発想次第であらたな遊びが待っている。
ルールを自分で想像するというのは、なかなかない体験だ。脳のふだん使わない部分をフル稼働させたような気持ちで、妙に疲れた。(協力してくれた3人はこれを3つもやったので3倍疲れたと思う。ありがとうございました。)
しかし、これは面白い体験だ。どんなものも遊び方は1つじゃないので、どんどんオリジナルの遊び方を考えていけばよい。発想次第であらたな遊びが待っている。カロムのコンポーネントなんか遊び方が43種類もあるのだ。
ボードゲームは、デザイン豊かなコマやボードとワクワクするようなルールで、我々を楽しませてくれる。今回、コマやボードだけを見て、ルール説明を一切読まずに遊んだらどうなるのか、やってみた。
昔、トリビアの泉というテレビ番組で、「野球を知らない人々に野球道具一式を持って行ったら一週間後にどんな遊びができるのか」という検証をしていた。アフリカのとある村に野球道具一式を渡し、一週間後にできた遊びは「片足で跳ねながら捕虜を取り合う遊び」だった。「同じ道具でもこんなに違う遊びになるのか!」と興味深かった記憶がある。
これと同じ体験がボードゲームでも出来るかもしれない。ボードゲームのコンポーネント(コマやタイルやボード)を見て、説明書を読まずに自分たちでルールを想像して遊ぶ。一体どんな遊びになるのか。
当サイト編集部石川さん、ライターの三土さん、乙幡さんに被験者として協力してもらった。
最初に遊んでもらうのは天下鳴動というボードゲーム。戦国武将として日本全国の城を奪い合う陣地取りゲームだ。ゲームマーケット大賞2018年の大賞作品で、運と戦略のバランスが絶妙で評判が高い。
読者の皆さんには正しいルールをざっくりとお伝えしておこう。
援軍という仕組みがこのゲームの戦略性を格段にアップさせる。時に援軍によって順位の逆転が起き、しかもそれが連鎖していくのだ。
ともかく、このゲームのポイントをまとめると、
さて、 このゲームのルールを知らない3人に、ルールを考えながら遊んでもらう。(筆者はルール知っているので3人の様子を観察する。)
三土:これ日本なんだ。清州城とか小田原城がある。
石川:丸い数字を丸い枠に置くんですかね。数が一致しているので。
三土:かしこ~い!
石川:そして兜の形がプレイヤーのコマなんじゃないですか?
三土:じゃあ俺、今川!
乙幡:小早川!
石川:じゃあ織田もらいます。
※武将の名前はゲームに出てきません
三土:とりあえずサイコロを振ります。3。
三土:3なので2個のコマをもらえるんだ。俺は青なので青いコマを2個もらいます。とりあえずこれでターン終了です!
全員:(笑)
石川:コマは兵士なんじゃないですか?なので、みんな最初からコマを持ってるんじゃないですか?
乙幡:石高(こくだか)の可能性もある。いや、兜があるから兵士か。
三土:…わかった。城の数字が防御力を表しているんですよ。例えば数字が12の城は、コマを12個置いたら落とせるんですよ。なので俺は数字が2の徳山舘に2個置きます。
全員:(笑)
石川:これでもう城を1個取った…。
乙幡:こんなあっさりしたゲームでいいのかよ。
石川:奥が浅い感じがしますね。
「四角いコマが兵を表す」「サイコロの出目によって配置する兵の数が決まる」という重要なポイントを押さえているが、「城の防御力」という謎の概念により、深みのないゲームが生まれつつある。
石川:私はサイコロの結果が4なので、2個の兵を三土さんと同じところに置きます。すると、三土さんと私で2対2なので相殺されます。もともとあったコマは場に戻る。
乙幡:場。
この調子でターンを進めるものの、「取っては相殺され」を繰り返し、一向に局面が変わらない。一気にクソゲーの気配が漂ってきた。このままだと終わらないのでヒントを追加する。
ほり:ちょっとヒントを出します。サイコロを3つ同時に振ります。
三土:なんで3個あるのかなと思ってました。
石川:じゃあ最大9個の兵が手に入るのか…。
石川:…っていうかこれ何?
全員:(笑)
三土:たぶん、兜は居城を表しているんですよ。
ここからどんどんルールが追加されていく。
三土:「天下鳴動」ですから、京に攻め上がるんじゃないですか?
乙幡:確かに、京だけ囲ってある。
三土さんによる「京の発見」により、ゲームの勝利条件が設定され、ゲームっぽさが出てきた。もちろん全然違いますが…。
石川:思ったんですけど、ここに道があるじゃないですか。つまり「移動」の概念がありますね。
三土:そうか。好きな場所にコマを置くんじゃなくて、1マスずつ移動していくんじゃない?
乙幡:どこかでかち合うと戦(いくさ)が起きるんだ。
乙幡:じゃあ、攻め込むか!来れるもんなら来てみろ!
もはやオリジナルの上洛ゲームに進化した天下鳴動。世はまさに群雄割拠の戦国時代。一同は戦いながら京を目指すことに。しかし、依然としてクソゲー感は否めない。
三土:ほりさんもう少しヒントください…。
ほり:コマが兵力を表すのは合っています。
三土:京を攻めるゲームですか?
ほり:勝利条件は京ではなく、点をたくさん取った人の勝ちです。
石川:点…?知らない概念だ。城を1個とったら1点にしますか?
三土:そうしましょう。
ここで石川さんがまだ使っていないチップに手を付ける。
石川:この刀は戦利品ということにしますか?城を落とすと貰える。
三土:城の倉庫にある備品ということですね。
石川:というわけでこの城に攻め込んで、刀をゲットと…。
ほり:あの、いい感じにゲームを終わらせてくださいね…。
乙幡:これ終わるのか?終わるって何だ…。
三土:やっぱり戦うんじゃないですか?
石川:兵を自由に動かせるから、後から攻めるのが有利すぎる。
三土:わかった!サイコロに応じて動かせる数が決まるんだ。
石川:そして負けたコマは死んで完全に失われるんですね。
乙幡:最後まで生き残った人の勝ち。
石川:そんな消耗戦みたいなことあります?
三土:でもいったんそのルールでやってみますか。
乙幡:戦うついでに城の数字のチップも取りますか?
石川:それが点数ってことですね。
いよいよゲームが固まってきた。これが俺たちの天下鳴動だ。
できた!これで遊ぼう。
こうして乙幡軍と三土軍が米沢城をめぐる総力戦で消耗している間に、漁夫の利的に石川軍が勢力を伸ばしてくのであった。うーん、やっぱりクソゲーだ…。
三土:僕、米沢城で対消滅していくだけじゃないですか。
さて、一応のルールが出来たので、本当のルールを3人に伝える。
ほり:では答え合わせします。本当のルールをお伝えします。
乙幡:すっごく知りたい。
三土:これを超えるルールがあるんですか?
ほり:兜は自分が何色かを示すだけのものなので、手元に置きます。
三土:まじかよ。
ほり:サイコロを3つ振ったら、2個と1個に分けます。2個のサイコロの合計の城に1個のサイコロの数の半分の兵を置きます。
三土:なるほど~!城の数字が2から12までということに意味があったのか。気が付かなかった~。
ほり:こういう感じでどんどん兵を置いていきます。
乙幡:わりと静的に進むゲームなんですね。
ほり:ここからが戦のフェーズで、数字が小さい城から順に順位を決めていきます。そして、1位と2位の軍は隣の国に援軍を送ります。
三土:うわー。援軍は絶対わからん。
石川:後の方ほど援軍の影響が大きくなっていくんですね。
ほり:そうやってどんどん連鎖していくのが面白いゲームです。
ほり:合っているところもありました。「コマが兵を表す」「各国に兵を置く」「コマの多さで戦の結果を決める」「城のチップを獲得し点数を競う」「白いコマは特別扱い」「道の概念」などは正解です。まあまあ惜しかったです。
乙幡:ヒントはいろいろあったよね~。
次にやってもらうのは海底探検というゲーム。海に潜り宝を持ち帰るゲームだ。途中で酸素が無くなると死ぬ。ギリギリを攻める駆け引きのゲームだ。ゲームマーケット大賞2015年の大賞作品である。
こちらも読者の皆さんに正しいルールを簡単に伝えておく。
ここで気を付けたいのが、「自分が持っている宝の数だけサイコロの出目を減らす」というルール。上の例ではサイコロの出目の合計は3だが、宝を1個持っているので 3 - 1 = 2マスしか進めない。よくばって宝を持ちすぎるとスピードが落ちて帰艦に失敗するのだ。
ポイントをまとめる。
さて、シンプルなコンポーネントを3人はどう扱うのか。
結論から言うと、全然違うゲームになった。まず、初期配置である。
興味深いのが、正しい遊び方とは視点の向きが違うことだ。
これはこれで面白そう。
海底遺跡に探検者のコマを配置し、サイコロの出目の分だけ探検者を移動させ、宝を手に入れるゲームのようだ。 すごろくという意味では合っている。いい感じ。
しかし、行き着いたのはまさかのバトルロワイアルゲームである。
石川:そこで宝を取っちゃうと、動けなくなる。
三土:ボンバーマンじゃないですか。
乙幡:頭わるっ。
何はともあれ、ゲームっぽいのができた。
三土:この解釈でいいとして、潜水艦はどうします?
全員:(笑)
乙幡:盛大に積み残しましたね。
石川:これは最初の盤面を作るときに使うんだと思いますよ。
ほり:いやぁ出来ましたね。答え合わせしましょう。
石川:今回はかなりいい線行ったんじゃないですか?
ほり:「チップをつなげて盤面にする」という発想は合ってます。
乙幡:えー!すごい。
ほり:ただ、「×」のチップは最初は使わないです。
三土:まじで?
全員:(笑)
ほり:潜水艦からチップを繋げていきます。
全員:あ~!
三土:だんだん色が濃くなっていくんですね。
石川:そういうことか!
乙幡:デザインにヒントがあったのか!
ほり:サイコロを振って、すごろくのように進めます。止まったマスの宝を貰う場合は代わりに「×」のチップを置きます。
石川:「×」は通路じゃないのか。
ほり:で、宝を持っていると、潜水艦の酸素が減っていきます。しかも、宝の数だけサイコロの出目を差し引きます。プレイヤーは好きなタイミングで「引き返す」と宣言します。酸素がゼロになる前に潜水艦に戻らないと死にます。
三土:なるほど~!
石川:宝をいっぱい持っていても死んだら無駄なんだ。
三土:よくできてる。
乙幡:おもろい。
実際にはこれを3ラウンドやるので、より戦略性がある。リードしている人はわざと宝を抱え込んで酸素の減りを早くするのだ。
最後に、カロム(キャロム)というボードゲームで遊ぶ。これについては筆者もルールを知らない。ルールを知らないまま、この日のためにヤフオクで競り落とした。年季がすごい。
ルールこそ知らないが、テレビで「滋賀県彦根市で異様に人気のあるゲーム」として紹介されているのを見たことがある。
私も参加してルールを想像するが、とにかく要素が多すぎる。
石川:なんかビリヤードっぽいですね。
ほり:わからなすぎてイライラしますね。
三土:模様がバックギャモンにも似ていますね。
ほり:おはじきだと思うんですよ。この模様の上にセッティングするんだと思います。
ほり:並べるとおはじきが余りますね。いやだな…。
石川:予備じゃないですか?
ほり:予備の概念が我々を戸惑わせる。
三土:特別な色のおはじきが4色ある。ひとり1個じゃないですか?
ほり:確かに。配りましょう。
石川:自分を表す色が2個あるのは気持ち悪いですが…。
ほり:あとはちっちゃい円錐のアイテムをどう使うかですね。
石川:おはじきの上に乗るんじゃないですか?人生ゲームみたいに。
石川:で、結婚するとこうなる。
ほり:でも絶対はじくとは思うんですよね~。
乙幡:ほら、だってここにバンドが。
やっぱりおはじきだ。その線で考えよう。
その後も検討を重ねるものの、納得のいくルールが生まれない。埒が明かないので、いろいろ無視しておはじきで遊ぶことにした。まず、各自がサイコロを振り、特別な色のおはじきの位置を決める。
三土:あとは思い思いにはじくんじゃないですか?
全員:(笑)
石川:自分の色を覚えておかなきゃですね。
ついに戦いが始まった。一人一個の特別な色のおはじきを指ではじき、相手のたくさんあるおはじきを落とすゲームである。
一周して再び三土さんのターン。
石川:場外に出たので、三土さんは負けですね。
三土:負けですね。
乙幡:厳しい。
続いて乙幡さんのターン。
ほり:乙幡さん、それ僕のです。
全員:(笑)
乙幡:色が多すぎてわかんなくなる(笑)
結局、我々の導き出したゲームは、おはじきとビリヤードを融合させたようなゲームだ。相手の色のおはじきをポケットに落としていく。しかし小さい円錐の使い道は最後まで分からなかった。
満を持してカロムの説明書を読む。まず、説明書の表紙には衝撃の事実が書かれていた。
いかにもこれはカロムだが、他にも「ボーリング」「バックギャモン」「チェス」など全43種類のゲームができるようだ。
そして、カロムではサイコロや円錐を使わない。まさかの「使わない」が正解だったのだ。円錐はボーリングなどで使う。
正直、この説明書だけでは不明な点もあり、あとでインターネットでも調べた。しかし、説明書と全く同じルールのものは見つからなかった。おそらく、時代とともにルールがマイナーチェンジしており、この「スタンダードキャロム」はかなり昔のルールなのだろう。(このあたり詳しい方は教えてください。)
以下では、この説明書に記載のルールを我々なりに解釈したものを解説する。
その他、落としたおはじきの色の組み合わせでボーナス点が加算されるなど、なかなか複雑だ。ちなみに、自分のはじいたおはじきがポケットに落ちたり飛び出したりした場合は減点。即負けではない。
我々の考えた「おはじきとビリヤードを融合させたようなゲーム」というのはだいたい合っていた。すごい。
そして現在のカロムについてインターネットで調べたらもっとシンプルでわくわくするようなルールだった。スーパーカロムというものもある。カロムの世界は奥が深そうだ。
ルールを自分で想像するというのは、なかなかない体験だ。脳のふだん使わない部分をフル稼働させたような気持ちで、妙に疲れた。(協力してくれた3人はこれを3つもやったので3倍疲れたと思う。ありがとうございました。)
しかし、これは面白い体験だ。どんなものも遊び方は1つじゃないので、どんどんオリジナルの遊び方を考えていけばよい。発想次第であらたな遊びが待っている。カロムのコンポーネントなんか遊び方が43種類もあるのだ。
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