小出し記事 2020年8月27日

富士そばは街ごとに味が違うらしい その4

いろんな富士そばのかけそばを食べた。

その中でも、特に味が違う、と感じるホットスポットのような富士そばがある。

そこにはなにか特別の理由があるのだろうか。
今回はそんな話である。

編集部よりあらすじ:
4回目にして東京を飛び出して浦安を訪問。そこで出会ったかけそばに街の歴史、その秘密を見出します。ん、これはそばの味の連載ではないぞ…ということがわかってくる第4回。見逃せなくなってきました!

1997年生まれ。大学院で教育学を勉強しつつ、チェーン店やテーマパーク、街の噂について書いてます。教育関係の記事についても書きたいと思っているが今まで書いてきた記事との接点が見つからなくて途方に暮れている。

前の記事:ブックオフで一番高い本を探す

> 個人サイト Note

浦安店のはなし

千葉県の浦安は、東京ディズニーランドがある街。かつては漁師町として栄えたが、今では東京のベッドタウンとしての役割が大きい。ディズニーランドがあるとはいっても、浦安駅前にはごく一般的な、住み良い住宅街が広がっている。

fujisoba_4_1.jpg
そんな駅前に、富士そば浦安店はある
fujisoba_4_2.jpg
店内はいたって普通の富士そば

しかし、よく見てみよう。店内には、浦安からの呼び声がたしかに聞こえてくるはずなのだ。

例えば、この張り紙はなんだろう。

fujisoba_4_3.jpg
ミニあさりたっぷり丼セット

このメニュー、他の店では見たことがない。なぜあるのか。

fujisoba_4_4.jpg
そして、かけそば

食べてみよう。

すぐさま、私は気付いてしまった。

そう、出汁のかつおぶしが濃いのだ。風味が、今までの店とは比べ物にならないくらい違う。

あさり丼に、かつおぶしが濃いツユ……。

一体これらは、私たちになにを訴えかけているのだろう。

漁師町、浦安

最初にちらりと書いたが、実は浦安、かつては一大漁師町だったという。

fujisoba_4_5.JPG
1930年代の浦安(新光社「日本地理風俗大系 第3巻」より、パブリック・ドメイン

1971年に漁業権を放棄して以来、大きな産業としての漁業は見られないが、今でも、漁師町のなごりは残っている。

それが、越後屋蛤店だ。

fujisoba_4_6.jpg
1950年創業

焼き蛤や焼きあさりは浦安の名物だそうで、越後屋蛤店はその歴史を物語る。

そう思うと、メニューに「あさり丼」があったのも、うなずける。浦安ならではのメニューだったのだ。

あるいはそこに、かつていた、浦安の漁師たちの面影を見ることも難しくはない。

その面影が、ツユにも影響してしまうのだ。

fujisoba_4_4.jpg
透き通ったツユには、漁師の面影が映る

富士そばのかつおぶしは、種類こそ2種類(東京の阿部鰹節株式会社と静岡の小林食品株式会社)だが、その量は店ごとに変わるという。店ごとの味の違いは、ここから生まれる。

そして、漁師たちの亡霊は、富士そば浦安店のかけそばに、かつおぶしを多く投入させるのだ。それはあたかも、漁師たちが自分たちの存在に気がついて欲しいかのように。

しかし、もうひとつ、決定的な亡霊がいる。

漁師と猫の亡霊が

富士そば浦安店のすぐ近くに、「猫実(ねこざね)」という変わった地名がある。

鎌倉時代、この辺りに津波が多いため、その防潮堤として植えられていた松の木に「根来さね」(根のところまで水が来ないでください)と込められた願いが地名となり、それが転じて、「猫実」という可愛らしい地名に変化したのだという。

fujisoba_4_7.jpg
歌川広重「名所江戸百景」より「堀江ねこざね」(パブリック・ドメイン

しかし、普通に考えて「根来さね」が「猫実」に変化する理由がわからない。

ここで私はひとつの仮説を考えてみた。

浦安はもしかすると、猫の亡霊にも取り憑かれているのではないだろうか。

fujisoba_4_8.jpg
猫の亡霊(パブリック・ドメイン

その猫の面影こそが、「根来」を「猫」に変えた。

そして猫である。
猫なのだ。
猫。

そう、猫といえばかつおぶしである。

この猫の亡霊こそ、富士そば浦安店のかつおぶしの風味を濃くしているもう一つの原因ではないだろうか。

驚くべきことに、そう考えるとすべてのつじつまが合うのだ。

なぜなら、猫はかつおぶしが好きだからだ。猫がそばを食べる場合も、かつおぶしが濃いほうがいいに決まっている。

fujisoba_4_4.jpg
透き通ったツユに猫の面影が映る

漁師と猫の面影こそ、富士そば浦安店のかけそばの味を決めている。

浦安の歴史について、私は何も知らなかったし、まさかこれほどまでに調べることになるとも思わなかった。
しかし、富士そばのかけそばが私に、歴史の扉を開いてくれたのである。

富士そばホットスポット、恐るべしである。


今日の街

 

浦安店
・ツユのかつおぶしが濃い
・漁業の街の歴史を受け継いでいるのだろう
・漁師と猫の亡霊が、かつおぶしの量を増やしている

連載企画:小出し記事「富士そばは街ごとに味が違うらしい」
ライター:谷頭和希

第一回:五反田・自由が丘
第二回:水道橋・王子
第三回:池袋・池袋東口・池袋西口
第四回:浦安
第五回:川越・藤沢
▽デイリーポータルZトップへ

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

デイリーポータルZを

 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ
↓↓↓ここからまたトップページです↓↓↓

 

今日のみどころ