残った言葉と消えた言葉
2003年の記事では用語集がPDFで用意されているが、それが「バイブルサイズとミニ6穴サイズ」なのだ。
なんのことかと思ったが、システム手帳である。15年前はみんなシステム手帳を使っていたのだ。
だが中身はいまでも使われているものも多い
雑談 → ブレスト
思いつき → ジャストアイデア
引き止める → リテンション
得意分野 → コアコンピタンス
やる気 → モチベーション
その一方、違和感を感じるものもある
Plan Do See
いまやPDCAという言葉が席巻しているが、その言葉が生まれる前段階を見るようだ。星野源じゃなくてSAKEROCKである。
シナプス
当時、脳トレや脳科学がブームでこんな理科っぽい言葉を使っていた気がする。
昔のプロ野球選手名鑑を読むようで面白いのだが、2018年度版である。
2018年度版とスタッフ
15年のあいだにすっかりビジネス用語に疎くなったので頼もしい助っ人を呼んだ。
左からデイリーポータルZライター伊藤さん、システムインテグレーター勤務 阿部さん 広告代理店勤務 森永さん
その結果がこちら(偏見100%による解釈です)。
15年前と同じように、平易な日本語をビジネス用語にするように作っている。
新しくする
→
イノベーション
もはや句読点ぐらいの勢いで入れている
集める
→
キュレーション
すっかり悪い意味になってしまいましたが
ありものを使う
→
インサイドアウト
社内にあるもので外に出せるものを考えること。逆はアウトサイドイン。
いいだしっぺ
→
ファウンダー
IT業界の人が言いがちである
いいとこどり
→
マッシュアップ
音楽用語をビジネスの世界に使うと煙に巻けるか、嫌がられる
いいところ
→
USP (unique sales proposition)
その商品の売り。「世界に一つだけの花」の歌詞みたいなこと
いっしょに
→
コラボレーション・共創
とはいえ、かつてのWin-Winのようにどちらかが苦労することが多い
うまくいった事例
→
ライトハウスケース
いちばん良い事例。持って行きやすい事例。成功事例
絵にする
→
見える化
きれいに描くとスキーム、フレームワーク、グランドデザインなどと呼ばれる
おいつく
→
キャッチアップ
追いつこうとして眺めている状態もキャッチアップ
お金持ち
→
エンジェル
なかでも投資してくれる人のこと。投資の世界は「ホワイトナイト」という言葉もあり、いい歳したおっさんがファンタジックな言葉を使う
教える
→
共有
教えてくださいを「共有してください」というとソーシャルな雰囲気になる
おれはこう思う
→
まとめると~
議論をまとめるのかと思ったらその人の意見だったりする
会議に呼ぶ
→
アサイン
その場に来てもらえばアサイン完了
かかわる
→
コミット
ライザップのCMでおなじみ。約束する、よりももっと軽い感じ
かたまり(人の)
→
セグメント、ターゲット、クラスタ
特定の人たちの層。3つの語のニュアンスは微妙に違うが、聞くほうはあまり気にしてない
かっこよくする
→
UX,UI (を考える)
IT業界が好きな言葉である
側
→
サイド
クライアントサイド、コンテンツホルダーサイド、メディアサイド、「がわ」でよい。
考えてません
→
ノープラン
「今日はペーパーレスでノープランでジャストアイデアでいきます」=「さっき起きました」
関係者(怖い)
→
ステークホルダー
この人たちを怒らすと譴責とか難しい字で処分されちゃうことがある
がんばる
→
PDCAをまわす
サラリーマンにおける印籠である。とりあえずこれを出しておく
決定(変えるなよ!)
→
FIX
確定よりも「これ以降の変更は認めん!」という意志がある。
権利
→
ライツ
「大豆」みたいなイントネーションで言うと権利っぽい
この世
→
オフライン
ネットが当たり前になって元々のリアルの世界をオフラインと言い始めた
仕事がない
→
アベイラブル
その日は暇です=その日はアベイラブルです
システム
→
AI
AIの定義をひたすら広げていくことが大事である
社訓
→
コアコンピタンス
仕事の軸とか強さだが、それはよくまとまった社訓だったりする
重鎮
→
レガシー
遺産という意味だったが、最近はいいニュアンスで使われ始めた
じょうご
→
ファネル
じょうろではない。まずはホワイトボードにファネルの絵を描こう
すげえファン
→
アンバサダー
声がでかいすげえファン。頼んでもないのに宣伝してくれる人。いや、頼んでいる場合もある(でもなんの契約もない)
すべり止め
→
リスクヘッジ
新製品のビール買うとき、いつものビールも買っておくのがリスクヘッジ
スローガン
→
タグライン
CMの最後にメーカー名とともに出てくるコピー。Power of DreamとかBe a Driver とか。十万石まんじゅうにおける「うまい、うますぎる」も。
こういうお客さんいたらいいなー
→
ペルソナ
妄想彼女である。ペルソナを考えたら次はカスタマジャーニー。彼女ができたら温泉みたいな流れ
世話をやく
→
ファシリテーション
これをやる人はファシリテーター。略語は「ファシる」
みんなで
→
オールスタッフ
全員野球と言うよりもカタカナでこういった方がかっこいい
宣伝マン
→
エバンジェリスト
営業じゃないけどずっと外にいる人。伝道師という意味なのでザビエルもエバンジェリスト
大事な会社
→
キープレイヤー
人の場合はキーマンになる
チャンス
→
オポチュニティ
取らぬ狸の皮算用、的なニュアンスのチャンス。「あそこに魚群がいるぞ」ぐらいの意味。語尾上げで言おう。
次の次
→
ビヨンド
ビヨンドデジタル、ビヨンドモバイルなど、おれはその先まで考えてるよ~的な感じで使う。偉い人ほど「インターネットの次はどうなると思う?」とやたら大きい問いかけをしてくる。
ツボ
→
インサイト
お客さんも気づいてないような潜在的なニーズのこと。「あーそれそれ」「これねー」って言われるようなもの。
テーマ
→
アジェンダ、イシュー
使用例)今日の町内会のアジェンダは盆踊りについて、イシューは盛り上げる方法です。
手直し
→
ブラッシュアップ
誤字をなおすのもブラッシュアップ
でかくなる
→
スケーラブル
スケーラビリティだとでかくなる可能性がある。手が大きい子猫みたいなこと
特許
→
パテント
特許と言えばいいのだが。東京パテント許可局
とりあえずやってみた
→
POC (Proof of Concept)
あってるかどうか確かめるもの。常連客に「これ作ったんだけどどうかな?」と言って出すメニュー
流れ(買うまでの)
→
カスタマジャーニー
買うまでの心の動き、しかしジャーニーというほどの旅ではない
なかよく
→
エンゲージメント
「矢切の渡し」も「天城越え」もエンゲージメントの成功例
なかよしクラブ
→
コミュニティ
「なかよしクラブじゃないんだから」と嫌味を言う人がいるが、何だその楽しそうなクラブは
なるはや
→
ASAP (as soon as possible)
「なるはや」と言い換えたところでせっつかれていることには変わりがない
縄張り
→
ドメイン
事業領域を事業ドメインと言ったりする。犬のドメインとは言わない。
人気
→
バズ
「バズるやつをお願いします」とは全打席ホームランお願いしますと言ってるようなもの
ネットクーポン
→
O2O (Online to Offline)
O2Oとは勇ましいが、実はクーポンのことだったりする
ネットでも買えるようにします
→
オムニチャネル
どこでも買えることなんだけど、リアル店舗がネットで買えるという話が多い
飲み会
→
ミートアップ
合コンもミートアップである
背景
→
コンテクスト
文脈、魂、人生、歴史、背景。コンテンツというときにコンテクストと言ってみても意外にしっくりくる
はじまり
→
ローンチ
今日ローンチなんで、とかいいたい。東京ラブストーリーの主人公ではない。
話す(偉い人に)
→
レク
偉い人見つけていまやってることを話しておく
話す(で議事録に書く)
→
オーソライズ
議事録に書いておくのも大事
流行りにのる
→
アウトサイドイン
外のものを取り入れる
ひっぱる
→
~ドリブン
わがままでもいいから強く優先したい。ユーザドリブン、エンジニアドリブンなど。
ひらめき
→
ブレイクスルー
ひらめいた!それや!
雰囲気
→
トンマナ
その場の空気。そうそうだいたいそんな感じーみたいなやつ
ベンチャー
→
スタートアップ
ウインドウズのメニューにもスタートアップがあるがあれは関係がない
思い直す
→
ピボット
喫茶店がいつの間にか飲み屋になっているようなもの
むりなく続く
→
サスティナブル
サスティナブらない、とは言わない
目標
→
KGI (Key Goal Indicator)
目標管理で決めるもの。3年後には3億人の登録を目指します、みたいなやつ
目標(うまくいったことにするための)
→
KPI (Key Performance Indicator)
KGIが達成しなかったときの保険で書いておく目標。KGIが記録なら、KPIは記憶に残った、みたいな感じ。
もったいぶる
→
ティザー
間に合ってないときに「じゃあティザーで!」と言う。
もってるもの
→
アセット
消しゴムとかではなく、ビルなどのでかいものを言う
ものになってませんが
→
インキュベーション、アーリーステージ
デイリーポータルZは15年間こう言われている
やりたくない
→
コンプライアンス的に問題
面白いとは思うんですが、コンプライアンス的に……
やりながら考える
→
アジャイル
人生がだいたいそうである
優先する
→
~ファースト
ドリブンでもいいけど、こっちのほうが弱いニュアンス
要は
→
サマる
少し前のキムタクなら「ぶっちゃけ」と言うフレーズ。
よせてく
→
シフト
デジタルシフト、モバイルシステム、シフトの後はビヨンド
よそと比べる
→
ベンチマーク
他社のストーキング
よろしくやります
→
オープンイノベーション
安く動いてくれるいい人いないですかねー
流行語
→
バズワード
一発屋語、ぐらいの寿命の短さ
ルール
→
レギュレーション
より長いカタカナ語を使ったほうがもっともらしいので
ログ
→
ビッグデータ
ビッグの基準値はないので言ったもの勝ちである
忘れてた
→
失念
このあとは「可及的速やかに着手します」で締める
これでビジネスはばっちりだ!
ファシリテーションする人を「ファシる」、サマリーを言うことを「サマる」などカタカナ+るのパターンがあるのが特徴である。
自社で似たような商品が競合してしまうことを「カニバる」と言うが、「カニバリる」と間違えると急におどろおどろしくなるので注意が必要だ。
カタカナを日本語にするときの略し方も今後のビジネスポータルZでウォッチしてゆきたい。