特集 2022年4月20日

春の河原はおいしい〜草餅DIY編〜

誰もが一度は食べたことがあるであろう、草餅。その材料は、その辺の道路にも勝手に繁茂しているヨモギだ。
春の河原に野草を収穫しに行き、調理して食べてみた。

日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートの花屋。花を売った金で酒を買っている。

前の記事:本当に練乳をかけるべきフルーツはイチゴではないかもしれない

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森に住まう友人が言った。「春だからって地面から食べものがどんどん生えてくるの面白すぎる」と。

田舎で育った筆者にはわかる。だって、そろそろ祖母の家の裏山にタケノコを狩りに行かないと、タケノコが軒下から畳を突き破ってくる頃だ。タケノコは採るものではない。狩るもの。

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狩るもの。

 

勝手に生えてくるのに、人間がおいしく食べられる草を野草と呼ぶ。デイリーポータルZでは多くのライターが野草を食べてきたが、筆者と編集部の石川さんの2人で調べたところ、意外な食べ物がまだ作られていなかった。

ヨモギを練り込んだ、草餅である。

ヨモギ。言葉の響きだけだと風流だが、実はそこらへんに生えている。渋谷の歩道にも、品川の駅前にも。コンクリートブロックの隙間からでも逞しく生えてくるヨモギは、検索しようとするとサジェストに「駆除」と出てくるほど繁殖力が強い。

つまり、いまだコンクリートが大流行中の都会に済む筆者にも、摘んできたヨモギで草餅をDIYするチャンスがあるということだ。

とはいえ都内の路上に生えている草を食べるのは憚られる。
どうせなら美味そうなヨモギを摘みに行きたいものだと思い、春の陽気のある日、野草が青々と繁る河原に向かった。

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ここは筆者が昔住んでいた場所に程近い川。傾斜がきついため、釣り人以外は立ち入らない、野草摘みの穴場スポットである。

担当の河川管理事務所に、ヨモギなどの野草を摘んでもいいでしょうかと尋ねたところ、「ハゲにしなければいいですよ」とのことであった。河川管理事務所の方ってやたら朗らかな方が多い気がするが、なぜだろう。

春の河原は食べ物でいっぱい

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ヨモギスポットに向かう道中。これはすべて、ゴリゴリに伸びているイタドリだ。
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河原にもたくさん生えていたため、収穫。ポキッと小気味よく折れるものが食べ頃らしい。

茎に赤い斑点と節があるのが特徴。葉をちぎるとねばねばする。

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手前にあるふさふさの葉っぱは、去年こーだいさんが記事でお茶にしていたスギナ。

スギナがあるということは、あいつもいるはずだ。

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いた!元気なツクシたち。ツクシの先端って、見てるとすごく不安になりませんか。

食べられる草が所狭しと生えている。いつか死ぬほどお金に困っても、河原に来れば死なないんじゃないかというくらいに生えている。

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小ネギみたいな草をスコップで掘り起こすと…
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ノビル!漢字だと野蒜と書く。大蒜(にんにく)の…蒜(にく)?この部位(にく)で合ってるのか?と同じ字であることから分かるように、ネギ族の野草だ。
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小鳥さんもピヨピヨ言うてます。

 

河原のほとんどをスギナに占領されたらしく、肝心のヨモギの姿が見つからない。春の河原は野草の戦国時代だ。

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しばらく探し回ったところ、ようやく群生地を発見。

ヨモギって、猛毒のトリカブトにそっくりなんでしょう?間違って獲っちゃわないか怖いわ〜とよく言われるが、ヨモギは裏側が白い毛で覆われているためすぐわかる。シルバニアファミリーと同じテクスチャ。

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元花屋のクセで、草を集めると自然とブーケの形に組んでしまう。
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暑くなったら草に埋まる。筆者のプロフィール画像をご参照いただきたいが、草に埋まるのが趣味なのだ。
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画面の前のあなたも、春の河原に寝そべった目線をご堪能ください。

この日の気温は27℃。薄手のシャツでも汗をかく暑さだが、草むらの中はひんやりと涼しい。川を撫でるように風が吹き、草のいい匂いがする。

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ふだんオフィスビルで働いていたとしても、たまに草に埋まってみるといいですよ。都内のビル全部でかい樹ならいいのにって気分になるから。

これは記事の趣旨とまったく関係のない発見だが、iPhoneのカメラを広角にして、背伸びしてなるべく高いところから撮ってもらうと、「戦闘で敗けて森に倒れる巨人」みたいな写真が撮れる。

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まるでドローンで空撮したかのよう

脱線のかぎりを尽くしてしまったが、野草は豊作であった。

さっそく持ち帰って調理しよう。

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ヨモギ餅の前に、ちょっと道草をくいます

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今回摘んできた野草たちだ。左からヨモギ、イタドリ、ツクシ、ノビル。メインの草餅の前に、他の野草も調理してみよう。

スーパーで売っている野菜とちがい、野草には下処理に時間がかかるものがある。

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ノビルとイタドリは土を洗い落とし、ツクシはハカマを剥いておく。

ノビルはエシャロットのように生でも食べられる。筆者は生のネギがあまり得意ではないため、さっと湯掻いて酢味噌でいただいた。

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茹でた後、葉っぱをくるくるっと巻いて結ぶと格好良くなるが、待てずにそのまま食べてしまった。

ふつうに売られているネギと遜色なくおいしい。酒のアテにぴったりだ。
これが無料で大量に生えているのは、冷静に考えてちょっとおかしい。

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ホタルイカとノビルのアヒージョ。油との相性がよすぎる。

ホタルイカは近所のスーパーで山積みに売られていて、こんなに獲ったら滅びてしまうのではと心配になりながら買ったもの。

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続いてイタドリ。アスパラガスのように、外の固い皮を剥いでおく。
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穂先はそのまま天ぷらにすると美味しい。後ろはつくしのかき揚げだが、ほのかな苦味以外に特徴的な味がなく、人参などと一緒に揚げるとより美味しいだろうなと思った。

イタドリの天ぷらは、揚げたては甘くて非常に美味しいが、冷めると独特の風味と渋みが出てくる。
ここで筆者おすすめのイタドリの食べ方をご紹介しよう。これなら野草が苦手な方でも、おいしく食べられるはずだ。

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イタドリを鍋に入るサイズに切って、沸騰する手前の温度の湯で湯がく。湯温が高すぎると溶けてしまうため要注意。

やや鈍い緑色になったところで、たっぷりの冷水にとり、そのまま一晩放置。時間はかかるが、そのまま食べるとエグ味と酸味が強いため、辛抱強く待とう。

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その間に、ナスを粗みじん切りにしておく

単体だと食べづらい野草は、市販の野菜と組み合わせることで突然「口に入れやすく」なる。口の中で知っている味のヒントが与えられ続けるため、野趣溢れる味の野草が入っていても、違和感なく食べられるようになるという寸法だ。

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そのままでは食べごたえなさそうな、小さいノビルも荒く刻む。

さらにミョウガ、大葉などを好きなだけ入れて、出汁醤油を回しかけておく。
翌朝、水にさらしておいたイタドリを刻んで加えたら…

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完成!山形の「だし」みたいなやつ。

冷奴などに載せておいしいアレだ。キュウリの代わりにイタドリを、小ネギの代わりにノビルを入れたアレンジ品。

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そうめんに載せていただきます。
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めちゃくちゃうまい。イタドリはやや酸味のあるほうれん草のような味で、野趣ある香りではあるものの、薬味との相性が抜群にいい。

ネギのような香りのノビルも、出汁醤油に漬けられたナスもいい味を出している。
冷蔵庫に常駐させておきたいおいしさだ。野草の食べ方に困ったら、「だし」にしてしまうのがおすすめである。

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暗黒ヨモギペーストにならないための、たった一つの方法

さて、肝心の草餅である。
野生のヨモギを捏ねてうどんを作ったことのある人に、どうやって生地に混ぜ込んだのか尋ねたことろ、「パリパリに乾燥させて、ミルで粉にした」とのことであった。

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ヨモギはあらかじめ、梅干用ネットで天日干しにしておいた。天気に恵まれずやや生乾きだが、草餅にできるだろうか。
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我が家には大きいミルがないため、試しにブレンダーに入れて回してみた。(※メーカーで推奨される使用法ではないので、実践される場合はハーブやスパイスに使えるミルや、すり鉢をご使用ください)

細かくはなるが、粉にはならない。
収穫して間もないため、ヨモギの水分が抜けていないことが原因であろう。

少し水を入れたらペースト状になるだろうか?

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黒!怖!

魔女の呪いみたいな見た目になってしまった。
どうやら手順が間違っている。

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気を取り直して…まずは重曹を入れたお湯で、ヨモギを3分ほどしっかり茹でる。
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流水で洗い、水を切らずにそのままブレンダーに入れて回したらヨモギペーストの完成。先に茹でるのが正解だった。
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だんご粉にあわせて混ぜていきます。
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ようやく見たことのある姿になってきた!草餅の赤ちゃん、かわいいですね
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9つに分裂
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たっぷりのお湯で茹でて、冷水で冷やす。
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お好みできな粉と黒蜜をかけたら完成!DIY草餅!
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すごい…完全に知ってる草餅の味だ…

ヨモギは生のままかぐと菊のようだが、熱を加えた途端に、誰もがしる「あの香り」になる。

河原で無料でつんできた草が、こんなに美味しいお菓子になるなんて。大流行していないのは何故なんだ。人に配りたいくらい美味しい。

 

ちなみに…

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小麦粉と塩とヨモギペーストを入れてこねまくり
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二重の袋に入れて
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キュッ
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えいえい
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浄化完了(足の裏にインクがうつっただけ)
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寝かせて伸ばして…
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切って茹でたら…
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できた!…のか!?なんだか縮れちゃったヨモギうどん。
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味は美味しかったです。

 


春の河原はおいしい

最近、友人たちが一人また一人と野草食にハマっていく。以前は「webライターさんたちって、なんでみんなその辺の草食べてんだろ」と思っていたが、今ならその気持ちもわかる。歩き回って発見する楽しさと、ちょっとした冒険気分と、調理して味わうまでの面白さ。釣った魚を捌いて食べるのに近い。

このまま深みに入り込んだら、野草めあてに山に移住する日が来るかもしれない。そしていつかキノコを間違えて死ぬのだ。田舎の食中毒のニュースとはそういうふうに出来ているのだな、と心で理解した。

野草食に興味がある方、まだ虫の少ないこの季節がチャンスだ。Youtubeやネット記事に、野草の同定のしかたや調理方法は山ほど乗っているし、ツクシやイタドリなどの特徴的な野草はすぐに見つかる。もちろん慎重に情報収集した上で採集し、中毒や法律には注意する必要があるが、「その辺に生えているものを食べるなんて」という固定観念はすぐに吹き飛ぶはずだ。
春の河原は、そのくらいにおいしいもので満ちている。

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