特集 2024年10月8日

純度100の奄美の森、金作原原生林を歩く

奄美学の第一歩は原生林から!

金作原原生林、「きんさくばるげんせいりん」と読む。奄美大島の古来の森の雰囲気を色濃く残す原生林で手厚く保護されており、立ち入りは認定されたネイチャーガイド同伴のツアーのみ認められている。

2016年にハブ探しで奄美大島を訪れて以来、8回目にしてはじめてツアーに参加し、この森を散策した。樹齢100年超の大木や希少な動植物を観察しながらディープなガイドとゆく往復2kmには奄美が凝縮されていた。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー

奄美大島の鉄板ツアー「金作原」

奄美大島といえば世界自然遺産にも登録された雄大な自然を堪能するアクティビティが観光の目玉だ。島の大部分を占める森林の奥で流れ落ちる滝を目指してトレイルしたり、生い茂るマングローブの間をカヌーで探索したり、天然記念物の黒いウサギ「アマミノクロウサギ」を探すナイトサファリなど、いろいろある中でも有名なのが「金作原原生林ツアー」である。
 

きんさくばる、語感も字面もかっこいい。

原生林というからには手付かずに近い状態で保たれている林で、亜熱帯植物が生い茂り、クロウサギだけでなく、ルリカケスやアマミイシカワガエルなど希少な生物が生息している。

島の随一の繁華街である名瀬(なぜ)から車で30分ほどでわりとさっくり行けるが現在は貴重な自然を守るために保護区となっており、奄美群島エコツーリズム推進協議会が認定したプロのガイド同伴でなければ入ることはできない。認定ガイドと回るツアーに参加する必要があるのだ。 

散策路の入口にはゲートが設けられている。

これだけ奄美大島へ来ているにもかかわらず、ハブ探しに没頭してこのザ・奄美ともいうべきスポットに足を踏み入れていないことに気づいた。8年かかったか。

Deep Amamiと金作原へ

 で、この夏、ついにツアーに申込み、金作原原生林をぶらぶらすることとなった。

案内してくれるのは「Deep Amami」という屋号で、その名の通りいわゆる観光ツアーとは一味違った深掘りなアクティビティを主催する認定ガイドの越間茂雄(こしましげお)さんだ。
 

20年ほど前にUターンで奄美大島に戻り自然調査やネイチャーガイドを営む。動植物や地勢まで膨大な知識でディープな奄美体験を提供、テレビや書籍の撮影、調査協力も多数。

 3分で絶命しそうな8月の炎天下だったが森に入ると嘘のように涼しくなる。茂りに茂った草木のおかげで日が当たらないのだ。

「これで風なんか吹いたら夏は最高ですよ」1kmほど遊歩道が整備されているので散策気分で歩ける。
脇を見るとアマミノクロウサギの通る獣道が走り、その向こうはうっそうとした森。
これがアマミノクロウサギ。奄美大島と徳之島のみに分布するマジで黒いウサギ。急角度の崖もがんがん登っていく。

 ―― 原生林というけれど、他の森とのわかりやすい違いってなんでしょう?いつもハブ探しに入っている林道となんか違うのだけれどそれが何なのかがよくわからない。

「木の太さが違いますよね。奄美大島は土地の約7割が森だけど、多くが二次林といって人によって伐採されて再生した林になっています。だから樹齢が30年〜40年の若い木が多いんだけれど、金作原原生林は人の手があまり入っていなくて(全く手つかずではない)、大きい古木がたくさん生えています」

たしかに、ところどころに太っ!、という木を見かける。

「奄美はシイの木、カシの木、いわゆるドングリの島だと思ってもらえればわかりやすいですね。スダジイ、マテバシイ、アマミアラカシ、オキナワウラジロガシ、こういった木が奄美や徳之島の森を作ってるといっても過言ではないです」

―― 奄美の森というとパンフレットとかでヒカゲへゴの葉っぱがぶわーっと茂っているビジュアルが多くて、それが秘境感を出してるなと思ったりしたんですが。

この秘境感のあるシダ植物。奄美大島はヒカゲヘゴの分布の北限である。

「もうすぐヒカゲヘゴのポイントに着きますよ。はい、ここで見上げてみてください」

おお!ヘゴってる!

―― あ、そうそうこんな感じ!こういうのがずっと続いてると思ってました。

「パンフレットとかで使われるのはだいたいここで撮った写真ですね。でも、ヒカゲヘゴに森全体が覆われているかというとそんなことはない。ヒカゲヘゴは名前がややこしいんだけど、日光が大好きな植物で、日が当たるところで成長していきます」

こんなにクネッとしてまで日光を浴びに行く。で、ぶわっと広がる葉っぱで日陰を作るから「ヒカゲヘゴ」

「だからこの深い森だと、がけ崩れとかがあって日光をふさぐ木がなくなったところに群生するんですね。つまりヒカゲヘゴがたくさん見えるのはそういった限られたところです。この画像で見るとよくわかります」

ヒカゲヘゴがぶわー、はここだけ。金作原原生林をドローンで撮影したこの画像は息を飲むほど美しいのでぜひツアーでちゃんとしたやつを見ていただきたい。

「さっき言ったように奄美の森はシイやカシの木が多くて、もこもこっとして見えます。ブロッコリーのような森ってよく言われますね」

―― なるほど、逆にそんな中でヒカゲヘゴが集中してると、ここでなんかあったな、ともなるんですね。

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そんなのピーターラビットじゃん

「太い木があるので樹洞(木の中にできる空洞)にルリカケスが巣を作ったりします。この前はケナガネズミがひょこっと顔を出してすすーっと降りてきました」

ケナガネズミ(撮影は別の場所)。奄美大島、徳之島、沖縄北部にのみ生息する日本最大のネズミ。毛が長いよりもまず「でかっ!」となる。

 ―― ええ、そんなピーターラビットみたいなことがあるんですね。

希少生物が木の穴からひょっこり顔を出す、そんな優しい世界がここにはあるのだ。

「向こうに木があるでしょ、アマミイシカワガエルが顔を出してますよ」

越間さんが道から10mほど奥に立っている木を指差す。木には細長い 穴が空いていた。
 

「よーく見てください」はい、じゃあズームします。
かわいい!こんなのピーターラビットじゃん!

「夜に活動するんだけど、昼間はああいった樹洞に好んで入ってボーッとしていますね」

鮮やかな緑に金紫の斑紋が映えまくり、日本一美しいカエルとも呼ばれている。
​2011年に沖縄に分布する種(オキナワイシカワガエル)と分けられてアマミイシカワガエルとなった。

 ―― はじめてこのカエルを見たのはキャンプ場の和式便器の中だったんですけど、あれ樹洞っぽかったんですかね......。

「他に奄美固有種のオットンガエルやアマミハナサキガエルが見られます。アマミハナサキガエルは夜は地上でエサを待ち構えているけど、昼間は一段高いところにいてやっぱりボーッとしています」

低木の枝でボーッと。
ひたすら眠たげ。

 10cmぐらいになる大型のカエルで力強い足を持ち、脅威のジャンプ力を見せる。

初めて奄美大島を訪れた夜、ハブを探して真っ暗な林道を歩いていたら後方からビターン!ビターン!と路面を蹴るような音が段々大きくなってきてギョッとしたら真横を大きなアマミハナサキガエルが狂ったような連続ジャンプで追い抜いて薮に飛び込んでいったのだった。

夜の姿、シャワーを浴びてしゃんとして出勤しとるなという感じ。

「昼は一段高いところにいる」のだがそこは木や岩とは限らない。

サカキを名乗る。他のツアー客からも注目されてキャーキャー言われていたが微動だにせず。

 

⏩ 根元にヒメハブ

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