特集 2018年10月26日

いまこそ西郷どんの顔を明らかにする

いろいろな西郷さん。「眉毛が太くてふくよかな顔ならだいたい西郷隆盛」という感じ。

西郷隆盛は写真嫌いだったといわれる。そのため、その肖像写真は一枚も残っていない。また、最もよく知られている肖像画は、本人に会ったことのないイタリア人画家の手によるもので、隆盛の弟を参考にして描かれたという。

要するに、西郷さんの顔が実際どんなだったかはよくわからない。

そこで、大河ドラマで西郷どんが熱いいま、その顔を決めてみようと思う。

もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

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これが「平均西郷どん」

どうやって決めたのかというと、巷にあふれる西郷さんの顔を集めて「平均顔」を作成した次第。冒頭の写真は収集した西郷さんたち。これらを「平均顔合成ツール Average Face PRO」というアプリで読み込んで作成した。その名の通り、複数の顔を取り込み、その「平均」を示してくれるソフトである。

ともあれ、とにかくその「平均西郷どん」の結果をご覧ください。以下です。

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これが「平均西郷どん」。The Average SAIGO-DON。

どことなく「きれいなジャイアン」を彷彿とさせる。あとタッチがクレーっぽい。

いわばこれは「イメージの中の西郷さん」の平均だ。もちろん本物の西郷さんの顔ではない。素材元はイラストだしね。

いや、だけど「本物の顔」とはなんだろうか。19世紀のパリで写真館を開き成功したナダールは彼の肖像写真館に来た客について「人は撮られた写真をはじめて見るとかならず失望する」と言っている。ほとんどが怒りに燃えて写真館を後にした、と。

また、驚くことに、他人の写真を自分のだと思って満足する客も少なくなかったという。たぶん、人は自分の顔がどんななのか、ほんとうはよく分かっていない。これは今でも同じだろう。

そもそも、表情はすぐ変わるし、年齢とともに相貌も変化し、メイクやファッションでいくらでも印象を変えることもできる。

おそらく「本物の顔」という考え方自体が最近つくられたものだ。肖像画家も、肖像写真家も、その重要な仕事は「修整」だった。つまり「盛られた」顔こそが「本物」の顔だ。だとすれば、イメージの中の西郷さんこそ「本物の西郷さん」なのではないだろうか。

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ちなみにこのアプリでは、こんなふうにして顔の部位を位置決めしていく作業を行います。ふつうイラストではやらないんだろうな。ちょっと楽しかった。

鹿児島で西郷どん探した

なんて、それっぽいことを書いてみたが、そういうことはどうでもよくて、鹿児島に行ってみたら、そこは西郷どんだらけだった、ってことが言いたい。

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鹿児島の中心繁華街・天文館にあった顔ハメ。
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威厳レスの西郷さん。山下清か芦屋雁之助あたりとの混同を避けるためか 「西郷隆盛」との表記で念を押している。
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彼はほうぼうで見かけた。
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「天まちサロン」という観光案内所にはたくさんの西郷どんがいた。入り口にすでにどん。
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美術館など各種施設のパンフレットが西郷どんだらけ。
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西郷南洲顕彰館のパンフレットの西郷どんは肥後直熊による肖像画。

 

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維新ふるさと館のそれは、前述のエドアルド・キヨッソーネ作のもの。おそらくこれが現在知られている西郷さんの顔の元になっている。
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鹿児島市立美術館のこれは床次正精作。彼は西郷さんと面識があり、この絵はよく似ていると言われているそうだ。
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そんな各種トラッドな西郷イメージが並ぶ中、ふるさと館のパンフレットの西郷どんはかなり攻めている。福耳さかげんがすごい。「聖☆おにいさん」のブッダのよう。
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指宿市観光協会のパンフレットの西郷どんはどこか石原良純を思わせる。
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霧島周遊観光バスの案内にいる彼は平均西郷どんに似ている。「平均に似ている」ってなんかちょっとへんだけど。
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鹿児島観光コンベンション協会の西郷どんは額のしわに特徴がある。
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ここ天まちサロンにいた西郷どんたちのなかで、個人的にもっとも気に入ったのはこの劇画調どん。"THE LAST SAIGO" のコピーもいい。
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そして天まちサロンで一番驚いた西郷さんは、これ。「西郷お面」。

鹿児島の共食いキャラは黒豚が中心

このように、鹿児島の観光は西郷どんに全面的におまかせ、といったぐあいだ。圧倒的な西郷どん推し。

この地にはもともと西郷どん推しの気はあった。ちょうど10年前に書いた「『猫の糞小路』に行ってみた」という記事でも触れたが、ぼくの両親は鹿児島生まれで、ぼくも子供の頃はしょっちゅう鹿児島に行っていた。血は100%九州男児である。1年間だけだが、鹿児島の小学校にも通っていた。ちなみに、ぼくは市内の鹿児島弁ならヒアリングできる(頴娃の言葉とかは無理)。なので、この街の西郷どんリスペクトについてはよく知っている。

しかし、ここまでの怒濤の西郷どん攻めは異常事態だ。これには、大河ドラマが影響していると思われる。

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黎明館は「NHK大河ドラマ特別展」をやっているとのこと。そのパンフレットの肖像は石川静正の手によるもの。

おかげで西郷どんが大量発生したわけで、ぼくにとってはありがたい話だが、ほんとうはもっと野性味あふれる作品が見たい。前出これらのようなプロのイラストレーターによるものではない、在野の西郷どんが。

大量生産されていない、一点ものの西郷どんが見たい。

しかし、残念ながらそういう西郷どんは、ほとんど見つけることができなかった。

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その名も「せごどん号」と銘打ったバスにラッピングされていた西郷どん。ここまで満面の笑みの彼はめずらしい。しかし、これも当然プロのイラストレーターによる肖像画だ。
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そんななか、今回見つけることができた、貴重な、一点ものの西郷どん。

 

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彼は、うなぎ屋さんの店頭にいらっしゃいました。「おいどんの元気で明治維新」というセリフに心打たれた。元気があればできちゃうのか、明治維新。アントニオ猪木か。

上の味わい深いタッチの西郷どんは、そんな中見つけた、いわば天然物の西郷どんだ。うなぎ屋さんにいた。いい。

いいのだが、共食いキャラ鑑賞家のぼくとしては、どうしてもうなぎの方に目が行ってしまう。

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きみの立ち位置、そこでいいの? 椀の中のそれ、仲間の肉でしょ?

 ここで話が脱線するが、鹿児島と言えば黒豚が有名で、おのずと共食い豚がたくさんいる。

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「なんでぼくが仲間の肉の弁当のパッケージに……?」って感じの放心状態の表情をした黒豚。
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お尻を透明化させて、仲間の肉の存在を示すという、かなり冒涜的な共食いキャラ。
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扮装までして満面の笑みの共食い豚。目を覚ませ。
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「レンジで温めて食べてね」って。
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内容物とキャラばかりか、姿までが豚に似せられた罪深い肉まん。「絶賛」って。

このように、西郷どんを上回る勢いで次々と姿を見せる共食い黒豚。嘆かわしい。

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天文館そばには、共食いキャラ界の名作、赤塚先生作の共食い鶏もいる。
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鰹節でも有名なので、鰹の共食いキャラもいる。

さらに、上のように豚以外の共食いキャラも豊富なお土地柄なのである。前出のウナギもそのひとつ。

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そして、天文館は、なんといっても共食いキャラの異端児がいる街である。シロアリ駆除の会社のビルに、シロアリのキャラ。これは立派な共食いだ。この名作ビル、残念ながら今冬に解体されてしまうという。ここらへんの経緯に関しては伊藤さんの記事をごらんください→「殺し屋参上! 天文館のシロアリビルを訪ねて
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あと、天文館には、すばらしい「キャバ状ビル」がある。これはほんとうにすごい。(Twitterで教えてもらって見に行きました。ありがとう)

 

西郷どんの顔における自由

話を元に戻そう。黒豚を中心とした鹿児島名産共食いキャラは、新幹線駅のお土産屋さんでたくさんみつけた。同時に、ここには西郷どんもたくさんいる。いまやお土産屋さんは、共食いキャラとご当地キャラ(ゆるキャラ含む)に占拠されていると言ってもいい。

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そもそも、土産屋さんコーナーは大々的に西郷さんをフィーチャーしている。
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キャプション
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ブッセに西郷どん。「ぶっせ」って鹿児島弁にありそう。
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「げんこつ」という硬派な身体部位表現をもいいつつ、その実態は」「サクサクシューラスク」という軽やかさ。
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なぜ「げんこつ」なのか、と読んでみたが、文章の前半と後半に脈絡が見いだせなかった。薩摩独自の教育は難解だ。
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マトリョーシカ西郷どん!
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西郷どん肖像の裾野の広さを感じる。

これでもかと並べられた西郷どんお土産。全部は買い切れなかったので、失礼して店頭のものを撮らせてもらった。こころよく撮影許可を出してくれた店員さんに感謝したい。

ここで紹介したのはごく一部。これらと、先ほどの「天まちサロン」で出会ったもの、合計30あまりの顔が「平均西郷どん」の元である。

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再掲。

あなたの顔が、西郷どん

それにしても、西郷どんキャラの、その量もさることながら、表現の幅広さ、解釈の自由さに舌を巻いた。上の「いもっコロ」のものなど、「眉毛が太くて犬連れてれば西郷さん」ぐらいの自由さだ。似顔絵維新である。

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前出の観光案内所にはこんなポスターも。浴衣を着て眉毛を太くすれば、たいていの人は西郷どんに。
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明治維新150周年記念プロジェクト実行委員会にいたっては、そっくりさんを募集している。

西郷さんの「本物の顔」がどのようなものであったかは不明、というのが通説であるのに「そっくりさん募集」とは、とても面白い。哲学的ですらある。どういう基準で審査がなされるのかきいてみたい。

このような、いわば「西郷さんの顔は自由である」という性質を最もラディカルに表現しているのが下である。

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なんと、顔ハメ西郷どん。共食い豚まで!

これには心底驚いた。つまりこうだ。

「あなたがどんな顔であれ、それが西郷さんの顔である」と。

まさに「敬天愛人」である(てきとう)。


鹿児島、ひさしぶりで楽しかった

「肖像画の無血開城である」で締めた方がよかったかな。
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福岡で見つけた西郷さん。なぜ金にした。
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