参加ライターのグループメッセといえば、途中からなぜか「道の駅で売ってる銀杏の値段を比べ合う」というバトルが発生していた。
もちろん道の駅なんて近場に見つからないし、一袋200円!などの爆安な画像が送られてくる流れに乗れなくて悔しかったので、「大宮駅前のそごうでは394円でしたよ」という報告をもってこの記事のシメとしたい。
2019年の「住みたい街ランキング」で、横浜・恵比寿・吉祥寺と来ての第4位が、大宮。駅には12路線が乗り入れ、都心へのアクセスも抜群。程よく賑わっていて、かつ、家賃もそこそこ安い大宮。
なるほど、確かに住みたい街かもしれない。でも、個人的に言わせてもらえば「新幹線で降りたい街」じゃなかった気もするのだ。
いま、僕は大宮で途方に暮れています。
※この記事は年末年始とくべつ企画「新幹線の駅でひとりだけ置き去りにされたい」の記事です。
デイリーポータルZ 年末年始企画「新幹線で置き去り」の旅は、東京駅でのくじ引きからスタートした。
企画担当の編集安藤さんが並べた中から、僕が取ったのが「東京→大宮」と印刷された新幹線チケット。今回の企画で最も東京から近い置き去りスポットである。
東京駅朝7時56分の東北新幹線はやぶさに乗って、大宮着が8時21分。僕以外の宮城や青森、北海道まで行くライター陣(大宮の次はもう仙台だ)が車内で浮かれた駅弁だのお菓子だの広げ出すのを横目に、ひとりペットボトルのお茶をすする。どうせすぐ着くし。
たぶん他のみんなの記事は、楽しそうに新幹線車内でワイワイしてるところも書かれているんだろうな。
大宮着の車内アナウンスが流れる中、北海道の気温にも耐えられるようにと準備した分厚いコートを抱えて、ホームに降り立つ。
窓からみんなが手を振ってくれているので、とりあえず笑顔で振り返してみる。あとからもらった写真を見たら、ここ数年でいちばん心のない笑顔だった。
…という流れで、関東平野すら出ることなく、朝の通勤客で賑わう大宮で早々に置き去りにされた次第だ。
ちなみに帰りはまた全員同じ新幹線に乗り合わせて帰る約束なので、一番東京に近い僕は、今から12時間以上、大宮にいることに。
今回は、「新幹線車内では取材地の情報収集禁止、ネタ探しは現地に着いてから」というルールにより、完全にノーガードで現地に立つことになる。
そこでひとまず駅前のファストフード店で朝食を摂りつつ、腰を落ち着けて検索を開始することにした。どうせ時間はたっぷりあるんだしー。
とはいえネタを探すにしても、大宮である。
いや、ディスるつもりはさらさらなくて、逆にあまりにも都会すぎ。旅取材っぽく行ける珍しいスポットとか、無いじゃないか。
とりあえず、大宮と言えばまずあそこ的な場所が開くまで、もうちょいのんびりしようと思う。
そういやまだ来たこと無かったし、一度は見とくか的な感じで鉄道博物館である。
平日午前中だというのに、鉄博に向かうニューシャトル(ゆりかもめみたいな新交通システム)の車内は、鉄道好きと思しき人たちでけっこういっぱい。
僕の隣に乗り込んできた4~5歳ぐらいの男の子など、この時点からテンション上がりきってるらしく、ニッコニコ顔で「ニューシャトルはかっこいいね!」「音が静か!さすがニューシャトル!」と、同行の母親に向けてニューシャトルをずっと絶賛し続けている。
そんな状態で鉄博に着いたら、彼はどうなっちゃうんだろうか。
ということで鉄博に着いたんだけど、おおー、広くてきれいだ。
遙か昔に須田町時代の交通博物館には行ったことあったんだけど、さすがにあれとは全く違うな。
僕は鉄道好きの素養を全く持ち合わせていないので、展示物がどれぐらいすごいかとか、その辺は分からない。でも、なんとなくボーッと見ているだけでも充分に面白い気がする。
つい2時間前に降りたばかりの東北新幹線「はやぶさE5系の運転シミュレータ」というのもあったので、よしじゃあそれやるか、と思ったら、すでに予約一杯で今日の受け付けは終了の文字が。えーマジかー。
これをやりたいなら、鉄博オープンと同時に飛び込んで予約しないと、間に合わないとのこと。今日はとことん新幹線に縁のない日っぽい。
仕方ないので、再び実物車両の展示を見たり、、鉄道ジオラマを見たり、鉄道の原理・しくみの展示を見たり、と館内をブラブラ。
めちゃくちゃボリュームあるので、これ、鉄道に詳しかったら、余裕でまる1日ぎっちり遊べるんだろうなー。知識が無いせいで、ひとつひとつを「へー」と流し見しするぐらいしかできないのが、ちょっと悔しいぐらいだ。
ぼんやり見てるうちにお昼になったので、館内で昼食を摂ることに。
レストランっぽいのもあったけど、なんと売店で駅弁が買えて、しかも電車を改造した食事スペース「ランチトレイン」なるものを発見。あ、じゃあ、ここで朝食べられなかった駅弁を食えばいいんだな。
満足してまた館内ブラつき始めたら、行きのニューシャトルを絶賛していた彼(と母親)と、たまたますれ違った。
なんかさっきまでと一転してぼんやり歩いてたんだけど、なにがあったんだろう。初手から大放電しすぎて早くも電池切れしたのか。
次の大宮スポットは、朝のうちに「なんか面白そうなとこあるかなー」と検索して見つけた、動物園である。ちょっと距離あるけど、鉄道博物館から歩けそうだ。
大宮公園という大きめの県営公園の中で、やや不穏な気配のする古いミニ遊園地(今日は定休日だった)の隣にちまっと「動物園」の看板があった。入園無料らしいので、気軽に入れるな。
中はかなりコンパクトで、小走りなら2分ぐらいで一周できるサイズ。飼育されている動物も、いきなり入り口正面が「ヤギ」と「オウム」というぐらいのお手軽さである。
ただ、そのお手軽感ゆえか、見る側の人間と動物の距離感がやたらめったら近い。もちろんケージはちゃんとあるんだけど、そのすぐ手前まで人間が立ち入れる感じ。あまり他の動物園では感じたことのない距離感なのだ。
動物のストレスとか大丈夫かと心配にもなるが、もしかしてストレスになるほどお客が来ないのか。
ちょっと面白かったのが、ツキノワグマとブチハイエナの「よくばりコーナー」という場所。
要するに、隣り合うツキノワグマとハイエナのケージの中央にくぼみのような小さいスペースがあって、ここからどっちも見えるよ、というだけの話らしい。
たかだかそれぐらいのことで「よくばり」呼ばわりされるのも、わりと心外だぞ。
ここのクマとハイエナも、アクリル板を挟んでほぼゼロ距離まで近づけるのはすごい。ハイエナをこんな至近距離で見たのは初めてだ。
あと、拾ったドングリを入れておくとクマのエサとして活用してくれる「ドングリポスト」や、ハイエナとクマの口の中を見てみよう、という可動式パネルなどもすぐ側にあり、「この小動物園のメイン展示はここですよ!」的な園側からの強いアピールを感じた。
小動物園、舐めてたけどわりと面白くて、3周ぐらいしてしまった。それでも滞在1時間ちょっとだけど。
しかし、次に行く予定にしていた「大宮盆栽美術館」が、念のためにスマホで確認したら定休日だった、という事態に。盆栽、見たかったのに。
仕方なく、いちど大宮駅まで戻ってきて、ぼんやりと休憩することにした。
駅近くのドトールで一息つきながらこの原稿を書いてると、今回の企画最果ての新函館北斗で降りた組から「もう函館を出ました。滞在50分ぐらい」というメッセージが入った。
こっちは大宮滞在7時間で、けっこう持て余してるんだけど。あっちはあっちで大変っぽい。
実は鉄道博物館のミュージアムショップで、大宮みやげとしてこんなものを売っていたのだけど…これ、ご存知だっただろうか。
いや、みやげもの自体ではなくて、「大宮ナポリタン」という概念の話である。
寡聞ながら、大宮がナポリタンを名物にしているのを知らなかったのだ。調べてみると、鉄道の街 大宮で、国鉄時代の鉄道員が好んで食べていたナポリタンを、ご当地グルメとして復活させた…というストーリーらしい。へー。
ということで、駅近くにある大宮ナポリタン発祥の喫茶店「伯爵邸」に来てみた。
検索した時点では「なんか押し出しの強い店名だな」と思っていたけど、来てみたら、外観の圧もなかなかのものだ。
今や割と珍しい24時間営業の喫茶店とのことで、たぶん深夜とか、このイルミネーションを目印に来店する人も多いのかもしれない。
店の前でクリスマスツリーの撤去作業をしていたおばちゃんに「ここ、大宮ナポリタン発祥のお店なんすか?」と聞いたら、酒焼けしたダミ越えで「それがウリよー」とニヤッと笑われた。なんかこのニヤッていうリアクションする人、久しぶりに見たな。
注文したのは「大宮ナポリタン トッピング全部盛り」。
メニューのナポリタンのところにトッピングリストがズラッと並んでいて、最後に「全部盛り」というのがあったので、もしやこれが大宮ナポリタンの神髄なのか?と思って注文してみたんだけど。
目玉焼き・イカ唐揚げ・チーズ・スクランブルエッグ・ロースカツ・ソーセージ・若鶏唐揚げ・ベーコンが大盛りナポリタンの上にさらに積み上げられて、ビジュアルがエグい。
味はというと、うん、普通にうまいナポリタンに、目玉焼きとイカからあげとチーズとスクランブルエッグとロースカツとソーセージと若鶏からあげとベーコンを乗せた味、としか表現できない。
大宮ナポリタン自体には特になにか味付けで特徴があるわけじゃなくて、なにかひとつ埼玉県産の野菜を使っていたら「大宮ナポリタン」なんだそうだ。なんだ、トッピングは関係ないのか。
メニューには他に、大宮ナポリタンと唐揚げとフレンチトースト、という不可解な組み合わせの「お嬢様セット」というのもあった。もし次に食べる機会があったら、これも頼んでみよう。
朝に置き去りにされたときには「12時間、なにして過ごせばいいのか」と途方に暮れていたんだけど、終わってみれば、さんざん遊んで十分すぎる取れ高という結果に。なんだよ大宮、新幹線で降りても楽しい街じゃないか。
参加ライター陣のグループメッセで「駅が真っ暗」「時間になっても電車が来ない」「ガチ雪」などの辛そうな声が聞こえてくる中、有り余る時間を活用して喫茶店でのんびり原稿書いたりしていたので、むしろ申し訳ないぐらいの気持ちだ。
ということで、当初の想定よりかなり楽しかった大宮滞在を終えて、帰ります。
参加ライターのグループメッセといえば、途中からなぜか「道の駅で売ってる銀杏の値段を比べ合う」というバトルが発生していた。
もちろん道の駅なんて近場に見つからないし、一袋200円!などの爆安な画像が送られてくる流れに乗れなくて悔しかったので、「大宮駅前のそごうでは394円でしたよ」という報告をもってこの記事のシメとしたい。
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