笑顔が、かなしい。
「かわいい」と「かわいそう」はよく似ている。この無邪気さはどうだ。
彼らは、たぶん自分が何をやらされているのかわかっていないのだ。「店の前でにっこりしてればいいから」とだけ言われているに違いない。
振り向くという行為に意味を感じ取ってしまう。「とんかつ」って何だっけ? とか考え出しちゃだめー!
この子はなにか気付いてしまったようだ。
若干、狂気を感じる笑顔。気付いてしまったら、こうなる。
彼らを見て「お、とんかつでも食うか」と思ってしまう人間の業の深さを感じざるを得ない。
「こんなメニューはいかが?」なんて言わされてる。笑顔と炎が痛々しい。
「全員集合!」と言われて駆け出すブタたち。カロリー表示に涙を禁じ得ない。
ただでさえ辛い仕事なのに、なぜだか怒鳴られる。納得いかない表情。そりゃそうだ。
「酔っ払わないとやってられない」というブタさん。わかるよー。
「酔うことで心の痛みを忘れる系」はトリにもいる。しらふで「鶏料理食べてってョ~」なんて、言えない。
ヒツジはややのんき
悲劇のブタとトリをご紹介したが、共食いキャラ業界で働くのは彼らだけではない。他の種族もいる。
ヒツジもいます。満面の笑み。手に持たされたカトラリーの意味はまだ分かっていないようだ。
ここにもヒツジ。屋台で働く共食いキャラも多い。
こどもはやめてー
共食いキャラが雇われるのは、飲食店だけではない。精肉店も頻出地帯だ。
精肉屋店頭のケース。涙をこらえて一生懸命働いているのに、ポップで隠されちゃって。不憫でならない。きっとめくると、泣いているのが見えるだろう。
精肉店には複数の種族がいるケースが多い。こちらはウシとブタ。
こうやって比べると、やっぱり牛より、
ブタの方がかわいそう感ある。特にこれ、子ブタがいるのとか、ほんとうにかわいそう。だめだ。こどもはだめだよ。
こちらもこどもと一緒の共食いキャラ。左上のひよこは、たぶん察して逃げ出しているのだろう。その姿を見て微笑む親の気持ちたるや。
一方、トリはかわいそう感少ない
このように、ブタを筆頭として、ヒツジ、トリなどがはたらく共食いキャラ業界。
差別するわけではないのだが、やはりブタに一番シンパシーを感じてしまう。大きな声では言えないが、トリって、あんまりかわいそうじゃない。
ブタと比べるとあっけらかん感がある。
手に仲間の肉が刺さった串を持つ、ってかなり恐ろしい光景だが、それでもあっけらかん感ある。というか、手じゃないよね、それ。どうやって持ってるの。
こなれた案内ぶりに同情心も薄れる。
店頭のいたるところで迷いのないサムアップの共食いトリ。というか、だから、それって手なの?
仲間を「焼いています」とカミングアウト。
左の彼は、口元を見るに、たぶん仲間食べちゃってる。
「ネギ間になってます」などととぼけたアクション。
このように、ブタに比べるとトリには迷いがない。なので同情心もあまり湧かない。
あと、もうひとつかわいそうに思えない理由としては「人間から遠い」からだと思う。おそらく進化系統的に人間に近い種族ほど「共食い感」があるのだ。これに関してはのちほど。
さすがに鍋の中の仲間を目の当たりにして激高。そうだ、その意気だ。
分断して統治せよ
さて、トリといえば以下を見てほしい。
あいかわらずあっけらかんとしたトリ。
いかにもトリらしい迷いのない表情だが、問題はその手にある肉だ。
これ、形状からしてトリじゃないよね? もしかして他の種族の肉を推してる!?
仲間の肉でないのだとすれば、この満面の笑みも理解できる。
実はこういう例は少なくない。
カモに舌なめずりするブタ。あまつさえカモの扮装をして「共食い」のフリをするという何周かまわった罪深さ。
「美味しいメニューたくさんあるヨ」とつぶらな瞳で呼び込むウマ。店名からして馬肉料理の共食いキャラかと思いきや、よく見ると「炭火焼きとり」とある。
仲間の肉を勧めるよりは健全なのか、あるいはより闇が深いのか。
種族同士を対立させる人間の罪深さも感じる。いわゆる「分断して統治せよ」というやつだ。
さきほども登場していたが、精肉店ではブタとウシがペアを組むことが多い。その場合はあまり「種族対立」の感じはしない。タッグを組んでお互い仲間の肉を勧める、という雰囲気だ。微笑ましい。いや、微笑ましいとか言っちゃだめだ。
精肉店コンビ。
あとはもちろん、焼肉屋にもいる。コンビで舌なめずり。
実写化!
ウシに関しては、以下の共食いキャラ(というべきなのか?)が衝撃であった。
なんと、実写版共食いキャラ。
トレーサビリティと共食いキャラの融合を見た。
これは「キャラ」ではない。とはいえ、かわいい。いやでも、食肉牛の実写がかわいいっていろいろ問題があるのでは。
実写シリーズで「なんだこれは!」と驚いたのが、下だ
「神奈川県って ”やまと豚” に似ているね」だそうだ。なぜ実写にした。イラストの方が似せることができたのでは。
ウシやブタの実写を使うのってけっこう冒険だ。寿司やのいけすで泳いでいる魚を見て「うまそう!」って思うのと同じノリでほ乳類にもそう感じることができるようになったのか。
もしそうだとしたら、それって共食いキャラに慣らされた結果なのではないか。食育に共食いキャラ、とかそういうことだろうか。
そして3Dへ
イラストから実写、となれば次は立体だ。
イラスト、実写、3D、とまるで視覚表現テクノロジーをなぞるように共食いキャラ技術も進化している。
というか、立体はちょっとやっぱりきもちわるい。ぎょっとするよ。なんか直立してるし。
よりリアルな立体でいうと、「ヨコハマトリエンナーレ2014」で以下のような作品があった。
吉村益信の『豚;pig' Lib;』という作品。
これ見て「あ! 共食いキャラだ!」って思った。
というのも、これ、ぼくが「共食いキャラの父」と呼んでいる
レイモン・サヴィニャックのイラストそのままだから。
これをハムの広告に使ったというのだからすごい。エスプリってやつか。
上のはアート作品だが、共食いキャラとして受け継がれた作品もちゃんとある。
受け継がれるハム共食いキャラの伝統(
@ta_ono さんより写真をいただきました)
ともあれ、立体共食いキャラはここ数年でけっこう増えていて、出会うたびにぎょっとする。冒頭の豚もそのひとつだ。
コックきどりの共食いブタ。
そのうちAR共食いキャラとかAI搭載共食いキャラとか現れるのではないか。
コック気どり
さて、前ページのようなコック気どりの共食いキャラは、けっこういる。
コック帽も上着も着ているのに、下半身は丸出し。かわいい。でも手には仲間の肉。
見得を切る共食いコックブタ。やはり手には仲間の肉。ヒゲまで生やして貫禄十分。良心の呵責とかないのか。
共食い板前が調理器具を高々と掲げ、ひとこと「おいしいよ!」。
共食い進化系統問題
さきほど、トリよりブタにシンパシーを感じるのは進化系統的に人間に近いからではないか、と書いた。
魚類より鳥類、鳥類よりほ乳類のほうが共食いキャラになったとき「かわいそう感」「おぞましい感」がある。
いけすを泳ぐ魚を見て「美味しそう」と思えちゃうのもそういうことだと思う。なので「寿司屋、鮮魚屋に共食いキャラなし」である。
たとえばこのシラスのカップル。あまりビビッドな共食い感を感じない。というか、シラスってこんなだっけ。
こうやって並べると、トリの方が共食いキャラ感ある。
ワニ、ナマズ、にシンパシーは感じない。マンモスは問題だが。
寿司屋と並んで共食いキャラ感ないのがうなぎ屋。
タコ焼き屋には99%共食いキャラがいるが、これもかわいそう感少ない。
だからといって一気に人間の近くまで進化しちゃうのはどうなのか。
この半魚人的共食いキャラカテゴリーには「
世界の山ちゃん」という先達がいる。いずれにしても人間に近づいたからといっても、このスタイルでシンパシーはわかない。むしろこわい。呪いっぽい。
実写化、立体化、伝統の踏襲、そして人間とのハイブリッド化。共食いキャラの進化はとまらない。ああなげかわしい。
今後も集め続けます
いったい、日本にはどれぐらいの数の共食いキャラがいるのだろうか、と思う。それぐらいどこの街に入っても共食いキャラはいる。
全キャラコンプリートするのが夢です。いい共食いキャラがいたらおしえてください(いい共食いキャラ、ってなんだ)。
有名食品サンプル会社のショウウィンドウ。いわば3D共食いキャラの総元締めだ。
【告知】4/22に東さんと写真論トークイベントやります
4/22に東浩紀さんとトークイベントやります。タイトルは「都市と道の写真論」。みなさんぜひ。ぼくもすごく楽しみです。
自画自賛ですが、東さんとのトークは毎回間違いなくおもしろいです。
・大山顕×東浩紀【ゲンロンカフェ at VOLVO STUDIO AOYAMA #6】「都市と道の写真論」
・2018/04/22 (日) 19:00 - 21:30
・前売券: \3,000(1ドリンク付 )
・会場:ボルボスタジオ青山(東京都港区北青山3-3-11)
詳細・お申し込みは→
こちら