本当に準備せずに来た
この日、僕はいつも通り夕方まで東京で仕事をして、そのまま新幹線に乗って新潟にやってきた。準備はほぼゼロである。
ほぼ、というのはいちおう着替えとモバイルバッテリーとカメラくらいは持ってきた、というところだ。情報については無である。
新潟市は前に来たことがあったような気がするな、程度である。もしかしたら初めてかもしれない。
ここからは企画趣旨どおり、すべてを地元の人に頼って観光したいと思う。ようするに行き当たりばったりの旅だ。それって超楽しそうではないか。
まずは観光案内所でおすすめを聞くのが正攻法だとは思うのだけれど、なにせ着いた時間が遅かったのですでに閉まっていた。
道行く人にいきなり「おおすすめ教えてください」と聞く勇気もない。ホテルだけはいちおう予約してきたので、ぼんやりとそちらに向かって歩いてみることにした。
新潟駅前はチェーン店の居酒屋やカメラ屋なんかが夜でも明々と営業しており、新宿にいるのとたいして変わらなかった。
せっかく知らない街にきたのにこれではがっかりすると思うだろう。違うのだ、むしろ安心する。知らない町でいつもの風景に出会うと安心するのだ。ありがとうという気持ちで、忘れてきたデジカメのケーブルを買った。
この日は昼間に会議があって、11時頃にカレーパンを食べてから何も食べていない。はらへった。とりあえず何か食べたい。
なんの情報もなくふらふらと歩いていると、一人でも入れそうな優し気なカウンターのある居酒屋を見つけた。首をつっこんで聞くと席も空いているという。
居酒屋「駅前漁港」
ノープランでやってきた新潟での最初の食事は「駅前漁港」と言う名の魚の美味しそうな居酒屋だった。駅前留学なみの魅力ワードである。
地元の人頼りなので自分でメニューを選ばずに大将におすすめを聞く。
大将におまかせした刺身はどれも食べたことない美味しさだった。歯ごたえがしっかりとあるのに、口に入れるとふわっと魚の香を残してなくなっていく。そんな天国のかけらみたいな味。
飲み物も大将に任せたところ、生産量が少なくて個人用には卸していないという日本酒をすすめてくれた。
僕は普段日本酒を飲まないので味の感想をどう書いていいのかわからないのだけれど、がまんすることなくすっと降りていくお酒だった。ほら、お酒って最初がまんして飲むみたいなところないですか(そもそもあまり飲まない人の感想です)。このお酒には、それがない。