マムシのハブ注
私は奄美大島や沖縄で毒ヘビのハブを探して回っているが、ハブのいる(いそうな)ところにはたいがい「ハブに注意」という看板が立てられ、注意が促されている。
それらもハブに負けず劣らず個性的で鑑賞されるべきものなので撮り集めてDPZでも発表している。
九州以北にはマムシという、これまたやばい毒ヘビがいて、「マムシ注意」看板により警告が発せられている。これなんかも個性豊かでぜひとも鑑賞されるべきものなので撮り集めてDPZで発表している。
ハブは奄美・沖縄諸島に、マムシは北海道・本州・四国・九州に。日本を代表する2大毒ヘビは分布する地域が異なっており、おたがいに出会うことはない。
マムシのいるところにハブはいないし、ハブのいるところにマムシはいないのだ。
しかし、奄美大島の取材でいろいろお世話になっているネイチャーガイドの西真弘さんが私の記事を読んでこんなことを教えてくれた。
「たしか和歌山か奈良のほうに『ハブに注意』って書いたマムシ注意があったと思います。友人がネットに載せていました」
何を言っているのかよくわからなかったが、送ってもらった写真にはみごとに「ハブに注意」と記されていた。
そんなの当たり前じゃんハブがいるからでしょ、となるがここは奈良県の公園である。
間違いにしても威風堂々としている。風を真正面から受けている。マムシと間違えてヤマカガシという他のヘビの写真を載せているのは見たことがあるが、本州でハブが出ると勘違いなんてするものだろうか。
「和歌山の新宮出身の父はマムシのことを『ハビ』と言っていて、和歌山では場所によっては『ハブ』というらしいですから、マムシのことだと思います」(西さん)
方言か、そうか。とくに関西のほうではマムシは「ハビ」とか「ハメ」、「ハミ」などさまざまな呼ばれ方をしており、そのバリエーションに「ハブ」があってもおかしくない。
葛城山麓公園の他にマムシが「ハブ」と呼ばれている(いた)地域をマッピングした。大阪の南部〜和歌山にかけて点在している。
※参照:・「日本言語地図 第5集 第228図 『まむし(蝮)』」国立国語研究所(https://mmsrv.ninjal.ac.jp/laj_map/data/LAJ_228.html)
・「大阪府南部に見られる方言の推移」岸江 信介 比較文化 (通号 3) 1997 宮崎国際大学
ヘビの呼び名に地域性が現れるバージョンは見たことがない。これはいいものでしかない。興奮冷めやらない。
写真は2008年に撮られたもので、ネットではすでにマムシに変えられているという情報もある。しかし公園は広大だ。どこかに残されているかもしれないし、痕跡でも残っているかもしれないじゃないか。
気になって財布に現金を入れ忘れたりパスタに塩を入れすぎたりと日常生活に支障をきたしはじめたので、現地に見に行くことにした。
奈良へ
夜行バスに乗り、目が覚めると早朝の奈良駅だった。
スタバで朝食を取ってちょっと街角スナップですかね。なんてブリリアントな気持ちでカメラを取り出したがまったく動かない。
カメラ店を探してデジカメのバッテリーを買い(なにげに高い)、車で南西へ30分ほど走る。
奈良盆地を西から囲う金剛山地の一角をなす葛城山。そのふもとに広がるのが目的地の葛城山麓公園である。
にぎやかなうえに鹿が出そうな雰囲気を持つ奈良駅周辺の市街とはうって変わって緑の木々に覆われている。街のそこここでシャーシャー鳴きまくっていたクマゼミは声をひそめ、かわりにこだまするのはアブラゼミの声だ。
西野さんが提供してくれた写真ではハブ(マムシ)注意看板は公園入口に掲げられていて、その場所はごく簡単に発見できたのだが......。
やはりすでに取り替えられていた。ネットでざっと調べてはいたがペット禁止看板になっていることまではわからなかった。やはり現地に来てみてよかった。
猛暑の中、溶けそうな心をポジティブシンキングでかためて園内を散策するとする。まだどこかに同じような看板やその痕跡が残っているかもしれないからだ。

