ぐりとぐらのような暮らしがしたい
このページの絵を見てほしい。
ふたりでたべる朝ごはんなのに、お皿は3枚用意されている。これはきっと、くるりくらのような急なお客さんがあらわれても「一緒にどうぞ」と言えるようにするためのお皿なのだ。なんという暮らしだろう。食器やバスケットもセンスがいい。
春の朝窓をあけて、気持ちがいいから朝食は原っぱで、と決められるような生活がしたいものだ。
“ピーナツバター ママレード
たんぽぽ クローバ パセリとセロリ
パンに はさんで
ぐりぐらサンド”
『ぐりとぐらとくるりくら』 中川李枝子 さく 山脇百合子 え
株式会社福音館書店発行 2022年2月5日第86刷 p4より
幼少期、『ぐりとぐら』シリーズを読んだことはあるだろうか。
名作中の名作、大人も子どもも魅了してやまない、のねずみ達の物語。大きなカステラを焼く『ぐりとぐら』が有名だが、シリーズの中で筆者がもっとも気に入っていた話はこれだ。
てながうさぎ(ものすごく手の長いうさぎ)の「くるりくら」が登場して、ぐりとぐらと一緒に朝ごはんを食べたり、木登りを楽しんだりするというもの。
この木登りをしているうさぎがくるりくら。「おまじないたいそう」で手を長くしたり、雲を集めてボートにしたりと、やや人智を超えた振る舞いをするため幼少期は彼に怯えていた(いまはとても好きだ)。
ややレアな「ぐりとぐらの正面顔」が拝めるなど、名作中の名作であるこの絵本だが、冒頭のシーンで気になる記述が出てくる。
ぐりとぐらが、朝ごはんのサラダとサンドイッチを作っている場面だ。
『ぐりとぐらとくるりくら』 p4より
8種もの素材が入った「ぐりぐらサラダ」がゴージャスだなあと感心しつつ、直後の「ぐりぐらサンド」である。
パンに塗られるのはピーナツバターとママレード。
卵やチーズなどの動物性のものは入らず、たんぽぽとクローバという野草が選ばれ、パセリ、セロリという香りの強い野菜で締めくくられる。
…子ども向けの絵本にしては、ちょっと材料がかっこよすぎるんじゃないか?
もし筆者が、「のねずみ達が朝ごはんに食べるサンドイッチを考えてください」と言われたら、じゃあレタスと卵と…キュウリとか? と、キャッチーな素材でお茶を濁していたことであろう。
それに比べてこのサンドイッチ、おしゃれすぎる。そして、味の想像がつかなすぎる。
この絵本のファンとしてぜひ味わってみたいと思い、「ぐりぐらサラダ」と「ぐりぐらサンド」を作ってみることにした。
ピーナツバター、ママレードなどはスーパーで購入できるとして、問題は「たんぽぽ」と「クローバ」だ。
クローバは、一般的にはシロツメクサとアカツメクサの葉の総称。なるべく人や動物の立ち入りがなく、許可をとって摘める場所…ということで、以前の記事で野草を採集した河原で摘んできた。
生食すると中毒を起こす可能性があるため、お湯でよく茹でることにした。
試しに一口食べてみた。「もに…」という知らない食感にやや困惑したものの、まあ食べられはする。ものすごく分厚いほうれんそうという感じ。味はほぼない。
クローバの問題はこれで解決したとして、お次はタンポポ。
これは以前のみじかい記事でご紹介したフランスの食用タンポポ、ピサンリを使用することにした。
くるりくらは野に咲くタンポポをそのままムシャムシャ食べていたが、筆者ことにんげんが住む土地には、すすんで食べられそうなタンポポがなかった。ある日とつぜん東京のコンクリートがぜんぶ野原に、ビルはでかい樹になったらいいのに。
用意してみるとわかるが、ぐりとぐらは案外豊かな暮らしをしている。いつも葉っぱと塩とオリーブオイルしか入っていない筆者のサラダより、よほど豪華だ。
ぐりとぐらに生活レベルで大敗している…と嘆きたいところだが、気を取り直して作っていこう。
このページ。くるりくらのお皿に載っているのはわりとしっかりした太さのにんじんスティックだ。
テーブルの、向かって右端に置いてあるのはおそらく塩だろう。サラダとサンドイッチの味付けとして、塩なら加えてもよいことにした。
また「ぐりぐらサンド」については、よくみると野菜が入っているものと、ピーナツバター&ママレードのものが作り分けてあるようだ。
使ったのは全粒粉入りの、薄切りの食パン。両面を軽くトーストしたもの。
ぐりとぐらにならって、朝ごはんは原っぱで。
まずはぐりぐらサラダから、いただきます。
色とりどりのサラダはとてもおいしい。念のためオリーブオイルとビネガーの入った瓶を持ってきていたが、塩味だけでじゅうぶんだ。
キャベツの青さをじゃがいもがまろやかにし、ピーマンの香りがアクセントになっている。たっぷり入れたチーズもおいしい。筆者がいつも食べているサラダよりも、よっぽどいいサラダだ。
のねずみやうさぎさんにとっては、これがごちそうの味なのかもしれない。にんげんにはここにハムを入れたい。
無砂糖のピーナツバターがパセリの香りとマッチし、つい食べすすんでしまう。ママレードの甘酸っぱさもいいアクセントで、塩味の野菜とうまく馴染んでいる。
DEAN&DELUCAで600円くらいで売ってそうな、複雑できちんとした味のサンドイッチ。
大きなカステラをふわふわに焼けるだけのことはある。ぐりとぐらは料理上級者だったのだ。レシピ本出してくれないかなあ。
結論:これを読んでいる のねずみ、うさぎの皆さんは、野菜とピーナツバター&ママレードは別で。にんげんの皆さんはぜんぶいっしょくたにして食べるのがおすすめです。
このページの絵を見てほしい。
ふたりでたべる朝ごはんなのに、お皿は3枚用意されている。これはきっと、くるりくらのような急なお客さんがあらわれても「一緒にどうぞ」と言えるようにするためのお皿なのだ。なんという暮らしだろう。食器やバスケットもセンスがいい。
春の朝窓をあけて、気持ちがいいから朝食は原っぱで、と決められるような生活がしたいものだ。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |