新幹線で置き去り2021-2022 2022年1月3日

燕三条でラーメン食べて五寸釘を叩く ~新幹線の駅にひとり置き去り~

2年前に「新幹線に置き去り」の記事を見たとき、いいなぁ置き去りにされたい!と思った。

行き先は運任せ、知らない街に置き去りにされ、でもちゃんと帰れる。そんなの絶対ワクワクするだろう。安全性が担保されているのもいい。

舞台は上越新幹線。置き去りにされたのは燕三条。

この街で僕は、己と向き合うことになる。

※この記事は年末年始とくべつ企画「新幹線の駅にひとり置き去り」の中の一本です。

 

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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燕三条、一回行ったことある

朝8時に東京駅に集合し、7人がクジの代わりに新幹線の切符をひく。僕が引いた切符は「燕三条」だった。

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「2年ぶりに新幹線に乗れる!」「取れ高ありそうな駅で良かった!」という笑顔

燕三条、実は8年くらい前に1回だけ行ったことがある。

カミさんの実家が新潟で、親族の集まりが燕三条であったのだ。「燕三条は金物の街だから」と、お土産屋で子どもにスプーンとフォークを買い、それは今も我が家で現役でいる。

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ドラえもんのフォークと、ドラミちゃんのスプーン。22世紀もフォークとスプーンでご飯を食べるのかな。

そのときは義父が運転する車での移動だったので、燕三条のどこをどう走ったのか覚えていない。なので、自分の足で燕三条を確かめるのはこれが初めてだ。

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はたからは団体旅行に見えるけど、それぞれ情景写真ばかり撮っているのが可笑しかった。

8:52東京発、とき309号新潟行き。12月の平日ということもあり、乗車率は6~7割ほど。コロナ感染対策のため、シートの回転はできない。みんな揃って進行方向を向く。

熊谷、上毛高原、越後湯沢。駅に着くたび仲間が1人1人減っていく。燕三条は終着駅のひとつ前の駅。到着するころには、みんながいなくなる淋しさと、置き去りにされる淋しさが同時にあった。

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置き去り直後の燕三条駅ホーム。乗客は足早に去った。

新幹線の車内では、目的地について検索することは禁じられていた。これからどうしようと階段を降りる。目に入ってきた光景がこれだ。

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ジャンボナイフ&フォーク

燕三条駅がある燕市と三条市は、古くから金属加工を中心に栄えた「ものづくりのまち」。金属洋食器の国内シェアは90%を超えるほか、ノーベル賞の晩餐会などにも食器が使われているらしい。

そのアピールとして作られたこのジャンボナイフ&フォークは、通常のフォーク1000本分に相当するステンレスを使用して作られたとのこと。入り口から本気をうかがせる。

改札を抜けて駅構内をさまよう。

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JR燕三条駅 近距離切符運賃表。ラインカラーはピンクや水色、紫など中間色が多め。
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新潟日報社「日報コミュニティコーナー」。今日の新聞が貼り出されている
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駅構内に鳥居。ここから車で30分ほどにある弥彦神社に、日本一の大鳥居がある。そういえば以前来たときにこれは見たな。
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駅構内には燕三条の特産品が展示されていた。「燕三条Wing」という観光物産センターもある。

さてこの燕三条駅、実は燕市と三条市の市境の真上に立てられている。

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駅を出ようとすると「三条口」と「燕口」の二択を迫られる。

どうやら駅を誘致する際にどちらの市に建てるか揉めたらしく、間をとって市境に建てたそう。その後も駅名称を「燕三条」にするか「三条燕」にするかで紛糾し、あの田中角栄が仲裁に入ったとか。

ちなみに、駅のそばを走る北陸自動車道のインターチェンジは「三条燕IC」になっている。

落としどころ、という言葉が頭をよぎる。

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三条市側から見た燕三条駅
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燕市側から見た燕三条駅。路面が赤茶色に変色しているのは、消雪パイプから出る地下水に鉄分が含まれているため、

燕三条駅に到着したのは10:57。帰りの新幹線は16:37に出る。滞在時間は5時間半。多いような、少ないような。

燕三条ラーメンを食べよう

企画の名前こそ「置き去り」だが、幸いにも駅前は栄えている。昼食をとれるところを探そう。ちょっと調べたのち、燕口から駅を出て西へ。

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駅近くにはビジネスホテルがたくさんあった。ものづくりのまち、やはりビジネスで訪れる人が多いのだろう。昼間の人出はまばら。

空は快晴。日差しも温かく、「北に向かうから」と気負って厚着してきたせいで歩くと汗ばむほどだった。みんなが降りた駅はどんな気候だろうか。

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ラーメン屋さんに来ました
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「燕三条系スープ」。背脂系のラーメンだ。

燕三条には、ご当地ラーメンが2種類ある。「燕三条背脂ラーメン」と「カレーラーメン」。

当サイトのライターなら迷わずカレーを選ぶところだろうが、カレーラーメンの存在を知ったのは背脂系のラーメンを食べたあと。でもいいんだ。あったかいものが食べたかったから。

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こっちだってめちゃくちゃ旨そうでしょう?

ストレートの太麺に、玉ねぎと岩のり。背脂はたっぷり乗っているけど、そこまで脂っこくない。玉ねぎと一緒に麺をすすると、シャリシャリした食感が面白い。

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染みる……

旅先で食べる美味しいラーメン。幸先の良いスタートと言っていいだろう。健康診断で「ちょっと脂肪肝気味ですね」と言われたことはすっかり忘れていた。今日はこのあとずっと移動するからいいの。

さて、昼食にこのお店を選んだのはもうひとつ理由がある。

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すぐ隣が道の駅なのだ。
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この距離感。

早く取れ高がほしい。そんな不安が効率を求める。

金物だけでピカピカの即売場

燕三条地場産業振興センターは、その名の通り地場産業の振興を目的に建てられた施設。研修室や技術開発、産官学共同研究といった企業支援の機能を持つ。

その中にあるのが「燕三条物産館」だ。燕三条の職人たちによる品が並ぶ、めちゃくちゃ広い即売場である。

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入り口には三条名誉市民の等身大パネルが。
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「燕三条物産館」入り口からの眺め。見渡す限り金物が並ぶ。
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 入ってすぐの一等地にあるのは、ピカピカに磨かれたタンブラー。お土産用に名入れができるものも。

とにかく金属加工品ならなんでもあるのではというくらい広い。みんな金属なので、店内がピッカピカだ。

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「洋食器単品」だけでめちゃくちゃ種類がある。
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「ケーキスプーン」「アイスクリームスプーン」「グレープスプーン」「コーヒースプーン」「角アイススプーン」……。用途に応じたスプーンがあり、それぞれに違うグレードの商品がある。
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カレー専用のスプーンもあった。カレーマニアや有名カレー店の意見を踏まえ、カレーの美味しさを引き立てる形状を追求したらしい。左右非対称な形状だが、右利き用と左利き用がちゃんとある(買いました)
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「ピーラー」や「おろし金」だけで売り場ひとつぶん商品がある。金物だけのロフトだ。
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注ぎ口がかわいいポットがあって最後まで購入を迷った

食器、鍋、包丁、おろし金といった台所用品がフロアの半分を占めている。加工する金属も、ステンレスや銅、錫などさまざまある。

そしてフロアのもう半分は「工具」で占められていた。そっちもあるんだ。

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げんのう、のこぎり、かんな、のみ……大工道具にも金物職人の魂が宿る。
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農機具もあった。くわ、なた、手斧、すき、枝切りばさみ……! 写真を撮り忘れたが、ドライバーやペンチ、ニッパーなどの工具も揃っていた。
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かわいいオリジナルエコバッグもありましたよ。
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金物で「燕三条」って書いてあるの。いいでしょう?(買いました)

これだけたくさん「ものづくりのまち」を浴びると、実際に作っている現場を見たくなってくる。工場見学やものづくり体験ができるところはないだろうか。

調べてみると、確かに体験ができるところはたくさんある。だがその多くは事前予約制。

いきなり駅に置き去りにされた人は想定されていない。

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隣の建屋にはギャラリーがあり、金属加工の技術を活かしたアート作品もあった。

さらに調べ、ようやく予約なしで鍛冶体験ができるところが見つかった。燕三条駅のひとつ隣、JR弥彦線の北三条駅付近にある。

だが、ちょうどいい時刻の電車はない。タクシーを使ってもいいが、ルートを調べると信濃川を横切るようだ。

せっかくだから日本一長い川を徒歩で渡ろう。30分ほどの道のり。

信濃川を徒歩で渡る

燕三条地場産業振興センターを出て、駅を挟んで東へ向かう。

バイパスは車の通行量も多いが、歩いている人とはほとんどすれ違わない。

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この記事はここから三条市に入ります。
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信濃川にかかる橋を渡る。新潟県に置き去りにされた人たちも信濃川を見ているかな。

言わずとしれた「日本で一番長い川」信濃川。こうして一部だけ切り取ると、どこにでもある川辺の風景だ。地図帳では特別な存在でも、現地では普段の顔がある。

川沿いに「リバー」というホテルがあるのも良かった。「川」だね。

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信濃川の河川敷には畑があり、誰かが野菜を育てている。左にはススキ野原が広がる。奥に見える鉄橋はJR弥彦線のもの。
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あの山はなんだろう。

橋を渡ると住宅地に出た。ぽつりぽつりとこの地で暮らす人の姿を見かける。道路工事をしている人に挨拶をして、端っこを通らせてもらう。

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年季の入った木造の家があちこちにあった。道路脇に堀が口を開けていて、子どもが遊んだら危ないだろうな、でも小学生男子は飛び越えたりしたがるだろうな、と思う。
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道に埋められた消雪パイプ。この穴から地下水が出て雪を溶かす。さっきの堀も、冬は積もった雪を捨てるのに使われるのだろうか。
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マンホールが工具をあしらっていて可愛かった。

鍛冶体験で自分と向き合う

30分ほど歩いて、目的地の「三条鍛冶道場」に着いた。

三条市の伝統産業である、鍛冶技術の体験ができる施設だという。

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三条鍛冶道場。平成17年に開設。小中学校の総合学習の場としても使われているとか。
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道場内には鍛冶技術の展示が。
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一番左の塊を打ち延ばすと、一番右のピカピカの包丁になる。鍛冶グラデーション。

受付の方から説明を聞く。体験メニューは「和釘づくり(大人500円)」と「ペーパーナイフづくり(大人1000円)」の2種類。自宅から包丁を持参すれば、包丁研ぎ体験もできる(いずれも3名までであれば予約不要)

あいにく包丁は持ち合わせていない。せっかくなので普段使いができるものを、と、ペーパーナイフづくりを選んだ。

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ペーパーナイフ体験のサンプルが展示されていた。左端にあるのが材料の五寸釘。これを打ち延ばし、ひねり、表面を磨き上げると、右端のペーパーナイフになる……!
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荷物をロッカーに預けて工房へ移動。エプロン、袖カバー、ゴーグルを装備する。
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職人さんが炉に火をおこし、燃料となるコークスをくべると、真っ赤な炎が立ち上る。

職人さんが1人ついて、今日やることと、道具の説明からスタート。最初の工程は、炉で熱した五寸釘を金槌で叩いて平らにすること。

金槌の持ち方はこう、と、お手本を見せてもらう。強く握らず、握る手と金槌の柄のあいだに若干隙間を空ける。叩いた反動を利用して、リズミカルに金槌を打ち付ける。

だが、僕は致命的にセンスがないらしい。軽く握ったつもりでも、親指の位置が違うそう。握りすぎない……と意識すると、今度は弱すぎて力が入らない。

何度も指摘を受けるうち、だんだん分からなくなってくる。

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「こんなにできない人、珍しいよ? みんな楽しい楽しいって言って帰るんだから」

今度は熱した五寸釘に金槌を打ち下ろす。速く叩きすぎない。肩を入れず腕だけで金槌を振ること。金槌の中心を確実に釘の真ん中に振り下ろすこと。そうやって同じ場所ばかり叩かない。

叩き方を意識すると握り方がおろそかになる。職人さんから「難しく考えすぎなんだよ」と言われるも、何度やっても合格点に至らない。マスクから吐く息でゴーグルが曇る。

そうこうするうちに真っ赤だった五寸釘は冷め、熱するところからやり直しになる。

みんなができることができない。

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何度も手取り足取り教えていただいた。すみません。

釘の先と頭を潰し、頭をひねってペーパーナイフの柄にする。つぶした釘の先の形を整え、刀のようにする……という工程は、結局すべて満足にできず、職人さんにリカバーしてもらった。

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左が加工前の五寸釘、右が完成したペーパーナイフ。完全に職人さんのおかげ。

完成したペーパーナイフをいただいて、外に出た。

すっかり日が傾いてきていた。


厳しさを知った

長い年月を積み重ね、磨かれてきた技術がある。歴史と共に地域を形作ってきた産業がある。それをちょっと体験して分かった気になろうなんて、おこがましいことなのだろう。少なくとも、僕のセンスでは。

JR弥彦線で燕三条駅に戻る。

駅構内に、燕三条で生まれた製品たちが飾られている。昼に見たときと見る目が変わる。この品々を完成させるまで、どんなに険しい道のりがあったのだろうか。

それからしばらく、ドラえもんのスプーンとフォークを見るたびに、この日のことを思い出していた。

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燕三条駅に戻ったあとは窓から差し込む夕日をしばらく見ていました。

 

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