた貧困とか、飢餓とか、難民の方の姿とか。何か料理とつなげてそういう人たちを応援することができないかなということがずっとあった。ただ、料理で平和にすると言うと何か胡散臭い。」
馬場
「色々なやり方があると思いますが、なかなか直接結びつかないですよね。」
本山
「それで、当時日本が認めている195ヵ国の料理を2週間ごとに国を変えて店で食べるというフェアをやったんです。そういう大義名分で、世界のいろんな国の料理を食べて、いろんな国を知ることもできる。

美味しいとかまずいじゃなくて、どういう文化、歴史でこういう料理になったのか。そういうのを知っていけば、お互いを認められる切っ掛けになるんじゃないかというのをメッセージにしました。」
世界のごちそうレトルトシリーズの包装の裏には、その料理の解説やその国の情報が出ています。アースマラソンの時にもメニューと共にこういうのを作ったそうです。
世界のごちそうレトルトシリーズの包装の裏には、その料理の解説やその国の情報が出ています。アースマラソンの時にもメニューと共にこういうのを作ったそうです。
馬場
「どうやってそれだけの国のレシピを集めたのですか?」
本山
「文献を調べる以外にも、信号待ちの外国人に声をかけたり、異文化交流センターに行ったり。後はJICA(国際協力機構)の方。今こうゆうイベントをしていて、いろんな国の料理をお客様に出しているんですけど、よかったら店の厨房に来て教えてもらえませんか?ということで来てもらって一緒に作る。

マイナーな国は大使館に連絡しました。後はSNSのコミュニティとかなんですけど、画像を送ってもらって実際の作り方を教えてもらう。そして、冷蔵の状態で送って、向こうの人に食べてもらってというのを何度もやりました。」
タイの「ゲーンキョーワン」。鶏肉とタケノコのココナッツカレー。今まで食べたレトルトカレーの中では最上位クラスで美味しかったです。
タイの「ゲーンキョーワン」。鶏肉とタケノコのココナッツカレー。今まで食べたレトルトカレーの中では最上位クラスで美味しかったです。
馬場
「レシピを作る時にいろんな方に話を聞いたということですが、特に印象に残ったようなエピソードというのありますか?」
本山
「全然レシピが見つからないし、現地の方も見つからなかったのがコソボでした。内戦もあったし、旅行者もあまりいなくて。それでSNSにコソボのコミュニティがないかと探したらたまたまあって。

そこの管理人の方が、旦那さんがコソボ人の日本人の方だったんですよ。メッセージを送ると返事が返ってきたんです。やはりコソボって紛争がイメージとしてあるので、それだけじゃない。本当に凄く綺麗な国のときもあったし、それを取り戻しつつあるので、そういったところを発信してほしいと。コソボ料理の画像とレシピが送られてきたんです。」
そして送られてきたコソボ料理がこちら。入手困難な調味料はアレンジしてあります。
そして送られてきたコソボ料理がこちら。入手困難な調味料はアレンジしてあります。
本山
「レシピの中には「ベゲータ」という調味料があって、それさえあればコソボ料理になるとありました。料理はいわゆる小さいハンバーグで、それにヨーグルトソースをかけるんです。ハンバーグやソースの中にベゲータを入れるというレシピでした。

でもベゲータが無い。分けてもらえないかとお願いしたら送られてきました。それがコソボ内線の時、となりのアルバニアで旦那さんが自分の履いていたジーンズと引き換えに買ったベゲータだったらしくて。そんな貴重な物をいただきました。」
実際に本と同じように作ってみました。簡単でした。
実際に本と同じように作ってみました。簡単でした。
馬場
「ベゲータ自体はどういうものだったのでしょうか?」
本山
「野菜コンソメみたいな感じです。ベジタブルからベゲータというのがきていて。小さい粉末のフリーズドライになったようなものでした。」
シンプルな味付けのハンバーグにヨーグルトの爽やかさと旨味。これはうまいね。
シンプルな味付けのハンバーグにヨーグルトの爽やかさと旨味。これはうまいね。
馬場
「特殊な調味料とか、特殊な食材は入手が難しいこともあると思うんですけど、世界のご馳走アースマラソンの時はそれを手に入れて対応した?」
本山
「そうですね。向こうから送ってもらうというのか基本でした。」
日本では絶対に入手出来ない食材や調味料があるし、日本人の味覚にはどうしても合わないものもありますからね。 
日本では絶対に入手出来ない食材や調味料があるし、日本人の味覚にはどうしても合わないものもありますからね。 
世界の料理を作ろうとすると、食材や調味料の壁にぶつかることはよくあります。今時はネットでお取り寄せというのがかなり出来ますが、費用も時間もかかる。

店では現地からの取り寄せで対応していたものの、そういう事情もあり、本のレシピでは国内で入手出来る物で代用。現地の人や味を知る人に確認してもらい、OKが出た物を載せているそうです。

調理と確認作業。数か国でも面倒なのに196ヵ国。凄い。
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食べて問題を知るシリーズ

先に少し触れましたが、本山さんは現在では店を閉め、更に広く世界の料理を知ってもらうため「世界のごちそうレトルトシリーズ」の販売や講演活動をおこなっています。どれもかわいらしい絵や写真のついたパッケージなのですが、ちょっと変わったものがありました。
およそ食品のパッケージとは思えない文字の重さ。
およそ食品のパッケージとは思えない文字の重さ。
馬場
「この食べて知るシリーズを作る切っ掛けは?いろんなことを知ってもらうということでしたが、特にこういった問題を知ってもらいたいという思いがあってですか?」
本山
「やはりこういう商品は、写真があって中身がこうという感じじゃないですか。この料理は難民地域の料理で、こういう問題を抱えていたというのが内側のパッケージに書いてあっても、パッと表紙だけ見た時にそういうのは感じられない。

ただ単に美味しそうと言う入り口でもいいと思うんですけど、もっと何だこれはみたいな物を作りたいなと思ったんです。難民問題なんて書かれていたら、興味のない人もなんだろうと手に持ってくれるのかなと。」
文字は重いが中身はうまい。エチオピアのドロワット。トマト風味のカレーです。
文字は重いが中身はうまい。エチオピアのドロワット。トマト風味のカレーです。
馬場
「食品という切り口だと、なかなか売れるかどうか未知数な商品ですね。」
本山
「わざわざそういうことにしたんですけど、なかなか取引してくれるころがなくて。大体この食べて知るシリーズ以外をお願いしますみたいな感じでした。

でも三宮のジュンク堂は逆にこれに興味を持って、これだけ置きたいと。人権問題の本とかの横にこれを置いてくれたんです。」
ソマリアのスカール。炒め物とありますが、レトルトだからか、ひき肉入りのトマト風味の煮物という感じでした。
ソマリアのスカール。炒め物とありますが、レトルトだからか、ひき肉入りのトマト風味の煮物という感じでした。
馬場
「問題から入っていくと食べ物に着地するのはなかなか難しい。そういう意味では、食品を扱っている所ではなく、本を扱っているところが取り上げてくれるというのが、ある種自然な形だったのかもしれませんね。」
本山
「あと講演とかもさせてもらっているのですが、講演で料理を通じて色々な問題を知ってもらう活動していますという話をした後、この問題を知るシリーズはよく出るんですよ。」
問題がやさしく解説されています。
問題がやさしく解説されています。
馬場
「モノの物語が見えてくると皆さん手に取ろうという気になるわけですね。でも、あのパッケージを見ただけだと逆に手には取りづらい。」
本山
「そういう思いでやったんですけど。ちょっと裏目にでました。」

オススメのスウェーデン料理

馬場
「最後にお気に入りというのか、人気のあった国の料理とかありますか?」
本山
「イベントをした時に人気があったのは割と北欧だった。若い女の子とかには人気がありました。

実際に食べた時の反応が良くて、しかも作るのが簡単だったのがスウェーデンのヤンソンフレステルセと言う料理でした。ヤンソンさんの誘惑という意味。じゃがいものグラタンみたいなやつです。」
ヤンソンフレステルセ。右側の料理です。うまそうだ。
ヤンソンフレステルセ。右側の料理です。うまそうだ。
では、本を見てヤンソンフレステルセを作ってみます。用意した材料はこちら。
スウェーデン料理だが、全部近所のスーパーで入手可能な食材。
スウェーデン料理だが、全部近所のスーパーで入手可能な食材。
ジャガイモ、タマネギ、アンチョビ、生クリーム、バター、塩、コショウ。調理の際に、オーブンへ入れられる深めの耐熱皿が必要です。
アンチョビは沢山乗せた方が美味しい。アンチョビを自作したいかたはこちらを参考にしてください。
アンチョビは沢山乗せた方が美味しい。アンチョビを自作したいかたはこちらを参考にしてください
生クリームと牛乳に塩、コショウを入れて沸騰直前まで温めます。玉ねぎはバターでしんなりするまで炒めます。

耐熱皿に切り分けたジャガイモの半分を入れて、その上から炒めた玉ねぎとアンチョビを乗せます。
家にあった耐熱皿は少し浅かったので作りづらかった。深めなものを用意しましょう。
家にあった耐熱皿は少し浅かったので作りづらかった。深めなものを用意しましょう。
残りのジャガイモを乗せて、温めた牛乳と生クリームを注ぎ入れます。
牛乳と生クリームは皿のギリギリまで入れると焼いている最中に溢れるので、縁より低く入れましょう。
牛乳と生クリームは皿のギリギリまで入れると焼いている最中に溢れるので、縁より低く入れましょう。
200度のオーブンで焼き目がつくまで焼けば完成です。
酒が止まらなくなるタイプの味です。
酒が止まらなくなるタイプの味です。
できあがったヤンソンフレステルセは、アンチョビ風味のジャガイモ入りホワイトシチューといった感じです。
こりゃ簡単で美味いね。ワインもいいが日本酒でもイケる味だ。
こりゃ簡単で美味いね。ワインもいいが日本酒でもイケる味だ。
バターで炒められた甘い玉ねぎに、アンチョビの塩気と生クリームのコクが加わり、それがジャガイモと絡んで口の中で広がる。食事としても、酒の肴にしても、どちらでもよく合う味でした。作るのも簡単で大変おいしい。

スウェーデン料理、いいね!

食を知るのは楽しい

調べてみたところ、私もデイリーポータル内で世界の謎な料理を15種類ぐらい作っていました。

ギリシャ コシャリ
ガーナ フフ
ロシア クワス
韓国 シッケ
ブータン エマダツィ
ギリシャ ツァジキ
フランス リエット
モンゴル バンシタイツァイ
ネパール ジブンジャル
コートジボワール フトゥバナニ
トルコ タルハナ
インド グラブジャムン ラスグッラ
エチオピア インジェラ
ネパール グンドゥルック
ネパール アンダチウラ

どこの国の料理もそうですが、なぜこの食材なのか、なぜこの調理法なのかなど、その国の事情を色々考えて作ります。食を知るということは、その国の文化や歴史を知る事。願わくば、その国にいって実際に食べてみたいものですが、そう簡単に行けない国も世界には多い。

そういう国は、こういう本やネットの情報頼りに、近所のスーパーで買える食材で雰囲気だけでも味わうというのもいいかもしれません。それはそれで楽しいです。
スウェーデンの料理にコソボの料理を突っ込んでみたら、これはこれで美味しかったです。
スウェーデンの料理にコソボの料理を突っ込んでみたら、これはこれで美味しかったです。
取材協力
世界のごちそう博物館
https://www.palermo.jp/
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