これが「平均西郷どん」
どうやって決めたのかというと、巷にあふれる西郷さんの顔を集めて「平均顔」を作成した次第。冒頭の写真は収集した西郷さんたち。これらを「平均顔合成ツール Average Face PRO」というアプリで読み込んで作成した。その名の通り、複数の顔を取り込み、その「平均」を示してくれるソフトである。
ともあれ、とにかくその「平均西郷どん」の結果をご覧ください。以下です。
どことなく「きれいなジャイアン」を彷彿とさせる。あとタッチがクレーっぽい。
いわばこれは「イメージの中の西郷さん」の平均だ。もちろん本物の西郷さんの顔ではない。素材元はイラストだしね。
いや、だけど「本物の顔」とはなんだろうか。19世紀のパリで写真館を開き成功したナダールは彼の肖像写真館に来た客について「人は撮られた写真をはじめて見るとかならず失望する」と言っている。ほとんどが怒りに燃えて写真館を後にした、と。
また、驚くことに、他人の写真を自分のだと思って満足する客も少なくなかったという。たぶん、人は自分の顔がどんななのか、ほんとうはよく分かっていない。これは今でも同じだろう。
そもそも、表情はすぐ変わるし、年齢とともに相貌も変化し、メイクやファッションでいくらでも印象を変えることもできる。
おそらく「本物の顔」という考え方自体が最近つくられたものだ。肖像画家も、肖像写真家も、その重要な仕事は「修整」だった。つまり「盛られた」顔こそが「本物」の顔だ。だとすれば、イメージの中の西郷さんこそ「本物の西郷さん」なのではないだろうか。
鹿児島で西郷どん探した
なんて、それっぽいことを書いてみたが、そういうことはどうでもよくて、鹿児島に行ってみたら、そこは西郷どんだらけだった、ってことが言いたい。
鹿児島の共食いキャラは黒豚が中心
このように、鹿児島の観光は西郷どんに全面的におまかせ、といったぐあいだ。圧倒的な西郷どん推し。
この地にはもともと西郷どん推しの気はあった。ちょうど10年前に書いた「『猫の糞小路』に行ってみた」という記事でも触れたが、ぼくの両親は鹿児島生まれで、ぼくも子供の頃はしょっちゅう鹿児島に行っていた。血は100%九州男児である。1年間だけだが、鹿児島の小学校にも通っていた。ちなみに、ぼくは市内の鹿児島弁ならヒアリングできる(頴娃の言葉とかは無理)。なので、この街の西郷どんリスペクトについてはよく知っている。
しかし、ここまでの怒濤の西郷どん攻めは異常事態だ。これには、大河ドラマが影響していると思われる。
おかげで西郷どんが大量発生したわけで、ぼくにとってはありがたい話だが、ほんとうはもっと野性味あふれる作品が見たい。前出これらのようなプロのイラストレーターによるものではない、在野の西郷どんが。
大量生産されていない、一点ものの西郷どんが見たい。
しかし、残念ながらそういう西郷どんは、ほとんど見つけることができなかった。
上の味わい深いタッチの西郷どんは、そんな中見つけた、いわば天然物の西郷どんだ。うなぎ屋さんにいた。いい。
いいのだが、共食いキャラ鑑賞家のぼくとしては、どうしてもうなぎの方に目が行ってしまう。
ここで話が脱線するが、鹿児島と言えば黒豚が有名で、おのずと共食い豚がたくさんいる。
このように、西郷どんを上回る勢いで次々と姿を見せる共食い黒豚。嘆かわしい。
さらに、上のように豚以外の共食いキャラも豊富なお土地柄なのである。前出のウナギもそのひとつ。
西郷どんの顔における自由
話を元に戻そう。黒豚を中心とした鹿児島名産共食いキャラは、新幹線駅のお土産屋さんでたくさんみつけた。同時に、ここには西郷どんもたくさんいる。いまやお土産屋さんは、共食いキャラとご当地キャラ(ゆるキャラ含む)に占拠されていると言ってもいい。
これでもかと並べられた西郷どんお土産。全部は買い切れなかったので、失礼して店頭のものを撮らせてもらった。こころよく撮影許可を出してくれた店員さんに感謝したい。
ここで紹介したのはごく一部。これらと、先ほどの「天まちサロン」で出会ったもの、合計30あまりの顔が「平均西郷どん」の元である。
あなたの顔が、西郷どん
それにしても、西郷どんキャラの、その量もさることながら、表現の幅広さ、解釈の自由さに舌を巻いた。上の「いもっコロ」のものなど、「眉毛が太くて犬連れてれば西郷さん」ぐらいの自由さだ。似顔絵維新である。
西郷さんの「本物の顔」がどのようなものであったかは不明、というのが通説であるのに「そっくりさん募集」とは、とても面白い。哲学的ですらある。どういう基準で審査がなされるのかきいてみたい。
このような、いわば「西郷さんの顔は自由である」という性質を最もラディカルに表現しているのが下である。
これには心底驚いた。つまりこうだ。
「あなたがどんな顔であれ、それが西郷さんの顔である」と。
まさに「敬天愛人」である(てきとう)。