今日の街
川越店
・富士そばの北限
・オーソドックスな味
・江戸の守りとして栄えた街であるため、富士そばの味も守り継いでいるのではないか
藤沢店
・富士そばの南限
・乱切りそばの新しい味
・富士そばに革新をもたらす進取の店舗
富士そばをめぐる旅に、一つの終止符を打とう。
最後にめぐるとしたらどこか。今まで訪ねたことのない遠い富士そば。
そうだ、川越なんてどうだろう。
編集部よりあらすじ:
そばの味は街が決める。その仮説のもと、さまざまな富士そばとその街を味わう随筆連載。
回を重ねるごとに街と富士そばの関係性がはっきりしてきました。最終回の最後、ポエジーな締めの一文にもご注目ください。
小江戸と呼ばれ、都内からの観光客が多い川越。川越駅から歩いて数分のところに「富士そば川越店」がある。
小江戸でそばなんて、粋な計らいだ。
食べてみると、非常にオーソドックスなかけそば。富士そばは元々、「夜でも安心してそばが食べられる場所を」という現会長の思いから創業されたそうだが、まさにその「安心の味」がする。
これぞ、富士そば。いつでもどこでも同じ安心感があるのだ。
いや、しかしちょっと待てよ。
同じ味では、この連載的にまずいのではないか?
私の脳裏に一点の不安が立ち込める。
しかし、私ははっと気づき、地図を広げた。
そう、富士そば川越店、富士そば全店の中でもっとも北にある富士そばなのだ。富士そばが出店している範囲を「富士そば圏」とするなら、いわばその境界にあたるのが川越店なのだ。
では、富士そば川越店が富士そば圏の北限にあることはなにを意味しているのか。それを知るためには、川越の歴史をたどらねばならない。
川越は、川越城を基点として鎌倉時代から権勢を誇った都市。江戸時代には江戸幕府の「北の守り」としての役割を担った。「江戸」を背後からしっかり守るのが川越の役目だった。
それは、富士そばでも同じなのではないか。
つまり、川越店では最もオーソドックスなそばを提供することにより、東京を中心として広がる富士そば圏を、その境界線上でしっかりと守っているのである。
いわば、富士そばの守護を担うのが、この富士そば川越店だとはいえないだろうか。
だからこそ、川越の富士そばはどっしり、威風堂々とオーソドックスでなくてはならない。
もう一度、地図を広げる。あるいは、ホームページを。
いま、私は富士そばの北限にいる。そうすると気になるのは、南の端の富士そば。いわば、もう一つの境界線上の富士そばだ。
それはどこか。
藤沢である。
これは、行くしかない。もう一つの境界線上の富士そばである藤沢店はどうなっているのか。
なんともオシャレな富士そばだ。
そばを頼む。
味はといえば、乱切りそばの風味がよく、まさに新時代の富士そばだ、とでもいわんばかり。味や店内、すべてにおいてどこか進取の精神を感じる富士そばだ。新しい風が吹く。
単純に新しい富士そばの店舗だということもできるが、川越店と比較してみればその特徴をもっと深く見ることができる。
川越が、江戸の守りとしてオーソドックスな富士そばを守り継いでいるのだとすれば、藤沢の富士そばは、そんな富士そばに新風をもたらす革新の富士そばだ。
富士そば圏の境界を担う2つの店舗は、このようにして富士そばを支えているのかもしれない。
その2つは、どちらがいいというものではなく、両方あって安定する。
変わらない部分と、変わる部分。
思えば、この連載で巡ってきた店舗のかけそばは、たしかに大体は同じような味をしていたかもしれないが、細かい部分で差があった。
私はその差をめぐってきたわけだが、どの店舗にも流れていたのは、変わらない部分の安心感でもある。
その2つがあってこそ、富士そばは富士そばなのである。
北限と南限の富士そばは、それを教えてくれたような気がする。
南の端で、そんなことを考えていた。
かけそばは、空になっていた。
川越店
・富士そばの北限
・オーソドックスな味
・江戸の守りとして栄えた街であるため、富士そばの味も守り継いでいるのではないか
藤沢店
・富士そばの南限
・乱切りそばの新しい味
・富士そばに革新をもたらす進取の店舗
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