北海道のいつもの暮らしを送る
高校の修学旅行の行程のような見出しの通り、仕送りリレーのバトンを京都のこーだいさんにつなぐことになった。
手前味噌だが、北海道には魅力のある品が多くある。とはいえ、北海道の美味しいものはだいたい冷蔵が必要だ。念には念をということで生ものの輸送が禁じられている仕送りリレーのレギュレーションではどうなるだろう。
そう、大谷翔平の抜けた日本ハムみたいだ。生もののある北海道は、もとが化物みたいに強すぎたのだ。
見栄を張っても仕方がない。背伸びをせず、北海道のいつもの暮らしを京都に送ることにしよう。
ということで、北海道でのいつもの暮らしを詰め込んだ仕送りがこちらだ。
みちみちに詰め込んだ北海道からの仕送り、この中に何が入っているのか説明していこう。
やきそば弁当
北海道での暮らしで欠かせないのが、やきそば弁当。このやきそば弁当が支持を得すぎたあまり、北海道では最近までペヤングを見かけることがなかった。
流派は様々だが、中華スープを麺の戻し湯でつくるのがこだわりである。
サッポロクラシック
サッポロビールの看板商品、サッポロクラシック。
北海道の居酒屋のビールはだいたいこのビール。成人してからビールはこれしか飲めないと言っていた後輩がいるくらい飲みやすい味だ。
めんみ
北海道でよく使われているだしつゆ「めんみ」。これは送るかどうか大変悩んだ。
「だし」が親しまれている京都にだしつゆを送るのは大変恐縮なのだが、京都のこーだいさんが北海道のだしをどう感じるのか気になってしまって…。やはり濃い味なのでしょうか…?
グリン麺
めんみを送ったからには麺も送らねば!ということで…。
このグリン麺といい、茶そばといい、北海道の麺はなぜか鮮やかな緑色。グリーンな味わいなのか、ただのひやむぎなのかはぜひ味わって確かめて頂きたいです。
ソラチ 十勝豚丼のたれ
北海道ローカル調味料、豚丼のたれ。
豚肉の薄切りにかけて焼くだけで、豚丼の味が一発できまる代物。豚丼以外にも使えるので、うちの豚肉のショウガ焼きはこのタレの味がほんのりする。
行者ニンニク醤油漬け
北海道で親しまれている山菜、行者ニンニク。ニラやニンニクの芽のような独特の香りで、僕は天ぷらで食べるのが好きだ。
このほかポピュラーな食べ方が醤油漬け。祖父の家にいくと、「これいつ漬けたやつ?」という瓶がザクザク出てくる。
ちょっと香りと塩辛さが強烈ですが…。ご飯にのせたりチャーハンにすると美味しいですよ。
セコマ 山わさび塩ラーメン
北海道で絶大なシェアを誇るコンビニ・セイコーマートのPB商品。
ツーンとくる辛さが強烈な「山わさび」をあしらったラーメンなのだが、僕は食べたことがない。多分かなり、かなり強烈なはずです。ぜひ、ぜひ、気をつけて召し上がってください。
蜂屋 醤油ラーメン
札幌・みそラーメン、函館・塩ラーメンとならんで有名な旭川の醤油ラーメン。
蜂屋は旭川にしかないお店で、煮干し・焦がしラードスープが有名。旭川に行ったら必ず食べに行きます。
この袋麺は道民信頼の「菊水」ブランド! 山わさびラーメンの口直しとしてぜひ…。
北海道の菓子盆
北海道の菓子盆に揃っていがちなラインナップを用意した。
・ハッカ樹氷
・ノースマン
・山親爺
・五勝手屋羊羹
・月寒あんぱん
・べこ餅
ハッカ樹氷はさわやかな豆菓子で、いわば和のフリスクだ。ひもで切るのが楽しい五勝手屋羊羹や、「でてきたでてきた山親爺」のCMソングが有名な山親爺、北海道の端午の節句で出てくるべこ餅などもどうぞ!
こちらも北海道の菓子盆に入っていがちだと思う。少なくとも祖母の菓子盆には全部入っていた。
・チョコマロン
・霜だたみ
・十勝この実
・三方六の小割
・マロンコロン
・雪鶴
・都ぞ弥生
六花亭といえばマルセイバターサンドだが、僕はチョコマロンというお菓子が好きだ。あと霜だたみも。真っ先に菓子盆から取ってしまっていた。とってもおいしいんです。ああ、懐かしい…。
このほか、地元紙の北海道新聞を合わせてお送りします!
なんだか祖父・祖母の家にあるものセレクションのようになってしまったが、でもそれが北海道のいつものくらしなのだと思う。箱に詰めながら、昔のことを思い出していた。
京都のこーだいさん、強烈な食べ物も数点入れてしまって恐縮ですが、北海道民のおなじみの味を楽しんでいただけたら幸いです!
北海道のジーンさんから
京都のこーだいへ
荷物が届きました!
京都のこーだいです。北海道のいつもの暮らしが詰まった仕送り、たしかに受け取りました。ありがとうございます、ジーンさん!
この企画に参加してほしいという打診をもらったときに、仕送りをしてくれるのが北海道在住のジーンさんだと聞いて内心ガッツポーズをした。
北海道には何度か行ったことがあるけれど、食事に関してはただただ「美味しかった」という記憶しかない。私の舌が馬鹿なだけな気もするが、たぶんそれだけではない。北海道の食べ物はなんといっても素材がいいのだ。
今回の仕送りは常温で日持ちするもの限定である。ジーンさんはその制限を逆手にとって「北海道のいつもの暮らし」を届けてくれるという。いったい何が出てくるのだろう?
うわ!たくさん!
荷物を手渡された瞬間のズシッという感触から、中身がすばらしく充実していそうなことは察していたのだが、まさかここまでとは!
これを味わい尽くすのはなかなか大変そうである。うれしい悲鳴をあげるとはこのことだ。
とくに舌を巻いたのは、この両手で数えきれないくらいの見るからに美味しそうなお菓子の山だ。これはいけない。こんな菓子盆が家にあったら、無限にお菓子を食べ続けてしまうに違いないのだ。思わず『北海道 糖尿』で検索してしまった(他府県と比べるとむしろ少ないようで安心した)
ジーンさんがつけてくれたメモには「数が多いので気になったものだけ紹介してください」とあった。でも、あいにく私は甘いものが何よりも大好きなのだな。
1日に3,4個ずつ食べてレビューしていこうと思う。
1日目。雪鶴、霜だたみ、チョコマロン
この3つを最初に選んだのには理由があって、まず雪鶴は単純に賞味期限が一番短かったから。残りの2つは、「この中だとチョコマロンと霜だたみを真っ先に取ります」というジーンさんにならった形だ。
雪鶴は、中にハスカップ味のクリームを仕込んだブッセだ。甘くてふわふわのブッセの後からあらわれる、酸っぱいハスカップの味がうれしい。鶴の頭についた赤い部分を意識したのだろうか。しゃれたネーミングだ。
次は霜だたみ。コーヒー味のクリームがパイ生地の間にサンドしてあるオーソドックスな構成だが、このパイのサクサクなことと言ったら。サクサクサクサク。口の中で霜柱を踏んで歩く人がいる。これもいい名前だなあ。
最後はチョコマロン。口に入れると洋酒の香りが一気に広がった。中には栗のペーストがたっぷりと詰まっていて、まるでケーキを一切れ食べたような食べ応え。
図らずも、フワッ、サクッ、ズシッ、という三拍子のそろった取り合わせとなった。
明日はどんな組み合わせでいこうか?
2日目。べこ餅、三方六、十勝この実
まずはべこ餅。
白い部分は普通の餅、焦げ茶色のところは黒糖味だ。珍しいところはないけれど、安心して食べられる優しい味でほっこりした。
「白黒の色がべこ(牛)っぽいからべこ餅なんだろうな。北海道だし」と思っていたら、やれ米粉(べいこ)を使うからだの、黒糖の茶色がべっこう色だからだのといった説があることがわかった。シンプルなくせに奥が深い。
次は三方六(さんぽうろく)。今回もらったお菓子の中で唯一、以前にも食べたことがあるものだ。バームクーヘンの周りにスーッとする爽やかな味のチョコレートをまとわせた上品なお菓子。
松の実、クルミ、かぼちゃの種をあしらった十勝この実はコーヒー味の焼き菓子。しっとりとした三方六とは対照的に、パサッとした食感が印象的だ。
山わさび塩ラーメンで甘味ラッシュに小休止を
ここで気分転換にラーメンを。ジーンさんはとにかく気をつけて食べろと言っていたが.....。
一口すすってみる。確かに、わさびの味がして辛い。勢いよく食べたらむせるかもしれない。しかし『食べるテロ』とまで言うほどだろうか?
しかしこの時点では、私はまだ山わさび塩ラーメンの真価をまったく理解していなかったのである。
半分くらい食べたところで、いっきにきた。鼻に抜けるようなツーンという刺激が!
つまり、もう少しよく混ぜてから食べるべきだったのだ。
最初のツーン!には驚いたが、慣れてくるとどうして北海道以外で似たような商品が出てこないのか不思議に思うほど美味しい。
ラーメンも蕎麦やうどんと同じ麺なのだから、わさびと合うのは自然なことだったのだ。
3日目。月寒あんぱん、小樽サブレ、山親爺
お菓子に戻ろう。
山親爺はパリパリした食感がうれしい素朴な甘い味の煎餅だった(あまりにもパリパリなので盛大に割れてしまった)
月寒あんぱんは、漫画『ゴールデンカムイ』で存在を知ってからというもの、食べてみたいと思っていたお菓子なのでとくにうれしい。
甘さ控えめで若干塩味を含んだこしあんに、薄めのパン生地の皮。全体的にぎっしりと詰まっていて、なんだか饅頭のよう。しかし皮の味はまちがいなくパンのそれだ。
つまり、月寒あんぱんは饅頭とあんぱんの両方の特徴をもっているのだ。饅頭から今日のあんぱんに進化する途中の、今ではほとんど滅んでしまったあいまいな特徴を残している。いわばあんぱん界のシーラカンスであり始祖鳥なのだ。そんな貴重なものが食べられるなんて、うれしいではないか。
小樽サブレ。三層のクッキーをチョコレートで固めたぎっしり系の焼き菓子だ。ふわふわ系よりはぎっしり系のお菓子の方が好きな私にはうれしい限りである。
4日目。ノースマン、都ぞ弥生、ハッカ樹氷、五勝手屋羊羹
あれだけあったお菓子もついに残り少なくなってきた。
最初は「原稿の〆切までに食べきれるかな?」と少し不安になったけれど、いざなくなりそうになると寂しいものだ。
都ぞ弥生は北海道大学にある寮の寮歌のタイトルらしい。お菓子は、きめが細かく固いクッキーにチョコレートをはさんだものだ。
ノースマンは粒餡をパイ生地でくるんで焼いたもの。
どちらも文句なしに美味しいけれど、寮歌に北男とはなんだかむさくるしい組み合わせになってしまった。
厚紙でできた筒に入った羊羹なのだが、食べ方が面白い。
実は、京都にも似たようなお菓子がある。竹筒水羊羹といって、その名の通り竹筒の封をとって中の水羊羹を皿ににゅるんと出して食べるのだ。
五勝手屋羊羹では、そこへ筒についたタコ糸で羊羹を好みのサイズに切り分けるというギミックが追加される。もはやIQテストだ。
中身の羊羹はハードタイプでしっかりと甘く、食べ応えがあった。一度に全部食べるのは大変だから、食べたい分だけを筒から出して切り分ける形式は利にかなっているのだなと思った。
菓子盆の中に最後に残った一品にして、まったく味の予想がつかなかった樹氷。
封を切ると、純白の楕円が転がり出てきて思わず目を見張った。なんてきれいなお菓子なんだろう。まるで蚕の繭みたいだ。
樹氷は、ハッカを厚くまぶした甘納豆だった。口に含むと、スーッとした爽やかな甘さとひんやりとした冷たさが広がる。ハッカが雪のように溶けてしまうと、中から大粒の甘納豆がでてくるのだ。和のフリスクとはよく言ったもの。
まったく新しい味の体験に意表を突かれました。
中華スープつきがうれしい、やきそば弁当
すごい工夫である。
せっかく沸かした湯を無駄にするようなやつは極寒の地では生き残れないのか......。
うん、美味しい!
この日は肌寒かったので、スープがついているおかげで体が温まるのもうれしい。乾麺の匂いがうっすらとスープに混じっているのも、なんだか味わい深いな。
次に北海道を訪れる機会にはペヤングをもちこんで詳細に食べ比べてみよう。
行者ニンニク醤油漬
京都府では絶滅危惧植物に指定されているギョウジャニンニクも、北海道ではメジャーな山菜だと聞いている。
これも一度食べてみたかった。喜びつつ、梱包に使われていたプチプチから瓶を出してみて驚いた。なんとすでに、ニンニクの匂いがするじゃないか!
ジーンさんはご飯のお供によいと言っていたが、『ゴールデンカムイ』を読んで鹿肉とギョウジャニンニクの組み合わせに憧れていたのでまずはそっちを試すことに。
食べてみると、思った通り強烈なニンニク臭が肉料理にぴったりだ。それならまったくニンニクと同じなのかというとそうでもない。山菜らしい青っぽさ、ほんの少しの渋み、繊維質な歯ざわりは醤油漬けにしたあとも健在だ。
今回は京都で獲れた鹿の肉を使ったけれど、北海道には本州よりも一回り大きいエゾシカというのが生息している。脂ののったエゾシカの肉をギョウジャニンニクといっしょに料理したら、さぞかし旨いに違いないだろう。ああ神よ、あなたは北海道の人々にどれだけ良いものを与えたら気が済むのですか?
十勝豚丼のタレは5分で行ける十勝の定食屋だ!
一発で豚丼の味が決まるたれ。
試してみたら、本当にものの5分ほどで味も見た目も完璧な豚丼ができ上がってしまった。もちろんほかに調味料は使っていない。
もう何年も前だけれど、友達と北海道を旅行して十勝の定食屋で豚丼を食べたことがある。その時のことを懐かしく思い出しながら、豚丼を美味しく食べた。まるで食べるアルバムだ。
グリン麺の味は......
関西人は出汁に強いこだわりがあるとされている。
私も以前、床屋の隣の椅子に座った人が30分近くにわたって出汁について熱く語っているのを見たことがある(しかも板前さんとかではなさそうだった)
北海道から送られてきためんみに「ほたて」の3文字を見つけた時は驚いた。
ほたての出汁が旨いのは間違いない。でも、旨味が強すぎてすべてがほたて一色に塗りつぶされてしまわないだろうか?
茹でて水でしめたグリン麺をつけつゆの比率で薄めためんみで食べる。
一口すすってみて、案外ほたてが目立たない。いや、むしろ何の出汁なのかよくわからない。かつお・にぼし・こんぶ・さば・ほたてが絶妙な比率で配合され、一体となって新しい味を作っていたのだ!出汁のもつ可能性は配合次第で無限だったのである。
さて、気になるグリン麺の味だけれど......普通の冷や麦とまったくかわらなかった。ほんとうに、1ミリも、普通の白い冷や麦と違うところがないのだ。色が緑であるという点をのぞけば。
茶そばが緑なのは、まあわかる。
普通の麺に、わざわざクロレラを混ぜこんで緑色にするのはいったいなぜ?
適度な謎は人を魅力的にする。こういうささいな文化のズレにこそ、知らない土地から仕送りを受け取る醍醐味があるのだな。
北海道のいつもの暮らしのクオリティに圧倒される
仕送りしてもらったものはどれも美味しかった。それこそ、山わさび塩ラーメンのような一見ネタに見えるような商品も、美味しかった。
そして北海道は何度も旅行したことがある土地なのに、どれも知らないものばかりで感心させられっぱなしだった。
「(観光客の目が届かないような)北海道のいつもの暮らし」というジーンさんのコンセプトにまんまとのせられた格好だ。お見事!
普段食べているものを教えてもらったことで、一度もあったことがないのにジーンさんにも親近感を抱くようになりました。素敵な仕送りをありがとうございました!
次回、京都の仕送りが静岡に届く!
はい、ここで再度案内役の編集部古賀です。
生ものを封じられ「いつもの生活」を送ってくれたジーンさんでしたが、受け取ったこーだいさんが「北海道 糖尿」で検索してしまうほどにすばらしい甘味の数々が飛び出すなどさすが強靭な仕送り力に目をみはりましたね! 饅頭とパンの進化の過程まで目撃してしまうとは。
さて、仕送りリレー、続いて京都からの仕送りを受け取るのは静岡の鈴木さくらさん。
京都もまたその磁場の強さで他を圧倒に圧倒する一大憧れスポット。その暮らしから何が飛び出すか。どうぞご期待ください~!