特集 2025年1月16日

狩猟で捕獲したシカは、家庭用ミンサーでハンバーグにすべし

冬は狩りの季節だ。

かれこれ10年近く前に狩猟を始めてからというもの、法律で定められた狩猟期間(11月15日~2月15日)が近づくと、私は「今年もこの季節が来たか!」と喜び勇んで鼻息を荒くするのである。

獲物のシカやイノシシは大きいので、一頭捕獲しただけでも大量の肉が手に入る。そうなると、食べ方にも工夫したくなるというもの。

今冬ついに、手軽に挽肉を作ることができるという触れ込みの家庭用のミンサーを買った。最初に作ってみるのはもちろん、みんなも大好きなハンバーグだ。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

前の記事:谷崎潤一郎の小説にも出てくる料理屋「瓢亭」の黒豆はまるでシュークリームみたいに中がトロトロ

> 個人サイト 海底クラブ

シカは罠で獲る

シカの捕獲には、金属のワイヤーを使ったくくり罠という道具を使っている。

1.jpg
踏板を踏むと、バネの力が解放されてワイヤーの輪が締まる仕掛け。

このくくり罠を、シカが通りそうな獣道に埋めておく。野生の動物は警戒心が強いから、あくまで不自然にならないように埋めるのがコツである。

定期的に見回りをすると、運が良ければ、ある日罠にかかったシカに出会えるという寸法だ。

2.jpg
これは、何年か前に京都で大雪が降った日に罠にかかった鹿。雨や雪が降ると、罠を埋めた地面がいい感じにならされて捕獲率が上がるのだ
いったん広告です

家庭用ミンサーは1万円くらいで買える

実のところ、挽肉作り自体はミンサーがなくてもできる。まな板の上に肉を置いて、包丁でひたすらトントンと叩いてやればいいのである。ただ、このやり方だと時間と労力がかかる上に、肉の破片や血が飛び散って周囲を派手に汚してしまう。麻婆豆腐のような、少量だけ挽肉を使う料理を作るときに試してみたことはあるのだけれど、そのような欠点があるのでやらなくなった。

大量の挽肉を使うハンバーグのような料理を作るためには、やはり専用の道具が必要だ。そう思うこと数年、2024年の年末にようやく家庭用のミンサーの購入に踏み切った。調べてみたら、電動のものでも1万円~で購入できることが分かった。なんだ、そんなに安いのか、と拍子抜けした。ならもっと早くに買えばよかった。包丁で肉をトントンしていた時間はいったいなんだったのだろう?

3.jpg
ついに我が家にミンサーがやってきた!購入したのはMINATOWORKSのHMM-5という機種。

手動でハンドルを回して肉を挽く方式のものならもっと安いのもあったのだけれど、どうせなら徹底的に楽をしたいので電動をチョイス。

4.jpg
上の穴から肉を入れると、
5.jpg
挽肉になって正面から出てくる。
6.jpg
念のため肉の通り道になるところはすべて分解して、洗剤で洗った。

ミンサーはスタンバイできた。肉の方を準備していこう。

いったん広告です

ミンサーの穴を通る大きさにシカの腿肉を切る

7.jpg
使うのはシカの腿の肉だ。
8.png
ここの部分ですね。

野外で走るシカを観察していると、躍動感たっぷりにピョンピョン跳ねる様子に感動するのだが、その脚力を支える腿の肉もまた立派。大腿骨の周りにみっちりと厚く巻きついた肉を包丁で切り剥がしていく。

9.jpg
肉を骨から外す。
10.jpg
さらに、ミンサーの投入口に通るサイズに切り分ける。

肉の準備もできた。

さて、ミンサーの実力を見せてもらおう。

11.jpg
電源ON!

余談だが、このミンサーには電源ボタンと、詰まったときに逆回転させるためのリバースボタンの二つしかスイッチがない。シンプルで素晴らしい。 

12.jpg
いざ投入!
13.jpg
わあ!出た!(感動)

肉を入れると、わずかな間をおいて挽肉がひねり出されてきた。私は感動した。なんて手軽なんだろう!肉の塊が、一瞬で加工されて挽肉になって出てくる。しかも、赤い毛糸を束にしたような見た目はスーパーで売っている挽肉とまったく同じだ。こんなに手軽に本格的な挽肉ができるなんて、文明の利器の力はなんてすごいんだろう。

14.jpg
どんどん出てくる。
15.jpg
1キロ以上あった肉が、5分足らずで挽肉に。

固い筋の部分を処理しているときはスピードが落ちたりもしたけれど、総じてミンサーのはたらきは迅速だった。1キロ以上はあった肉があれよあれよという間に処理されてしまった。ちゃんと計ってはいないけれど、5分もかかっていなかっただろう。ジュブジュブと挽肉がひねり出されてくるのを見るのは面白かったから、もう少し時間をかけてやってくれてもいいのにと感じたくらいだ。

16.jpg
きれいに挽肉になったなあ。
いったん広告です

ハンバーグにしていく

バトンタッチ。ここからは人間の仕事だ。

17.jpg
つなぎ、薬味、調味料を入れてこねる。

入れたのは塩、胡椒、ナツメグ、卵、玉ねぎ、牛脂。牛脂はなくてもいいのかもしれないけれど、シカ肉の少ない脂を補う意味で、保険的に投入した。

18.jpg
手でよくこねた肉を丸める。

脂が少ないから、かなりしっかりこねた後でもきれいな赤色が残っている。

19.jpg
焼く。食欲をそそるいい匂い!
20.jpg
温度計で中心部の温度を確認。

生焼けの肉は食中毒の原因だが、その点はジビエだと輪をかけて気を遣う。市販の肉なら腹を下して寝込むだけで済むかもしれないが、ジビエの場合は最悪肝炎になって死ぬまで後遺症に苦しむ羽目になるかもしれないからである。それはなんとしても避けねば。

およその目安として、75℃で1分以上加熱すれば病原体は死滅するという。

温度計を差し込んでみたら75℃を超えていたから、その状態でさらに3分くらい加熱を続けた。さすがに、これで充分加熱できたに違いない。

21.jpg
盛りつけたら完成!美味しそう!
いったん広告です

シカ肉ハンバーグの弾力、ナイフや歯をはね返す!

22.jpg
食べよう。

ハンバーグは分厚くて丸々としているのが好きだ。その量感によって肉の肉らしさを存分に味わえる気がするからだ。平べったく延ばしたやつは何となく物足りない。

今回も、火を通すのが大変になるのを承知の上で、できるだけ分厚く丸い形に仕上げたのだが、やはりそれが正解だった。ナイフを受け止めて、なんならはね返すような張りと弾力があって、切り分ける手に思わずグッと力がこもる。肉肉しいという表現を通り越して、まるでまだ生きているかのような力強さだ。跳ねまわるシカの姿が脳裏をよぎらずにはいられない。

23.jpg
念入りに火を通したけれど、中は肉汁たっぷりでジューシー。

24.jpg

25.jpg

26.jpg
口の中で歯と肉が格闘しています。

これは真顔にもなるわ。

ナイフを入れた時と同様、歯をしっかりと受け止めつつ、しかし押し切れる程度に抗ってくる弾力。固いのとは違う。競りに競った挙句、ぎりぎりのところで負けてこちらに花を持たせてくれるプロの接待麻雀のような。

油が少ない分、濃厚な赤身の旨味がある。ただ切って焼いただけの料理よりも、加えた手数は多いのにシカの存在を色濃く感じる。まちがいない、ハンバーグはシカの旨味をかなりしっかりと感じられる料理法だった!

27.jpg
ごちそうさまでした。感謝。

ミンサー、買ってよかった

ジビエを売りにする自治体はシカ肉ハンバーガーやシカ肉メンチカツを前面に押し出しがち、という印象があったのだけれど、その理由がわかった。挽肉にすることで、ばらつきがちなジビエ肉の品質を均一化しやすいとか、味付けがしやすいとかいう理由ももちろんあるんだろうが、なにより美味いのだ。

ミンサーの購入に踏み切ったのは、昨年末のハンバーグ特集に触発されてのことだった。新しい体験を後押ししてくれた記事に感謝!

28.jpg
残った挽肉を今度は和風に味付けして、つみれ鍋にしてみた。ミンサーのおかげでシカ肉料理の幅がどんどん広がりそうだ。

 

▽デイリーポータルZトップへ

store_20250112.jpg

> デイリーポータルZからのお願い  買って良かったものを教えてください
> デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ