カットからまぬがれたピザはどこか誇らしげだった。
そもそも最初にピザを切った人はどうして放射状に切ったのだろう。僕なら縦横に東京ドームみたいに切りそうなものである。放射状に切ると三角形の底辺のところを持って引っ張り出すときに頂角のところがチーズにひっぱられて取りにくいだろう。
まあいい、今日は切らずにいくのだ。ピザをそのまま手に持つと、ずっしりとした質量とともに美味しそうなピザの温度を両の手のひらから感じた。
ピザ、まるごと食べる。
興奮がそうさせているのかもしれないが、明らかにまるごとの方が美味いと思った。
手でカレーを食べるインドの人は指先でも味覚を感じているのだ、と聞いたことがある。それと同じことがまるごとピザにも起きているのかもしれない。
と思ったが、そもそもピザは切っても手で食べますよね。なので気のせいだと思います。
ピザはまるごと食べるようには焼かれていないので、人の口にたいして円弧が明らかにでかいのだ。
しかしその分、こちらから苦労して噛みに行くという行為が発生するので、そこで野生が目を覚ますのかもしれない。最初のひと噛みがいつもよりも美味しく感じたのはそういうことではないか。
最初の勢いそのままに半分まできた。もしかしたらまるごといけるんではないかと思ったくらいである。
しかしここから形勢が逆転する。体がピザの重みを急に理解し始めた。
ゴールデンウィークの初日である。ここで無理して連休を台無しにしたくはないし、僕は食べ物は美味しく食べるのが作った人への感謝の伝え方だと教えられて育った。
というわけで、ここでいったんピザを置いた。
ピザはまるごと食べると興奮する
なにしろ興奮した。間違いなく今年の上半期の思い出ナンバーワンだろう。
ピザは平らなのでサイズが大きくても割りと食べられてしまうのだ。ぐいぐい進むから食べてる感もすごい。まるごと食べる興奮を味わいたいならピザがおすすめかもしれないです。