ちゃんとしたお寿司屋さんに頼みました
世田谷、祖師ヶ谷大蔵にある菊寿司さんに進化寿司をお願いした。
回転してないお寿司屋さんです。
理屈っぽいけど、「進化の順序」をはっきりさせておきたい。
たとえばエビと人はずいぶん早い時期に分岐しているのだが、エビはエビでそのあとも進化しているのだ。エビとして。
進化の順序、というとそのエビとしての進化も考えないといけない気がする。が、別にエビに義理はないのでそこは無視する。
その形が現れたのが早い順で食べてゆくことにしよう。
自作のチャートで寿司をオーダーする筆者
下からこの順番で頼んでいこう
まずは海苔から
記念すべき最初の寿司は海苔である。進化の旅はここからはじまる。
海苔の軍艦、もちろんそんなメニューはない。特別に作ってもらったのだ。
海苔は植物でもまだ水中にいる種なので、根・葉・茎の区別がないぐらいやる気がない。
この指摘は隣にいるライター加藤さんのものである。今回アドバイザーとしてライター加藤さんに参加してもらっているのだ。
現役の理科教師
「身体の作りが違うからカロリーが低いんですよ」
加藤さんがいきなり指摘した。哺乳類など人間と身体のつくりが近いもののほうが栄養価が高い。そう言われてみればカロリーが高いものは親しみやすくて、低いものは生き物として共感しにくい。クラゲとかワカメとか。
さて寿司である。海苔の軍艦なんてはじめて食べるが、うまい。食べていて筋ばったところが一切ない。この「筋ばったところが一切ない」のがこのあとの伏線になるので覚えておいてください。といってもすぐに回収するけど。
続いてはキュウリ。
軍艦に続いてかっぱ巻きという掟破りの順序である。
さっきの海苔に比べるとずいぶんしっかりしている。身に堅いところと柔らかいところがあって歯ごたえに複雑さがある。
植物が陸上に進出して実に皮ができたのだ。進化して役割の異なる場所ができたということである。ブラボー進化。
動物に入った
続いてはクラゲ。またイレギュラーをお願いしたクラゲ軍艦。こんなメニューはない。
加藤「キュウリで植物の頂点に立ったけど、クラゲでまた動物の底辺に戻った感じがしますね。」
クラゲを動物の底辺と称している加藤さんだがこのクラゲdisはこのあとも続く。
続いては貝である。おすすめのホッキ貝にした(この記事は4月下旬に撮影しました)。タコ・イカ・貝は同じなかまだが、貝のほうが早く地球に登場したのだ。
生け簀にいたホッキ貝を素早くさばく。
貝になると身体のなかにいろんな部分ができているのがわかる。殻もあるし心臓もある。
加藤「それに比べてクラゲは消化管もないんですよ。クラゲって素早く移動もしないし、堅い殻もない。なんであれだけ防衛力のない生き物が生きているというのがわからない。」(クラゲdis2回目)
すばらしいほっき貝
これまでの生物と違う。栄養という感じである。うまい
ヒモの部分もまた握りに
ひとつの個体でいろんな食感が味わえるようになってきた。進化最高!
貝の次はタコ・イカである。
一貫ずつ
イカもタコも貝ももとはアンモナイトだったのだが、恐竜(魚竜)がいなくなった瞬間に殻を脱ぎ捨ててイカとタコになったのだそうだ。怖い先輩がいなくなった瞬間に身を守る戦略から素早く移動する戦略にシフトしたのがこのふたり(2種)だ。
貝のあとに食べてみると確かに貝っぽさを感じる。にゅるんとしていて軟体動物あるあるな味である。
筋肉を感じるようになってきた
次はエビである。軟体動物ではなくなってきた。
これまでの軟体動物とは違う歯ごたえがある。筋肉の筋がすばらしくうまい。進化よありがとう。
加藤さんいわく「エビカニは海における節足動物の頂点です。むかしから形が変わってない。」だそうだ。
むかしから形が変わってないというのはかなり早い時点で完成形に達してしまったということだろうか。
「そう。むかしからクラゲも変わってないんですけど、あれもなにかの完成があるということですよね。信じられない」(3回目のクラゲdis)
もうそこクラゲ関係ないだろというところでもクラゲを出してきてばかにする。
人間のなかま登場
いよいよここでウニ。意外にウニは人間と同じ仲間なのだ(新口動物)。
クラゲのような原始的な生き物は口と肛門が共用なのだが(巾着みたいな形)、もうちょっと進化したい種はもうひとつ穴をあけて一本の管にした。
元からあった穴を肛門にして新たに口をあけたのがウニや我々、新口動物。元の穴を口にして肛門をつくったのが旧口動物。
口と肛門が一緒とか、最初の穴を肛門にしたとかすげえなと思うが我々の祖先である。
僕らの仲間、ウニ。だからうまいのか。
加藤「ウニはガード戦法に入ったので中身はノーガードなんですよ。食ってくれと言わんばかりに食べやすく卵巣が入っている。奇跡みたいな食べ物です。」
ウニとしてもまさかトゲをつけたのに持ち上げて力づくで割る奴らが出てくるとは思わなかっただろう。進撃の巨人だ。
ウニを食べたあと。おれたち元からあった穴を肛門にした派!
ここから新口動物は、脊髄ができて顎ができてどんどん進化してゆくのだが、ヤツメウナギかサメはお寿司屋さんにないので一気に魚類に飛ぶ。
魚類ではサケが原始的なのだが、ちゃんとしたお寿司屋さんなのでサケはない。イクラになった。
ウニに続いて卵巣です
ウニは正確には卵巣兼精巣。原始的な生物って信じられないものを兼ねる。
そしてついにマグロにたどり着いた
加藤「最初の細胞生物から硬骨魚まで10億年はかかってます。」
最初の海苔から考えるとずいぶん変わった。あのへにょへにょのスライムみたいな生物が、内蔵や骨はもちろん、肉までも赤身やトロなどの種類に分かれている。
10億年の成果!
加藤「マグロはこんなにうまいから、もし小さかったほかの魚にばくばく食われてますよ。クラゲとか小さいけどうまくないから食べないですからね。」(4回目のクラゲdis)
陸上の生きものになった
そして進化寿司ではここで卵である
鳥がないので卵で
いよいよ魚類とも別れを告げて、陸上に上がった生物である。シーラカンスみたいな肉々しいヒレをもった生物がもっそりと上がってきて鳥とか牛とか人になったらしい(もっそりは僕の想像)。
そして進化寿司は最後の一貫をむかえる。牛だ。
時間旅行の終わりは牛肉。
この複雑な食感の生物はなんなんだ?貝みたいないっしょくたの食感ではない。いや、もちろん牛肉だと知ってるけど、進化の過程を舌で味わったあとだと驚きの複雑さである。
加藤「筋肉を動かす神経が入ってるんですよ。筋肉ひとつひとつを丁寧にうごかすためには筋肉が神経につながってないといけないから。」
凝っている。進化してずいぶん凝った生物になったものだ。
うち、ふだん牛肉とかやってないんですけどね
最後の牛肉で今から約2000万年前。海苔の時代と景色もガラッと変わっただろう。見慣れない山や大陸とかできただろう。
こうして寿司進化コースは終わった。
寿司を食べただけなのにものすごく長い時間旅したような気分である。食べ過ぎて頭がぼーっとしているだけ、という気もする。
思った以上に進化が見えた
進化寿司、思った以上に変わった。味というよりも食感である。食感が複雑になっていく過程が体験できておもしろいぞ。そして寿司はうまい。
これから寿司を食べるときは生物の資料集が必須アイテムである。
おしらせ
7月17日にプリン体ナイトというイベントを開催します。
今日だけは特別!そんな気分でプリン体たっぷりのものを食べつつ、新作&旧作スライドをお見せします。
スライドの例
・パリパリに割れたパイロン写真集
・下手な文字
・お蔵入りDPZ記事
・小エロ/ブルジョワ/ハト
ハトマスクの販売も行います。
(尿酸値の管理はご自身で行ってください)