度肝をぬかれた香港の「団地商店街」
とにかくまずそのすごい「団地商店街」の様子を見ていただこう。これだ!
充実しすぎの肉屋! こんな「団地の肉屋」見たことない!
こういうノリの店が「団地商店街」内に延々連なっているのだ。あと豚足すごい。足! って感じ。
海鮮屋さんの充実具合もすごい。あと全般的に赤い照明がかわいい。 右のお兄さんは海の幸専門の四次元ポケットを持っているのか。
こっちは貝屋さん。おいしそう! (貝好き)
ガンガン捌きまくる。場内はとても賑やか。
このようなワイルドな海鮮の店が延々と続く。あまりに入り組み、かつ広すぎて先が見えない。楽しい。
もちろん八百屋もダイナミック。
お昼ご飯をかき込むフルーツ屋のおかみさん。
乾物屋の物量作戦もすごい! こういうノリの店が数十店舗連なっている。全体を見渡すと、店と言うよりもはや倉庫っぽい。
団地の足もとに2フロアーに渡って、これらの商店がひしめき合っている。面積も広大。迷路だ。食材の巨大迷路だ。
どうだろうか。写真で伝わるかなあのすごさ。あの雰囲気。
「あ、団地の1階部分に商店街があるー。香港にもあるんだね。どれどれー」なんて呑気に入っていったらこの熱気。度肝をぬかれた。
どれもおいしそうで。しかも安い! 何度買い求めかけたことか。
ホテルに宿泊している身で買ってもどうしようもないのが分かっているのに、何度も買いかけた。貝、おいしそうだったなー。肉もなー。
われらがデイリーポータルZのライターには料理上手がたくさんいるので、みんなしてここで買い物したい。
正体不明の食材もたくさんあったので平坂さんあたりに解説をお願いしたりとか。
ふつうにカエルも売ってたし。
ほんとうに団地の商店街なんですよ
ところでこれ、こうやって写真見るとどう見ても「市場」だ。
結論から言うと、まあ、事実上「市場」ではあるんだけどちゃんと「団地商店街」でもある。ロケーションはれっきとした団地の中。
別に港のそばとかじゃない。ちゃんと住宅の足もと部分に商店街として存在している。
まあちょっと規模がでかいけど。
これが「団地商店街」の外観。
日本の「団地商店街」に比べると外観からして規模が桁違いだが、上に乗っかってる住宅部分のでかさを見れば、バランス的には相似形と言えなくもない。
なんせこの高層っぷり物件が周りにわんさかある環境なのだ。この人口密度に加え、食に旺盛な国民性もあって、結果として「団地商店街」は「市場」にならざるを得ない、ということなのだろうと思う。
こちら日本の団地商店街。おちつく。香港のものを体験したあとだと、まったくの癒し系だ。だいたい、今の日本の団地商店街に肉屋や八百屋って少なくなったよねえ。
あらためて香港のエネルギッシュさを感じた次第だ。街のカロリーが高い。
ポイントは、こういうエキサイティングな「団地商店街」はここだけではなく、ほかにいくつか似たようなもの出会ったという点。たぶん巨大団地には市場たる「団地商店街」がよくあるものだと思われる。おそるべし。
例によって団地を愛でてまわっていたら
かねてより団地を見て回る趣味を持っているぼくが、香港をたびたび訪れるようになったのは当然のこと。
以前も記事にしたが(→「
団地とデモを見に香港へ行った」)、彼の地の団地は本当にすごい。
香港の団地ときたら、全体的にこんな感じで!
こんな感じなんだもの!
団地じゃなくでも、市内中心部の住宅・店舗のビルもすてきすぎるし…!
でかいのにかわいいし!
名物の竹で組んだ足場は何度見てもやっぱりすごいし!
なんでぼくは香港に生まれなかったのだろう、と真剣に思うぐらいこの都市に惹かれている。まあ、実際住んだらいろいろたいへんだろうけど。いや、日本だってたいへんじゃないわけじゃないけどねえ。
あと、関係ないけど、あちこちで見かけたこの広告のこのタレント(?)さん。ライター仲間であるダムの萩原さんに似てると思うんだけど、どうだろう。見かけるたびに心の中で「あ、萩原さん!」って言ってた。
で、こうやって団地を愛でている時に今回の「商店街」に出会ったわけです。
以下は冒頭の「商店街」の団地とは別のもの。
さいしょは「お、かわいい団地だぞ!」って思って近づいていった。キュートなカラーリング。
サイドの絵もかわいい。
遊具もコーディネート。
っていうぐあいに、最初はそのかわいらしさに油断していた。
で、そこの1階に商店街があって。このメガネ屋、ネオンのデザインが意欲的。でもまあ、団地の商店街ってこんな感じだよね、とこの段階では思っていた。
でも、眼鏡屋から先へ進み、中を覗くとこんな…!
なにここ、市場みたい! 楽しい! ってびっくりしたわけです。
肉屋もダイナミック。
魚屋もざっくばらん!
ニワトリは正真正銘「新鮮」な状態で! 団地の商店なのに!
なんか歌声が聞こえてきたぞ、と思って音の方へ行ってみたら「市場」の一角でやおらカラオケが始まってた。乾物屋の店員さんみたいなんだけど、なんで。よくわからない。
実はここも2層になってて、上にあがって吹き抜け部から見下ろすと、こんな。2階は主に雑貨。
ここはおもちゃ屋・駄菓子屋だった。団地商店街っぽくていい。
ただ、在庫収納は吊り下げ、という方法が不思議だった。
この紙でできたビルの模型(?)買おうかどうか小一時間悩んだ。うまく折りたためなそうだったので泣く泣く諦めた。
と、こんな具合に「こういう団地商店街もあるんだ、おもしろいなー」って思ってたら、別の団地にも同じような、かつもっとすごい「団地商店街」(冒頭のもの)があって、「これが香港スタイル…!」ってびっくりした、というわけです。
実はかの「九龍城」跡地の近く
で、ふたたび冒頭の「団地商店街」だが、この団地はかつてかの「九龍城」があった場所の近くだった。
本題とあまり関係ないのだが、この九龍城跡については触れておきたい。
現在は公園になっていて、親子連れで賑わうここ。ここがかつて「魔窟」と言われた九龍城の跡。
ご存じの方も多いかと思うが、九龍城とは、違法の建築がみっちり建て込んで、その内部はまるで迷路。一時期はアヘン窟があったりとかなり物騒な時代も。ぼくらのような趣味を持つ人間にとって魅惑の輝きを放つ場所だった。一度は訪れたいと思っていた。
驚いたのは在りし日のその「魔窟」の模型が展示されていたこと。手前の金属製のカタマリがそれ。こんな風にビルがどんどん建て増しされてカオスな状態になっていたのだ。それにしても「負の遺産」とは言わないまでも、当局にとって、こんな風に残すものじゃないと思っていたのでびっくり。
しかし、香港が英国から中国へ返還されるスケジュールによって、1993年に解体。ついに見ることができなかった。一生の無念のひとつである。
解体されて公園になったと聞いていたので、興味をなくし跡地を訪れていなかった。今回が初めての訪問だ。
絵に描いたような中華風庭園としてデザインされたのは、いわばここが香港の中国への返還の象徴的な場所ゆえだろう。園内ではコスプレ撮影の方々を見かけた。時は流れたなあ。
もともとは1840-42年のアヘン戦争後に防衛施設として正真正銘「城塞」がつくられた場所。
その後香港が英国の統治下にあった時代も、中国にも英国にも属していないような微妙な宙づり状態にあり、戦後は鉄筋コンクリート製のビルがびっしり建つ「無法地帯」となったが、名前は「城」を引き継いだ。その姿に相応しいネーミングだ。
九龍城を見ることができなかったぼくが夢中になった本がこれ。宝物。
ついに九龍城に「間に合わなかった」ぼくが悔しく思いつつも夢中になったのが、『大図解九龍城』(九龍城探検隊 (著, 写真), 可児 弘明 (監修), 寺澤 一美 (イラスト) /岩波書店)だ。
1997年発行。当時学生だったぼくは毎夜食い入るように読んだ。この頃、他にも九龍城関係の本が相次いで出版され、「クーロンズ・ゲート」というゲームもあった。そのためだけにプレステを買った。それぐらい入れ込んでた。
この本のハイライトがこれ。実測に基づいて描き起こされた立面断面図。
寄って見ると、こんな! この書き込み! この本はA3より一回り大きい、かなり大型の本。それが3折開きで、この密度ってんだからすごい。ちなみにこれと同じ大きさの開きページがもうひとつある。
思えばぼくの「工場萌え」の原点は会えなかった九龍城かもしれない。
で、さきほどの現地にある模型の後ろを見てびっくり!
背後にある立面図は…!
まさに『大図解九龍城』のイラストだ!
探したらちゃんと著者の寺澤一美さんの名が "by Hitomi Terasawa" とある!
まさか現地でこのイラストに出会うと思っていなかったのでびっくり。「あっー!」って声出しちゃった。「九龍城好き」の日本人が描いたものが現地に記録としておかれる、ってなんだかすごい。
みんなここでポーズとって記念撮影してたのが、なんだかおもしろかった。
さすがの九龍城でも動かせなかったもの
すっかり話が脱線してしまっているが、もうすこし。
今回はじめて跡地とはいえ現地に来て見て感動したのは、あれだけ「カオス」「無法地帯」だった九龍城もそのままにしたものがあることだった。
19世紀の正真正銘の「城」だった頃からあって、いまでもある。敷地の中心の特別な場所だ。
公園敷地の中央にある、現在は管理事務所などが入っているこの建物。ここだけ1840年代からずっとこのまま。
先ほどの模型を上から見ると、みっしりビルが建っているのに、中心だけぽっかり。そこにあるのが上の写真の建物。
これ、もともと長官のオフィスなどが入っている建物としてつくられたものだったそうだ。
不思議なのはその後あれだけ「無法地帯」となり勝手にぎゅうぎゅうにビルが建てられたにもかかわらず、ここだけそのままだったこと。
現在、周りの建物は壊され、かつてビルの谷間に埋もれていた建物が、いまや存在感のある形でその姿を現している。
地形・古地図好きとして、無計画でも「なぜか持続してしまう場所」があるということに深く感動した。もっと早く来れば良かった。
閑話休題
で、九龍城跡からほど近い場所にあるこのすさまじい団地。
で、その九龍城跡の隣のエリアにある巨大団地に行ったら、冒頭のすごい「団地商店街」があった、というわけです。
上の写真はその団地の入口。なんだか門がある。
団地の公園が完全に布団干し場になってた。
で、これですよ。
なんかすごい部位がぶら下がってるし。
きっとすごい勢いで消費されるんだろうなー
おかみさんは埋もれてよく見えない。
ああ、写真見てたらまた行きたくなってきた。みなさんにも見せたい。「香港団地ツアー」主催したい。
また行きたい
写真でうまく伝わったかどうか心配だが、ほんとうにすごかった。ふつうに観光スポットだと思う。みなさんもぜひ行って見てください。ほんとおもしろかった。