「カルデラ焼きみたいな名前にして標津の名物にならないかな」
「発祥の物語がほしいですよね」
「今思いついてひっくり返しただけだもんね」
話と夢は膨らみ、最終的な形はどうあれ、参加してくれた人たちはジン鍋に注目しないわけにはいかない感覚を持って帰っていった。
新しい型が鉄工場に発注されるのか、それは「みちびき」からの位置情報を受信できる鍋になるのか、溝は布袋モデルなのか。わくわくしながら羊肉を漬け込んでいきたい。
標津町役場に勤務する小田切さんは神奈川県生まれ、大学を出て10年ほど前に父方の実家である標津に移住してきた。北海道大学を出たお父様は「ベルのタレでなければジンギスカンではない」という厳格な信条を持っていたというが小田切さんはジンギスカンというものを柔軟に受け止めて楽しんでいる。
「ジンギスカン鍋は持っていなくて、家ではフライパンでやります。こっちだとスーパーで生ラムが普通に売ってるので豚肉みたいに塩コショウふって焼いたりもします。でもそれはジンギスカンだと思ってやってないかな」
「今回のやり方とは逆で肉の上に野菜を敷いて蒸し焼きっぽくしたりもしています」
一家で参加してくれた大野さん、宏さんはお父様の体調不良をきっかけに故郷の中標津へ戻ると標津でスタートアップを立ち上げ、準天頂衛星「みちびき」からの位置情報を活用した農業DX「reposaku」を開発、優れた技術を表彰する「シーテック アワード」など数々の賞を受賞している。またすごい人が来た。
邦江さんは標津町でコワーキングスペースを運営、羊肉が苦手だというのに参加してもらった。
「羊肉は苦手だけど10年以上前に札幌で食べたジンギスカンはおいしかったです。店の名前とか全然おぼえてないんですけど(笑)」(邦江さん)
会話のふしぶしで「ジン鍋」という略語を自然に駆使していた小野田さんは意外にも東京出身だった。
大学卒業後、北海道新聞社に入社し記者として活躍するが、標津でシカ猟と伝説の猟師に出会い狩猟免許を取得すると勢いあまって道新を退社。先に紹介した大野さんの会社で働きつつ、町役場の地域おこし協力隊で鹿のジビエ振興の活動にたずさわっている。
「ジンギスカンはあまり頻繁には食べないけど好きですね」
「豊富温泉(北海道のだいぶ北、豊富町)ではえぞ鹿の生肉を焼いて、たれ(たぶんベルたれ)で食べる鹿肉ジンギスカンを出していて、かなりおいしいです」
宴もたけなわになってきた頃、和田直人さんがぼそりとつぶやいた。「これ逆さでもいいんじゃないかなあ、すり鉢状で」
「そう、斜面で肉を焼いて野菜は底に置いて。で、脂が下に流れてたまる」
「やってみましょう!」
これはいい感じなのではないか?テンションのあがった皆から闊達な意見が繰り出された。
「これは新しいジンギスカンなのでは?」(西尾さん)
「コンロにやたらフィットしてる」(和田徳子さん)
「お金持ちの家にある灰皿みたいですね」(大野邦江さん)
「パワハラ社長が投げつけるやつだ」(伊藤)
「中のもやしもちゃんと煮えてますね」(小野田さん)
「下の方がちょっと濃いかな」(伊藤)
「羊肉が苦手な人にはいいかも」(大野邦江さん)
「なるほど!」(たくさん)
「スタ丼みたいになってきましたね」(小田切さん)
改善点やより進化したオリジナルモデルへの展望も語られた。
「もう少し傾斜がゆるくなってもいいかな」(小野田さん)
「そうだね、もっと幅広で、下も広くして」(和田直人さん)
「だんだん普通の鍋になっていかないですか」(伊藤)
「屈斜路湖みたいな形で作れないですかね」(鈴木さん)
「国土地理院の3次元データから3Dプリンタで型を作ればいけるんじゃないですかね。摩周湖作りたいなあ」(和田直人さん)
「カルデラ焼きみたいな名前にして標津の名物にならないかな」
「発祥の物語がほしいですよね」
「今思いついてひっくり返しただけだもんね」
話と夢は膨らみ、最終的な形はどうあれ、参加してくれた人たちはジン鍋に注目しないわけにはいかない感覚を持って帰っていった。
新しい型が鉄工場に発注されるのか、それは「みちびき」からの位置情報を受信できる鍋になるのか、溝は布袋モデルなのか。わくわくしながら羊肉を漬け込んでいきたい。
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