わたし、むかし両性具有のホタテを探す仕事をしてたんです
ホタテのオスとメスの見分け方を教えてくれたのは、以前函館で海産物の研究所にいたというNさんだ。
「わたし、むかし両性具有のホタテを探す仕事をしてたんです」
聞けば、一日中ホタテ貝を割り開け、中の生殖器を目視、その性別を識別していたそうだ。
上の写真の通り、貝柱を囲む生殖器の部分が白だと精巣、つまりオスで、ピンクだと卵巣でメスということになる。
うまれたときは全員メスらしいが、その後2年ぐらいで半数がオスに性転換するんだとか。
Nさんは、白でもピンクでもない、その中間の色を持つ両性具有のホタテを探すのが仕事だったという。
両性具有にかぎらず、研究所で異常固体と呼ばれる固体が現れるのは、場所とか環境とか年度によってかなり変わるものらしい。多いと3割にもなるそうだ。そういう固体はサンプル採取時には弊死、殻を閉じたまま死んでいることがほとんどだという。
ホタテにそんなことが起こっているとは……。
感慨にひたりつつ、貝のついた生ホタテを買えば、私のような素人でもオス、メスが区別できる! という驚きも噛みしめた。
そういうわけで、今回の食べ比べを開催するにいたったわけです。
自宅でやろうホタテの鑑別
さて、勇んでいった魚屋さんに売っていた活ホタテ。中をうかがって、メスオス見分けて買うつもりだったのだが、開いた口から覗こうとしたら、バクっと閉じた。
そうか、生きてるのか! 普段はパックの貝柱ぐらいしか買わないので忘れていた。貝も当たり前に生物なのだった。
結局、ランダムに6つゲットした。
帰って早速、貝のすきまからかろうじてオス、メスの判断がつく二つを刺身用にするため、貝にナイフを差し込んでパカっと開けた。
一気に気分は漁港だ。「えんや~あ~あ~」“白鶴まる”のCMソングが頭に流れる。
残りの4つも漁師料理らしくやってみたい。むりやり、自宅のガスコンロにブロックを設置し、網を乗せて直火焼を決行した。
なんだか企画趣旨が「自宅を漁港に」みたくなっているが、いいじゃないか。直火にかかったホタテはじりじり焼くと突然ぱかっとひらくのが楽しい。次々焼いた。
結果、なんと古賀家にやってきた6つのホタテはきっぱりとオス3、メス3であった。偶然だろうが、面白いほど気持ちいい結果。
ちなみに焼いている段階で気付いたのは、オスは身離れがよくメスは悪い、ということだった。偶然だろうか。
味の違いにも俄然期待が沸いてくる。これで刺身、あぶり、バター焼の3種類で食べ比べていこう。
どちらも美味しい……
まずはお刺身から。
貝柱を取り出す。ぷりっぷりだ。
「うま!」
これはかなり甘い。実は、貝の中でも私はホタテはそれほど好きじゃなかった。甘エグイのがやや苦手だったのだ。すみません、誤解でした!
しばらく無言で食べ続けてしまった。肝心の味の差は。
食べ比べ1ラウンド「刺し身」 | |
オス | メス |
うまい | おいしい |
……すみません。どちらも美味しいばかりで味の違いはあまり分からなかったのだ。オスの方がやや身が柔らかかったような気もするが、自身がない。
他のメニューも食べ続ければ何か分かってくるかもしれない。続いて、直火であぶったホタテ、いってみましょう。
食べ比べ2ラウンド「直火あぶり」 | |
オス | メス |
ややエグミがあるが、後味はまろやか |
やや硬い気はするが味はまろやか |
おいしい | おいしい |
……美味しかった。
オスを食べた時点でエグミを感じたのは、ここまでで大きな貝柱を既にまるまる2つ以上食べて口のなかがホタテホタテしすぎているからかもしれない。
メスがやや硬い気がするのは、オスよりも焼きすぎたからかもしれない。
つまり……わからない。
では! バター焼はどうか。同じ時間だけ火を通し、口はきっちりゆすいで食べ比べるぞ。
食べ比べ3ラウンド「バター焼」 | |
オス | メス |
ややエグミはあるものの、甘さのパンチは強い | やはりやや硬い。味は丸いと思う |
おいしい | おいしい |
やはり、オスはクセが強く、メスはやや硬いものなんだろうか。なんというか、そういう結果になったものの、どう自分の見解に自信がない。
はっ。
魚屋さんに需要の違いを聞いてみよう
ここまでやっておいて気付いたのだが、ホタテ以外の肉や魚を食べるとき、私はほとんどオス、メスを意識したことがない。
ホタテの味を比べても、分からないのも当然だ。何しろ、味の違い以前に、ホタテの味がする。
グルメの世界では、肉でも貝でも、オスとメスで味や食感が違うという話を聞いたことはある。上海ガニはオス好きとメス好きで意見が割れる、とライター大山さんもいっていた。
ホタテも、見て分かる違いがあるぐらいだから、もしかすると魚業界では違った扱いがされてるんだろうか?
魚屋さんに聞いてみよう。
話を聞いたのは、「浜や」という魚屋さん。というか、実は私の叔父である。
-ホタテって、オスとメス市場で扱い違ったりしないんですか? あんなに目でみて違うのに。
浜や「うーん、そうだねえ。アワビだったら、刺身につかう黒と、蒸したりなんかする赤とで分けて売ってるけど、ホタテは聞かないねえ。
たしかに、私が買った魚屋さんでもホタテはみんなまとめて売っていたし、分けて売っているのを見たことはない。
ちなみに話に出たアワビは黒アワビを雄貝(オガイ)、赤アワビを雌貝(メガイ)と呼ぶ。が、雄・雌と書いてあるもののこれは実際は雌雄ではないらしい。アワビの雌雄はホタテのように外見からは判別できないそうだ。
-お客さんに「オスのホタテくれ」とかオス、メスを指定して注文が来たことは?
「ないなあ。美味しさでいうと、オスかメスかってより、天然か養殖かとか季節のほうがよっぽど影響すると思うし、料理人も気にすると思うよ」
といって、知り合いの料亭の料理人の方にも連絡して聞いてくれた。
「調理場でもあんまり使い分けたりはしないみたいだね」
やっぱり、食べ物として、オスメスでそれほど違う扱いは受けていないようだ。
叔父は、ホタテにしても、海産物の性別はややこしいのだ、一口ではいえないとずっと言っていた。先に書いたとおりアワビにしても、その性別についてはよく分かっていないことが多いのだそうだ。
冒頭で私にホタテのことを教えてくれたNさんの話も、その神秘性の話そのものだと言える。
ほたてはうまい
ホタテのオス、メスを識別できるようになった、それだけで満足だ。と、いうか、この「満足」は明らかにいっぱいホタテを食べられたからだと思います。
ホタテを貝ごと焼くの、すごく美味しかったです。
※時を越え、2021年の世界の筆者から※
以上、2006年に公開した記事の再録でした。
おどろくことに、2006年の記事には、焼いた生殖器部分の食べ比べには一切言及していませんでした。なんで!!!! そこが肝心なのでは?????
食べ比べた際は改めて加筆しご報告したいと思います。