特集 2025年1月21日

鍋を見ながらジンギスカン、ジン鍋鑑賞ジンパ開催

鍋を見たりひっくり返したりしたジンパでした。

ジンギスカン鍋博物館の取材から約1ヶ月後、北海道標津(しべつ)に住む友人達と野付半島に集合し、ジンパ(ジンギスカンパーティー)を開催した。ただのジンパではない、家のジンギスカン鍋を持って来て鑑賞しながら肉を焼く「ジン鍋パ」である。

みなのジン鍋の解像度が上がっただけでなく、新しいジンギスカン鍋の胎動となる(かもしれない)アイディアも飛び出した。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

前の記事:鍋から深掘るジンギスカン、世界唯一の「ジン鍋博物館」訪問記

> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー

標津でジン鍋を見つめる

もう何度目だろうか。北海道標津町、野付半島の途中にあるカフェ&ゲストハウス「ポンノウシテラス」にやってきた。

今回は外観を撮り忘れたがストックがたくさんある。
近くの道をエゾシカが横切り、すぐそこの電柱にオオワシが止まっている。

私の道東取材・観光の拠点であり、オーナーの和田さんを取材したりカニのトゲの痛さを比べるという変な催しを行ったりしている(楽しかった)。

ちょっと来ない間にポニーが家族に加わっていた。何があった。

 今夜はジンギスカン鍋を持ち寄り、鍋を見ながらジンギスカンを楽しもうという会「ジン鍋鑑賞ジンパ」が開催される。
参加者は和田さんの呼びかけで集まった標津で暮らす人たちだ。

あまり詳細を知らされず、「ジンギスカン食べましょう」ぐらいの理解で来た人もいて、卓上に並べられた鉄鍋と、いちいち東京からやって来た何者かよくわからない私を怪訝な面持ちで見比べていた。

なんで鍋を見ながらジンギスカンを食べるのか?

1ヶ月ほど前に取材した岩見沢市のジンギスカン鍋博物館「ジン鍋アートミュージアム」で、ジン鍋をおもしろがる目を与えられたからに他ならないのだが、そもそもミュージアムの存在を知ったのが懇意にしている標津の友人たちとのやり取りからだったのだ。

おもにサケの取材でお世話になっているサーモン科学館の西尾さん(左)とポンノウシテラスのオーナー和田徳子さん(右)
自宅近くのスーパー(東京都練馬区)でジンギスカン(風)やきそばを発見、2人のいるグループチャットに投稿して妙に盛り上がりジン鍋アートミュージアムの話題となった。

せっかくだから標津でも鍋を見ようよと、和田さんから近隣に住むご友人に声がけをしてもらい、ジン鍋持ち寄りジンパが実現した。

この日集まった鍋は6枚、和田家と西尾家から3枚ずつ発見された。参加した標津在住の6世帯のうちジン鍋を所有しているのは2世帯ということになる。

押収品のように並べられたジン鍋たち。

なんと6枚のうち5枚が中心から5方向に溝が走る星型模様であった。この星型鍋は前回のジン鍋アートミュージアム取材記事で紹介したとおり昭和27年に実用新案出願されたデザインで、模倣品などもふくめジンギスカン鍋のスタンダードとも言えるほどに浸透しているがここまで圧倒的だとは。

家庭を持ったらジン鍋を買え

和田家で2002年に購入したジンギスカン鍋。味の出方がすごい。

 「この鍋は地元(標津)の商店で買ったやつです。子どもの頃はどの家にもジンギスカン鍋があって、羊肉も安かったのでちょくちょく家でジンギスカンを食べていました。その影響か家庭を持ったら、一国一城じゃないけどジンギスカン鍋を持つべきという意識があったんです」

ジン鍋への想いを語る和田直人さんは参加メンバーで唯一の北海道生まれだ。道北に位置する名寄(なよろ)出身、オーナーの和田徳子さんのご夫君で、天体写真にこだわるあまりプライベート天文台を設置するわ気象予報士の資格は取るわと情熱がいろいろ突破している人である。

箱も保存されているのでメーカーもわかる。「みちのく五進印」は山形県で鉄やアルミ鋳物の鍋や釜を製造卸している(株)東伸販売のブランドである。滝平二郎の切り絵のようないいイラストだ。

和田家が所持している他の2つの鍋はどちらもテフロン加工だ。しかしなぜ2つも持っているのか。

「鉄鍋はやはり焦げがこびりついて手入れが大変だと思っていたらテフロンの鍋を見つけて、こりゃいいやと買ったんですけど、後日外側の脂がたまるところが深いやつがあって、なんだこれ面白いなとなってそれも買ったんです」

左の鍋のほうが外堀が深くなっている。ここに着目して、しかも買っているのがさすが。

 標津サーモン科学館の副館長をつとめる西尾さんの持ち込んだ鍋もずいぶんと味がでている。

何やらイヤリングがついている。

「訓子府(くんねっぷ)町にある妻の祖父の家にあった鍋で、いつ手に入れたのかはちょっとわからないですね。この耳は義祖父が付けたもので、あつい鍋を持ちやすくする工夫だと思いますけど、なんかいいなあと思って外さずに持って来ました」

 西尾家にも鉄鍋はあるが、最近はめっきり使わなくなったそうだ。

「やっぱり洗うのがかなり面倒臭いんですよね。なのでフライパンでやっちゃったり、ホームセンターで売ってるペラペラのアルミ製の使い捨てのやつを使ったりすることも多いです」

これがアルミのジンギスカン鍋「もったいないんで使いまわしてますけどね」
「鍋をこんなにじっくり見比べたことはなかったなあ」
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もやしがうまい!鉄製鍋

鍋を愛でるには焼かなきゃね、とジンパになだれ込む。せっかくだから鉄鍋とテフロンで食べ比べしてみようと和田家の2種を使ってみた。

もやしを敷いてその上からタレに漬け込んだラムをどさっと載せる和田家流。

「肉を先に載せるとどうしても焦げちゃうんですよね。それが嫌で、まずもやしを敷くやり方でやってきました。そうすると肉は焦げないし、もやしにもちょうど良く火が入って脂も沁みてきて、我が家はずっとこのやり方ですね」

まあやっぱり温度が違うから肉の焼け方が違うんでしょという感じで食べたが、食べ比べてみると肉よりもわかりやすかったのがもやしだった。

鉄鍋で焼いたもやしのうまさに皆から感嘆の声が上がった。ジンギスカンで羊肉よりももやしに脚光が当たるとは。

左が鉄、右がテフロン。もちろんどちらもうまいのだが。

鉄ジンギスカン鍋とテフロンジンギスカン鍋の比較

 「鉄鍋のもやしのほうが瑞々しさと歯ごたえがあって、テフロンのより明らかにうまい」

「肉よりももやしのほうがわかりやすいのは意外だった」

「メンテナスの手間とこの味のトレードオフをどう見るかですね」

素材違いの鍋を実際その場で食べ比べてみて、頭の中でなんとなく認識していることを体感が乗り越えてくる気持ちよさがあった。

焼けば出てくるジンギス観

みなのジン鍋の解像度が上がっただけでなく、それぞれの人生を歩んで標津にやって来た人達のジンギスカンへの思い、ジンギス観(言いたかった)も聞くことができた。

鈴木さんのジンギス観~『焼肉しよう』がジンギスカンだった

当日声をかけられて突如参加した鈴木さんは地元の標津高校に勤務する理科教師である。

千葉県出身で大の釣り好き、海洋好きでサーモン科学館と連携した体験授業なども多く企画している。北海道に赴任して釧路、厚岸など道東の沿岸部を転任してきたのは偶然か必然か。

サケの山漬け実習の話をしていて、ものすごく参加したいと思った。

「北海道に来て『焼肉しよう』って誘われて行ったらジンギスカンだった。それがカルチャーショックでした」

「タイでジンギスカンみたいな鍋を見たことがありますね」

 鈴木さんが見たという鍋はおそらく「ムーガタ鍋」、日本に出稼ぎに来てジンギスカンを食べた人がその発想を持ち帰り、韓国焼肉などと融合して焼肉と鍋のハイブリッドのような料理となったといわれている。ジンギスカン鍋よりも外側の溝がより深く、スープを貯められる形となっている。

ムーガタ鍋は「ジン鍋アートミュージアム」にも所蔵されている。

(高瀬雄一郎さんのムーガタレポートはこちら

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