特集 2025年1月15日

キミはバブルの都市計画「さいたま YOU And I プラン」を知っているか

昭和から平成初期にかけて、21世紀の未来都市を夢見たビッグプロジェクトが数多く計画された。

今のお台場・青梅・有明地区における「東京テレポート(臨海副都心)」、横浜の「みなとみらい21」、千葉の「幕張新都心」がその代表例だ。

じゃあ、埼玉にはそんな夢の都市計画はないのだろうか。

あるのだ。

「さいたま YOU And I プラン」が。

…あれ、ひとつだけ毛色が違わないか。

そんなさいたまらしさをひも解いてみたい。

平成元年生まれ。令和から原始まで、古いものと新しいものが好き。

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> 個人サイト 畳の夢

きわだつネーミングセンス

さいたま YOU And I プラン。

今のさいたま市合併・政令指定都市化の出発点として、1982年に埼玉県と4市1町が発表した「埼玉中枢都市圏構想~YOU And I ふれあいのまち~」が最初である。

バブル前後に構想された首都圏の都市計画って、新都心・副都心を作ることによる首都機能分散を目的としたものなのだが、令和の今聞くと気恥ずかしくなるような大言壮語にあふれているのだ。

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以前記事にした「東京テレポート」はニューヨークと共に、地球レベルでの24時間フル稼働により世界経済を動かす国際情報基地を目指していた
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自らフューチャーを名乗った「横浜みなとみらい21」。21世紀のコスモポリタン都市を目指してつくられた
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幕張新都心のハイテク通り。千葉だって街びらき当時は「近未来へのキーワード、マ・ク・ハ・リ。」なんてキャッチフレーズがあった

しかし埼玉は違う。

テレポートでもみなとみらいでもハイテクでもなく、あなたとわたしなのだ。

大仰な未来を語る時代に、マクロではなくミクロなふれあいに焦点を当てたところは、むしろ21世紀を先取りしていたのではないか。

 

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ただよう寄り合い感

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与野市、大宮市、浦和市、上尾市、伊奈町の頭文字をとってYOU And I(『さいたまYOU And Iプラン基本計画』昭和60年、裏表紙より)

1985年に基本計画として「さいたま YOU And I プラン」が策定される。

当時埼玉は42という全国最多の市を持つ県だった。神奈川における横浜市みたいな中心を持たない、中小の街が寄り集まった自治体だったのである。

"埼玉都民"とも揶揄される「過度の東京依存を是正して、県民が住み、働き、学び、憩う生活の中で、真に魅力と誇りが感じられるような埼玉県の中枢都市を建設していく」ために、4市1町が連帯し、さいたまのへそを作ろうというプランだった。(『さいたま市誕生 知られざる真実』22pより)

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YOU And Iの舞台。紆余曲折あり現在のさいたま市と範囲が異なることは後述したい(『埼玉県の市町村合併 ~「平成の大合併」の現状と課題~』平成23年、埼玉県企画財政部地域政策課、p8より)
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さいたまが誇るグリーンベルト、見沼たんぼ越しに望むさいたま新都心。基本計画の15年後、2000年にようやく街びらきした

だから、東京みたいに居丈高なトップダウンではなく、4市1町の頭文字を平等にとってYOU And I。中枢都市"圏"構想という通り、もともとは合併ではなく都市同士の対等な連合を目指したものだった。

…その後の大宮市と浦和市のバチバチの主導権争いを考えると、すこし緊張感がただよってくるネーミングでもあるが。

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プランの象徴のひとつとして1988年に竣工した大宮ソニックシティ。県の産業文化センターとして作られたこのビルは、当時東京をのぞけば東日本最大規模の超高層ビルだった

このSONICも、Saitama、Omiya、Nihon Seimei、Industry/International、Culture/Conventionの頭文字をとったものだそうだ。

まあ、ありがちと言えばありがちだけども、このネーミングも横並びな埼玉らしさなのかもしれない。

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さいたま新都心にある男女共同参画推進センターは「With You さいたま」

また、このWith You さいたまが発行する男女共同参画社会情報誌の名前が「You(ゆ)&Me(め)~夢~」。

他にも埼玉中小企業家同友会が発行する情報誌が「DOYOUさいたま」だったり、浦和美園に「You & I」というカフェがあったりする。受け継がれるさいたまセンスである。

余談だが、現在進行形の都市計画として「埼玉版スーパー・シティプロジェクト」というのもある。これは国家戦略特区「スーパーシティ構想」に対する埼玉版という意味合いのものだ。

でも、正式名称はもっと格好つけてもいいんじゃないか。そこを「埼玉版」で済ませるところに、埼玉としての誇りと潔さを感じる。

神奈川県出身者(だけどNot横浜市But相模原市)の自分としては、"みなとみらい"より地に足のついた埼玉らしさの方にシンパシーを感じるのである。

 

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バブル時代のイケイケ感から、崩壊後にガラリと変わり平成らしさへ。一粒で二度味わえるYOU And I プラン

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さいたま新都心の街びらきと同じ2000年に竣工したさいたまスーパーアリーナ。ダイナミックで超かっこいい

さいたま YOU And I プランのその後に大きな影響を与えたのは、国鉄の大宮操車場が1984年に廃止決定されたことである。

ここに国の行政機関を誘致し、また「新しい埼玉文化の創造」を目指し、埼玉メッセ(仮)と埼玉コロシアム(仮)を建設するという新都心プロジェクトが立ち上がる。

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営業時の大宮操車場(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より、整理番号/CKT7415、コース番号/C10、写真番号/21、撮影年月日1975/01/03)
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ここがさいたま新都心になったのだ(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より、整理番号/CKT20031、コース番号/C5、写真番号/11、撮影年月日2003/05/01)

当時は日本経済が華やかなりし頃で、コンベンションセンター(国際展示場)を作るのが流行りだったのだ。埼玉メッセも、幕張メッセを意識してのものだった。

1986年にはアメリカの最新のコンベンションセンターやリニアモーターカーを視察する、「さいたま YOU And I 北米視察団」を派遣する。当時はリニアモーターカーも構想していたのか…。

バブルへ向かう空気感の中で、埼玉だってけっこう浮かれていたのだろう。

県民に向けた当時の冊子を見ると、埼玉県知事が「21世紀を名実ともに埼玉の時代とするために」と意気込んでいたり、テレトピアやテクノタウン、人造湖という言葉が出てきたり、バブル時代の未来予想図って感じでワクワクする。

なお、埼玉コロシアム(仮)は当初は野球場として西武ライオンズを誘致したかったそうだが、断念しメッセとコロシアムをハイブリッドしたさいたまスーパーアリーナ建設へと向かうのである。

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この日のさいたまスーパーアリーナでは県民振袖販売会をやっていた

が、バブルは崩壊。

バブル崩壊後の1993年、「さいたま  YOU And I プラン」はあらたに「彩の国 YOU And I プラン」にリニューアルされる。

ここがYOU And I プランの一番の見どころだ。

東京依存を脱し、埼玉に自立都市圏を築くという基本理念は変わらないのだが、バブル前後で計画の表現がガラリと変わるのだ。

実際に1988年と1993年のYOU And I プランの表現を比較してみよう。

「新しい埼玉文化の創造」→「次世代のライフスタイルの創造」

埼玉メッセなどのデカいハコモノ中心の計画が、人々のライフスタイルが「多様化し、個性化」する「来たるべき本格的な成熟化社会」において、「人間尊重の都市圏を実現する」ため、「住民本位のまちづくりを基本理念」とするものに変わったのだ。

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以前の「安全で快適な居住環境の整備」から、一歩進んだテーマへ『彩の国 YOU And I プラン』1993年、埼玉中枢都市圏首長会議、11pより)

これぞYOU And I。あなたとわたしのプランである。

昭和から平成への、ほんの数年での時代の変化を目の当たりにした気分だ。

1997年に全国で初めて「バリアフリー都市宣言」を行ったのも、さいたま新都心だ。

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いたるところに点字音声案内版が設置されている。押すとけっこう大音量でびっくりする

また、環境保護の面でも、

「見沼地域における人造湖の整備」→「水と緑のコリドール(回廊)の整備」   

同じく自然豊かな街を目指していても、バブル期に50haもの人造湖の整備を想定していたものが、 今ある自然環境の保全を第一に置いたものに変わる。

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見沼たんぼ地域を流れる芝川はコンクリート護岸されていない
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首都高の下はビオトープになっている

他にも「アーバンルネッサンス」や「アベニュー」、「プロムナード」などの平成らしい横文字が目立つようになる。

この平成らしさ、ほのかな懐かしさがあって個人的にグッとくる。

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ちなみに、「彩(さい)の国」も1992年に埼玉県がイメージアップのためにつけた愛称である。イメージキャラクターがかわいい。やっぱり埼玉は横並びだ

バブル崩壊とともに瓦解したビッグプロジェクト…ではなく、時代に合わせてブラッシュアップされていったのがYOU And I プランの魅力なのだな。

 

⏩ 成熟した平成建築のオンパレード

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