特集 2018年12月21日

それを共食いキャラと呼んでいいのか? 問題

植物と脊椎動物、2系統の共食いキャラクターを擁すラーメン屋。「共食い感」が強いのはどちらか、という問題に迫ります。

例えばとんかつ屋の店頭で「おいしいよ!」と客を誘うブタさん。日本中いたるところで見かける、仲間の肉を食えと勧める嘆かわしいキャラ。それが「共食いキャラ」。

この共食いキャラを15年間にわたって追い続けてきたぼくが悩んでいることを、今回はお伝えしたい。

「それは共食いキャラなのか?」という問題だ。

もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

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オーソドックス共食いキャラ

「問題です」とか言いましたが、そもそも共食いキャラってなんなんだ、という話ですよね。

共食いキャラ慣れしていない方のために、まずは「共食いキャラ」とは何か、を説明しよう。以下のようなものがそれだ。

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とんかつ屋の店頭にいる、かわいいブタ。かわいくしている場合だろうか。振り向いたその視線の意味するものは。
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同じくとんかつ屋で。妖艶なウインク。誘っている場合か。
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こちらもとんかつ屋でにっこり。目を覚ませ、と言いたい。

とんかつ屋の店頭で客引きをするブタたち。いわば「仲間の肉を食え」と勧めているわけだ。嘆かわしい。

自ら食材代表として店頭にいるものや、ときにはコック帽をかぶって調理する側に回る言語道断なキャラ、そして仲間を食べちゃっているものもいる。これらを総称して「共食いキャラ」と呼んでいる。

もちろんとんかつ屋以外にもたくさんいる。

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満面の笑みで「豚まつり」をアピール。たぶんどういう祭りかよくわかっていないのだと思う。
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この一枚の写真の中に4匹もの共食いブタが確認できる。中でも立体の彼はその出で立ちを見るに「共食いキャラ」の名にふさわしく、仲間を調理する気満々である。嘆かわしい。
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日本以外にもいる。ブタを食べることを禁じる宗教の気持ちがわかるような気がする嘆かわしさ。
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とくにこれなど、
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すっぱりと切り落とされた風の頭部(動いてる!)がかわいそうすぎる。

共食いキャラの中でも気の毒度が高いのは、圧倒的にブタ。ウシやトリといった「共食いキャラ・トリニティ」の他メンバーと比べるとそのことがよくわかる。

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ハンバーグの他にも「焼き豚」「焼き鳥」「シューマイ」を「おまかせください!」と他種族を道連れにするウシ。
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引田天功ばりのイリュージョンで、炭火の熱を仲間の肉片に伝えるだけで、自分は焼かれずにいるミラクル共食いウシ。
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そんなウシとブタの共演。
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ガラスに貼られた少年野球の張り紙を見ると、その名も「野牛ファイターズ」である。
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トリも比較的脳天気。こうやって見ていくと、やはりブタがいちばんかわいそう感ある。
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他の共食い種族、例えばヒツジなどについてはまだサンプル数が少なく今後の研究が待たれる。
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共食いイノシシも希少。それにしてもうっすら見えるこの磨りガラス越しの惨劇はどうだ。
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「海産物キャラに共食い感がない」問題

このように、日本中、いや世界中に共食いキャラはたくさんいる。

で、ここからが本題である。

「哺乳類と鳥類以外のキャラだと『共食い感』があまりないぞ」という問題である。

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例えば香港の市場で見たこの表示。トリに比べてサカナはあんまりかわいそうじゃない、って感じがしませんか。
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例えばこのカニの共食いキャラ。「嘆かわしい感」少なくないですか。
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ドンブリにインしつつ舌なめずりのこの海老とかも。

どうだろうか。これら海産物共食いキャラは、ブタに比べると同情心が起こらないですよね。

「ですよね」とか書いたが、あまり賛同が得られない感じがする。ではウナギはどうだろう。

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うなぎ屋で見かけるウナギ共食いキャラ。あまり共食い感ないですよね?

実はうなぎ屋の「う」は多くの場合共食いキャラなのだが、このようにあまり共食い感がない。

いやしかし、上の例はキャラ化していないからかもしれない。

じゃあ下はどうだろう。

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先日鹿児島に行って西郷どんを探したときにみつけた共食いウナギ。

かなりキャラ化されている。だけどあまり共食い感がない(と思う)。

このように、川および海の幸はあまり共食いキャラっぽくないのだ。

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仲間の肉片が入った料理をダイナミックに給仕するエビ。ブタにくらべると「まあ、いいんじゃない」って感じ。
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香港にいた仲間をおいしく調理するカニ。まあ、いいんじゃない。
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共食いキャラ界で最も出現頻度が高い海の幸はたこ焼きやのタコなのだが、
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コミカルになりすぎてもはや共食い感がしない。
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貝もぜんぜんかわいそうじゃない。と思う。

例を挙げればあげるほどますます賛同が得られなくなっていっているような気がするが、とにかく「海産物キャラを共食いキャラと呼んでいいのだろうか」と、ずっとぼくは悩んでいるのです。

というか、そもそもブタの共食いキャラがなげかわしかったりかわいそうだったりする、という前提からして共有できているのでしょうか、と心配になってきた。長年共食いキャラの動向に目を光らせ続けてきたぼく。冒頭に書いたように、最初にDPZで書いた共食いキャラの記事は15年前だ。そんなぼくだけが感じていることかもしれない、と。

ただ、自分なりにこの悩みに理屈をつけたのでそれを説明したい。それは「進化系統的に人間に近いものほど『共食い感』がある」ということだ。

これには3つの意味があって、ひとつは哺乳類であるブタやウシを哺乳類である我々人間が食べること自体が共食いめいている、ということ。以前林さんが「進化の順番で寿司を食べる」ということをやっておられたが、そこで「人間に近いと旨い!」という趣旨のことを言っていた。ぼくらが共食いブタを見るときに感じる嘆かわしさの正体の一部は、もしかしたら罪悪感かもしれない。

2つめは、海産物って実際共食いに近いことやってるよね、ということ。たとえばマグロはサバやイワシを食べる。もちろんこれは「共食い」ではないが、ブタやウシが動物を食べないことを考えると、共食い感がある。

3つめは、海産物はキャラ化すると架空の生き物になる、ということ。上の貝のキャラなどがその典型だが、海産物キャラは実際の生態からほど遠い形態になることが多い。これに比べると、哺乳類は生々しいのだ。

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海産物の哺乳類である鯨の共食いキャラをどう考えるかが悩ましい。
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青果はさらに悩ましい

屁理屈を並べてしまった。そもそもぼくが問題だと言いつのっているだけで、問題かどうかもあやしいのだが、さらに先に進めたい。

「植物はもっと共食い感ないけど、どうしよう」という問題である。

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こうして並べると、キノコやナスの「共食いキャラ感の薄さ」が際立つ(と思う)。
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嘆かわしい感がまったくない(と思う)。

どうだろう。ここまで人間から遠いと「共食い感」がほとんどない。

実はスーパーなどで売られている青果のパッケージのほとんどに共食いキャラがいるのだが、ほとんど認識されていない。これも共食い感が薄いからだ(と思う)。

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サムアップするチンゲン菜。
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共食いトマト。
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だじゃれを繰り出す共食いレタス。
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いまや幻の米となったササニシキの共食いキャラ。

考えてみれば、果実などは食べられるために進化したものなので、そのキャラが「僕たちを食べてね!」と勧めることに何ら問題がない。

(ただ、それを言うと、家畜としてしか生きられず、食べられるために人の手によって生を受けたブタやウシも、変わるところがないのでは、ということにもなってしまうが、これは真剣に考えると重い話になるのでほどほどにしておきたい)

そしてなにより、植物に手足を生やし目や口を付け加えてキャラ化した時点でファンタジーである、という点が大きいだろう。

なので、この際思い切って「植物は共食いキャラにはならない」と断言しようかと思う。

いや、でもなあ。どうかなあ。どうしようかなあ。

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これなんかすごくファンタジー。よく見ると口の形がバナナである点にちょっとドキッとするが。
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居酒屋の看板にいた共食いジャガイモ。もはや微笑ましい。
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ハットにタイとキメた落花生。ファンタジー。
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とはいえ、この上部が開いたキウイはレクター博士っぽくって猟奇的。やっぱり共食い感ある青果物もいるよねえ。悩ましい。

加工品はどうするのだ

さて、なんら結論が出ないまま、さらに問題を先に進めよう。

「加工品は共食いキャラになりうるか?」という問題だ。

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まさかのベーコンキャラ。すでに食べられる形態になってしまった以上、これを共食いキャラとして扱っていいのかどうか悩む。
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素朴なタッチが光る砂肝キャラ。
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中でもこれは問題作。加工品とおぼしき胴体に店名にちなんでブルドッグの頭部を持つ、かなりややこしいキャラ。共食いキャラかどうかは別として、ちょっと異形すぎないか。
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ビールを片手にくつろぐ共食いめんたいこ。
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開いて干物になったことによって、元の姿より共食い感が出たようにも感じる。共食いキャラの奥は深い。
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正真正銘の共食いキャラである、向かって右のウシとブタ。問題は左のコロッケキャラ。共食いキャラのビフォー・アフターか。
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抽象化きわまれり。

これらのキャラをどう考えるべきか。

完全に食材と化してしまっているため、かわいそうだったりながかわしかったりはしない。でもなあ……悩ましい。こんなことに悩んでいるのはぼくだけだろう。

悩みすぎて、いろんなものが共食いキャラに見えてくる

さて、最後に(まだあるのだ)「うっかり共食いキャラだと思ってしまった」物件を紹介したい。

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「そばの共食いキャラってはじめて!」と一瞬興奮したが、よく見ればこれは器キャラだ。器がキャラになるってどういうことなんだ、という問題は残るもののとりあえず共食いではない。
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同じ「器キャラ」にはこういうものもあった。
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シロアリ駆除の会社のキャラが、シロアリ。電話をかけている(受けている?)のが駆除される仲間。これは「共食いキャラ」と言っていいだろう。電話がキャラ化している。
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そういう意味では、伊藤さんが記事にしていた永田シロアリのこれもいわば共食いキャラだ。
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「三味線の後ろに招き猫がいるの共食いっぽい!」と興奮した。

 

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三味線に関しては、より率直に猫を共食いキャラにしている名店、その名も「ねこや」がある。笑顔とはためく赤いスカーフが切ない。
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びっくりドンキーの店頭。「共食いキャラだ!」と駆け寄ったが、よく考えたらかれはドンキー(ロバ)だった。ぬかがっかり。
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「たい焼きの共食いキャラ!」と思ったが、これも冷静になってみれば違う。
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ちなみにソフトクリームもキャラ化すると、なんとなく共食いっぽい(とぼくは思ってしまう)。それにしてもこの表情。上部が頭髪に。いい。
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牛ふん肥料のパッケージにウシがいて「お!」って思ったけど、これも全然共食いじゃない。
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飲食店に動物キャラがいると「共食いだ!」って思っちゃうんです。

ぼくにとっては重要な問題なのだ

すごくどうでもいい問題でしたね。いやでもぼっく、けっこう悩んでいるのです。もし「じゃあこれはどうなんだ?」という問題をはらんだ共食いキャラ事例を見つけたら、ご一報ください。

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共食いキャラからメリークリスマス!
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