今日の街
浦安店
・ツユのかつおぶしが濃い
・漁業の街の歴史を受け継いでいるのだろう
・漁師と猫の亡霊が、かつおぶしの量を増やしている
いろんな富士そばのかけそばを食べた。
その中でも、特に味が違う、と感じるホットスポットのような富士そばがある。
そこにはなにか特別の理由があるのだろうか。
今回はそんな話である。
編集部よりあらすじ:
4回目にして東京を飛び出して浦安を訪問。そこで出会ったかけそばに街の歴史、その秘密を見出します。ん、これはそばの味の連載ではないぞ…ということがわかってくる第4回。見逃せなくなってきました!
千葉県の浦安は、東京ディズニーランドがある街。かつては漁師町として栄えたが、今では東京のベッドタウンとしての役割が大きい。ディズニーランドがあるとはいっても、浦安駅前にはごく一般的な、住み良い住宅街が広がっている。
しかし、よく見てみよう。店内には、浦安からの呼び声がたしかに聞こえてくるはずなのだ。
例えば、この張り紙はなんだろう。
このメニュー、他の店では見たことがない。なぜあるのか。
食べてみよう。
すぐさま、私は気付いてしまった。
そう、出汁のかつおぶしが濃いのだ。風味が、今までの店とは比べ物にならないくらい違う。
あさり丼に、かつおぶしが濃いツユ……。
一体これらは、私たちになにを訴えかけているのだろう。
最初にちらりと書いたが、実は浦安、かつては一大漁師町だったという。
1971年に漁業権を放棄して以来、大きな産業としての漁業は見られないが、今でも、漁師町のなごりは残っている。
それが、越後屋蛤店だ。
焼き蛤や焼きあさりは浦安の名物だそうで、越後屋蛤店はその歴史を物語る。
そう思うと、メニューに「あさり丼」があったのも、うなずける。浦安ならではのメニューだったのだ。
あるいはそこに、かつていた、浦安の漁師たちの面影を見ることも難しくはない。
その面影が、ツユにも影響してしまうのだ。
富士そばのかつおぶしは、種類こそ2種類(東京の阿部鰹節株式会社と静岡の小林食品株式会社)だが、その量は店ごとに変わるという。店ごとの味の違いは、ここから生まれる。
そして、漁師たちの亡霊は、富士そば浦安店のかけそばに、かつおぶしを多く投入させるのだ。それはあたかも、漁師たちが自分たちの存在に気がついて欲しいかのように。
しかし、もうひとつ、決定的な亡霊がいる。
富士そば浦安店のすぐ近くに、「猫実(ねこざね)」という変わった地名がある。
鎌倉時代、この辺りに津波が多いため、その防潮堤として植えられていた松の木に「根来さね」(根のところまで水が来ないでください)と込められた願いが地名となり、それが転じて、「猫実」という可愛らしい地名に変化したのだという。
しかし、普通に考えて「根来さね」が「猫実」に変化する理由がわからない。
ここで私はひとつの仮説を考えてみた。
浦安はもしかすると、猫の亡霊にも取り憑かれているのではないだろうか。
その猫の面影こそが、「根来」を「猫」に変えた。
そして猫である。
猫なのだ。
猫。
そう、猫といえばかつおぶしである。
この猫の亡霊こそ、富士そば浦安店のかつおぶしの風味を濃くしているもう一つの原因ではないだろうか。
驚くべきことに、そう考えるとすべてのつじつまが合うのだ。
なぜなら、猫はかつおぶしが好きだからだ。猫がそばを食べる場合も、かつおぶしが濃いほうがいいに決まっている。
漁師と猫の面影こそ、富士そば浦安店のかけそばの味を決めている。
浦安の歴史について、私は何も知らなかったし、まさかこれほどまでに調べることになるとも思わなかった。
しかし、富士そばのかけそばが私に、歴史の扉を開いてくれたのである。
富士そばホットスポット、恐るべしである。
浦安店
・ツユのかつおぶしが濃い
・漁業の街の歴史を受け継いでいるのだろう
・漁師と猫の亡霊が、かつおぶしの量を増やしている
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