特集 2019年2月4日

磯の宝石、生きたタカラガイを探したい

憧れのタカラガイを拾ってきました。しかも生きているやつ!

貝マニアの案内で、生きたタカラガイを採りにいってきた。南国のお土産物でよく売られている、あのピカピカした丸っこい貝である。

これまで潮干狩りや磯釣りの現場では見たことがなかったので、あのかっこいい貝は沖縄あたりまで行かないと生息していないものだと思っていたが、探し方次第では意外と関東あたりの磯でも採れるのだ。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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タカラガイの名前が好きだから

十数年前、千葉の博物館でタカラガイという貝の存在を知り、心がときめいたことをよく覚えている。その丸くてツヤツヤした外観はもちろんなのだが、「〇〇ダカラ」という意味深なネーミングに魅かれたのだ。

オトメダカラ、アケボノダカラ、ヤワハダダカラ、ニッポンダカラ、サクライダカラなどなど。相田みつをの「人間だもの」に通じる、物語を感じさせる良き名前じゃないか。

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ほぼほぼ冬至の12月23日、潮がよく引く満月の夜の話です。

もちろん「〇〇ダカラ」という名前は「宝貝」からきたもので、「~だから」と理由を述べている訳ではない。それでも「ハラダカラ」という名前を見れば、今なら巨人軍の監督みたいな貝なんだろうなと思ってしまう。

いつかは採ってみたいなと思いつつも、どうしても食べるための貝を優先してしまい、そのまま後回しにして生きてきた。標本を作る趣味はないのである。

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タカラガイ探しを案内してくれた貝マニアの甲斐さん(仮名)。

だが最近になって知り合った貝マニアの甲斐さんから、近々タカラガイを採りにいくという話を聞き、あの日の気持ちが蘇って連れてきてもらったのだ。

ということで、真冬の真夜中にやってきたのは関東某所の穏やかな磯。なぜわざわざ夜中なのかというと、潮が引く時間に合わせてきたから。冬は夜にこそ潮が引くのである。

さらに多くの貝は夜行性なので、昼間は岩の隙間などに潜んでいるやつも出てくるため、昼の干潮よりも見つけやすい。そしてわざわざ冬に来る理由は、関東だとこの時期じゃないと成長したタカラガイを見つけられないため。その理由は後ほど判明する。

夜の磯は楽しすぎた

冬の磯なんてそりゃもう寒くて辛いだろうと覚悟してきたのだが、この日は意外と温かい上に、まったくの無風で波もない絶好の貝日和。不安定な磯を歩き回っていると、うっすら汗をかくほどだった。

さてこの広くて真っ暗な磯で、タカラガイはどうやって探せばいいのだろうか。

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「このあたりにいるはずだから」と甲斐さん。


「タカラガイは輝きが違います。見ればわかりますから大丈夫です。さあ、がんばって探してください!」

ええと、見ればわかるってどのレベルだろうの話だろうか。目ができていない素人でもわかるのかなと不安を覚えつつも、とりあえず甲斐さんとはぐれないようにしながら探してみるしかないのだが、それどころじゃないのだ。

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フジツボってこう見えて貝じゃなくて甲殻類なんだよね。
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魚も寝ているのか、ここまで近づいても逃げない。
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夜だからか、ヤドカリの動きも積極的だ。
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これがタカラガイか!って思ったらイソギンチャク。
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生きたアカウニなんて埼玉じゃ見られないよ。
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この距離感、もうシュノーケリング気分だ。

あー、だめだ。夜の磯が楽しすぎて、タカラガイ探しにまったく集中できない。ましてや今日は一年で一番潮が引く時期であり、普段は海の中に沈んでいる場所に立っているのだ。

海のない埼玉県育ちの私にとって、この空間は深海6500メートルの世界と変わらない程に現実味のない別世界なのである。あるいは宇宙。しかも息ができるし、手を伸ばせば触り放題なのだ。

何時間でもいられる幸せな空間だが、あと1時間ちょいで魔法が溶ける(潮が満ちる)磯のシンデレラ。履いている靴はスパイクブーツだが。

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真冬なのに生物の密度が凄いんですよ。

これが生きたタカラガイだ

潮が引いて幸せが満ちた磯へとやってきてから10分ほど経過したところで、どうやら先行していた甲斐さんが目的のタカラガイを見つけたようだ。

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「ありました、オミナエシダカラです」 オミナエシがなんなのかわからなかったが、どうやら「女郎花」と書く植物があるらしい。

おー、すごい。この丸っこくてツヤツヤしている姿は確かにタカラガイだ。博物館でみた展示物よりもずっとキラキラしている。

甲斐さんがタカラガイを見つけてくれたことで、ようやく私にもやる気スイッチが入った。磯の愉快な生物観察はとりあえず後回し。ヘッドライトと懐中電灯のライト兄弟で岩の隙間や潮だまりを照らして、タカラガイの光沢を探し出す。

しばらくして、水中に異質な輝きを見つけた。

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水面の揺らめきでわかりにくいが、それでもはっきりと輝いていた。


先程のオミナエシダカラとはだいぶ雰囲気の違う、ブラックオパールのような怪しい輝き。これが私のファーストタカラガイなのか。なんというか、お宝っぽさがすごい。

甲斐さんを呼んで確認してもらうと、ハナマルユキという味噌っぽい名前のようだ。まぎれもなくタカラガイの一種だが、名前にダカラがつかなくてちょっと悲しい(ハナマルユキダカラと呼ぶ場合もある)。でも花丸あげちゃうんだから。

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水中撮影してみた。きれいだけど、なんかモジャモジャしてる。。

意外と冷たくない海水に防水のカメラをつっこんで撮影した画像を確認すると、モジャモジャしたイソギンチャクのようなものの上に貝がいるように見えたが、これは別の生き物ではなく、タカラガイの持つ外套膜とのこと。水中で外套(オーバーコート)を着ているのだ。

海中からそっと持ち上げると、ニュルリと外套膜は殻の中に吸い込まれた。すごい、これが生きているタカラガイなのか。ちょっと気取ったイメージのあったタカラガイだが、実はカタツムリとかタニシっぽくて、なんだか親しみやすい存在だ。会ってみると印象が変わるタイプのやつなんだな。

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この半開きの口みたいな隙間に外套膜は消えていった。
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それにしても美しい。こんなに鮮やかなのに、特に珍しくない種類とのこと。
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