ミンサー、買ってよかった
ジビエを売りにする自治体はシカ肉ハンバーガーやシカ肉メンチカツを前面に押し出しがち、という印象があったのだけれど、その理由がわかった。挽肉にすることで、ばらつきがちなジビエ肉の品質を均一化しやすいとか、味付けがしやすいとかいう理由ももちろんあるんだろうが、なにより美味いのだ。
ミンサーの購入に踏み切ったのは、昨年末のハンバーグ特集に触発されてのことだった。新しい体験を後押ししてくれた記事に感謝!
冬は狩りの季節だ。
かれこれ10年近く前に狩猟を始めてからというもの、法律で定められた狩猟期間(11月15日~2月15日)が近づくと、私は「今年もこの季節が来たか!」と喜び勇んで鼻息を荒くするのである。
獲物のシカやイノシシは大きいので、一頭捕獲しただけでも大量の肉が手に入る。そうなると、食べ方にも工夫したくなるというもの。
今冬ついに、手軽に挽肉を作ることができるという触れ込みの家庭用のミンサーを買った。最初に作ってみるのはもちろん、みんなも大好きなハンバーグだ。
シカの捕獲には、金属のワイヤーを使ったくくり罠という道具を使っている。
このくくり罠を、シカが通りそうな獣道に埋めておく。野生の動物は警戒心が強いから、あくまで不自然にならないように埋めるのがコツである。
定期的に見回りをすると、運が良ければ、ある日罠にかかったシカに出会えるという寸法だ。
実のところ、挽肉作り自体はミンサーがなくてもできる。まな板の上に肉を置いて、包丁でひたすらトントンと叩いてやればいいのである。ただ、このやり方だと時間と労力がかかる上に、肉の破片や血が飛び散って周囲を派手に汚してしまう。麻婆豆腐のような、少量だけ挽肉を使う料理を作るときに試してみたことはあるのだけれど、そのような欠点があるのでやらなくなった。
大量の挽肉を使うハンバーグのような料理を作るためには、やはり専用の道具が必要だ。そう思うこと数年、2024年の年末にようやく家庭用のミンサーの購入に踏み切った。調べてみたら、電動のものでも1万円~で購入できることが分かった。なんだ、そんなに安いのか、と拍子抜けした。ならもっと早くに買えばよかった。包丁で肉をトントンしていた時間はいったいなんだったのだろう?
手動でハンドルを回して肉を挽く方式のものならもっと安いのもあったのだけれど、どうせなら徹底的に楽をしたいので電動をチョイス。
ミンサーはスタンバイできた。肉の方を準備していこう。
野外で走るシカを観察していると、躍動感たっぷりにピョンピョン跳ねる様子に感動するのだが、その脚力を支える腿の肉もまた立派。大腿骨の周りにみっちりと厚く巻きついた肉を包丁で切り剥がしていく。
肉の準備もできた。
さて、ミンサーの実力を見せてもらおう。
余談だが、このミンサーには電源ボタンと、詰まったときに逆回転させるためのリバースボタンの二つしかスイッチがない。シンプルで素晴らしい。
肉を入れると、わずかな間をおいて挽肉がひねり出されてきた。私は感動した。なんて手軽なんだろう!肉の塊が、一瞬で加工されて挽肉になって出てくる。しかも、赤い毛糸を束にしたような見た目はスーパーで売っている挽肉とまったく同じだ。こんなに手軽に本格的な挽肉ができるなんて、文明の利器の力はなんてすごいんだろう。
固い筋の部分を処理しているときはスピードが落ちたりもしたけれど、総じてミンサーのはたらきは迅速だった。1キロ以上はあった肉があれよあれよという間に処理されてしまった。ちゃんと計ってはいないけれど、5分もかかっていなかっただろう。ジュブジュブと挽肉がひねり出されてくるのを見るのは面白かったから、もう少し時間をかけてやってくれてもいいのにと感じたくらいだ。
バトンタッチ。ここからは人間の仕事だ。
入れたのは塩、胡椒、ナツメグ、卵、玉ねぎ、牛脂。牛脂はなくてもいいのかもしれないけれど、シカ肉の少ない脂を補う意味で、保険的に投入した。
脂が少ないから、かなりしっかりこねた後でもきれいな赤色が残っている。
生焼けの肉は食中毒の原因だが、その点はジビエだと輪をかけて気を遣う。市販の肉なら腹を下して寝込むだけで済むかもしれないが、ジビエの場合は最悪肝炎になって死ぬまで後遺症に苦しむ羽目になるかもしれないからである。それはなんとしても避けねば。
およその目安として、75℃で1分以上加熱すれば病原体は死滅するという。
温度計を差し込んでみたら75℃を超えていたから、その状態でさらに3分くらい加熱を続けた。さすがに、これで充分加熱できたに違いない。
ハンバーグは分厚くて丸々としているのが好きだ。その量感によって肉の肉らしさを存分に味わえる気がするからだ。平べったく延ばしたやつは何となく物足りない。
今回も、火を通すのが大変になるのを承知の上で、できるだけ分厚く丸い形に仕上げたのだが、やはりそれが正解だった。ナイフを受け止めて、なんならはね返すような張りと弾力があって、切り分ける手に思わずグッと力がこもる。肉肉しいという表現を通り越して、まるでまだ生きているかのような力強さだ。跳ねまわるシカの姿が脳裏をよぎらずにはいられない。
これは真顔にもなるわ。
ナイフを入れた時と同様、歯をしっかりと受け止めつつ、しかし押し切れる程度に抗ってくる弾力。固いのとは違う。競りに競った挙句、ぎりぎりのところで負けてこちらに花を持たせてくれるプロの接待麻雀のような。
油が少ない分、濃厚な赤身の旨味がある。ただ切って焼いただけの料理よりも、加えた手数は多いのにシカの存在を色濃く感じる。まちがいない、ハンバーグはシカの旨味をかなりしっかりと感じられる料理法だった!
ジビエを売りにする自治体はシカ肉ハンバーガーやシカ肉メンチカツを前面に押し出しがち、という印象があったのだけれど、その理由がわかった。挽肉にすることで、ばらつきがちなジビエ肉の品質を均一化しやすいとか、味付けがしやすいとかいう理由ももちろんあるんだろうが、なにより美味いのだ。
ミンサーの購入に踏み切ったのは、昨年末のハンバーグ特集に触発されてのことだった。新しい体験を後押ししてくれた記事に感謝!
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